こちらTS電機(中編)
作 うさ吉
(前編のあらすじ)
ある夜、飲み会の後で俺は不思議なパチンコ屋へ入った。住宅街にあるやけに“質素”なつくりの小さな店だった。
入ってみると狭いフロアーに大きな景品交換場。そしてそこに置いてあったものは・・・。化粧品にアクセサリー。スカートにブラジャーに生理用品。目に付くものは全て女性用のものだった。それに本でしか見たことの無いようなSM製品やかつらなどわけがわからない。
店内は少人数ながら熱気が渦巻いていた。そんな中でプレイをはじめ、やっと引いた当たりは確率変動。喜びの中終了しトイレに行くと・・・何と俺の大切な息子はどこかへ姿を消し、替わりに俺の股間にあったものは女性のアソコだった!!
一体俺の身体はどうしたのだろう? 俺は元に戻れるのか、それとも・・・・。
(1)再プレイ
トイレから帰り席に着くと、俺は再びプレイを始めた。
「ああ、そうだったのか・・・」
座ってみて俺は先ほど感じた違和感=座り心地の悪さの原因がわかった。今の俺の下半身は若菜ちゃんになっているから、男だったときに比べて尻は大きく丸くなっているし、足は細くなったが代わりに脂肪の割合いが増え、座ると股の付け根がペタッとくっつくほど肉付きが良くなっていた。この違いが違和感を生んだのだ。
それに店内で感じた違和感=アンバランスな女が多いことの原因がわかった。多分この店にいる女たちは皆俺と同じ男なんだ。そして、同じように女の誰かをモデルとして選びその女になれるように頑張ってプレイしているんだ。声・顔・胸・腰・足などがバラバラなのも変身途中だったからなんだ。
「しかし・・・・今の俺もそうだけど・・・・途中でだけは終わりたくないよなぁ。どうみてもエイリアンだぜあれは・・・・」
視線の先にいるのはさっき大当たりした女の人。この人はいい。テレビで見たことのある・・・でも名前はわからないけど女優さんと同じ顔だし、スタイルだって女だし、声だってさっき女になったし・・・。
許せないのはその先にいる“女らしきもの”だ。顔はひげそり跡がはっきりと青い男顔。胸は大きく膨らんでいるし腰も女なのか大きいけど、スカートから出ている足は、ストッキングで隠してはいるもののしっかりとすね毛の生えた男足だ。あれはどうひいき目に見てもオカマでしかない。間違っちゃいけないぞ。ニューハーフのお姉さんではなくオカマ野郎だ。俺の範疇では、美しくないオカマに生存権はないのだ。
だが、今の俺はといえば・・・・下半身だけ女で後は男のまま。つまり、あのオカマ野郎と大差ない状況だ! これはいただけない!! 何とかうまく変身しなければやばいぞ!!!
「よいしょっと。でもこれはこれでいいよな。尻が大きくなった分すっぽりと包み込まれるみたいで安定するし、肉が多いから長く座っても痛くならないんじゃないかな? それに、今までは足を組むと横の人にぶつかったりしてやりにくかったけど、この足だったらきれいに足が組めてなんかかっこいいじゃん」
実際、足を組んで座ると男だった時よりもきれいに安定して座れた。膝から下なんか、両足のふくらはぎがぴったりと2本並んでいてホント“女みたい”だった。
「ようし、どうせなら全身で若菜ちゃんになるぞ」
俺は意気込んでプレイを再開した。りっぱな若菜ちゃんになれるか、それとも100%元に戻れるか。いずれにしても大当たりを引いて変身しなければならないのだ!!
