壊れ逝く者たち……、

作:らんおう



それは、あまりに奇妙で、そして淫らな光景だった。
 両親の寝室に置かれた鏡の前で、一人の女が悶えている。
 大人の女性だ。
 「はぁ、はぁ、たまんねぇ」
 鏡に向かい。
 荒い吐息を吐き。
 開かれたワンピースの胸元に手を差し入れ、自分自身の胸を乱暴に弄ぶ彼女。
 「うひゃぁ、やわらけぇ、」
 もう一方の手はスカートのすそを持ち上げ、パンティの隙間から股間にもぐりこむ。
 細くしなやかな指が、その形に似合わない荒々しさで、自分自身の割れ目を貪る。
 「あう、おお、きき持ちいぃ!」
 30代半ばの女性が鏡の前で蟹股になり、乱れた衣服の上から自らの衣服を弄ぶ光景はあまりにも滑稽だった。

 (お帰りなさい、着替えたらお茶にしましょう。今日はシフォンケーキケーキ作ってみたのよ)

 僕の耳に遠く響く、昨日までの彼女の声。
 「うお、うほっ」
 あえぎ声を上げるあの口からあのやさしい言葉がもれることはもうない。
 「おお、たまんねぇ」
 喚起に悶える顔につい昨日まで僕に見せていたあのやさしい笑みはもう戻らないだろう。
 「くぁ、もう我慢できねぇぜ」
 彼女は強引に衣服を剥ぎ取った。
 胸元のボタンがプチプチと音を立て、はじけ飛ぶ。
 シルクのブラジャーに包まれた豊かな胸が露になる。
 「へへ、オッパイたまんねー」
 鏡に映った自分の胸をよだれを垂らす勢いで食い入るように見つめながら、彼女はいやらしく表情をゆがめ、そしてあらゆる角度から自分の胸を鑑賞しようと、身体をくねくねと鏡の前でひねり出す。
 「はは、こんないいものが自分の身体についてるってのについさっきまで触ろうとも思わなかったなんて、もったいない話しだよなぁ」
 ブラジャーの生地の上から二つの乳房を包み込み、さわさわと軽く撫で回す。
 「はぁ、このさわり心地、この感触。こうして一日中オッパイ触ってても飽きないよなぁ」
 彼女は鏡の前の自分の姿をうっとりとした表情で見つめる。
 一瞬、彼女の顔に女の表情が戻った気がした。
 でも、それは淫らな女の表情だった。
 「はぁ、こうしてみると、俺って結構色っぽいよなぁ」
 そう言うと彼女は鏡の前でシナを作る。
 「ふふ、どぉ、奈津子のいやらしい身体は、ふふ、触っても、い・い・の・よ」
 言った後で彼女は自分自身の演技に欲情した様子でつぶやく。
 「ああ、われながら色っぽいぜぇ、これが自分やなかったら今にでも押し倒しちまうところだ」
 鏡の向こうの自分を嘗め回すように見ながら、彼女はフロントホックの留め金を外しブラジャーを下ろした。
 二つの胸のふくらみを腕で隠しながらまた鏡に向かって演技を始める。
 「ああ、だめぇ、あたしには夫がいるのよ。人妻に手を出すなんて、い・け・な・い・ひ・とっ」
 そう言って彼女は鏡に向かってふっと吐息を吐いてみせる。
 酷くいやらしい仕草、それが、演技なのか、女として彼女が隠し持っていた本当の姿なのか僕には分からない。
 「うひゃぁ、我ながら色っぽいじゃねぇか、それにしても人妻かぁ、俺、人妻なんだよなぁ。ああなんて、そそる言葉なんだ。くそぉ、自分じゃなかったら押し倒して突っ込んでやりたいぜぇ」
 彼女はそういいと我慢できなくなったのか床に腰を下ろし、そのまま足をMの字に広げ、激しく胸を揉みながら、もう一方の手の指を股間にもぐらせていく。
 「ああ、ふぁ、はぁ」
 彼女は背中を倒し横になると、もどかしげに腰からパンティを剥ぎ取る。
 胸を愛撫しながら、足を大きく広げむき出しになった股間を手の全ての指で愛撫する。
 「ふぁ、ほぉ、ふぉぉぉ」
 まるで獣のように雄たけびを上げる彼女。
 僕はその瞬間、僕の大切なものが壊れてしまったことを知った。

 だけど、壊れてしまったのは彼女だけではない。
 そう、僕自身もとうの昔に壊れてしまっているのだ。
 その証拠に、先ほどから彼女の痴態を覗き見しながら僕は異様なほどの興奮に包まれているのだ。
 「はぁはぁ」
 僕の荒い息遣いが他人のもののように聞こえる。
 もう一度、床の上で悶える彼女に視線を向ける。
 「ああ、いい、いい」
 悶え声を上げる彼女を視界の隅に捕らえながら、僕は彼女に向かってそっとつぶやいた。
 「……ママ」
 そして僕は……、
 僕は制服のスカートを捲り上げ、もうびしょびしょに濡れてしまった自分自身の割れ目に指を這わすのだ。



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