片岡宏美・AM7:14

作:らんおう



 「ちょっと、母さん。あまり変な目であたしの身体を見ないでよ」
 片岡裕美は朝食の間、じっと自分の胸を見つめていた母に向かって言った。
 「ああ、すまん」
 母は男言葉でそう応えるとじっと見ていた亜由美の胸元から視線を外す。
 「ったく、男性化したからって娘にまで発情しないで欲しいわ」
 亜由美はそう言うと食事もそこそこに席を立つ。
 「もう、行くのか?」
 母が訪ねた。
 「これ以上家にいるといつ襲われるかも分からないモノ」
 そう言うと亜由美は鞄を持って玄関に向かう。
 母が男性化したのはつい2週間ほど前だった。風呂に入ったときに突然症状が起こり、自分自身の身体に発情し始めた。男性化ウィルスは瞬く間に母の脳を浸食し、母の心と性欲はすっかり男性のそれとなっていた。
 その時、玄関が向こうから開き、隣の家の狭川頼子が顔を出す。
 「お母さまの様子どう?」
 頼子は心配そうに訪ねる。
 亜由美は弱々しく首を振る。
 「そう」
 頼子は心配げに言った。
 頼子は隣の家の主婦でまだ結婚して一年の新妻だ。歳は亜由美の母よりも一回り下と言うことでむしろ娘の亜由美と気があった。
 亜由美の母が男性化してからは彼女が何かと亜由美の家の面倒を見てくれている。
 「様子見てくるわ」
 彼女はそう言うと部屋へ上がった。亜由美も心配になって後を追う。
 「し、お奥様!何やってるの?」
 途端に頼子の悲鳴が上がった。
 亜由美が慌てて部屋へはいると、底には服を全て脱ぎ去り鏡の前で淫らに自慰にふける母、雅美の姿があった。
 「あ、ああ。頼子さん」
 雅美は頼子の姿に気付いたがその手の動きを止めようとしない。上唇に妖しく下を這わせながら自らの胸を揉み手淫にふける。
 「雅美さん、正気を保って!あなたは女性なのよ」
 「だ、ダメなんだ。頼子さん。俺、やっぱりもう頭の中が男なんだよ!自分の身体見てるとさあ、もうむらむらしてきてダメなんだ」
 「ま、雅美さん」
 「でも、良いよなぁ。女の身体は、柔らかくってさぁ、それにとっても気持ちいいんだ」
 頼子は呆然として立ちすくんでいた。
 亜由美は頼子の手を引くと言った。
 「頼子さん、もういいよ。母さんはもうダメみたいだから」
 そう言った。
 だが頼子から返事がない。
 怪訝に思った亜由美は頼子の顔を見た。
 そして凍り付いた。
 頼子の顔はいやらしい笑みを浮かべていた、それは卑猥な男の笑みだった。
 「雅美さん、俺……、」
 頼子は呟くとゆらゆらと雅美の元へと歩み寄った。
 「頼子……、」
 「へへ……、」
 頼子は淫猥な笑みを浮かべると自ら服を脱ぎ去った。
 ブラウスの下から、豊満な乳房がこぼれ落ちる。
 「どうやらおれの頭の中も男性化しちまったみたいだ。でも、こうしてみると何でさっきまでこの病気に掛かることを恐れていたのか分からないよ。だってさ」
 頼子は鏡を見た。
 「こんな可愛い女が俺の身体なんだぜ。こんな楽しいことがあるかよ」
 「ああ、お前は可愛いよ頼子」
 背後から雅美が頼子の身体を抱きすくめる。
 頼子は振り向くと雅美と唇を重ねる。
 「奥さん、抱かせてくれよ。俺、もう我慢できないよ」
 「ああ、頼子……、」
 亜由美は身体を寄り合わせる二人を呆然と眺めていたがやがて諦めたように頭を振ると部屋を後にした。



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