試される休日
作:GAT・すとらいく・黒


俺は正俊。ごく普通の会社員だ。だが、今日の朝は少しばかり憂鬱だった。
今日は月に二度の隔週土曜日。俺の勤務する仕事場は土日休みだが、隔週の土曜だけは午前のみ出勤しなくてはいけなかった。

「はあぁ、折角の土曜日だってのに…」
「そうは言うけど、正俊の会社で決まってるなら中々文句は言えないわよね。」

そう言いながらお米を出してきたのは、交際中の彼女の香住。ショートヘアの姉御肌で所々世話を焼いてくれている。体つきも中々の美人さんだ。
街の雑貨屋なんかで売ってるパーティーグッズから、ちょっといかがわしいグッズまで開発・販売している会社で香住は働いてる。
二人とも、それなりに不自由なく生活できる程度にはお金を貰っているのだが。

「いいよなぁ香住は。最近は土日にちゃんと休みがもらえてさ」
「まぁね。グッズの試作品の試験運用をするって条件つきだけど。」
「役得だもんなぁ。いいよなぁ、楽しみつつ休日を謳歌するなんてさあ」
「はいはーい、愚痴る暇があったらさっさとごはん食べちゃってね」

香住は会社のOL以外に、開発中のグッズの試験運用スタッフもときたま任されているのだった。
会社内だけでなく、日常生活内でグッズを運用する際のデータ取り、という名目で土日以外に平日に休暇が回ることもあった。
その代わり、土日がつぶれてしまうこともたまにあったのだが。

「まあ、午前が終わればあとはフリーなんだし、頑張ってらっしゃい」
「へいへい。そんじゃあ行ってきます、と」

重い足どりながらも、渡されたノルマを達成する為しぶしぶ家を出る俺だった。
だけど、この時はまだ知る由がなかった。この暗い気分が色んな意味で吹っ飛ぶことになろうとは…


--------------------------------------------------


持ち場のデスクに座ると、しぶしぶ今日の仕事を済ませるために手を動かし始めた。本来なら休みの日に残業なんてやっていられない。
頑張ったお陰で何とか昼前にノルマは達成できたので、勤務時間の終了と共に俺は手早く机を片付けるとさっさと退社することにした。

会社のビルを出て、そのまま本屋で立ち読みでもした後に帰ろうと思っていたのだが、帰り道の様子がいつもと違う。

そこには見慣れない女の子が居て、何かを必死で探しているようだった。年は香住より少し若そうだ。
この付近に住んでいる人だろうか?歩きながら何となく見つめていると、ふと彼女と目が合った。

その人は端整ながらもどことなくおっとりした顔立ちで、長く綺麗な黒い髪を持っていた。
体つきも、豊満な胸と綺麗な腰のくびれが程よく共存した素晴らしい形状だった。

(…香住よりもすごい。)

俺の視界に居るその女の子は、間違いなく美人だ。…こっちにやってくる。

「あ、あのっ…」
「どうかしたんですか?何か落としたとか?」
「はい…実はこの辺でハンカチを無くしてしまいまして…」

話によると、彼女はこれから買い物に行く途中だったのだが、途中でハンカチがなくなっていることに気がつき慌てて探し始めたのだという。
どのあたりでなくしてしまったのかもわからず、虱潰しに近い形で探していたとの事だった。
道筋が限定されるとはいえ、この街中を一人で探すのは流石にキツい。そこまで聞いたら放ってはおけなかった。

「よかったら…手伝います?」
「!あ、ありがとうございますっ!!」

彼女はまるで神を見たかのように喜んで、俺の手を両手で握りながら目じりに涙を浮かべていた。相当きつかったのかもしれない。

「俺は正俊だよ。よろしく」
「澄華っていいます。よろしくお願いします、正俊さん」

こうして、彼女…澄華と名乗った女の子と一緒にハンカチ探しをすることになったのだった。

「とりあえず、どのあたりを歩いてきたか教えてくれないかな?逆に辿ってみよう」
「わかりました。案内します」

そう言うと、俺を連れてハンカチを落としたかもしれない場所の一つへ歩き始めた。


--------------------------------------------------


「すみません、この辺でハンカチが落ちてるのを見かけませんでしたか?」
「いや、うちは見てないなぁ」
「そう、ですか…」

時たま道ゆく人にも聞きながら、二人でハンカチの捜索を続けていた。しかし中々いい手がかりは来なかった。
最寄の交番に集められた落し物の中に何枚かハンカチはあったものの、どれも関係のないもので、決定打になる手がかりはない。

「すみません、ありがとうございました。」

俺は足を止めてくれたおじさんに謝罪と感謝の言葉をかける。すると、こんな言葉が返ってきた。

「いいってことよ。それにしても、お二人さんデートの途中だってのに災難だったなぁ!」
「え!?」

隣の澄華さんと一緒に声を上げてしまった。どうやら見事に勘違いされてしまっていたようだ。

「い、いやそういうわけじゃなくって…」
「そうですよ!わ、私たちそういう…関係じゃないんですから」

そう言いながら、横に居る彼女は顔を赤らめていた…内心そう言われてまんざらでもなかったのだろうか。彼女の照れている顔は可愛かった。
だけど、俺はデートと言われて少し暗い気分になっていた。成り行きだったとはいえ、女の子と二人っきりで歩いてたらそりゃそう思われても仕方ない。
しかし澄華さんと俺はそういう関係じゃない。…香住のやつ、今何してるんだろう。こんなところを見られたらとんでもない勘違いをされそうだ。

