ねじ巻きちゃん
作:おもちばこ



彼は何の変哲もない8の字の取ってのあるねじ巻を見ていた。
水色で光沢があり、大きさは20cmぐらいだ。サンプルとしてはやけに彫ってある彫刻とかが凝っている。どうやらこれは完成品のようだ。
「これが博士の新しいガラクタ?」
「ガラクタじゃない、れっきとした大発明だ」
博士は自称天才発明家だが、研究室にこもってばかりの性格がたたり、
如何考えても実用的ではないガラクタばっかりだ。
だが相対論を完璧に理解しているのだからやはり天才といったところか。



「某ロボットの道具みたいに背中につけて巻くとものすごく動きが機敏になるとか」
「着眼点としては実に惜しいけど……残念ながらそうではない、それよりもっと凄いことだ。それはだな、女の子になれるって言うことだ」
「え、今なんて言ったの?」
「時間稼ぎはやめてくれないか。ようするにこういうことだ」
博士はとても研究者とは思えないほどの機敏な動きで俺の背後に回りこみ、水色のねじ巻を俺の脊髄に突き刺した。
絶対痛いはずなのだがふしぎと痛みがなかった。
博士はネジがしっかりと刺さったことを確認すると右に3回ほどキーコキーコと回したのだ。
半ばあきれていた俺だったが自分の身に変化が起こっていることに気づいた。
「あっ、や、やめ。」
俺の胸が風船のように膨らみ、髪の毛は肩にかかるくらいまで伸びていった。
体がだんだんと細くしまり、ムダ毛は糸巻きで巻き取るかのように引っ込まれ、くびれのある体になっていく。お尻がむっちりとでっぱり。
俺のダメージジーンズを押しのける。知らず知らずのうちに内股になり、あああという俺の言葉にできない声もだんだんと音階が上がっていく。
あまりの変化のあまりへなへなととぺったんと地面についてしまった。
股の付け根にあるはずのものも消えうせていた。
「あっ、ああっ」
顔が変形して、本来の面影を残しながら。別嬪の顔へと変わっていく。



変身がおさまったところで博士が姿見を俺に見せた、こ……これが……俺か?
「どうだ、凄いだろ」
か……かわいい……。
「……あわ、あわわ」
「えっとね、わかり易く説明をすると全身の神経とつながっている脊髄に働きかけることによって全身を女の子にしろ、ということを体の筋肉に指令を出すわけだ、それで女の子になるわけだ」
博士はとても理屈っぽいようでそうでもない。
「それはいいから、俺の体を元に戻してくれよ。どうすれば元に戻るんだよ」
「そうか、そんなことしなくても、ネジが切れれば元に戻るよ」
後ろでジーという音を立てながら左回りにネジが回っている。さすがに首は真後ろに向けないので
ネジがゆっくりになるのを皮切りに、胸がしぼんでいき、体がないなりに筋肉質になっていった。
姿見に映っていたのは元の俺の姿だった。



博士が自慢げにこういう。
「すごいだろ」
俺はうなずく。こりゃすごい発明だよ、遺伝子レベルで姿を変えられるなんて。
「今は3回だけだったからすぐ戻ったけど。10回ぐらい回せば小一時間ぐらい……おい」
博士が話をしている間に俺は背中のネジをキコキコと回し続けた。
「ちょっと、回しすぎると元に戻るのに時間がかかるよ。でも松木君、背中に手が届くなんて、体柔らかいね。」
博士の揶揄にもいっこうに耳を貸さず俺は己の欲望を堂々と語る。
「そんなのわかってる、俺はな。堂々と女湯に入るのが夢だったんだよ。これで女の子になれば夢がかなう……」
「背中にネジをつけた状態ではどうかと思うけどな」
「バスタオルで隠せば何とかなるって」
そういいながら俺は勇み足で地元の銭湯へと向かっていった。



1時間後、俺はあざだらけで帰ってきた。
「いやあ〜ボコられちゃいました。まさか着替え中に元に戻るなんてな……思いっきり巻いたら反動でねじが切れるのが早かったんだよ」
「警察に突き出さない優しい連中でよかったな」
俺は博士を攻めることはしない、悪いのは発明を悪用しようとした俺だから。
「あっそ。じゃあそろそろネジ返してくれない。それ1個しかないんだ」
「いやだ、これほど女の子がいいものだとは思わなかった。映画は安く入れるし。それにそれに……(かくかくしかじか中)。」
俺の説明に嫌気が差したのか、はたまた熱意を受け入れてくれたのか。
博士はこんなことを言い出す。
「……そんなに気に入ったんだったあげるよ。ただし、巻きすぎには注意しろよ……」
「ありがとう、博士」
俺はそうお礼を言うと、スキップをして帰っていった。



私の大方の目論見が達成された、あれから1週間、そろそろ私の目論見が達成され、欲望が満たされる時がきた。
で、その晩
ドンドンドンドン!!
私の家の戸を突き破らんばかりに叩きまくる背中にネジをつけた女の子がいた。



私はかわいい彼女にこういった。
「……ネジが。ひっかかちゃったって、なんで」
彼女はひっくひっくと泣いている。彼の成れの果ての姿だ。
「気合入れて数え切れないぐらいやっちゃったの。そしたらガチャってなっちゃって……」
「永久に回るようになっちゃったんだ。ああ、だから言ったのに……」
「うん……ごめんね……」
「しょうがない、ネジを直してあげるよ。そうすればちゃんと止まるようになるから」
背中にある水色のネジの修理をしようと私はそれに手を伸ばす。
すると、なぜか女の子は手首をつかんで邪魔をする。
その行為に疑問を持った私はこんなことを言う。
「え、どうしたの。戻りたくないのか」
「なんか、あたしおかしくなっちゃったのかな。なんかこのままの方が面白いかなって。」
「うぅ……。」
私は彼に申し訳ない事をしてしまったと表面では思っていた。
ネジが脊髄の神経に指令を送り続けたせいで、身体が女の子でいるのに慣れてしまったせいだ。このことは別のサンプルで証明済みだ。
「実はね、あたし前から博士のことが好きだったんだ。背がちっちゃくて身体が細くて。とっても華奢で。でも"やおい"って関係はなんか抵抗あったんだけど。これで性別のハードルは越えたね。ねぇ翔太君、これから楽しいことしましょ!!」大方予想は付いていたが一応聞いてみた。
「え……何をするの。」
彼女は手をもじもじさせながらこう言う。
「……セ……」
「セ……なに?」
「セブンブリッジ。」
確かに楽しいことだ。あれは意外と奥が深い。え?ちょっと計算外。
「それから……あたしの事。尚(なお)って呼んでください。えへへ……」
そうしているうちに、ガタが取れたのかネジの回り方がゆっくりになっていく。
それと同時に腕が太くなっていき、胸や、肌にもハリがなくなってくる。おまけに立派な体毛も生えてくる。
「あ・・・回さなきゃ。尚(なお)でいられなくなっちゃう。」
ものすごいあせっている。そんなに女の子として私といたいらしい。
「私が回してあげるよ。」
キーコキーコと私は丁寧に回していく。
回すたびに彼女は髪や肌のつやが出て、胸の形もととのい。顔や身体もしゅっとした美形になっていく。
これでいいのかな……。
まあ、彼が死んじゃったわけじゃないし。彼女はこれでいいって言っているし。
ひょっとしたら私と一緒になるために女の子になることを望んでいたみたいだ。
私と彼女はお似合いのカップルになっている。



次は何を発明しよう。
こんどはもっと多くの人が喜んでもらえたらいいかな。はっはっは。



おわり


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