「生徒会長」

作:月夜眠




(うう、まいったなあ、クラブの予算1万円も減額されちまったよー)

 今日は俺の通う高校の生徒会と、各体育系クラブの年間予算交渉。テニス部の俺、森田は部長の代理として、部費の折衝に行ったんだけど、結局1万円ダウンの55,000円。部長からは70,000以上取って来いって言われたのに。それにしてもさ!

「なんで、対外試合そこそこのうちが10,000円ダウンでさ、最近負けてばっかりの柔道部とかラグビー部が50,000円近くもUPするんだよ。汚ぇよなあ、今の生徒会長は代理だけど奴等との仲いいもんなあ」

 どういう訳か最近、生徒会長になった生徒が次々病気とかになって、今、元体育会会長が生徒会長兼任してるけど、えこひいき激しい。

 明日部長へのいい訳考えながらとぼとぼと部室へ戻る俺。放課後の部費交渉が長引き、3月も半ばの夜の7時は結構空も暗い。と、俺の前に以前から噂になってる1本の柳の木が見えてきた。流石に夜見る柳って気持悪い。それにさ、

「最近、夜あそこに変な爺さんの幽霊が出るって噂だし…」

 その木の下で、最近俺達の周りで不気味にぼーっと光る手招きする爺さんが何人かに目撃されているらしい。

「嫌だなあ、こんな夜は早めに家に戻ってプレステ2のレーシングゲームでも…って、うわあああああああ!」

(ぼーーー)

 小走りにその木の横を走り抜けようとした俺の目の前に現れた青白く光る霧、それがみるみる老人の姿に変わっていく。

「お、俺は関係ない!関係ない!!」

 ちょっと腰が抜け、ふらつく足取りで俺はその場から逃げようとしたが、足が言う事を聞かない。

「や、やべー!!」

 とうとうその場に倒れつつも、俺はまだ自由の利く手を使い逃げようとした。必死でその場からばたばたと逃げ様とした。がその時!

「そこの少年、森田正樹!大分悩んでいる様子じゃの」

 てっきり呪いの言葉でもかけられるかとびくびくしていた俺の耳に、はっきりそのか細い声は聞こえた。

(な、なんだこの幽霊は??なんで俺の名を)

 怯えつつもその声の主の方へ向き直る俺に、その幽霊らしき者は話を続けた。

「恐がらんでも良い。ワシはこの学校の守り神じゃ。ここの事なら何でも判るぞい。最近ここの生徒会の様子がおかしいので、いてもたってもいられず、こうして出てきたのじゃ…」

「ま、守り神ィ!?」

 まだ信じられないという俺に向い、そいつは尚も話を続ける。

「聞くところによると、一部の人間が何か悪さしとる様じゃの。そなたも今しがたやられて帰って来た所じゃろ。どうじゃ?この学校を守る戦士にはならぬか?おぬしなら適任じゃと思うがの」

 片手の杖で俺を指しながら、ややエコーの聞いた声のその老人は俺に意味有りげな笑いを投げかけた。

「戦士って、そんなタイソウな物には…」

「ほっほっほ。生徒会長という者になってみんか?今までの生徒会長は役不足でのぉ、ワシが全て辞めさせてやったわい!」

 カラカラと笑うその老人に不思議と変な奴という気はしなかった。そうか、今までの生徒会長の病気はこいつのせいだったのか?

「しかし、俺そんな生徒会長なんてさー」

「心配せずともよい。そなたは、普段は普通の生徒として学校に通い、生徒会が有る時だけ生徒会長に変身し、戦士として憎むべき敵をやっつけるのじゃ!」

「そんな事出来るのかよ??」

「ふぉふぉふぉ、段取りはワシに任せい。必要な能力も備えてやるわい」

 なんか、面白そうだし、あの体育会でのさばってる奴等を力づくで叩きのめしてやりたい気もするし、いいんじゃないの?

「わかったよ爺さん。その話受けてやる。で、どうすればいいんだ?」

「ふぉふぉふぉ!そなたに変身アイテムとしてこれを授ける。それをかけてこちらに来るがよい」

 暗がりではっきりと判らないけど、それはメガネ…でも何だかやたらと大きくて、ダテメガネ?なんだこりゃ?

