実は男でした
作:石山


 ある理系大学の昼休み。男子学生が学食を食べながら談笑している。女も周囲に少なく男ばかりとなれば、猥談になるのが常だろう。
「見たか、三坂丘アリスの検証スレッド」
「おお、みたみた。おっぱいのほくろとか一致してたな。しっかし、女にしか思えん。オレ、あんな子なら、掘れる自信あるわ」
「ま・じ・か」
「え、え、何の話だ?」
「三坂丘アリスでぐぐれ」
 話題に乗り遅れている学生に向けて、ゲラゲラと笑っている。それを聞いて、スマートフォンに三坂丘アリスと打ち込む学生がいた。そこに現れた検索結果には、『元グラビアアイドル三坂丘アリスは男だだだ』という題名が一番に出てきた。どうやら掲示板の過去スレッドらしい。
「こいつかよ! え、え、おとこだったの?」
 心底驚いている様子だ。画面には、可憐な少女が水着姿でカメラにポーズを決めていた。
「びっくりしただろう。その股のとこにホントは俺たちと同じものがついてったんだってよ」
「信じられん……。しかし、何で分かったんだ。こいつ、最近でてなかったじゃん。あれあれ、男が出来たのがばれたとかで」
 検索時間も待ちきれないのか、質問をぶつける。
「さぁ……、まぁ、ちゃんと検証サイト読めば分かるんだが、シーメイル……まぁ、ニューハーフみたいなもんか。際物のAVあんだろ、AVシリーズの。あれに出てたんだよ。釜宮モト子って名前で」
「でも」
 何かを言い返そうとする所に別の学生が口を挟む。
「それがさー、よくある偽モノじゃないんだよ。明らかにちんこが本物すぎてさ。袋まであって、ちゃんと白いのがそれっぽく出るんだわ。で、会社の方に凸った……電話した奴がいてさ。会社も男だって認めて、そこから大炎上さ。元々のファン、まぁ、今となっては男騒動でファンも減ってたかもしれないけど、そいつらがスレ乱立してさ、大騒ぎ。『騙された』って意見が多いが、中には別のファンが湧き出したりな」
 男子学生は周りに聞かれるもの気にせずに話を続けていた。そして、この話はネット上にいざ知らず、日本中の男達にとってそれなりの衝撃を与えていったのだった。その顛末については、まとめスレッドを参照するのがいいだろう。しかし、そこには真実は書かれてはいない。三坂丘アリスが正真正銘の女性だったということは……。その話をするためには、三坂丘アリスが起こした男騒動まで遡らねばならない。

三坂丘アリスの所属事務所、そこでは社長が怒鳴っていた。目の前には、当のアリス。
「なんてことをしてくれたんだ。おかげで、放送中のCMも切られて、ドラマの話もおじゃん。もう、雑誌グラビアさえダメだぞ。よりによって何であんな男なんだ。おい、沢口、お前がついておきながらなんて体たらくだ」
 ドンと机をける社長。今日何度目かは分からない。目の前のアリスなどもう放心してしまっている。
「社長……、賠償金などの問題が……」
 夏に向けて作っていたCM、販促品……、そういった物が全て破棄されてしまった。相手の男が薬物や軽微な犯罪行為によって逮捕までされている男だというのが良くなかった。
「4……億だと……」
人気グラビアアイドルから人気女優への転向をかけた売り込みの結果だった。社長はへたり込んで、憎しみを込めた声で言った。
「分かってるんだろうな。これはお前の責任だ。契約書にも書いてある。故意の業務妨害には、損害を補償すると」
「社長、そ、それは厳しすぎます」
「黙れ。お前が肩代わりしてやるってのか」
 マネージャーの沢口はそういわれて黙り込む。
「返します、返せばいいんでしょ」
 そう言ったアリスに、さきほどからずっと黙っていた営業部長の時任が口を出してきた。
「人気が落ちたグラビアアイドルに稼ぐ当てなんてありませんよ。脱ぐにしても、もう20代も半ば、AV業界にはアリスよりも美人なんて吐いて捨てるほど放り込まれてますよ」
「AVか……、ちょっと待てよ。時任……、おもしろいことを考えた。おい、ちょっと奥にこい。益田も」
 専務と営業部長を従えて、奥へと向かっていった。そこがアリスのターニングポイントとなった。

アリスが表舞台から姿を消してから1年後、ある病院の手術室でアリスは寝かされていた。
「それが……」
 アリスの目の前にクーラーボックスが置かれている。アリス自身は健康状態が悪そうに見えない。
