アニキャラ三昧(前編)
作:Tira



「お楽しみって何だよ。お楽しみって」
「だからすぐに見せてやるって言ってるだろ。その為に隆樹の妹の服を貸してくれって言ってるんだ」
「なあ史也。志穂梨の服を貸してどうするんだよ」
「だ〜か〜ら〜。雰囲気を出すためなんだよ。俺のカッコじゃ全然雰囲気出ないんだ」

 史也が何を言いたいのか良く分からない。俺に面白いものを見せてやると言い、家に上がりこんできた挙句、志穂梨の服を貸してくれだなんて。アニメオタクの俺に、唯一心を開いてくれる史也を親友だと思っているし、信じている。
 でも、妹の服を使って何をするというんだろう。まさか、自分で着るなんて言い出さないだろうな。

「お前、まさか志穂梨の服を着ようなんて思っていないだろうな」
「それは見てからのお楽しみさ。服って言っても、体操服とブルマでいいよ。ついでに下着も」
「し、下着も!?史也、お前って……」
「勘違いするなよ。俺はアニメオタクのお前を驚かせてやろうと思って言っているだけだから。別にお前の妹に興味無いし、フェチ的な事をしようなんて思ってないさ」
「い、妹に興味が無いって、何か嫌な言い方だな」
「だからそういう意味じゃなくて。もう……、女性の服なら何でもいいんだよ。女性の服ならっ!」

 口調を強めながら話す史也を見てため息をついた俺は、「じゃあ、変な事をしないって約束するなら、志穂梨の部屋から取って来てやるよ」と投げやりに答えた。

「絶対に驚くぜ」
「だから何に?」
「それは見てからのお楽しみ!」
「またそれか」

 部活を終えた後、友達の家に遊びに行くから遅くなると言っていた志穂梨の部屋に入り、タンスから体操服とブルマ、そして下着を拝借する。こんなところを志穂梨に見られたら何を言われるだろう。そう思いながら部屋に戻り、史也に手渡した。

「結構小さいな」
「そりゃ高校一年なんだから。元々背も低いけどさ」
「ま、全然構わないさ。じゃあ早速着替えてくる」
「き、着替えてくるって、やっぱりその体操服を着るのか!?妹の体操服なんだぞっ」
「怒るのは、次に俺が部屋に入って来てからにしてくれよ。その時にムカついたなら、俺を殴ってもいいぜ」
「殴っても?お前、マジで何するつもりなんだよ」
「三分だけ待っててくれよ。いや、二分でいい。お前さ、アニメってどんなのが好きだったっけ」
「えっ?好きなアニメ?」
「ああ。アニメっていうか、キャラクターの事だけど」

 話の腰を折られた感じがしたけど、自分の好きな話題を振られるとつい答えてしまう。幾つかのキャラクター名を挙げると、「それは知ってるけど、そのキャラは知らないな」と相槌を打ってきた。

「でも、好きなキャラを聞いてどうするんだ?」
「そりゃ、これからのお楽しみって事で!」
「また隠すのかよ。もういい加減教えてくれよ」
「二分後にな!」

 ジャケットだけ脱いだ史也は「廊下で着替えるから覗くなよ!」と言い、志穂梨の体操服一式を持って部屋を出て行った。

「何がしたいんだ?さっぱり分からない」

 あいつが何を考えているのかさっぱり分からない。妹の服とアニメのキャラクターがどう結びつくんだろうか。そんな事を思いながらしばらく待っていると、部屋の扉が開き、史也が入って――。

「……え!?」
「ニヒヒ。どうだ?驚いただろ」
「なっ……えっ?えっ?」

 部屋に入ってきたのは女性だった。しかも、その容姿は俺がさっき史也に話していたアニメキャラクターの一人。

「ムカつくなら殴ってもいいぜ」
「ななっ……ええっ!ホ……ホ……ホロっ!」

 あまりに驚いた俺は腰を抜かしてしまった。茶色い髪に可愛い耳。そして真紅の瞳が俺を見ている。

「お前が言っていたキャラってこんな感じだったよな?」
「……ふ、史也なのか?」
「ああ。妹の服を着るって意味が分かっただろ」

 まるでアニメの世界から飛び出してきたようだ。こんな事、信じられない。

「ど、どうして史也がホロの姿に!?」
「へへ。俺さ、ネットで面白い薬を手に入れたんだ」
「お、面白い薬?」
「そうさ。こうして想像した人物に変身できる薬」
「変身……出来る薬?」
「ああ。頭に思い浮かべながら呪文を唱えれば、どんな人物にも変身出来るんだ。だからアニメのキャラにだって簡単に変身出来るって訳さ」

 不思議な事に、声まで声優さんとそっくりになっているところがすごい。本当にホロとしゃべっているように思えた。

「史也がホロに変身しているなんて……まだ信じられないよ」
「そうか?じゃあ他のキャラに変身してやろうか」
「他のキャラ?」
「ああ」

 史也はホロの顔でニヤリと笑うと、何やら怪しげな呪文を唱え始めた。すると驚いた事に、ホロの顔がぐにゃりと変形し、別の顔に変化していった。


 そして変化が終わると、俺が一番好きなアニメに登場するキャラクターの容姿になっていた。

「マ、マジで?今度は……長門なのかっ」
「これで信じただろ?」
「……し、信じたけど信じられないっ」
「何それ?どっちなんだよ」
「し、信じる。信じるよっ」

 紫色のショートヘアがとても可愛らしい。そして声もまた、長門を演じる声優さんに変化していた。

「変身出来るのは三時間だけなんだ。それでもこんな感じで変身出来るのってすごいだろ」
「ああ、すごいよ。マジですごいっ!アニメキャラとこうして話が出来るなんて夢みたいだ」

 驚きが興奮に変わる。史也が変身しているとはいえ、アニメキャラが俺の部屋で、そして目の前に立っているんだ。

「俺、アニメキャラって少ししか知らないから正確に変身出来ているか分からないけど、こんな感じでいいんだろ?」
「十分。十分過ぎるよ。声までそっくりだ。それに体操服とブルマが絶妙に似合ってる」
「だろ!やっぱり体操服を選んで正解だったな」
「……あ、あのさ史也。さっきは色々言って悪かったな。謝るよ」
「いや、別にいいんだ。お前を驚かせてやろうと思って内緒にしていただけだから」
「でもさ、どうして俺に見せてくれるんだ?俺なら自分一人でこっそりと楽しむけど」
「それは昨日済ませたし」
「へっ?」
「実は変身できる薬って二回分入っててさ。昨日の夜は自分の部屋で色々な人に変身して楽しんでたんだ。学校で一番人気の清下さんやグラビアアイドルなんかに」
「そ、そうなんだ。清下さんやグラビアアイドルか……」
「でも、お前はアニメキャラの方が好きだろ」
「……まあな」
「じゃあさ。隆樹がさっき言っていた、一番好きなキャラに変身してやるよ」
「マ、マジで!」
「その姿で色々と楽しむとするか」
「た、楽しむって……どうやって?」
「決まってるだろ。アニメキャラに変身すると言っても、体は実際の女をイメージするんだ。だから、俺は完全に女になれるって事さ。これがどういう意味か分かるよな?」
「…………」

 史也の言っている事が本当なら――セックスできるって事か?
 アニメキャラとセックス出来るって事か!?
 そう言おうと顔を上げると、史也はまた呪文を唱え始めた。



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