ライアー・ガール・ザ・ムービー

ラサール・石井氏の演出、小池栄子主演で、公開された舞台だったが、今度、映画化されることになった。

そして、TS作品には造詣が深い城科錠二(しろしなじょうじ)監督。おっさんから、女の子になる主人公に人気急上昇のアイドル、稲田紅恵(いなだべにえ)で、製作が開始された。

「だめだ、だめだ、だめだ。そんなんじゃなくて、もっと、激しく掴んで揉むんだ。おっさんが、そんな遠慮した感じで、女の子の胸を揉むか!」

女の子になった主人公が、同僚の女の子と一緒にお風呂に入るシーンで、おもわず、男の本性が出て、女の子の身体を撫で回すシーンだった。

「でも・・・」

「でもも、しかも、あるか!お前もプロだろ。ちゃんと演技しろ!胸が千切れんばかりに揉むんだ」

「そうよ。わたしは大丈夫だから、紅恵ちゃん、もっと強く掴んで」

そう共演者に言われても、そう簡単にできるものではなかった。その日の撮影は、紅恵のNGで、とうとう撮影中止になった。

「おまえなぁ、もっと、おっさんの気持ちを研究しろ。今日は、撮影中止だ。解散、解散」

監督は、そう言うと、撮影現場から去っていってしまった。撮影中止になったスタジオは、後片付けでにわかに騒がしくなった。スタジオを走り回るスタッフに、頭を下げながら詫びる紅恵を誰も、気に留めていなかった。そのときの彼女は、単なる厄介者でしかなく、たびたびの撮りなおしで、くたくたになっていた共演者さえも、近寄り、慰めの言葉をかけることもなく、誰も関わろうとはしなかった。

一人ぽつんと残された紅恵に、声をかけるものがいた。

「おい、そこの」

「は、はい」

みんなから無視されていた紅恵は、やっと声をかけてもらえたことに、よろこびが浮かんだ。

「締めるのだから、早く出てくれよ。これ以上面倒をかけるなよ」

「は、はい」

紅恵の声は、沈んでいった。そして、とぼとぼと、そのスタジオを後にした。

 

居酒屋や、屋台、キャバレー、そんなところに、まだ、16歳になったばかりの箱入り娘だった紅恵が、行ける訳がなかった。大学まであるエスカレーター式のお嬢様学校の高等部で、友達に無理やり誘われて、応募したアイドル募集に、自分だけ合格して、あれよあれよという間のデビュー、そして、初主演作。恵まれているとはいえ、自分から望んだものではなかった。だが、根がまじめな彼女は、どうしたらいいのか、悩んでしまった。

「わたし、どうしたらいいの。どうすれば、監督さんが言うような演技ができるの?」

『簡単だよ。おっさんになればいいんだ』

「だ、誰、今言ったのは?」

『オレだよ。紅恵だよ』

「紅恵は、わたしよ。あなたはだれ?」

『俺も紅恵さ。おっさんのな。そして、今からお前に取って代ってやるよ』

「え?いや〜〜〜〜」

彼女の叫び声を聞いたものはいなかった。それは、もう一人の自分に消されたからだった。彼女は知らなかった。もう一人の自分が、この後、世界を震撼させるあのビールスだとは、そして、清純な彼女は、姿を消した・・・

 

「いい、いいよ、紅恵ちゃん。さいこ〜だよ。」

同僚の女の子の胸を揉みまくる紅恵の表情は,助平な中年のおっさんそのものだった。

「監督、やっぱ、このまま下も触らないとおかしいですぜ。おっさんなら、そうするだろうなぁ」

「そこまですると、映倫が・・・」

「日本アカデミー賞、いや、ベニス映画祭も狙える作品になるのに」

「日本アカデミー?ベニス映画祭?よし、やろう。紅恵ちゃん、いけ〜〜!」

「さすが監督。(グフフフ、扱いやすい単純バカが)」

紅恵は、本気で嫌がる同僚のあそこに手を伸ばして、触り始めた。それは、本能のままに、快楽を求めるおっさんの姿そのものだった。

そして、映画は完成した。

 

そのあまりのいやらしさに映画は上映禁止になり(18禁でも、上映不可能となる)、監督は、未成年者に過激な演技を強要したとして、未成年保護法違反に問われ、映画界を追われる。

紅恵は、おじさんの気持ちのわかるアイドルとして、おじさんたちの間で人気急上昇する。そして、あのビールスの蔓延で、さらに女性層に人気が出て、トップアイドルとなり、今日に至る。

「よぉ!紅恵だ。みんな、やってるか〜〜」

 

 

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