しかし、100回ほど回したがあまりいい目が出なかった。先ほど3連チャンしたせいか俺の台は休止期間に入ったようだった。スーパーリーチはこないし、きたと思えば普通絵柄のリーチばかりだし・・・。
「ふう〜。やすむかなぁ〜」
こういう時は台を休ませるに限る。過去の経験で言えば、休ませることによってリズムが変わり当たることが多いのだ。逆に、何に乗っているときは不調になる場合が多いのだ。
(2)悪魔が来たりて笛を吹く
「あ〜、ちくしょ〜!! 何で出ねえんだ〜!!」
「ほらあ、来い! 来い!! 来い!!! あ〜、ばっかやろう!! ふざけるなこの野郎。俺がどのくらい使ったと思っているんだ。いいかげんに出やがれ、このクソ台め。出ねえとぶっ壊すぞ!!」
大きな声がしたかと思うと同時に、さっきのオカマ野郎の方からガンガンと台を叩く音がした。どこにでもいるマナーの悪いやつというものだ。出ないのは仕方ないのに台のせいにして叩きだす迷惑野郎だ。叩けば出るんだったら世話無いが、世の中そんなに甘くない。おまえは猿か? 少しは静かにしろって言うんだ!
「ダーンダーンダダーン。キュ〜、キュ〜、キュ〜」
オカマ野郎の打っていた台から急に変な音がして画面が真っ暗になった。よく見ると画面には二つの大きな目のようなものが映っていた。なにか気味の悪い目で・・・・そう、映画などで見た悪魔の目のようだった。
「ヒ〜〜〜〜〜〜!! 助けて〜〜〜!!」
オカマ野郎は情けない声を出すと席を立って台から逃げようとした・・・が、腰が張り付いたようになり、いくらもがいても立てないようだった。
すると、ヤツの台は普通に回り出し・・・ついに絵柄が揃った!! あれは数字じゃないから確率変動だ。
「おお、いなあ〜。確変じゃん。叩いて出るんなら俺も叩こうかなあ〜」
「かわいそうに・・・・」
俺が言うのと同時に、女声をゲットしたお姉さんがつぶやいた。何がかわいそうなんだろう?だって、大当たりしてるのに・・・その上確変なのに・・・・。
その答えはすぐにやってきた。俺の目の前で展開された光景は・・・地獄以外の何者でもない。そう・・・悪魔がやってきたのだった。
「た、助けてくれ〜!!」
オカマ野郎が情けない声で叫んでいる。だが、体が椅子に吸い付いているかのように、逃げるどころか席を立つことさえできない。
画面上ではロングリーチが終わりいよいよ絵柄がそろった。顔だったが・・・?
「あれ?」
普通は、アイドルとか女優みたいな可愛い子とかきれいなお姉ちゃんを選ぶものだと思うのだが、なぜが画面上には西洋の魔女みたいな、やせた醜悪なババアの顔が揃っていた。見ていると、オカマ野郎の顔も輪郭が崩れたかと思うと一回り小さくなり、だんだんしわが寄ったババアの顔になっていった。
「ヒィィィィ〜〜〜〜!!」
叫ぶ声も、いつしかしわがれたババアのものになっていた。
大当たりが終わったかと思うと、保留玉の1つ目でまたリーチが掛かった。また確変だった。胸リーチだ。
「おお〜〜。ダブルだ。いいなあ〜」
俺が言うと、お姉さんが
「良くないわよ。見ててご覧なさい。悲惨なことになるから・・・・」
と言ってきた。
『確変でダブルを引いたのに?』
何のことを言っているのかわからなかったが、このあと直ぐにお姉さんの言っていることが現実のこととしてわかってしまった。
「あれぇ? リーチ絵柄が変わってる?」
さっき見たときは巨乳というほどではないが、それなりの大きさで形はお椀型にきれいに発達したおっぱいだったのに、今画面を見ると・・・・
「あれって・・・・? 何で?」
画面に映る胸は・・・女のといえばそうなのだが、決して先ほどまでの胸ではなく、見たことはないが、どう見ても60歳過ぎ・・・というか70歳過ぎというか・・・。テレビのバラエティー番組のギャグで使うようなシワシワの干しスルメイカのような逆三角形の胸だった。