「そうさ。これが、君の細胞からつくった男性の生殖器さ。すごいだろう。社長さんのおかげで、研究費も肩代わりしてもらえたからここまでこぎつけた」
 アリスに受け答えしているのは担当医なのだろうか。それにしては、目の輝きが異常だった。趣味が人体改造とでも履歴書に書けそうなイメージだ。
「君の生殖器は一時的に男性器になる。説明はしたが、借金返済までは君の女性器を預かることになる。借金のカタだな。とりあえず、男としての生殖行為も可能になるし、何もしなければ男みたいになっていくからな。女性ホルモンを投与する」
 うつろな瞳のアリスにとって、何度も説明され抵抗もした結果、この方法しかなかったのだ。女性になりたかった男性としてAV出演し、話題をさらい。グラビアアイドルではなく、ニューハーフタレントとして出るのだ。それも、素地が女性である彼女にとって、女性ではなく男性になるための努力が必要になったのだが……。
「きゃっ……」
 付き合っていたとされる男とは、ホテルに行くことはあった。だが、そこに体の関係は生まれなかったのだ。相手の男が言いふらしているアリスの感度など、嘘でしかない。しかし、失った人気やCMは、現実のものだった。アリスは、貞操を守った挙句に、男へと変わる事態となってしまったのだ。
「さぁ、長い手術になる。眼が覚めたら、男だよ」
 やさしい言葉に聞こえるが、その語感には嬉々としたものが感じられる。麻酔が効いた後、男は言った。
「まぁ、企業の補助金が下りたから、コレの借金なんて皆無なんだがな。しかし、もったいない。一発やっておきたかったなぁ。ひっひっひ」
 そして、手術は成功した。こうして三坂丘アリスは釜宮モト子になった。

 マンションの一室。そこは、AV撮影によく使われる場所だった。
「モトちゃーん。さぁ、脱いでみようか」
 監督には、際物AVをとって十年の大ベテランだった。おまけに、グラビアアイドルや素人など、初めてのAVにすんなりと招き入れられる天才だった。
「おおお、いいモノもってるねぇ」
 相手の男優が入ってきた。こちらもベテランだった。
「アリスちゃんがまさか男の娘だったとはねぇ。今日は、後ろの穴を突いてあげるから、覚悟しときなよ。もちろん、君も発射させてあげるさ。ハハハハ」
 バイセクシャルだが、主に女優との絡みが多く、そして話し上手。このセッティングは、
マネージャーの椅子にしがみついた沢口の意地だった。自分がこの娘ありと見込んだアリスの苦痛を少しでも取り除くためだった。
「モトちゃん、ういういしさが大事だから、演技は過剰じゃなくていい、彼氏にみせたよがりくらいでいいよ。ハハハ」
 脱いだ服をもう一度着せた監督は、ベッドのシーンから取り始めた。チンコの生えたOLを口説いた上司の男が驚きつつも食べてしまうというシナリオだった。
「おまえ男だったのか」
「すみません、隠してて……」
 いきなり脱がしに掛かった男の前でチンコを放り出して正座させられたモト子。チンコが縮こまっている。
「いや、俺は怒った。お仕置きが必要だ。そこに寝ろ」
「え……」
 ブラジャーも外されて、今でもインターネット上で行きかう写真の中には必ず紛れ込んでいる巨乳が晒される。
「このおっぱいはなんだ。騙そうとしやがって」
 ぎゅっぎゅっときつく揉まれる乳がうねる。
「いた、いたた」
「中にシリコンでも入ってるのか?」
 シナリオどおりだった。男とバレたモト子への言葉攻めだった。
「いえ、ホルモンで……」
「なら、本物じゃないか。問題ない」
 男が吸い付いた。その下では、大きくなった竿を男の手が大胆かつ細やかに触っていた。
「だ、ああ、で、ちゃう……」
「出るのか、ちゃんと出るのか?」
 男はモト子の背後に回って胸と竿を攻め始める。カメラが上から下へと忙しく動いている。
「あっあっあっ」
 ずこずこずこという湿った音をさせて、モト子はスタッフの前に噴出した。
「いやぁぁぁぁあ」
 最小限のスタッフを揃えた沢口は、自らも見ないように別の部屋で声だけ聞いていた。あの娘の射精……、涙がこぼれそうだったが、必死に耳を塞ぐのを堪える。
「床がびしょびしょだな……」
 男がモト子の噴出した液体をモト子の股間に塗りたくる。
「これは濃いな……。女のふりをして、たまってたんだろう。お仕置きは止めよう。これからはご褒美だな」
 男は突然画面から消える。モト子の均整のとれた肢体が大写しになる。よつんぼいになっているため、胸の重さが二つの塔のようになって見て取れる。
