わたしの名は、どうでもいいわ。
だってこの身体では、いいことなかったもの。
小さい頃から、グズだの、ブスだの、デブだの言われつづけ、いじめられてきたの。
大学に入ってもそう。   

でもこれからは違うわ。この新しい姿で、わたしを馬鹿にした奴らに復讐をしてやるの。そして、最初の奴は、わたしの隣で何も知らずに眠っている。  

今のわたしは、ヒロスエの姿をしているの。といっても、本物とは違うわ。(あちらが、本物ならね)実は、塔山博士の特別大バーゲンという、インターネットショップで、『リアル・ドール』という、変身アイテムを買って、それを使ってヒロスエに変身したの。  

これは、デジタルカメラで、変身したい人の写真を撮り、それを、『リアル・ドール』といわれる変身アイテムに複写して、その人形の鼻を指で触ると、その人形が人間になり、触った者が人形になるという優れものなの。  

最初は、この商品、1億五千万円だったのだけど、見ているうちに、1万五千円になったから、すぐ買っちゃった。1万五千円でも痛いけど、服を買ったらすぐそれくらいするから。だめもとで、買ってみたの。そうしたら、ほんものだった。

 

 

博士、またへまをやりましたね。

すまん、みんみんくん。ちょっと高すぎたかな〜、と思って安くするつもりが、桁を間違えて・・・

 1万五千円ですか、1億5千万円でも、トントンなのですよ。
わたしが気づいたからよかったけど、もし、一個でも注文が来ていたら、また、大赤字で、大借金王(グレートシャッキング)でしたよ。
また、わたしの、お給料がなくなるところだった。

すまん、みんみんくん。注文が入ってしまっているのだ。2件ほど。

え〜、またわたしの、お給料が遠のいていく〜〜〜。

不幸なみんみん。ジョーカーちゃま。はやく、みんみんをむかえにきて〜。  

そのときは、わしもたのむ〜。  <おまえはええんじゃ。

 

というような、二人の会話など知る由もなく、わたしは、復讐計画を立て始めたの。  

まず最初は、小学校の頃に、わたしを馬鹿にし、給食のときに、『ぶたは、残飯を食え。』といって、自分の嫌いなおかずを、わたしの食器にいれた、あいつよ。  

わたしは、まず、あいつに近づくために、あいつの大好きなヒロスエの、「りある・どーる」を作ることにしたの。

作るからには、より精巧な物を造りたいと考えたわたしは、DVDから、デジタルカメラにデータをダウンロードして、ヒロスエのデータを取り、それを、『リアル・ドール』メイキングマシーンにインストールしたの。   

「りある・どーる」の作り方はいたって簡単。

カメラで撮った映像を、直径9センチ、高さ、18センチの円筒形の、メイキングマシーンに、付属のコードで、送るだけ。もちろん、原料となる人形は入れなければいけないけど、キャンペーン中で、5体プラス1体がサービスでついきたの。

 

 

博士、人形が一体足りませんが?  

いや〜、注文がうれしくて、一体プレゼントしちゃった。  

博士、あれは、一体2百万円するのですよ。
あ〜、また借金が〜〜。じょーかーちゃま〜みんみんの不幸は続くのであった。  

 

ボカッ★

 

いらんナレーション入れている暇があったらさっさと金になる新しい商品を発明せい!   

 

 

二十分もしたら、ただの人型をしたのっぺらぼうなビニル製の人形が、本物そっくりのヒロスエのフィギュアなって、その円筒の中から出てきたの。
これだけでも、安い買い物だと思ったけど、騙されたつもりで、人形の鼻をさわると、一瞬、目の前が、くらんだかと思うと、目の前の人形が膨らみ始めたの。
それもかなりのスピードで。 と思ったのは、わたしの身体もちぢみ始めていたからだったようで、途中で、わたしは、ちぢんでいく自分の体を見ていたの。
それは、不思議な光景だったわ。   