「あのう・・・あれってさっきまではきれいな巨乳だったですよね・・・?」
「そうよ。さっきまではね・・・」
お姉さんは、この後地獄モードについて話をしてくれた。
「この地獄モードにはいるとね、一応当たり自体はどんどんくるのよ。ただ、リーチの段階では普通のリーチなんだけど、ロングリーチの途中で変わっちゃうのよね・・・どぎついババアリーチにね。中年のババアの時もあればあの人みたいにしわくちゃなババア時もあるんだけど、台を叩いたりして、警告から地獄モードにはいると必ずしわくちゃババアモードになるみたいよ。あの人みたいにね」
といって、逃れようと悪あがきをしている男をあごで指した。
「一番悲惨なのはミックスモードで、この間見た人なんか、顔がしわくちゃで体はデブババアで下半身は年より過ぎて歩けなくて車いすで帰ったわよ。あんなクリーチャーみたいになったらあたしなら自殺してるわ」
「それにね。当たりはくるっていったけど、その当たりって言うのが15Rじゃなくって10Rなのよね。だから5回当たったって6000〜7000発の出玉しかないし、その日は強制終了させられちゃうからその姿で帰るしかないのよ。あの男・・・一体どんな姿で帰ることになるのかしら・・・」
そう言って説明している間にも大当たりは続いていた。顔は魔女顔のババアで胸は多分スルメ胸。スカートから伸びる足もやけに細くてストッキングがたるんでいるようだった。おそらくは年寄りの痩せたババア足になっているのだろう。
結局大当たりは6回で終了した。台の前で騒ぎすぎて疲れたのか、しわくちゃババアに変身してしまったオカマ野郎がぐったりとしてもたれかかっていた。
係員の女の子が3人来て、4箱弱しかない玉と哀れなオカマ野郎・・・いや、魔女ババアをカウンターへ連れて行った。引っ捕らえられた下手人のようなババアの背中がとても小さく見えた。
玉の計測を終えると、やっと一人でたてるようになったババアが景品場に入っていった。サイズの合わなくなったスカートを手で押さえながら・・・。たぶんババア用の洋服を探しに行くのだろう。そして着替えた後は、みすぼらしい醜いババアとして帰っていくのだ・・・。
少し恐怖を感じながらも、せっかく若菜ちゃんの腰とアソコを手に入れたのだから、半端な形で終わるのではなく、『俺は絶対に若菜ちゃんになってやる!』という気合いで再び打ち始めた。
(3)大当たり
中断するまでは3箱あったが、今はスカートとサンダルを交換したので1箱と半分だけ手元に残っていた。閉店時間の12時までに、何とかこれを5箱くらいまで伸ばして全身が若菜ちゃんになりたいものだ。
デモ画面になるまで待ってから打ち始めると、回りも結構いいし出目もなかなかのもので、50回まわる間に5回もリーチが来て、そのうちの3回はスーパーに発展した。
「なんかいい調子だぞ〜!」
このTS電機はどうだかしらないが、いろいろいう人もいるが、俺としてはデジタル機は確率の世界だとは言っても大当たりの前には“それらしい”出目が来ると思っている。その基準で行くと、今のこの出目だと・・・そろそろ大当たりが・・・・・・
「来た、来た、来た、来た、来た〜!!」
画面では胸がアップになり、お姉さんが鏡の前でブラジャーの上から胸を揉んでいる光景が映し出されていた。
「も、揉んでるぞ〜〜〜〜」
いつもなら萌えてギンギンになるはずが、勃つはずのものがなくなったおかげで、代わりにどこからか水分が出てきて潤って・・・つまり、うっすらと濡れてきた!
そして画面は発展し、ブラジャーのホックに手がかかり・・・ブラが外されて・・・左手一本でそれを押さえ・・・・・・
「うおおおお〜〜〜〜、やった〜〜。外れた〜〜〜〜〜!!」
ついにブラは下に落ち、お姉さんの胸がアップになった!!大当たりだ!!