「…?どうしました正俊さん」
「い、いや何でもないよ澄華さん」
「…」

慌てて考えを隅に追いやった。今は彼女を手伝うことを考えないと。澄華さんは不思議そうな顔をして見つめていた。

「とりあえず、次の場所を探そう。」
「あ、はい!」

そう言って、視線を次の場所に向けて歩き出す。
…澄華さんの顔が視界から外れる直前、不意に彼女がニヤっとしたような気がした。
まるで何かに気がついたかのような不敵な笑いというか…考えても仕方がなかったので、俺はそのまま歩き続けていた。

その後も、彼女が歩いてきたという道を転々としながら、落としたものを探し続けていた。
道端などを虱潰しに探しているので、途中ではハプニングもあったりした。

チリン、チリーン

「あ、自転車…あわわっ!」

自転車が通り過ぎるとき、彼女が慌ててそれを避けようとして転びそうになったのだ。慌てて受け止めるのだが…

むにっ。

「はう。」
「!!…ご、ごめん」
「い、いえ…ありがとうございます」

思いっきり掴む形になってしまった。澄華さんの…胸を。
なんて柔らかいんだ…そう思ったのもつかの間、邪念を振り払う。

「こ、ここも駄目だったね。次、いこうか」
「そ、そうですね!」

正直、すごい触り心地の良い胸だった。…もし彼女が恋人だったら、好きなだけ触ってみたいなと一瞬思ってしまった。けど、それは駄目だ。
煩悩を振り払い、また頭を探索に切り替えて行く。

…もう時間は3時を過ぎていた。もうこの付近はあらかた捜しつくしたのだけれど、彼女のハンカチはどこにもなかった。

「お手上げだな。一体どこにあるっていうんだ…」

そんな感じで俺が頭を抱えてしまったところ……………彼女はハッとしたように手持ちのバッグをよく探しはじめた。

「…あ。」
「どうしたの?」

「…すみません、バッグの底にありました…」

バッグから取り出されたハンカチ。一気に脱力してしまった。そんなオチとは。


--------------------------------------------------


最終的に、俺と澄華さんは会社近くの喫茶まで戻って来ていた。
時間はもうすぐ夕暮れ時。俺たちは店内でコーヒーとサンドイッチを注文していた。

「まったく、とんだ土曜出勤になってしまったもんだよ。まさか女の子に街中連れまわされるなんて。」
「め、めんぼくないです…」

「まあ…悪くはなかったかな?君みたいな美人の女の子と二人きり、なんてさ」

俺はサンドイッチを口に運びながら、冗談交じりでそんなことを言っていた。心の底には後ろめたい気分があったのだが。

「あら…そ、それでしたら…」

そんな俺のおどけたジョークを聞いていた彼女は、おもむろに小指を出しながら、こんなことを口走る。

「正俊さん…私とイイこと、してみません?なんて…」
「ムグッ!?ゲホッ、ゲホッ…」

あまりに強烈な発言でサンドイッチを喉に詰まらせてしまった。

「あははっ、冗談ですよ。…けど、正俊さんのこと、好きですよ。」
「…?」

おどけていた彼女の口調が、不意に真面目になった。

「…私、前からずっと、あなたのことを見てたんです。朝あの会社に入っていくあなたに一目ぼれしてからずっと…」

彼女は、真剣な顔でこちらを見つめながら語っていた。

「隔週の土曜に午前中だけ仕事するのも調べました。それで今日会いにきたんです。」

それは、この人は今日偶然出会ったわけじゃなくて、あちらから会いにきたということを俺に示していた。

「ハンカチを落としたっていうのも、嘘だったんです。それを口実にして、あなたと一緒になりたかった。」

とんでもないことを言われた。だけど…そうまでしてでも俺に対して伝えたかったことがあるということ。

「…あなたが好きです。付き合ってくれませんか…?」
「澄華さん…」

それは、明確な告白だった。

きっと何日も前からプランを考えて、その通りに動いて、それでいての告白なんだと感じた。
それは彼女なりに頑張った結果だったんだろう。

「…申し訳ないけど、それは出来ないよ」
「えっ…」

だからこそ俺は踏みとどまった。それだけはいけないと思ったから。だからしっかり打ち明ける。

「俺には…付き合っている人がいるから。」
「!…そう、ですか…」

それを聞いた澄華さんは、なにやら複雑そうな面持ちになった。俺はそのまま続ける。

「色々引っ張り回されたけど、内心では楽しかったんだ。君みたいな女の子に連れられて、
 デートみたいな感じになって、俺は君に流されるままだったけど、何だかんだで楽しかったんだよ。
 …でも、やっぱりこれ以上は駄目だ。これ以上は一線を越えてしまう。それは本当に彼女への裏切りになっちゃうから。」

彼女は、何も言わずに真剣に俺の言葉を聞いていた。

「だから、ごめん。…ここのお金は払うよ。」
「…私こそ、色々わがまま言っちゃってすみませんでした。それだけじゃなく、軽い気持ちであんなことまで…」

彼女はとても申し訳無さそうにしていた。色々心苦しいけれど、はっきりと意思を伝えないと酷いことになっていたかもしれない。
だから、はっきりと別れの言葉を口にして、席を立った。