「爺さん、こんなメガネかけてる戦士ってさ、何だか変じゃねえか?」

 しぶしぶそれをかけてみると、元々少し目が悪かった俺には丁度いい感じ。見た目程度は入ってないみたいだ。じいさんは少し笑みを顔に浮かべ、杖を大袈裟に振るい始めた。

「森田正樹!戦士に選ばれし者よ。今よりそのメガネにそなたの戦士の姿を焼き付けようぞ!」

 戦士戦士って、何か勘違いしてんじゃねえかこの爺さんは。だが、俺は何かとんでもない事が起きる予感がして、ふと目を瞑った。



「おい、爺さん!さっきから結構時間が経つけど、何も起きねえじゃんかよ!」

 地上1m位の所にふわふわ浮かぶ何かの球体に閉じ込められた俺は、てっきり力がみなぎり、勧善懲悪の意識が芽生えて来ると思ったのに、変化らしきものは起こらない。最初は立ってたけどだんだんなんか拍子抜けして、その青白い球体の中で体育座りする俺。爺さんはその横でぷかぷかと長いキセルを咥えている。

「爺さん…」

「………」

「爺さん!」

「………」

「おい!おっさん!インチキじゃねえのかこれ!?」

「全くうるさい奴じゃのお。そうあせらずとも、そなたの体はちゃんと変化しておるわい!少し黙っておれ!」

 変化してるって言われてもさ、あれ?俺の髪の毛がこんな所まで伸びてる。何だか目も少し冴えてきてるし、まぶたが重い。あれ、まつげが??へえー…

「なあ、爺さん。少し変わったみたいだぜ。ひょっとしてその生徒会長ってさ、結構美男子でさ、その、女の子の人気者なんかにさ、えへへ」

「さあ、どうだかのぉ」

(体育会の奴等みたいにいかつい格好じゃなくて、知的な男ってのもいいかもな)  

 相変わらずキセルをふかす爺さんの横で、俺は相変わらず三角座りで一人ほくえそんでいた。あ、ちょっと…

「ちょっとパンツの具合が…」

 独り言の様に呟き、俺は何かチクチクするシワを直そうと、座ったままズボンの中に手を入れる。あれ?俺今日トランクス履いてきたはずなのに?なんでブリーフなんだ?そっか、美青年はブリーフ派なのか。ははは。あれえ?

「ちょっとこれなんだ!?」

 指ざわりがなんだかおかしい。妙に柔らかくなった生地の縁に何か付いてる様な…これって!?

「爺さん!何だか訳わかんないよぉ」

「ええい、ごちゃごちゃ煩い奴じゃのお!ケツがむずがゆきゃ気の済むまでかきむしるがいい!ほれ!!」

 その声と同時に俺の方に杖を振る爺さんに、俺はちょっと身構えた。その瞬間!

「ボン!」

 薄い煙が俺を包んだ。少しせきこんだ俺の目には

「な!なんだこれ!!」

 俺が朝履いていたトランクスは、その柄のまま、短く柔らかいブリーフみたいな物いや、縁と前には真っ白な小さなレースみたいな物が生えていて…、そしてそこから伸びる僕の足からはすっかり体毛が消え、真珠色に輝いていた。

(ち、ちょっと…)

 少し寒さに震えた俺が胸にやった手には、倍位の大きさになった乳首が当たった。

(!?)

 驚いた俺が顔を横に背けると、ふわっと頬にかかる、柔らかく長くなった髪。

「爺さん!俺に何をしたんだよ!」

 まだ煙のもやが残る球体の中で俺はおもむろに立ち上がり、閉じ込められているカプセルみたいな物の内側をどんどん叩く。

「静かにせんかい!今それが割れたらそなたは一瞬にして蒸発じゃぞ!」

「蒸発!?」

 その言葉にぞっとした俺は叩くのをやめて、その球体の背中側にあわててもたれた。無意識のうちに内股になり、胸の前で組む俺の手に今度はツンと隆起した乳首が当たる。

(ヒュン…)