「ああ、持ち上げてるよぅ〜。摘んでるよぅ〜〜。揉んでるよぅ〜〜〜!!」
画面の中ではお姉さんがはじめは鏡で見ていただけだったのが、手の平で撫でたり、下に手を添えて持ち上げてみたり。かと思うと乳首を指の先でこすってみたり摘んでみたり。最後には両手を添えてパイズリのような格好をしたり両手で揉みしだいたりしだした。
「うっう〜ん」
「ハア、ハア、ハア」
「ああ〜ん」
それに合わせて悩ましい声が響き渡る。
「やったわね。これで胸も女の子になれたわね」
「えっ?」
画面に夢中だったから気が付かなかったけど、始めは乳首が服を突き上げる感じでぶつかって・・・違和感?がでてきて・・・・。ラウンドが進むにつれて、胸全体がムズムズしてきて、10ラウンドを越える頃には見た目にもわかるほど胸に膨らみができてきた。そして15ラウンドが終わると、若菜ちゃんのような巨乳ではなかったが、はっきりとした女性の“バスト”が俺の胸についていた。
「一体誰の胸になったの?」
「えっ? 誰のって・・・?」
「あなたが選んだ女の子って酒井若菜ちゃんでしょ。でも、その胸の大きさじゅあ・・・足りないんじゃない? 大当たりの画面に名前が出ていたと思うんだけど・・・見なかった?」
「名前? 見てません・・・あっ! そう言えば・・・右下のところに・・・何か名前が書いてあったような・・・」
「そしたらね、ハンドルの付け根のところの上にある・・・そうそう、そのボタンを押してみて」
言われるままにボタンを押すと、画面の右下に“ともさかりえ”と表示された。
「あらあ、“ともさか”なんだ。結構良いじゃない。でも、“ともさか”って痩せているから、若菜ちゃんが理想だったら物足りないわね」
「・・・・・・・」
服の上からだけど、できたばかりの胸を触ってみる。確かに男だったときよりは柔らかいけど、AVのように揉みしだくというのはむりで、上から撫でるのがやっとなくらい小さな膨らみだった。
「ブラジャーでもすれば“寄せて上げて”胸はできるんだろうけど・・・でも、触り心地は良くないけど、触られるのって気持ちいいもんだなあ〜」
撫でられている胸からはちょっとゾクッとくるような全体としては少しこそばゆいような、でも決して嫌な感じじゃなくって心が落ち着いてうっとりするような・・・とにかく男だったときにはわからなかった不思議な安心感があった。
「触るのもいいけど、あなた乳首が起ってるわよ」
「えっ?」
エッチな気分が高まっていたというわけでもないんだけど、乳首が固くなって服の上からでもはっきりとわかるようになっていた。
「ああ、べ、別にエッチな気分って訳じゃあ・・・・」
「わかってるわよ。あたしだって胸あるもの。そうなのよねぇ。女って感じる感じないとかじゃなくって起つことがあるのよね。男だったときにはわからなかったけど」
「でも、エッチかどうかは別にして、胸の大きさが決まったらブラはつけないとね。つけないと乳首が服に擦れて変な感じだし、走ったりしたら痛くって仕方ないわよ・・・まあ、“ともさか”の胸ならそんなに痛くはないかもしれないけど・・・」
「あっ、はい」
お姉さんのアドバイスの通り、とりあえずは触るのをやめるだけで、ブラジャーについては後でつけることにした。尻はパンティーが結構伸びるのでいいけど、胸はその大きさによってカップは違うしアンダーとかいうのも違って、また違うものでは全く役に立たないとかで今しばらくは様子を見た方がいいからだ。
起ってしまった乳首がちょっと気になるけど、気を取り直して再びプレイを再開した。
すると、一息ついたのが良かったのか、流れが変わってやけにリーチが頻発するようになり、50回転もすると足リーチが“網タイツ”リーチ発展し、それが1本ずつ足を通したかと思うとまた脱いでの焦らしリーチになり、そしてついに2回目の足での確変大当たりとなった。
「よしきた! 足をゲットしたぞ!」
「今度は誰の足?」
隣のお姉さんが聞いてきた。
「えっ? 誰のって・・・あっ、また“ともさかりえ”だ」
「このままで行くと“ともさか”になりそうね」
確かに、腰というかアソコは若菜ちゃんだけど、足も胸も“ともさか”になるってことは・・・確率的にはというか、外見的には“ともさか”に近づいているようだ。このままの流れで行けば・・・もし顔が“ともさか”になれば、アソコが誰だろうと決定的に誰が見ても“ともさかりえ”ということになる。
