顔のない淫魔
作:GAT・すとらいく・黒


満月の夜。ふと目が覚めると、ベランダに気配を感じた。
気になりカーテンを開けると、そこには三つの人影があった。
不審な侵入者。だが、その姿に目を奪われる。
そこに居たのは、扇情的な肢体に、全身を黒いエナメル素材のビザールファッションで包んだ、三人の女。
非現実的な光景に夢を疑う間もなく、目が慣れてきて、更に驚くべきものを目にする。

彼女達には、顔が無かった。顔があるべき場所には、絶え間のない闇があるのみだった。

『驚かせてごめんなさいね』

顔が無いのに、女の声が聞こえてくる。

『私達は、ある世界から来た淫魔……けど、魔力の少ないこの世界では力を存分に使えないの』

彼女達の腰からは、黒く艶やかな尻尾が伸びて、意思を持つように動いている。
にわかには信じられない。だが、目を奪われ、その言葉に聞き入ってしまう。身体が、動かない。

『そこであなたに目をつけた。あなたからは良質な魔力と精を感じるの。だからきっと役に立つ』

顔の無い悪魔の一人が、手も触れずに窓のカギを空け、性的な歩みで中に入ってくる。

『あなたの力を貸してほしいの。まあ、選択権は無いんだけどね』

あれよという間に服を全て脱がされ……いきり立ったそれを、黒い光沢のロンググローブに包まれた手で握られる。
その手袋の素材感と、密着してきた肢体に、登り詰めそうになる。だが、絶頂には至らない。

『ふふ……思った通り、とてもいいモノを持ってたわ……けど、まだ出しちゃだめ。』

続いて入ってきたふたりの顔無しが、動けない自分の身体を羽交い絞めにする。

『私の中から、たっぷり吸わせてもらうからね』

中。その言葉で、悪魔の股間の秘部に差し込まれ、吸い取られるのかと一瞬考えた。だが、違ったのだ。

目の前の彼女は、その胴体を包み込む扇情的なスーツを脱ぎ捨て、ロンググローブとサイハイブーツだけの姿となる。
次の瞬間、闇だけが広がっていた顔の部分に両手をやり……首の淵を勢いよく引っ張った。
それは柔らかいゴムのごとくどんどん伸びていく。

『さあ、私の中に入って……私のカラダを存分に楽しませてあげる』

力の入らない身体を、他の二体の悪魔に持ち上げられ、身体が悪魔の肢体に飲みこまれてゆく。

明らかに体躯の違う身体を、瑞々しい白い皮膚が飲みこんで、ぴちぴちに締め付けていく。その内部は、愛液のようなもので濡れていた。
黒いサイハイブーツごと皮に包まれた脚が、じわじわと快感に包まれる。まるで脚が勃起してしまったように。
そのまま、腰まで飲みこまれると、股間で硬くなっていたものが、何か柔らかいものに入ってゆく。
その器官は絶え間なく、股間のそれを刺激する。まるで、フェラチオをするかのごとく。
同時に、その根元から少し下の箇所より、何かが入り込み、身体の中に埋め込まれてゆく。痛みは無く、ただ快感が走るのみ。
腰から上も覆われ……黒い光沢と共に両手が覆い隠され、胸に大きな乳房が張り付く。乳首のある部分が、やはり何か柔らかいものに刺激される。

最後に、髪の生えた部分をフードのように被せられると……淵から湧き出した何かが顔を覆い尽くす。それは瞼や鼻・耳の穴、口の中にも入り込み、内臓の奥深くまで覆ってゆく。
脳髄を貫くような快感に全身が痙攣し、何かに包まれた股間がはちきれそうになる。だが、やはり放出には至らない。
魔性の皮が全身をきつく締め上げていく。その姿形が縮んでいき、中に閉じ込められた肉体の面影が完全になくなると、やがて痙攣は収まった。

「これで、あなたのカラダは全部私のもの。」

自分の口が勝手に開き、自分のものでない女性の声でしゃべり出す。そして、身体が勝手に動き、鏡のある場所に行く。

そこに立っているのは、美しい顔と肢体に扇情的なファッションをあつらえた、一体の淫魔だった。

「さあ……あなたの力、吸わせてもらうわよ」

妖艶な笑みを鏡越しに浮かべ、彼女は自分の片手を乳房、もう片手を股間にやり、愛撫をはじめる。
その途端、胸と股間に未知の快感が走る。特に股間には、中に入り込んだ何かからとてつもない快感が伝わってきた。
それは、女性しか持たない筈の器官であり、淫魔にとっては別の目的を持った器官でもある。

声を上げそうになる。だが、自分の意思で声を出せない。

「ああんっ……だいじょうぶ……私があなたの代わりに声を出してあげる……気持ち良く、搾り取られてちょうだい……」

顔の無い二体の悪魔も加わり、全身が愛撫され、強烈な快感に全身が悲鳴を上げていた。
そして、限界ギリギリまで上り詰めていたそれが、一気に下半身から放出される。

「んうっ……たくさん、出してくれてるわね……いいわよ、もっともっと出してちょうだい」

普通であれば数秒で終わる射精が、終わりを見せない。そして、放たれた精は、全身を包む悪魔の皮が全部吸収してしまう。
そのたび、全身に更に性的なエネルギーが駆け巡り、更なる絶頂を誘発する。
天国とも地獄ともつかない快感に全身を焼かれながらも……意識ははっきりしていた。むしろ快感が膨れ上がるほどに、心は澄んでゆく。

「私の身体に力が満ち、その力はあなたに還元されて、新しい精を絶え間なく作り出す。そして、その身体自体も強いエネルギーに満ち溢れてゆくのよ。
 不思議でしょう?イキっぱなしなのに、心は澄んでて、身体も軽いなんて。」

身体が、ある程度自由に動かせるようになっていた。主導権は淫魔が握っているが、その肢体を自分の意思で動かすことができる。
股間ではいまだ律動が続いているのに、内側での状態など微塵も感じさせないように身体が動いている。

「これからは私達の活動のために、この身体を使わせてもらうわ。この世界の住人から精を搾り取るためにね。
 この二人のための身体探しもしてもらうけど、その代わりそれ以外の時間、私を自由に使わせてあげる」

やがて、背中から黒い翼を生やした淫魔は、顔の無い二体と共に月夜に飛び立っていった。

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夜が明け目が覚めると、ベッドの上で横になっていた。寝間着もそのまま。
やはり、夢だったのだろうか。一瞬そう考えるが……

『おはよう。よく眠れたかしら……?』

聞き覚えのある声が、クローゼットのあたりから聞こえる。恐る恐る、その扉を開ける。

そこには、黒いエナメルのグローブ・ブーツ・ボディスーツと、肌色をした何かが三着分吊るされていた。
肌色の皮はひとりでにうごめき、手を振っていた。


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