或る晴れた土曜日の午後。男性厳禁のお嬢様学校として有名な女子高の生徒達が、ファミレスのテーブルに坐っていた。
どの子も可愛く品があって名家のお嬢様といった感じだった。
長い髪を肩までたらした清楚な感じの美少女がコーラを飲みながらつまらなそうに言った。
「あの、生物の多田な。英語のキャシーと出来てるらしいぞ。」
「え、あのホルスタインバストのキャシーとか。多田の奴。黙ってると人形みたいだから、外国人受けするんだよな。」
前髪と首筋のあたりで髪を切りそろえた美少女が、その愛らしい唇から似つかわしくない言葉を発していた。
「でもよ。キャシーは、2年G組の北原と出来てるって話だぞ。」
長い後ろ髪をリボンで縛った美少女が、意外そうに付け加えた。
「あいつらなにやってんだかな。」
三つ網にした髪を両肩からたらしたメガネの美少女が、うらやましそうに言いながら、テーブルのホットサンドを手にとった。
「おまえら、いいのか。こんなところでくだまいててよ。センコーに見つかるとやばいんだろう。」
お冷を注ぎに来たウェイトレスが、ぞんざいな口調で、テーブルに坐った美少女達にいった。
「いいんだよ。センコーは、がっこが終わるとさっさとどこかに行っちまったから。それよりおねえさん。いい身体してるね。」
清楚な外見をした美少女が、なめまわすようにウェイトレスの身体を見ていた。それはまるで、キャバレーに行った時のオヤジの視線だった。
「おめえもなかなかじゃねえか。どうだい、今晩あたり・・・」
「いいね。おねえさんの携帯は・・・」
ふたりの会話は弾んでいた。
「まったくよ。発病以来、真子の淫乱さには、ほとほとあきれるぜ。」
「そういう由紀もけっこうやってるそうだな。」
「お前ほどじゃないよ。朋絵。」
真子と呼ばれた清楚な美少女は、ウェイトレスの番号を自分の携帯に入れていた。由紀と呼ばれたリボンの美少女はそれを覗き込んでいた。朋絵と呼ばれた三つ網の美少女は隣に座るおかっぱの美少女に肩をすくめて見せていた。
「まったく、こいつらと来た日には・・・ところで、めぐみは、俺達の中で一番最初に発病したのに浮いた話はあまりきかねえな。」
「こいつは、隠すのがうまいんだよ。なあ、メグ。」
由紀は、わたしに、ウインクした。そう、わたしは、隠すのがうまい。今も、彼女達に隠している。私が、発病していない事を・・・
あれは、3週間前だった。女性が男性化する奇病が流行りだしたことを知ったのは。気弱ではきはきと物をいえなかったわたしは、自分を変えたくてこの奇病にかかったふりをした。そのときには、この病気をしんじていなかったのだ。
ぞんざいな男言葉。荒々しい立ち振る舞い。すべてが新鮮で、楽しかった。
ところが、それから4日後、清楚で、女らしかった真子の様子が変わった。それは、体育の時間だった。
更衣室で着替えをしているときに、真子の様子が突然おかしくなった。よだれをたらさんばかりに、クラスメートを見つめる目。彼女はハット、そんな自分に気がつくと、更衣室を飛び出してしまった。
それから、3日間、彼女は学校を休み、出てきたときには、以前の彼女ではなかった。外見はそのままに、彼女の言動や行動は変わってしまった。
「めぐみ。いいなあ、女は。俺は気に入ったぜ。いまのおれがさ。先輩よろしく頼むぜ。」
わたしに近寄ってきてそうささやいた真子の言葉に、わたしは背筋が凍る思いがした。
それからだった。木陰で読書を楽しむのが日課だった朋絵が、更衣室の覗きや、用もないのにトイレのあたりをうろついたり、男の人には近寄る事も出来なかった由紀が、街のやくざと喧嘩して相手を半殺しの目に合わせたりしだしたのは・・・
わたしの学校は女子高だったので、彼女達は、全校生徒のアイドルであり、恐怖の的となった。教師にも感染者が広がっていて、彼女達と関係を結ぶものもではじめた。この学校で最初に発病した(ことになっている)わたしは、そんな彼女達のシンボルとなり、カリスマ的存在になった。
全校生徒と教師の1/6が、発病したのに、わたしはまだ、発病する気配さえなかった。この病気が広がっていくのに取り残されたわたしはどうなるのだろうか。
そんな一抹の不安が、男性化の進むクラスメート達に囲まれながら日に日に大きくなっていった。
もし、発病していない事がばれたら、わたしは・・・・

 

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