「いかん、俺は若菜ちゃんになるんだ! 何としても流れを変えて若菜ちゃんモードにしなければ!!」
決心している間に画面ではOLのお姉さんの勃起もののエロチックな着替えも終わり(というか、どう見てもあれはオナニーな気がする。だって、網タイツを脱ぐときも履き替えるときも片方の足を伸ばして、両手の指先で“ツーッ”となぞってみたり、履いた後の調節では右手の中指が股間の溝を何回も撫でていたし・・・鼻血ものだったもの・・・)、保留玉での回転に移った。
と思ったら〜〜! 保留玉で今度は2のリーチがきた。
(当たるな! 当たるな! 当たるな!〜〜〜〜)
『胸・・・足・・・1・・・2!!』
「当たっちゃった〜〜〜トホホホ・・・・・・・・・???」
「おお〜〜〜???」
2で当たったと思ったら数字が一斉に動き出し、『足』の絵柄で止まった。再変動で確変をゲットしたのだ。
「やった〜。また確変だ〜」
でも、胸や腰と違って足の感じは一向に変わらない。ということは、始めの当たりの時も“ともさかりえ”の足だったと言うことか・・・。
「あら、また足? でもそうなのよね〜。欲しい部分ってなかなか出ないのよね」
「平気ですよ。だって確変だから次もあるし、何か流れも上向きっぽいからきっと出ますよ」
「そうね。期待するしかないわね。あたしも見ていたいけど、こっちはどうやらはまり始めたみたいだし、“優香”の声もゲットできたし・・・本当はもっと色っぽい“紀香”の声が欲しかったんだけどね・・・潮時だから終わりにするわ。じゃあ頑張ってね。お先に」
「どうもいろいろありがとうございました。今度また・・・俺もどんな女の子になってるかわかりませんけど、お会いできたらよろしくお願いします」
「ええいいわ。この姿に飽きたらどうせまたやりに来るからね。じゃあね」
親切なお姉さんは帰っていった。
するとどうだろう。終了してわずか28回転目でまたスーパーリーチがきた。だけど今度もまた4で普通絵柄だった。
「確変になれ・・・確変になれ・・・・・・・」
願いもむなしくそのまま4で当たり再変動もなかった。15ラウンドが終わると、手元には4箱半の玉が残っていた。
「よし、まだまだいけるぞ」
の『はず』だった。
ところがこの後ぱったりと当たりがこなくなってしまった。いいリーチは来るものの、大当たりにはならず、手持ちの玉も3箱になり・・・2箱になり・・・1箱半になり・・・。
そして、いつの間にか時間は過ぎ、店内には“蛍の光”が流れ出した。
「お客様。閉店時間ですので計数をお願いします」
トイレで世話になったお姉さんが来てそう言った。仕方がないので計数すると、残っていたのは2947発だった。
景品交換場に行ってブラジャーを選ぼうとしたが、そもそもするのも初めてだし、アンダーとかトップとかカップとか知らないし、色やデザインもいろいろあるし・・・目移りするばっかりで何がいいか全然わからなかったので、例のお姉さんに相談することにした。
「そうねえ・・・“ともさか”だったらやせ形だから・・・。それに、初めてだし・・・顔は男のままなんだから派手過ぎる・・・ねえ〜・・・。こんなのでどうかしら?」
お姉さんが選んでくれたのが65Bというやつの薄いピンク色のものだった。刺繍やら花柄やらが入っていて、可愛いらしすぎて思わず赤面する等なものだった。
「ちょっと可愛いらし過ぎませんか?」
「あらあ、これくらいでちょうどいいわよ。中学生じゃないんだから真っ白っていうのもなんだし、これじゃあ恥ずかしいでしょ」
お姉さんが手に取ったのは、フリルみたいな刺繍が全面に施されたカップの小さい真っ赤なものだった。
「これはちょっと・・・派手過ぎると思うんですけど・・・」
「でしょう。だからこれくらいがいいのよ。若いんだからこれくらいの方がいいわよ」
「そうですか・・・ねぇ・・・」
「そうよ。それに、あなたまだ顔が男のままだからその格好じゃあ帰れないんじゃない?」
「ああ!!」
自分の姿を鏡に映すと、そこに移っているのはまさにオカマだった。ひげが少し伸びた顔に男物のシャツと少しふくらんだ胸。スカートから伸びる足は素足でサンダル履き。なんとアンバランスなオカマだろう。
「オカマだ・・・」
「でしょう。だから・・・その玉数だったら・・・このブラとシャツと・・・このウィッグがいいわね」