「さぁ、ご褒美をやるまえに、ちょっとオレのも立たせてもらおうかな」
 男はモト子の前に膝立ちになる。モト子は、それにゆっくりと近づき、止まる。
「さぁ、遠慮なんかしないで、舐めてみろ。男が好きなんだろう」
「はい……」
 そういって、たどたどしく舐め始めた。その舌使いは慣れていない。しかし、グラビアアイドルから転向したシーメイルAV女優としての初物という、ありえない状況に自然と勃ちあがっていった。
「もっと奥まで」
 そこで監督の指示が飛ぶ。『自分のも扱きながらしゃぶる』だった。もちろん、体勢はきついが、借金のためだった。大売れすれば、それだけ借金を返すまでの時間、AV出演の回数も減るのだ。その手を自分の股間に当てると、あまり大きくないソレをたどたどしく擦り始めた。
「おう、おう、いいぞ、うまくなってきた」
 口の方は、涎でべとべとになりながら、男の我慢汁が出るほどになってきていた。そして、男優がカメラワークを見て、一瞬自分のモノをモト子の口から抜き、指で扱き、モト子の顔へとぶっかけた。どろどろとする青臭い液体がモト子の顔を流れる。それは、自分の出した液体と同じにおいがした。もちろん、今日まで嗅いだことは無いわけでなかった。夢精、そして、沢口に言われて試したオナニーで一回だけ、匂いをかいでいた。しかし、本当の男の精液を間近に、それも顔にかけられることはなかった。沢口の協力もあり、身持ちを硬くしたあげく、こんな状況になったことは、皮肉としか言いようが無かった。
「さぁ、ここの具合はどうかな」
 カメラが切り替わり、尻の穴が大写しになる。そこからカメラが引いていく。そこで、カットが入る。
「いいねいいね、いい感じだよ。こういう状況だと泣いちゃう子とかいるんだけど、モトちゃんはいいね。いい顔してたよ」
 監督の褒めがはいる。そして、タオルで一度顔を拭く。男優はゴムを用意した。これは、沢口の希望だった。しかし、アナルファックならば男の体であるモト子も体験したことがあるだろうと思った男優だった。
しかし、沢口が彼氏なんだろうと考えると、その処女性を頑なに守ろうとすることも少し分かるのだった。次のシーンでは、アナルへの挿入があった。見ているだけは、女にしか見えないモト子。映像では股間にモザイクが掛かっているだろう。
「そらそらそら……」
 痛さを覚えるモト子だったが、思った以上に乱暴に出し入れはしていない。男優は手馴れたものだった。次に、体勢を変えた。大またを開いたモト子の片足を持って、背後から突いていく男優。モト子の股間のモノが大きく腫れ上がっていくのが分かる。
「さぁさぁ」
 次には、股間に男優のモノを挿した状態で、自分のものを扱くというシーンになった。
「いっちゃう、いっちゃう……」
 その言葉しか出なかった。もう、体が燃え上がっていたモト子は、胸をずっと揉まれているせいもあるが、自分の手で自分のモノを逝かせてしまった。
「カーット!!!」
 監督の悦に入った終了宣言だった。女優魂がここにきて開花した。そんなことを言われたが、モト子は挨拶もそこそこに沢口に付き添われ帰って行った。

 モト子の新居。前にいたマンションではなく、うらびれたアパートだった。
「沢口さん……」
 スーツ姿の沢口を前に、涙目のモト子。いや、沢口の前では、高校生のころスカウトされたアリスになってしまうのだ。
「よくがんばった。これも立派な女優だよ」
「あんなモノがついてるのに?」
 とうとう涙が零れ始めた。
「そこは何度も話したじゃないか。君は、男の体になった、貞操が危ういわけじゃない。君の女性としての体は保たれるんだ。今回も本物みたいな偽モノとして出て行くはずさ。顔だって化粧して、分からない状況にしたんだから。ね」
 イメージチェンジといってもいいだろう。アリスのころと見違えるような派手な風貌になっていたモト子だ。しかし、その変装というべき化粧は、目の肥えた視聴者にとって何の防壁になることはなかった。そして、白日の下に晒されるモト子。
シーメイル女優としての再デビュー、それも元がアリスだと知られた状態では、考えていなかった。モト子は、沢口との口も3日聞かなくなっていた。閉じこもり、借金を機に疎遠になってしまった両親にも会えず、1人で苦しんでいた。しかし、ここでも沢口の説得と借金に対するモト子の責任感が立ち直りを早くした。