「それじゃあ、さよなら、澄華さん。」
「はい…さよなら、正俊さん。」

一時の感情に流されようとも、好きな人の気持ちを裏切っちゃいけない。これでいいんだ。
彼女の分のお金も置いて喫茶店を足早に去ると、俺は自宅へと向かっていった。香住もきっと心配してるだろう。
とはいえ、他の女性の誘いに一時でも乗ってしまったのは事実。
隠さずにちゃんと打ち明けないと駄目だと思った。怒られるのを覚悟しないとな…
そう思っていた。いたんだけれども。


--------------------------------------------------


「ただい…!!??」
「おかえりなさい、正俊さん♪」

…自宅では何故か、先ほど別れた筈の美女が待っていた。先回りしたのか、なにやら汗だくだ。

「す、澄華さん!なんでここが…っていうか何で中に!?」
「クスッ。私、ここの合鍵持ってるんですよ。」

そんな馬鹿な話がありえるのか?今日出会ったばかりの彼女何故家の合鍵を!?
というか、彼女が合鍵を持ってる筈がない。ここの鍵を持っているのは二人しかいないのだから。
それは俺と……………ちょっと待て。

「……………………」

「…ぷっ、あっはははははは!良い具合に混乱してるね、”正俊”!」
「え、え?」

突如堪え切れなくなったように笑い出し、今までと違う口調で喋りだした彼女を見て、ただ呆然としているしかない俺。
すると彼女は携帯電話を取り出し、何か操作し始める。

「私だよ、正俊。」

そう言うと、彼女の綺麗な顔が淡く光りだした。光は顔だけでなく頭全体や長い髪の毛まで及んでいる。
すると次の瞬間、顔の形状がみるみるうちに無くなり、のっぺらぼうのようになってしまった。
長かった髪の毛も、頭部に吸い込まれるようにして消えてしまう。
最後に、平坦になっていた顔の一部分に切れ目が出来、穴となって広がっていった。
その中から出てきたのは…忘れるはずが無い、俺の恋人の顔だった。

「か…香住?」
「そ。私でした」

香住の頭は、まるで着ぐるみを着る時に頭に被る面下のようになっていた。その淵を掴むと、フードを脱ぐようにしてショートの髪の毛を外気に晒す。

「びっくりしたでしょ?」
「そりゃあもう…というか、もう何がなんだかわけがわからない。」

もう頭の中はこんがらがっていた。とりあえず、香住に一芝居打たれたみたいだけれど、これは何なのか。香住があの美女に変身していた?

「まあ、そうなるわよね。とりあえず中に入ろう?説明するから」


--------------------------------------------------


「…会社で開発中の特殊スーツ!?」
「そ。それで試着してほしいって頼まれたのよ。今私の首から下は全部そのスーツで覆われてるの。表面だけじゃなく、あそこの内側までぴっちりとね。」

部屋の中で、俺は今日起こった出来事の真相を聞かされた。
自宅に居るか、暇つぶしに遊びに出かけていると思われた香住は、実は昼からずっと俺のそばにいた。
今日出会った澄華という女の子は、勤務先から借りてきたというスーツで変装した香住だったのだ。
会社から試験運用を任されたとは言っていたが、まさかこんな使い方をしてくるとは。彼女はすぐにそれの説明をしてくれた。

なんでも、香住の勤務するグッズ製作会社で新たに開発されたそれは、様々な人からスキャンしたデータを自由自在に組み合わせて、装着した人をそのデータどおりの姿に変身させることが出来るのだという。
スーツの操作は携帯電話にアプリを入れるだけで可能で、最新の医療現場でも使われてる微細な擬似神経などの特殊素材が織り込まれていて、変身すると普通の人間とぱっと見見分けがつかなくなる優れものという話だった。
ゆくゆくは余分な機能を削減、量産体制を整えてジョークグッズの一種として売り出す予定もあるとの事らしかった。

「コレが、全部スーツなのか…」

そう言いながら、香住の首で弛んでいるフード状の部分を触らせてもらう。表面は人間の皮膚そっくりだが、裏地はビニールかラバーのようなツルツルした質感になっていた。

「こんな裏地だけど、皮膚呼吸もできて、かいた汗も少しづつ外に出てくれるのよ」

そう言いながら、俺の手をわきの下に触らせてくれる。確かに汗が出ていた。…恥ずかしい気がしたので慌てて手を引っ込める。

「と、とりあえずそのスーツを使ってあの娘に化けてたっていうのはわかったけど…でも、何で。」
「半分は、イジワルかな。私以外の女の子と一緒になって焦ったりしてる正俊が見てみたかったから。
 …それから、あなたを試してみたかったのよ。もし私より可愛い女の子に出会ったら、どうなるかなって。」
「そう、だったのか…」

言われてみれば、ある意味納得できた。もし恋人が、街中で別の人に誘われたらどうなるのか。
立場が逆だったら、きっと俺も気になってるはずだ。だから香住は、別人に変身できるというスーツをこんな事に使おうと…

「ごめんね、騙すようなことをしちゃって。」
「いや、それはこっちのほうだよ…もう少しで俺はお前を裏切るところだった。」
「あははっ、そこらへんは大目に見てあげる。惹かれてっちゃうように結構本気で演技しちゃってたから。」

騙すほうも真剣にやってたって。騙される身にもなってほしいところだ。

「それにしても、あんな美人に化けるなんてなあ。」
「…今のこの体つきも好きなんだけどね。親から貰った大切な身体だし。
 けど、やっぱり一度は絶世の美女みたいなのに憧れちゃう。だから澄華ちゃんはこんな身体なの。」

