美佐枝は、研究室でワクチンの完成を急いでいた。
 「こんなバカなウィルスをのさばらせておく事は出来ないわ。」
 国立保健センターのワクチン部門の研究員である佐伯美佐江は、寝食を惜しみ、女性の精神を男性化(おっさん化)するウィルスのワクチンの完成を急いでいた。
ある日突然に猛威を振るい始めたこのウィルス。最初の患者の報告がここに上がってきたのは、かなりこのウィルスが、世界に浸透してからだった。
世界各国の研究者が、このウィルスの正体を掴もうと躍起になったが、成功したという報告は今だなかった。だが、美佐枝は偶然にもこのウィルスを発見し、培養に成功した。そして、ワクチンの完成まで後わずかのところまで来ていた。
「これで、おかしくなった女性たちはもとにもどることが出来るわ。いつもの生活に戻れるのよ。」
『それで、いいの?あなたは。』
「え?」
美佐枝は、自分にささやきかける声に気がついた。
『このウィルスのおかげで、女性らしい人たちが希少価値となり、いままで、男達に相手にされていなかったあなたが、ちやほやされるようになったのよ。そんな生活を失ってもいいの。』
そうなのだ。このウィルスのおかげで、見た目は女らしい美人でも、どうしようもないおっさん女の増加で、見た目はダサくとも、女らしい女性が持てはやされているのだ。
おしとやかで、身体はナイスボディだが、顔がオコゼのような美佐枝は、生まれてからいままで、男に相手にされたことがなかった。だが、最近では、ゆめのまた夢のような男性達からちやほやされだしていたのだ。
『このワクチンが、完成したら、あなたは、元の生活に逆戻りよ。男達に足蹴にされ、馬鹿にされるそんな生活に戻りたいの。』
「いや、ぜったいに、いや。あんな惨めな生活には戻りたくない。今の生活を続けたい。世界中の女がどうなろうとも、わたしがいまのままなら、この生活が維持できるわ。ウフフフ・・・・」
美佐枝は、完成したワクチンを自分に投与した。そして、培養したウィルスや作りかけのワクチンをすべて消去すると、いままでの研究データもすべて消去した。
「これで、ワクチンは出来ないわ。わたしは世界中の男達の女王になるのよ。お〜ほほほ・・・・」
研究資料をすべて消し去ると、美佐枝は高笑いをしながら、研究室を出て行った。だが、彼女は気づいてはいなかった。無意識に、彼女の利き手が、彼女のふくよかな胸をつかんだ事を・・・

 

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