そして、わたしの身体は、7センチ程度の人形になったの。リアルすぎるその人形は、確かに醜かった。
捨てようかと思ったけど、思いとどまって、それをバッグの中に入れたの。  

それから、わたしは、新しいわたしの姿を見るために、寝室の兄弟の前に立ったの。
そこには、スーパーアイドル、ヒロスエが、微笑んで立っていた。
わたしが、手を上げると、彼女も手を上げ、口を開くと、彼女も口を開いたの。
声を出してみると、声も、ヒロスエになっていたの。  

わたしは、こうして、ヒロスエの美貌を手に入れたわ。
そして、わたしの復讐は、これから、幕を開けるの。  

鏡の中の、ヒロスエの顔には薄笑いが浮かんでいた。  

わたしは、早速ターゲットの行動を調べたわ。
醜いとは言っても、ヒロスエほどは目立たないから、元の姿に戻って調べたの。
でも、熱心すぎたのか、わたしが、ターゲットを好きだといううわさが立って、わたしは、こっそりと人気のないところに呼び出され、ぼろぎれのように殴られたわ。見てらっしゃい。
この報いは、きっと払ってもらうから。   
ターゲットのスケジュールを調べ上げたわたしは、チャンスをうかがった。でも、そのチャンスは、すぐにきたわ。   
バイク通学をしているターゲットのバイクをこっそりとパンクさせ、バスで通うようにしたの。そして、彼の通学と途中を、狙ったの。

 

 「ちえ、ついてねえなぁ。バイクはパンク。バスは、ぎゅうぎゅう詰で、ブスな女子高生ばかり。いい女はいないかなぁ。」 

「あ、すみません。そこ、あるかないで。」 

「なんだと、天下の公道、どこ通ろうと、俺の勝手だろうが。」 

「すみません、コンタクトを落としてしまって、あれがないとわたし・・・」

 

  謝りながら、這いつくばるようにしてコンタクトを探していた女が、彼のほうに顔を向けた。  その瞬間、彼の口は、だらんと下がり、うまく閉まらなくなった。 

 

「あう、あう、あ、あ、あんたは、ヒロスエ・・・」 

「ええ、そうです。久しぶりのオフなので、こっそり遊びに出たら、人にぶつかって、コンタクトを落としてしまったのです。」 

「それは、お困りでしょう。俺、いや、ボクが探して差し上げます。」 

 
そういうと、彼は、必死に名って探し始めた。通りがかりの人たちを怒鳴りつけ、探し回った。
見つかるはずもなかった。だって、わたしは、コンタクトなんかしてないもの。  
そろそろいいころあいに、わたしは言った。  

 

「ごめんなさい。目の下にありました。ご迷惑をおかけしてごめんなさい。」 

「い、いえ、そんなことはありません。」  
よほど緊張しているのか、彼は、舌をかみそうになりながら返答した。  

うふ、かかった。  

「でも、お洋服がこんなに汚れてしまいましたわ。よろしかったら、わたしの部屋へお越しください。お礼もしたいですし。」 

「え、ヒロスエさんの部屋へですか。あれ、ヒロスエさんのお住まいは、このあたりでは・・・」 

「ええ、ちがいます。でも、わたしもオフぐらいは、静かに過ごしたいですから。」 

「ああ、プライベートルームって奴ですか。」  
勝手に納得すると、彼はうなずいた。

まずは、第一段階は、OK。
つぎは、いよいよ復讐の開始よ。覚悟なさい。 
何も知らない彼は、浮かれてわたしの後をついてきたわ。

 

  
わたしは、この計画のために借りたウィークリーマンションの一室に彼を誘い込むと、洗濯するからといって彼に服を脱がせ、バスローブを着せたの。洗濯物が乾くまで、時間があるから、彼は、部屋の中をものめずらしそうに見回したの。

 