スーツの下に覆い隠されている香住の本当の身体も、程よい肉付きを持ったいいものだ。
けど、今の彼女の身体はそれよりもずっと魅惑的なバストとくびれを持っている。
先ほどまで被っていた顔も、若干の幼さを残しながらも惹きつけられる美しさを持っていた。
癖が無く、綺麗で長く伸びた黒い髪もだ。それは確かに理想的な美女だった。

「お前の思う理想の女性の姿が、あの澄華だってことか…そっか、だから”すみか”だったのか。」
「”かすみ”を入れ替えて”すみか”。そういうことよ。」

なるほど。完璧にしてやられたわけか…何でもっと早く気づかなかったんだよ俺は。ああ、それくらい冷静じゃなくなってたってことか。

「さて、一通り説明したところでもう一度聞いてみたいんだけど」
「ん?」

俺が疑問符を浮かべると、香住は一拍置いて口を開いた。

「”正俊さん…私とイイこと、してみませんか?”」

先ほどの澄華と同じ口ぶりで、どきりとする言葉をかけられた。

「かっ、香住!?」
「ふふっ…さっきは澄華ちゃんが私だと思わなかったから断ったけれど、今なら文句は無いんじゃないかな?」
「そ、それは確かに。」
「それに、たまには変わったプレイでも面白いんじゃない?相手は私なんだし、遠慮はいらないわよ♪」

まったくもってその通りだった。目の前に居るのは今日始めて会ったばかりの女性ではなく、何回も夜を共に過ごした恋人なのだから。
俺は首を縦に振り、澄華…もとい香住を抱くことが決定した。彼女は着てた服を全て脱いで布団の上に仰向けになる。

「それじゃあ、もう一回澄華ちゃんに変身…」
「あ、ちょっと待った」
「ん?どうしたの」
「…このままでお願いできないかな?」

澄華が、特殊スーツで変身した香住だっていうのはわかった。けれど、やっぱりそれでも抵抗がある。

「せめて、顔だけでもそのままで。中身がお前だってわかってても、それでもやっぱり素顔を見せたままでしてほしい。」
「正俊…」
「そんかわり、次に同じコトするときはそっちの自由でいいからさ。ああ、後さ…」
「?」
「何だかこの状態のほうが、ただの裸より興奮しちゃってるんだよな…変な話だけれど」
「えっ!あなたも!?」
「あなたもって、香住!?」

ただの裸より、何かのコスチュームやパーツを身につけたほうが興奮する。世の中にはそういう性癖を持っている人間が数多く居る。
今俺が感じているものは、それに近いものなのだろうか。今の彼女の姿は、澄華ではなく、澄華を着た香住…わからない、何でこんなに興奮してるのだろう。

つい、そんなさっきから思っていたことを口走ってしまったけれど、彼女自身も同じ事を考えていたのだった。
それってつまり、彼女もまた自分の特異な姿に興奮してるってことで…意外な一面があったんだなぁ。
彼女の股間を見てみると、もう大分濡れている上に、その筋からは今も透明な液体が漏れ出している。

「顔を脱いでから意識し始めちゃって、もうこんなに…私も正俊もとんだヘンタイだわ」
「…ゴメン。」

謝りながらも、俺は彼女のその場所へ手を伸ばしていった。


--------------------------------------------------


くちゅ…くちゅっ…と片手の指を割れ目の中でこねくり回しながら、開いた手で大きな乳房の片方を揉みしだく。

「ううんっ…んんっ…」

切なそうな吐息を上げながら、香住は気持ち良さそうな表情を浮かべている。
いつもの彼女の胸よりも二周り以上大きくなった乳房は、揉んでいるほうも気持ちよくなる柔らかさだった。
肌触りも感触も、とても作り物とは思えないものだ。
俺は彼女の背中に回りこみ、今度は両手で乳房をわしづかみにする。同時に割れ目に沿わせるように股間のモノをくっつけた。

「はああぁっ…はぁんっ」

味わうかのように柔らかな二つの果実をこねくりまわし、腰を動かすことで潤った股間の表面を竿の背中で刺激する。
ゆっくりと乳房を刺激する度、股間からはじわりと汁が滴り、這わせている俺の分身をも濡れさせる。

「んんっ…いいっ、いいよおっ…おっぱい…はぁうんっ!」

アクセントがてらに両乳首をキュッと摘むと、一際切なそうな声が上がる。竿の背中越しに感じる割れ目も、大きくヒクつきながら更に湿っていた。
呼吸もだんだん荒くなってきていた。こっちも焦らしているだけじゃいられなくなってきている。俺は下半身を縦にゆっくり動かし始めた。

「ふうっ…!!」

硬くなったそれを、ついに彼女の中に差し込んだ。溢れるばかりの粘液で満たされた口が、抵抗なくそれをくわえ込んでいく。

「あ、あっ、あっ、ああっ…」

両手の愛撫を続けながら、下半身の上下運動を開始した。十分すぎるほどに濡れたそこから、ぐっちゅ、くっちゅという音が絶え間なく生み出される。
香住の膣内表面を覆ったスーツが変化したという擬似女性器は、しかしながら本物と見分けがつかない感触と反応を見せて俺のモノを刺激する。
ここまですごいものを、本当に売り出してしまっていいのか?一瞬そんな考えが浮かんだが、彼女が気持ちよすぎてそんな思考もすぐ吹き飛んでいた。