お姉さんが選んだのはボブカットっぽい前髪が眉まで来るものだった。
「これだったら下を向いていれば大丈夫なんじゃない? それと・・・化粧品は・・・」
「(ぶんぶんぶん)」
「そうよねぇ。持ってないわよね。そしたら、玉もないから・・・このファンデーションと口紅でいいわね。本当はいろいろ揃えたいところだけど仕方ないものね」
「今はいいけど、今度来るときは髭をしっかり剃ってからこのファンデをはたいて、口紅を唇のラインに合わせてひいてきてね」
いわれるままに景品をかごに入れレシートと交換した。
その後トイレでブラジャーをつけシャツに着替えると、首から下はりっぱな女ができあがっていた。
「あれぇ???」
お姉さんが選んでくれたブラジャーは、ぴったりしていていいんだけど、カップが余ってなんかおかしかった。
「あのう、さっきのブラジャーなんですけど、サイズが合ってないようなんですけど・・・」
「え? そうだった? おかしいなあ・・・ゆるいのきついの?」
「カップが余っちゃて・・・」
「ああ、カップね。ウフフ! 直してあげるからこっちに来て」
景品置き場にある試着室のカーテンの中に行くと、お姉さんは俺のシャツを首まで上げるように言った。
「いい。ブラをつけたら、必ずこういう風に調節をするのよ」
「ああん!!」
そういうとお姉さんは俺のブラジャーの左のカップに手を直接入れて背中の方へ手を回し、ぐいぐいと肉を前に集め始めた。
「あ、あ〜〜ん!!」
「静かにして。 別にいやらしい気持ちでしているんじゃないんだから。 人が聞いたら変に思うでしょ」
「あ、すいません」
「まあいいわ。初めてだものね・・・・。でね、男は脂肪が少ないし固いからわからないんだけど、女ってすっごく脂肪が多いし、それに柔らかいからある程度こうやると・・・移動して・・・こうなるのよ!」
「おおおお〜〜〜〜」
さっきまで透き間の空いていたブラジャーが、何と左の方は胸でいっぱいになり大きく盛り上がっていた。
「ね、すごいでしょ。で、こっちもこうすると・・・」
「わあ〜、谷間だ!!」
「ね、これが男がだまされる谷間の秘密よ」
何と! 俺の胸には谷間がくっきりできているではないか!! 確かにグラビアアイドルのように大きな谷間ではないが、それでもはっきりと谷間とわかるくらいの胸になっていた。
「あなたは痩せているから1サイズくらいしか大きくならないけど、普通の女なら2サイズは大きくなるわよ。太っている人だったら確実に3サイズは大きくなるわね」
「(2・3サイズということは、Bカップの人はDかEサイズになるっていうことか・・・)だから写真で見るとみんな谷間があるんだ」
「それに、このブラなんか、ここにシリコンが入っているから、脂肪の少ない人でもアップするのよ」
お姉さんの話では、カップの中にシリコンや水や空気の入った袋が装着できる“上げ底”タイプのものまであるという。
「サギみたいですね・・・」
「みたいじゃなくってサギなのよ。でも、もともと化粧自体がサギでしょ」
「・・・。でもこれって・・・わからないかも・・・」
じっくり触れば、触れた後指が沈む感じが硬めなのでニセモノとわかるけど、服の上から、それも男が触るみたいに“揉んで”しまうとほとんどわからなかった。
その後お姉さんに女性の“ごまかし”についての講義を聴いた後、ついでに軽く化粧もしてもらい、ウィッグをかぶって帰路についた。もう12時をまわっていた。
(4)帰宅
アパートまでの道は、ただでさえ静かな住宅街なのに加え深夜ということもあり、人通りもなく実に寂しいものだった。
『アオ〜〜〜〜ン』
「ビクッ! なんだ・・・犬か・・・・・・?」
「あれ? なんでこんなにビクビクしているんだろ? いつもの道なのに・・・?」
そう。通い慣れた道だし、深夜に通ることだって珍しいことじゃないのに何で今日はこんなに怖いんだろう? 神経が研ぎ澄まされていて、ちょっとの物音や動物の声、風の音など普段なら気にしないいろいろなものが気になって仕方ない。
「やっぱり女装しているからかな?」
遠目には全く男性だとはわかるはずがなかった。腰回りは“若菜ちゃん”で足と胸は“ともさか”、残りは男のままというお化けに近い合成人間だったけど、カツラもかぶっているし、服もサンダルも女性ものだし・・・。どう見ても女性のはずだった。それに今は見破るはずの人影もない・・・。なのになぜ・・・?