 初めて感じたその感覚に、俺はようやく自分におこりつつある変化が何なのか判った。

「爺さん、その、俺さ、女に…」

「やっと気が付いたのか、鈍い奴じゃのう…」

「戦士にするって言ったじゃん!」

「戦士が女でなーんの不都合が有るんじゃい!」

 キセルを傍らの空き缶にコンと叩き、カラカラと笑う爺さん。

「あ、あの、俺パス!パスするから、出して…えへへ」

 再び爺さんのいる方角へ向き直って、手を球体の内側に当てて作り笑いする。でも頬の肉がぷにぷにして、その両手の指は白くなり、爪が長くなって…

「お、なかなかべっぴんになってきおったわい。ふぉっふおっふおっ」

「あ、あの爺ちゃん、俺の話聞いてるぅ?」

「ふおっふおっふおっ、今更中止なんて出来ん事わかっとるじゃろ」

「しらないもん!そんな事!恥かしいからやめてよー」

 きつく怒鳴ってやろうとしたのに、なんで俺そんな口調で…

「お爺ちゃん、御願い!わっ!」

 つんとした乳首を乗せた俺の胸はとうとう円錐形に盛りあがり始める。慌てて胸に手をやると、手のひらにぽわんと収まる柔らかくて暖かい肉の塊。

「そろそろ恥かしくなってきた頃じゃろ。可哀想じゃからこうしてやるわい」

 そういうと爺さんは大きく息をしてキセルを吹かし、大きなリング状の煙を作る

「ほいほいっ!」

 それを傍らの杖に引っ掛けて器用に回し始めると、それはだんだん白い紐に変わっていく。

「ほれっ」

 俺の方に投げられたその紐は、すっと球体の壁を抜け、輪投げの輪みたいに俺の体に当たり、胸に巻き付いた。

「ちょっと!」

 一瞬にして、その紐は平べったくなり、ゴムで出来ているみたいに俺の胸をきゅっと締めつける。

「ちょっと…やだぁ…」

 バンドみたいになったそれから、脹らみつつある胸の縁をなぞる様にレース状の紐が伸び、後ろから伸びてきたそれとドッキング。そして縁からじわじわと胸を覆う様に柔らかな布が生えて行く。

「おじーちゃーん!やめてよー」

 苺色に変色した俺の乳首をその柔らかい布が覆っていくのに時間はかからなかった。子供の様に足をどたどた踏み付けて、どうしていいかわからないといった態度で俺は目に涙を浮かべる。そのどたどたする足も、支点がだんだん横に移動していくみたいで、そしてお尻を突き出した形でだんだん前かがみになっていく。

「おほっ、なかなかの上玉になってきたのぉ!とおに萎えたワシのアレもうずいておるわい」

「え…」

 球体の内側に映る自分自身の姿に、俺は一瞬言葉を失った。女性用のダテメガネの奥に有る円らな瞳。ふっくらした頬と、可愛い唇。細くなった眉。

「ひょっとしてかわいい…かも…」

 丸みがかり始めた真っ白になった体に、既に大きく脹らんでしまった胸を恥ずかしげに隠す白のブラ。ちょっとくびれてきた腰と少し縦長になったおへそが見える。でも可愛いショーツになってしまったパンツの前には依然大きな脹らみが有った。

「ほいじゃあ、そろそろ仕上げといくかのぉ…」

 再び爺さんは煙から紐を作り出して俺に投げる。今度はそれは頭にはまり、たちまちピンクのヘアバントに変わった。

「いっ…いたたっ」

 その途端、頭ではなく下半身に強い痛みを感じた俺は、目を瞑り両手でお腹を押さえ、前かがみになる。

「いっ…いゃああああああっ」

 長い黒の絹糸の様になった髪が俺の上半身にはらはらとかかり、手に当たる男性自身がだんだん小さくなっていく。

「やめて!なくならないでっ!」

 きゅんとした感覚と共に、俺の声は澄んだ女声になり、小指位になった俺の男性自身を指でまさぐると、無残にもそれはショーツの中にいつのまにか出来た小さな割れ目の中に吸い込まれて行く。

(ブァサッ!)

 何か軽い布みたいな物を被せられたかと思うと、それはたちまちスリップに変わり、至る所に縁取りやレースが生えて行く。と同時に俺の腹痛は嘘の様に消えた。

「ふぉふぉふぉ、やはり女生徒会長にはダテメガネとスリップが似合うのぉ。ワシの初恋の女に瓜二つじゃわい!」

「お、おじいちやん…まさか、おじぃちゃんの趣味で俺をこんな姿に…」

 すっくと首を上げて、怒ろうとした俺の全身を、どこからか吹いてきた涼しい風がもてあそびはじめる。

「あ、なんだかすごく、きもちいい…」

 その風は次第にレモンの様な不思議な香りになり、スリップの裾をなびかせ、俺の太腿を舐める様にくすぐっていく。更にぽちゃぽちゃすべすべになり、ボリュームが付いていく太腿。そして大きくなっていくお尻にショーツがだんだん食い込んで行く不思議な感覚に、何故かぼーっとしていく俺。

(女の子になるのも…いいかな…)