「これが、ヒロスエさんの部屋ですか。ふ〜ん。」 

「何もないでしょう。」  

「ほんとうになにもないですね。」 

「レポーターにかぎつけられたらうるさいでしょう。だから、いつでも引越しが出来るようにしているの。」 

「そうすねぇ。天下のヒロスエだもの。」  

 

それはそうだ。この計画が済んだら引き払うのだから、家財は、ほとんどない。だが、プライベートルームといったのが聞いたのか、彼は、別段怪しんではいないようだった。単純な男。

 

「どう、ベッドの座り心地は?」 

「ベッド?あ、すみません。ヒロスエさんのベッドに勝手に座って。」  

知っていて、座っているくせによく言うわ。 

 

「ねえ、あなたのお名前は、なんとおっしゃるの。」

 「俺、いや、ボクですか、ボクは、小林敬三です。」 

「敬三さん。ねえ、敬三さんとお呼びしてもいいかしら。」

 「エ、か、か、かまいませんけど、どうしてですか。」 

「あなたみたいな素敵な人と出会えたのは、はじめてだから。」 

「お、俺、いや、ボクが素敵。」 

「ええ、この世界にはいない、優しい方だわ。だから、おねがいがあるの。」 

「な、なんでしょう。」  

「あなたが、わたしを、おんなにして。」 

「え〜〜〜〜。」  

わたしも好き好んで、こんな男としたくはないが、みんな、友達が、自慢する中に入っていけないし、どんな物か興味もあったし、それに、この身体は、人形だからという気持ちもあってだった。 

「だめ。」  

「だめです。ヒロスエさんがそんなことしちゃ。」  

彼は、本気で怒っていた。本当に、ヒロスエがすきなのだろう。そんな彼が、いとおしく思えてきた。 

「でも、この世界にいたら、いつか誰かとしてしまうことになるのよ。それならば、好きな人と最初はしたいわ。」  

そういうと、わたしは、涙を流した。男が涙に弱いというのは本当だった。
ただ、美人の涙だけど。  

「わかりました、それでは、ヒロスエさんの頼みとあらば、俺、がんばります。」  

彼は、盛りのついた犬のようにわたしに襲い掛かってきた。 

 

「ちょ、ちょっと。」   

 

わたしが、躊躇するまもなく。まだ、濡れてもいない蕾に棒を差し込んできた。その痛さに、わたしは暴れたが色情に狂った男の力にはかなわなかった。
だが、しばらくすると、棒の先から白い液体を、わたしの顔から、体全体にドバーッ出して、幸せそうな顔をして、ぐったりとなってしまった。  

 

こうして、わたしの初体験は、何がなんだかわからないうちに終わってしまった。わたしは、こすれてヒリヒリする蕾と、彼のくさい液体を洗い流すために、シャワーを浴びた。

 

綺麗に、洗い流すと、身体を拭き、下着と、服を着ると、バッグから元のわたしの人形を取り出して、眠っている彼に触らせた。すると、彼の身体はちぢみだし、変わりに、元のわたしの身体が膨らみだした。


わたしは、ちぢんだ彼の身体をもつと、玄関のドアへ向かった。これから彼が、わたしの姿でどんな生涯を送るのかは知らないが、わたしにしてきたことを自分でうけるがいい。わたしは、サングラスと帽子を深めに被り、振り返りもせずに、部屋を出て行った。

 

 

 

駅へ向かうと途中で、彼の人形を食堂の裏のごみ置き場に捨てた。彼の人形なんて、何の価値もないからだ。人形を捨て、50メートルも歩いたとき、後で悲鳴が上がった。振り返ると、素っ裸の彼が、四つんばいになって、走り回っていた。野良犬が、ごみをあさりに来た時、彼の人形に触ってしまったのだろう。 

 

これで、彼は、二度ともとには戻れなくなってしまった。こうして、あたしの、最初の復讐は終わった。  

 

 

 

 

そして、新たな第二の復讐が始まる。  

 

 

 

 

 

 

 

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