「もしかして・・・体が女になってきたからかなあ??」
男の時には感じない暗闇に対する潜在的な恐怖、一人で歩くことへの孤独感・・・女性化し始めた俺はそれを感じているのかもしれなかった。
「それにしても冷えるなあ〜」
店内では感じなかったけど、外を歩くと風の冷たさを強く感じた。スカートから出る足の間を通る風はやけに涼しくて・・・歩くたびに翻るスカートの裾と相まってとても心細い寂しいものだった。
それに普通に歩こうとすると裾がまくれるし絡みつくし、サンダルのかかとが高いからつんのめる感じで大きく足が出せないし・・・それに歩こうとすると意識していないの内股気味になっている。そしてつい俯き加減で小股で歩いていた。
「そうかあ。だから女って小股で歩いていたんだ・・・」
とはじめて知った。
『コツッ! コツッ! コツッ!』
「!?」
後ろから足音が聞こえた。それがやけに闇に響いて・・・ゾクッとするような恐怖となって俺の心に入り込んできた。
「(何だ? 俺・・・恐いのか?)」
理由なんかわからない。とにかく恐かった。足音からして男らしかったが、靴音がだんだん俺に近づいてくるのがわかる。恐い。恐い。恐い。
「(急がなきゃ!!)」
俺はスカートが絡みつくのも気にせず、できるだけ大股で急いで歩き出した。それでもゆっくりと出はあるが足音が近づいてくる!
「(どうしよう・・・・恐いよう〜〜〜!!)」
いつの間にか足音は俺と道を挟んで同じ所まで来た。俯いた俺を男がちらっと見て追い抜いていったのがわかる。俺がスピードを落として男を先に行かせると、男はどんどん遠ざかっていった。
「ふう〜〜〜。同じ方向だっただけなんだ・・・でも、何であんなに恐かったんだろう?」
女としての恐怖。理由なんか無い、原始的な恐怖。はじめてそれを知った夜だった。
<あとがき>
みなさんお久しぶりです。うさ吉でございます。
予定より一月遅れでの完成となりました。実は、また悪い癖が出まして、別の作品を書き始めてしまったもので・・・更に、今回で終わるはずが次回終了とまたのびてしまい重ね重ねすいません。後編は忘れられないうちに書きたいと思いますのでお許しください。
さて、今回の内容はパチンコ中毒のため萌え所がすくなく、その他の部分が多くなってしまい、パチ好きでない方には読み苦しい点が多かったと思います。簡単にすませてHシーンを多くしていこうとしたのですが、どうしても趣味にはしってしまい・・・でもそちらも臨場感が出ないし・・・と自分でもどうしようもなく深みにはまっていました。ですが次回の後編では、すっきりと萌えていただけるように萌えどころを入れますのでご期待ください。
違う作品が間に入ると思いますので、とりあえず次回作でお会いしましょう! ということで・・・・。これからもどうぞご愛読ください。
・拙い文章ではありますが、著作権は私にあるようですので、転載等されるときは必ずご相談下さい。
・また、作品についてのご意見ご感想等を是非ともお寄せ下さい。参考にさせていただき、少しでも良い作品として生かしていきたいと思います。宛先は以下の通りです。