 目を瞑り、体を風にまかせ、太腿を撫でて行くスリップの感覚を楽しんでいると、その風はだんだん俺の体に巻き付く様に吹いていく。

(あ、俺の高校の女子制服…)

 まだ膨らんで行く感覚の有る太腿とお尻。生まれて始めて身に付けたスカートの感覚がすごく不思議。そして大きく脹らんだ胸元をブラウスとブレザーが隠していく。

(あ…おれ…私…)

 その瞬間私の意識が途切れた。




「生徒会長!生徒会長!大至急、生徒会室まで来てください」

 校舎内に響く生徒会書記のクラスメートの女の子の声。

「あ、ごめんちょっと先へ行っててくれ。忘れ物」

 放課後クラブ活動の為、テニス部の部室へ行こうとしてた俺は、そう言って自分の荷物を横の後輩に渡す。

「森田先輩、またっすかぁ?最近忘れ物多いっすよ」

 苦笑いして荷物を受け取る後輩を尻目に、俺は校舎へ入るとみせかけ、普段誰も来ない校舎裏の清掃用具室へ向う。

(この前あれだけとっちめてやったのに、まだこりねえのかよ。諦めの悪い奴らだぜ)

 独り言を言いながら、キナ臭い匂いの漂う清掃用具室へ入った俺は、周りに誰もいない事を確認すると、ズボンのポケットからあのダテメガネを取り出した。

(今回で、えっと丁度10回目だっけ。終ったらあの柳の木の葉で縁を磨かなきゃ。うっかりそれを忘れると、次の時元に戻れないらしいからな…)

 俺はそれを手にすると、ウルトラ○ブンの変身みたく、目の前にかざした。

「デュワ!!!」

 掛け声と同時にメガネをかけると、一瞬来る腹部の激痛と、体を覆うつむじ風。そのレモンの香りにしばしうっとりした俺は、10秒後には、あの髪の長い愛らしいメガネっ娘に変わっていた。

 清掃用具室を出ようとした時、

「生徒会長!」

 いきなり響いた声に一瞬ぎょっとする私。清掃用具室前でさっき放送室で喋っていたあの女の子と鉢合わせしそうになった。

「生徒会長!探してたんです!大変なんです!柔道部とラグビー部の主将がかんかんになって押しかけてきたんです!」

(もう少しで私が謎の生徒会長だってばれる所だったじゃん!やっばいなあ…)

 ほっと胸をなでおろす私。

「生徒会長!聞いてます?」

「あ、う、うん聞いてるわ。大丈夫、私に任せて!」

「わあ、有り難うございます。で、でも生徒会長、あの、普段どこにいらっしゃるんですか?そろそろ教えて…」

「早く!急ごっ!」

 あわてて誤魔化しながら私達は生徒会室へ向った。でもあいかわらず女性化したお尻で、しかもスカートで走るのはすごく違和感有る…。


「お前かよ!謎の生徒会長なんていきがってるのは?」

「お前どこの生徒だよ!うちのがっこの全クラスにおめえみたいな奴いねーって話じゃねえか!」

「俺達に偉そうな口聞く前に、おめえが生徒会長だって証拠見せてもらおうじゃねえか!」

「生意気にも、俺のダチだった会長代行をやめさせやがって!」

 熊みたいなラグビー部キャプテンと、虎みたいな柔道部主将が、汗臭い体臭ぷんぷんさせながら、目を真っ赤に血走らせて怒鳴っている。

「まあまあ、真っ赤になっちゃって。可愛いわね。後輩虐められたのそんなに悔しいの?」

  

「なんだとぉ!」

「野郎!ふざけやがって!」

 机と椅子をひっくり返し、今にも私に殴らんと手を上げる2匹。

「あーら、女を殴るの?まあ、恐いわねぇ」

 横ではらはらどきどきしながら見てる生徒会書記のクラスメートの前で涼しい顔の私。ふふふっ男の脅しには、おんなのいなしが一番よね。

 さすがに分が悪いとみた2匹は元通り椅子に座り直す。その前でいそいそと机を元通りにする、引き攣った顔の書記の女の子。

 2匹の息が静まるのを待って、私は柳の精の爺さんから貰った1枚の毛筆の証明書を丁寧に2匹の前に差し出した。

「なんなら、校長せんせの所に今から行ってもいいわよぉ」

(校長先生にもあたしちゃんと認められてるもんねー、本当何故だかわかんないけど)