「あっ、ああっあっあっあっ…も、もうだめえっ…っっっ!!!」

限界を超えた香住の膣が、内側に埋まったソレを咥えたまま大胆に収縮する。その愛撫の刺激に俺はどうすることも出来ず、そのまま彼女の奥深くに熱いものがどくどくと注ぎ込まれていった。
胸に置いていた両手にも力が入り、指の間から柔らかな肌がはみ出さんばかりにぎゅうぎゅうと掴んでいた。

…絶頂へ上り詰めた後も、お互いにしばらくその体制のままで、俺は彼女の乳房を弄くり回していた。彼女のほうもずっと気持ち良さそうだった。


--------------------------------------------------


正直、ものすごく気持ちよかった。今まで夜に彼女とシていた時よりも、ずっと。
ただ、ナイスバディになった香住としているから、というのもあるけど、それだけじゃない。
それは、今回のことでお互いの気持ちが知れたからかもしれない。

香住は、俺が別の女に誘惑されても、踏みとどまってくれることが嬉しかったのかもしれない。
だからかはわからないけれど、少なくともいつもより気持ち良さそうな顔をしていた。
俺も、澄華として現れた彼女から、新たな一面を知ることができた気がする。

中に出してしまった後、本当に大丈夫なのかと聞くと、彼女は大丈夫と言いながら携帯を操作する。

「言ったでしょ、ここの内側までぴっちり覆われてるって。ん、んんっ…」

不意に彼女が艶のある呻きをあげると同時に、股間からゴポゴポと白い液体が流れ出した。スーツの伸縮機能を使った精液排出も可能なようだった。

「…こんな風に、スーツの伸縮を使って中に出されたものを排出できるの。」

白濁を全て排出した股間の筋を指でさする香住。さすった刺激で感じているのか、恍惚の笑みを浮かべて身を震わせている。

「気持ちよかったよ、とっても…」
「お互い様だよ。こっちこそ変な注文してごめんな」
「クスッ、何となくわかるよ。確かに顔だけ脱いでると何だかゾクゾク来るもん。」
「そうなのか…」

そんじゃあ脱ぎますか、と香住が携帯を操作すると、スーツ全体が淡く光り、ギュウウゥッと音を立てながら変化を始めた。
豊満に膨らんでいた全身が縮んでいき、彼女の本来の身体のラインに戻っていく。
また、全身の皮膚が光沢のある透明なビニールかラバーのような質感に変化していった。
締め付けが緩んでいくのか、全身のところどころがたるみタイツのような皺ができる。これがこのスーツの本来の姿なのか。
変化が終わると、脱いだままだったフードの部分を掴んで一気に広げだした。ラバーの見た目通り、いやそれ以上によく伸びる生地らしい。
香住は顔を若干赤らめながら、ググッ、ミチチッと音を立てるスーツを脱いでいった。
外気に触れた素肌からはかすかに湯気がのぼり、汗で湿っている。

「皮膚呼吸はできるんだけど、やっぱり汗は出ちゃうのよね。」

そう言いながら彼女がスーツを脱いでいく光景からは、ある種の美しさとエロティックなものが感じられた。



「うう〜ん、数時間ぶりの外気〜」

香住はスーツから抜け出すと、生まれたままの姿で外気を浴びて開放感に浸っていた。恋人とはいえ、こうも解放的になられるとこっちが恥ずかしくなってきた。
彼女が風邪をひくと困るので、バスタオルとパジャマを持ってきて着させることにした。
着替えている間、俺の目は脱ぎ捨てられたスーツに釘付けだった。さっきまで香住の全身を覆っていたスーツからは、微かに彼女の残り香が感じられた。

やがて着替え終わった香住なのだが、何を思ったのか彼女が不敵な笑みを浮かべ始めた。そして、とんでもないことを言い出したのだ。

「興味あるんなら、これ着てみる?」
「ええっ!?コレって他の人でも、というか男性でも着れるの!?」
「ちゃんと性別を認識して、相応の処理をスーツがやってくれるのよ。
 男の人の場合は医療技術の応用でスーツが股間に擬似性器を作って埋め込んでくれるし。脱いだ後はちゃんと元通りになるわ」
「そんな簡単に言うけどさ…というか、香住が着てたものを着るなんて。しかも脱ぎたてのを…」
「あはっ、確かにちょっとアブナイかもね。でも、私たち恋人同士じゃない。同意の上でやるんだから気にしなくていいって」
「う…」
「会社のほうでは、男性が着た場合のデータももっと沢山取りたいって言ってたから丁度いいわ。それに、ソレは正直みたいだしね。」

香住が指差した俺の股間では、硬くなったモノが元気よく上向きに伸びていた。
興味があるのはバレバレで、最早どんな言い訳も意味をなさなかった。


--------------------------------------------------


とりあえずシャワーで汗を流した後、何も着ないままの状態で先ほどのスーツを手に取り、入り口を広げてみる。
自分でやってみると、本当に驚くほどよく伸びる。それでいて、程よい弾力を持った生地であるようだった。
そのまま香住に手伝ってもらいながら、スーツを足先から身につけていった。恋人とはいえ、異性にこの姿を見られるのは恥ずかしい。
脚、腰、胴体、腕と覆われていき、最後に面下をフードのようにかぶる。程なくして俺の全身は透明なラバースーツの中に入れられてしまった。
手の指、足の指から頭まで、顔以外が程よくスーツに締め付けられている状態だ。へその下あたりでは恥ずかしいまでに固くなった物体が上向きに押さえつけられている。

