メーク用の周りに照明がついた鏡に振るいつきたくなるような美少女が映っていた。
「イ〜。べ〜〜。うっふん。」
彼女は、鏡に向かって百面相をしていた。どんな表情をしても彼女は可愛かった。
「なあ、おっさん。俺とやりたいのか。俺は、男に興味ないねん。すまんな、ほかいってんか。」
顔にあった可愛い声でささやくその言葉に、驚かされる。これもあのウィルスのせいなのだろうか。
その言葉を口にした美少女の顔に失望した表情が浮かんでいた。
「だめだ。やっぱりこれでは、やる気が出ない。」
そのとき、彼女から出た声は、若い男の声だった。彼女は、胸元に手をかけると、そこの皮をめくり、指を差し込むと、めくり始めた。
「べり、べり、べり。」
徐々にその皮が捲れだし、その下から現れたのは、端正な顔をした若い男の顔だった。
「これじゃ、もう続ける気力がない。」
そういうと。はがした顔の皮を鏡の前に放り出すと、立ち上がって、ドアのほうに力なく、肩を落して歩いていった。
鏡の周りには、さまざまな年齢の美女たちの生首?いや、よく出来たマスクが飾ってあった。それらの目もくれずドアの横のスイッチを切ると、静かにドアを開けて、部屋を出て行った。

数日後、警視庁総監宛に、一通の電子メールが届いた。
『前略。警視総監殿。
 あなたの部下たちをいたぶっていた怪人フェイスオフです。今回のウィルスのせいで、変装する気力を失い、引退することにしました。
 いろいろとお騒がせいたしまして申し訳ございませんでした。もう2度と現れません。それでは、お体にお気をつけて、無事職務遂行されることを影ながらお祈りいたしております。
                                     怪人フェイスオフ』

変装の天才で、女装に関しては、本物以上に本物で見破ることは不可能といわれた怪人の最後だった。

 

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