電車内

作:らんおう



 車内はいつもと同じように込み合っている。が、以前とは雰囲気が幾分変わっていた。以前は車内の隅で抱き合うように乗っていた男女のカップル達の数がかなり減っている。
代わりに増えたのは女性同士のカップルだ。彼女らは互いの身体を愛撫し合う。
 中にはいくらか正常なカップルも見受けられる。
 彼らはあからさまに男性化した女性同士のレズカップルを蔑んでいた。
 「いやだ、気持ち悪い」
 大学生くらいの若い女性が言った。
 「女同士で恥ずかしくないのかしら」
 「しょうがないさ、やつら病気なんだから」
 男が言った。
 「うつされないように気を付けろよ由香」
 「大丈夫よ。あたしは幸司のこと愛してるもん」
 そう言って由香は幸司の胸へもたれ掛かった。
 幸司は優しく由香の髪を撫でる。
 しばらく幸司の胸に身を預けながらうっとりとした表情をしていた由香は突然、不快そうに顔を歪めると言った。
 「おい、離れろよ」
 「どうした?」
 幸司は最初その言葉が誰に向けられたものなのか分からなかった。
 「気持ち悪いんだよ。離れろ」
 由香に突き飛ばされるようにして幸司は彼女の身体を放した
 「ゆ、由香」
 「悪いな、俺も来ちゃったみたいだ」
 そう言うと由香はいやらしい目つきで自分の身体を嘗め回すように見た。
 「うう、俺って結構いい女だよな」
 由香は幸司そっちのけで自らの身体をまさぐり始めた。
 幸司は何かいいたげだったがやがて諦めたのか、すごすごと由香の前から去った。



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