スーツを全て身につけたことを確認すると、香住は携帯を操作し始める。いよいよ作動させるようだ。

「それじゃあ、始めるわよ」

香住がボタンを押すと、スーツの締め付けが一気に強まった。

「うわっ…わぷっ!?」

驚く間もなく、開いていた面下の穴が一気にしぼまり、唯一露出していた顔も密封されてしまった。
一瞬パニックになるが、顔に隙間なく密着した生地の鼻の部分に穴が開き、呼吸は確保されていた。
だが、全身の締め付けは弱まることを知らず、グググッ、ギチチッとラバーの擦れるような音を立てながら密着をどんどん強めている。
やがてスーツが淡く光り始めた。表面に、ワイヤーフレームのような光の線がかすかに張り巡らされる。
生地が透明な為、全身がどうなっているかはよく見えたが、程なくして更なる変化が始まった。
最初に変化したのは脚からだった。締め付けが爪先から弱まり始めるが、それと共に俺の両足がほっそりとした形に変わっていく。
それと共に、透明で光沢のある生地が白い素肌のような質感へと置き換わっていった。
締め付けが無くなり変化した部分は、代わりにむずがゆい感覚に覆われていくが、やがてそれも収まった。
みるみるうちに太腿まで変化し、太かった脚が、細長い女性の脚のようになってしまっていた。

「!?」

間髪入れずに、今度は股間が刺激される。今までの締め付けとは違う刺激が股間の根元にやってきた。
何かが内側に食い込んでくる。そしてそのままずぶずぶと身体の内側に入り込み始めた。
その進行はゆっくりだったが、確実に奥へと進んでいた。そして、その最中も全身の変化は続く。
へその下にくっきりと浮かんでいた股間の棒が沈むように消えて、お尻はほどよく膨らみ、平坦だったウエストが細くなる。
その間にも股間に食い込んだスーツは内部への進行を続けていた。やがてその刺激は、別の感覚に変化し始める。
股間のモノが刺激されている時と似ていて異なる、不思議な快感を徐々に発生させ始めたのだ。

「む、むぅぅ〜っ」

その感覚にスーツで塞がれた口から言葉にならない声が漏れるが、それは自分自身の声ではなかった。まるで女性の喘ぎのような音色に変化していたのだ。
その間にも全身の変化は止まらず、腕から指先までほっそりとなり、胸の左右が風船のように膨張し大きな乳房となる。
股間の刺激は、へその下くらいまで進行したところでだんだんと収まっていったが、ここで顔を覆う生地が更に強く張り付いてきた。
耳の部分も立体的に覆われ、頭部全体がぎゅうぎゅうと締め付けられながら変化していっているようだ。
鼻だけでなく、両目と口の部分にも穴が開き、淵の部分が目蓋と口元に密着。やがて顔全体も締め付けから開放され、むずがゆい感覚がやってくる。

「ぷはっ!はあ…はあ…はあ…」

反射的に口から息を吸っていた。鼻から呼吸できていたが、何だかそれでも足りないくらい興奮している。その息も、いつもの自分のものじゃなくなっている。
間もなく、身体全体を駆け巡る様々な感覚に立っていられなくなり、思わず膝をついて四つんばいになってしまった。
全身の締め付けは殆ど無くなり、密封されていた顔も自由になったが、最後に頭の部分から何かがぶわっと広がってきた。

「っ!」

それは肩にかかり、また視界にも写ってきた。黒くて綺麗な長い髪の毛だ。どことなく息が荒いまま、それをぼうっと見つめていた。

「出来上がりね。今どんな姿になってるか見せたげる」

そう言うと香住は姿見をこちらに向けてくれた。鏡面に写った女性は、途端に驚愕の表情を見せる。
そこに写っていたのは、豊満な肢体と長い髪、そして美しい顔を持った…今日街中で出会い、さっきまでこの部屋に居た女性。

「こんばんわ、澄華ちゃん」

俺は、澄華になってしまったのだ。
先ほどまで香住が身に纏っていた、彼女自身の理想の化身。それが俺の全身を隙間無く封じ込めてしまっていた。
そう認識した瞬間、股間を今まで感じたことのない鋭い感覚に襲われる。
普段股間にあるモノの感覚は遠くなっており、代わりにそれとは異なる、それでいて快感だと認識できる強烈な感覚がそこに満ちる。
鏡に映った澄華の股間は、それに連動するように、ピクッ、ピクッと震えていた。

「か、香住…どういうイジワルなんだよ、コレは…」
「あら、その身体にいやらしそうな視線を向けてたのはどこの誰だったかしら?何だかんだで気になってたくせに♪」
「うっ…」
「それに、今だったらその身体を好きなようにできるわよ。…まぁ、私が好きなようにしてみたいんだけどね。」
「へ?そ、それってどういう…」
「自分で設定した手前だけど…一度やってみたかったのよね。自分で変身するだけじゃなくって、こんな美人にいやらしいコトしてみたいって…」
「いやらしいことって、あっ…」