 そんな不思議な事を思いだし、かつ、目を食い入る様にして見る2匹の動物みたいな人間を見て、私はつい微笑んでしまう。

「くそっ!」

「ちっ!」

 2匹は乱暴にその紙を私に投げてよこした。しばし沈黙の跡、ラグビー部の熊野郎が口を開いた。

「俺達にも面子ってものが有ってよ、このまま引き下がる事できねえんだよ。わかるだろ?」

「なあ、どこの誰かしんねえけどよ、お前女だろ?夜道気をつけた方がいいぜ。おとなしく会長代行の決めた通り」

 柔道の虎野郎も続ける。

「今日、あっついわねー」

 横で怯えている書記の女の子に何気なく話しかけ、私は知らぬ顔で髪をかきあげ、手に持った書類で顔をぱたぱた仰ぐ。しばし沈黙の後、2匹は顔を見合わせ何か目配せした後、虎野郎が口を開いた。

「もう一度だけ言うぜ。夜道に気を付けろよ。警察にゃうちの部のOB何人もいるんだからよ、へっへっ」

「おめえ、その年でさ、処女失いたくねえだろ?しかも出る所出てもさ、泣き寝入り?かもな。おっと脅迫じゃねえぜ。独り言独り言。大体おめえうちのがっこの奴だとまだ認めた訳じゃねえし」

 お互いに顔を合わせ、大笑いする2匹に、私の目が光った。傍らのファイルをバン!と叩いて、傍らの紙袋から、ビニール袋に入った薄汚れたウィスキーの瓶とタバコの吸殻を取り出し机の上に乱暴に置くと、明かに2匹は一瞬たじろいだ。そいつらに向けた私の鋭い視線をかわす様に2匹は再び顔を見合わせる。

 両者しばしの睨み合い最初に口を開いたのはラグビーの熊野郎だっただった。

「それ、何なんだよ。俺達の部室から拾ったとでも言うのか?」

「そ、そうだよ。部室に有ったからといって、俺達が飲んだり吸ったりしたという事にはなんねえしよ」

 2匹は意地の悪い笑顔を私に向けた。私もにっこりと微笑み返す。

「生徒会OBにも警察の方がいらっしゃってね。特別に鑑識に回してもらったのよ。あなた達の唾液のサンプルもちゃんと取得済みだしぃ。ふふふ」

 その瞬間2匹の顔は明かに青ざめ、多分記憶が有るのだろう。虎野郎はウィスキーの瓶、熊野郎はタバコの吸殻の入ったビニール袋を手に取り、そこに付いている小さなタグに目を付ける様にして見入った後、殆ど同時に椅子の背もたれに力抜けた様子で身を任せ、目を瞑った。今度は私が見栄を切る番!

 私はパンツが見えるのも気にせず、足で机を蹴り上げてひっくり返し、その上に足をドンと載せた。その様子に2匹の目は明かに動揺している。

「てめえら!いい加減にしろよ!いじきたねえ事ばっかりしやがって!廃部にされたくなかったら予算は前年通りで我慢しやがれ!いいな!!」

 私はそう言い放つと、つかつかと2匹と一人を残し、生徒会室を後にした。2匹の声はもう2度と聞こえて来る気配が無かった。


(決まった!私ってかっこいーーーーーっ!)

 階段の踊り場で誰もいない事を確認して、私は膝を揃え、両手を胸の前で組み、軽くジャンプして喜びのポーズ。ああ、すっきりしたあっ!それにしても、だんだん女のコが染み込んで行く自分が恐い!

 私は変身を解くため、大急ぎであの清掃用具室へ向かった。ピンクのヘアバンドとメガネを外すと、私を覆っていたレモンの匂いとそのヘアバンドはたちまち消え、数秒間全身むずむずした後、俺は元の森田正樹に戻っていた。

「さてと、テニス部室へ行かなきゃ」

 独り言の様に呟き、俺がその小汚い清掃用具室を出ようとした瞬間!

「生徒会長!!!!」

 突然の大声で校舎中に響きわたる、書記の女の子の声!

「ああ、もう!またかよ!今度は誰が来たんだよ!!」

 俺は再びその小汚い小屋に戻り、ポケットからメガネを取りだし、掛け声も無しに顔にかけた。あれ、何回目だっけ、しまった!11回目だったあああ!

「生徒会長!どうもありがとうございましたーーーー!」

 校舎中のスピーカーから聞こえる、生徒会書記のクラスメートの女の子のとても嬉しそうな声。

「ばっかやろう…!」

 膨らんで行く胸と大きくなっていくお尻の感覚、そして再び香ってきたレモンの香りがとても切なかった。







inserted by FC2 system