言う間もなく、香住の手は俺の股間に向かっていた。
彼女の指がそこを撫でると、未知の刺激がじわじわと全身を襲ってくる。これが女の感覚なのか…?
作り物のはずのソレは強烈なまでの感覚を身体に送り、そしてトロリとした液体を分泌し始めている。

「すごいでしょ?こんな薄いスーツなのに、擬似性器用のがたっぷり充填されてるんだから」

程なくして、香住の指が湿りはじめた股間に濡らされていく。

「お願い、付き合って頂戴…澄華ちゃん♪」

--------------------------------------------------


今まで揉む側だった俺は、逆に香住に胸を揉まれる立場に変わってしまっていた。
女の肉体に覆われ、戸惑っている間にあっさり香住に押し倒された俺は、正面から胸についた二つの膨らみをわしづかみにされている。
そして、彼女が手を動かすたびに、じわっとした感覚が胸から伝わってくるのだ。
ただ触られているだけでも、普段の自分の平坦な胸と全く違う感覚がしているのだけれど、加えて揉まれると、膨らみの内部からなんともいえない刺激が伝わってくる。

「んっ…んうっ…」

そして、だんだんとその刺激が気持ちよく感じられるようになっていったのだ。こらえきれずに自然と声が出てしまう。自分の喉から女の子の喘ぎ声が出るなんて、変な気分だ。

「コレがさっきまで私の感じてたものよ、正俊…」
「んっ…はあっ…はあっ…」

言葉が出ない。乳房から伝わってくる快感が身体を駆け巡り、翻弄されてしまっている。
それだけじゃない。快感を発しているのは胸だけじゃなかった。先ほどからずっと股間から発せられている、未知の感覚。
乳房からの感覚と、股間からの感覚が、重なるようにして更なる快楽を運んでいるような感じがした。
胸が、下半身が、全身が、徐々に熱を帯びていく。

「胸だけじゃあないわよ…?」

そう言うと、香住の指が再び股間へと向かい、お尻の穴のほうから正面に向けて指を這わせてきた。

「んうぅぅぅっ…」

ぞくぞくするような快感が指が動く度に流れ込んできた。そして、その指は割れ目の末端にある肉の豆を撫でた。

「ふうぅぅぅっ!!??」

ジィィィィンと来る様な強烈な感覚がそこから全身を駆け巡る。…彼女は割れ目を擦られている時、こんな快感を何度も…



俺が快感に震えているのを確認すると、香住は這わせていた指の角度を変えた。

「それじゃあ…指、入れるね」

ずぷっ。

「〜〜〜〜っっ!!!」

未知の感覚。本来穴が開いている筈のない部分から、指を差し込まれた。そして、間髪入れずに更なる衝撃に貫かれる。

「ふああぁぁっ!!!!!」

中に入れられた指が折り曲がり、一部分を撫でられた。胸や先ほどの時とはまた違う、そして一際強力な感覚。

「コレが、入れられた時の感覚。まぁ、指だからアレとはまた違うけれどね」

そのまま、断続的に内側を指で刺激される。男性器の刺激とは全く次元の異なる、そして強烈な刺激が絶え間なく送り込まれる。

「あはあっ、はっ、はあっ…」

だんだんと呼吸が荒くなる。香住の指が入った割れ目からは液が噴出すようにどんどん流れ、動く指が否応無しに音を立てていた。

「…ふふっ、こんな可愛い顔で喘いでたんだ、澄華ちゃん…」
「ふううっ…?」

ふと、香住がそんな事を言い出した。

「いや、数日前にね、何回か澄華ちゃんになって…ひとりで楽しんでたんだ。」
「ふっ!?」
「姿見に映しながら、自分で作った理想の姿で…でもあんまり冷静に鏡見てられなくってさ。
 こうやってあなたを澄華ちゃんにしたことで、ようやくゆっくり見れた。」

そう話す香住からは、自分の理想の姿が立体化したことへの嬉しさが感じられた。けどそれだけじゃない。もう一つ、普段の俺自身に向けられているいつもの感情も混ざっていた。

「…それに、いまの中身は、付き合っている人だもん。」

香住はそのまま抱きつき、口を重ねてきた。全身が絡みつくように密着し、彼女の舌が自分の中に入り込む。少し収まっていた熱がぶり返し、股間がきゅうっとする。

…そう、今ここにいる澄華は、ただ香住の理想が立体化した女の子じゃない。その中身は俺なんだ。
中身が俺じゃなかったら、こんなことは出来なかったんだろう。半分人形扱いされてるような感じで勘弁してほしかったが、一方で俺を信頼してのことだというのも何となく理解できて、まんざらでもなかった。

「ふぅ。これじゃあ百合っぽい感じだね。実際はちょっと違うんだけどさ。」

顔を離してそんなことを言う香住だったが、あんまり申し訳無さそうな顔じゃなかった。
彼女は言い終わると、何を思ったのか体制を180度変えてきた。…丁度俺の前には、彼女の塗れた割れ目が来る。

「好きなようにしていいよ…私も好きなようにやるから」

そう言うと、香住は俺の股間に口をつけて、下を差し込んできた。

「ふううっ!!!」

舌で内側が舐め回され、溢れるものも吸い取られていく。負けじと俺も彼女のそれに食いついた。

「むうぅっ、ううっ…ちゅぱっ、ちゅるっ…」
「ぴちゃっ…んうっ、んっっ…」

二人揃って、抱き合いながら互いのそこを味わっていた。体中が快感で満たされ、とどまることを知らないように股間からは液が溢れる。
そしてそれを、互いにこぼさないように、舐め取り、飲み込む。その刺激は更に快感を呼び込んで、どんどん高みへと上っていく。
俺の全身はしびれるような、むずがゆいような、淡く強烈な快感が駆け巡り、だんだん頭の中がそれで洗い流され、やがて真っ白になった。


「ぴちゃ、ちゅぱ…んっ、んっ、んむうっ…!」
「っっ!!…ちゅぷ、ごきゅっ、ごきゅっ…」


お互いに上り詰め、一際大きな痙攣と共に放出されたものを、変わらず飲み干していた。全身を駆け巡る感覚が、中々おさまらない。
その波が身体の中で暴れまわっている間、俺の細長い腕と脚は香住の身体を強く抱きしめていた。


--------------------------------------------------


日曜。日が昇り目が覚めると、俺たちは布団の中で全裸で抱き合ったままだった。無論、俺は澄華になったままでだ。
結局、互いに疲れて眠ってしまうまで俺たちは百合の花を咲かせていたのだ。(片方は男だけれど)
香住は中身が俺であるのをいいことに気の向くままに澄華の身体を弄び続けた。
俺のほうも快感に翻弄されるままに自分の身体と、香住の身体を弄くり返す。
いつもの夜伽では絶対に得られない、ある種の背徳的な快感は、中々収まることを知らなかったのだった。

数時間前の秘め事を思い出したら、身体の心が熱くなってきた。そんな頭が火照り始めた俺の両胸に、香住の頭が寄ってくる。

「おはよぉ、澄華ちゃん♪」
「あふっ!?」
「ううーん、澄華ちゃんのおっぱいまくら気持ちいぃ〜」
「や、やめぇっ、んあぁっ…」

澄華の胸に顔を埋めて恍惚状態になっている香住を何とか引き剥がす。このまま澄華になったままだとキリが無さそうだ。
もし平日までずっとこんなんだったら色々な意味で大変だ。何とか香住を説得し、スーツを脱がせてもらうことにした。

香住がしぶしぶ携帯のボタンを操作すると、変身した時と反対のプロセスで、スーツが元に戻ってゆく。
長く伸びた髪が頭に吸い込まれるように消え、目と口の切れ目が閉じ、美しい顔が平坦な一枚の生地へと還元される。
全身を再びむずがゆい感覚が包み込むと(スーツの擬似神経を繋ぐ時、外す時にどうしてもこうなるそうだ)続いて勢いよく締め付けられる。
白い肌が透明なラバーへ戻り、細長くなった手足も元の太さに戻っていく。乳房はしぼみ、腰のくびれも消え、へその下から太く硬い物体が浮かび上がる。
のっぺらぼうになった顔に穴が開き面下に変化すると、すぐさま外して頭部を開放。そのまま引っ張ってスーツを脱ごうとしたのだが、今度は伸びない。

「スーツが完全に元に戻らないと脱げないようになってるのよ。まだココを戻してる最中ね。」

香住は股間の根元に指を持っていくと、そのままずぶりと入れてしまった。まだ擬似性器が抜けきっていなかったのだ。
着る時は快感に近い刺激があったが、脱ぐ時の感覚は鈍い感じだ。差し込まれた指が内側から少しづつ押し出されている。

「男の人の場合は埋め込んだのを元に戻さなくちゃいけないから、脱ぐ時はどうしても時間がかかるって話でね。
 身体洗う時以外なら着たままのほうがいいという意見もあるのよ。…もうしばらく待ってちょうだいね。」

やがて香住の指は完全に押し出され、股間が元通りになるとスーツが脱げるようになった。
汗で身体にぴたりとくっついているので脱ぐのも一苦労だった。
やっとのことでスーツから抜け出したが、今度は股間のモノが中々落ち着かず、困り物な状態だった。
あの快感に中てられてしまったのだろうか。仕方がないので、トイレに行って何とかすることにする。

横目でふと見ると、脱ぎ終わったスーツを香住が抱きかかえてなにやらスンスンしていたのが少し心配だったが。

その日はそれから二人で、自分たちの汗とその他の汁がついたスーツを風呂場で丁寧に手洗いして部屋の中で乾かしながら、水道水で乾杯した。
俺も香住も猛烈に喉が渇いて、水だけ飲みたい気分だった。特大ペットボトル一本分くらいは飲んだと思う。


--------------------------------------------------


数日後、香住が仕事から帰ってくるとびっくりする話が飛び出してきた。

「この間の試験運用の件を開発の人に話したらね、もっと運用データがほしいからもう一人くらい試着してくれないかって話がきたのよ。
 それで正俊のことを話して、試着担当にしてみないかって提案したら二つ返事でOKしてくれて、もう一着分渡してくれたのよ!」

テーブルの上には、袋に入って未開封のあのスーツが折りたたまれていた。

「これからはどっちか片方じゃなくって、二人とも着ることができるわけよ!今度の週末はもっと面白いことができそう!
 澄華ちゃん以外にも設定して変身したりできるし、二人とも同じ娘になって双子のふりして街を歩くのも面白そう♪
 他には、私が男になって立場を逆にしてみたり…いいと思わない、これ?」

香住のあまりのテンションに溜息が出る俺だったが…内心では大分興奮してしまっていた。
これから二人でやることを想像するだけで、もう下半身に血が通ってしまっているのだった。





inserted by FC2 system