インターネットでは大々的に情報が拡散していった。社長の発言で……。
「アリスは元々男の娘でした。ね、今はやってるでしょう。グラビア撮影では前張りをし、グラビアアイドルとして活躍していたのです。あ、胸はシリコンじゃありませんよ。その辺は、デビュー作を見ていただければ分かると思います」
 殊勝に頭を下げる社長。しかし、内心、博打をうっているような、大きな山を前にした興奮を感じていた。インターネットの騒ぎに収まらず、次なるAV企画も持ち上がり、すごい賑わいを見せていたのだ。インタビューなどTV番組が五件、新聞、雑誌が二十件とこまごましたオファーまであわせると、元のグラビアアイドルをしている時よりも盛況だった。
「いいぞいいぞ、もっともりあがれー」
 それからの企画は、明らかに女性に対する物ではなかった。あるテレビ番組では……。
「モトちゃん、グラビアアイドルたちの生乳みたんでしょ?」
 男性芸人が下卑た笑いを取り始める。そこをインテリで売っている女性陣が、覗きや痴漢のように扱う。台本はあった。『女に興味は無いから大丈夫』『お金がたまったら切る予定だった』そんな発言をすることになっていた。モト子は、次第にニューハーフとしてキャラを作り始めた。
「ところで、グラビアのときはどうしてたの? アレを」
 深夜番組だった。そこは、ビキニを着用するように言われていた。そして、羽織っていたものを脱いだ。ひさびさだった。このように人目に晒すのは久々だった。前までは、主要なメンツの後ろで微笑むグラビアアイドルたちの中に居た。そして、きれいかわいいと言われる番組の花だった。
「うぉ、ほんまや。生えて無いように見えるわ」
 前張りにより、水着の中にしっかりと収納されたモト子の男性器。締め付けられて痛くて仕方が無いが、その姿になって一瞬でも昔の自分を取り戻したように思えて嬉しかった。しかし、それをどん底に落とす事態が起こる。
「おりゃっ」
 汚れ役を良くやっている男芸人によってビキニが剥がれてしまう。ビキニの下に厳重に貼られた前張りがきわどいラインまで隠している。しかし、突然のことで悲鳴を上げてしまうモト子。
「あかんて、あかんて、興奮してまうがなー。ほんものっぽいやん」
 本当だったら、事務所からの抗議どころで済むものではないが、深夜枠で事務所との交渉は済まされていたのだろう。モト子は必死にその後の番組をこなした。そして、プロデューサーに食って掛かる沢口に癒されるのだった。
 それから半年。AVの出演作も2本となった。かなりの売り上げを計上し、AV出演をするよりもテレビ出演が増えた。元々おしとやかだったモト子には、猥談のしやすい女優のような扱いが多くなった。ドラマも純女としての役をもらうことも多かった。しかし、もともとのグラビア仲間からは、煙たがられた。しかし、次のAVでグラビア仲間と再会することとなる。
「姫野ミャコとして再デビューすることになりました」
同期のグラビアアイドルだった。自分よりも2歳年下で、中学生からグラビアアイドルをしていた。
「え、え、じゃあ」
 戸惑うモト子。
「そう、今日は君に男優としてやってもらいたいんだ。まぁ、見た目はレズAVなんだけどね」
 元グラビアアイドル二人を並べて、監督はご満悦のようだ。頭の中で二人の絡む構図が見えてくる。そこからの段取りは早かった。脚本が即日上がり、次の日には撮影準備にとりかかったのだ。
「ミャコちゃんが、こっちからこういう体勢でね」
 ミャコのGカップある胸が、モト子の顔の前を揺れる。まだ服は着ているがすごい迫力だった。
「モトちゃんは、こっちからのそのバストに吸い付く。ミャコちゃんは、モトちゃんのモノを手こきして……」
 段取りが細かい。そのおかげで、旧友と男と女としてSEXすることを考える暇がなかった。休憩に入ると監督が沢口に尋ねる。
「モトちゃんって、最近薬へらした? ちょっと男っぽくなってるというか……」
「いえ、そんなことはないはずですが……あっ」
 沢口は社長の言動を思い出した。『汁だすには、すこーし男らしくないとなー』だ。ただの雑談だとおもった。もしかしたら、少し薬が減らされたのかもしれない。
「まぁ、精力があるほうがいいからね。でも、薬止めると体調とか崩れるんじゃないのかい」
 監督はいい人だ。もし、薬の量が減っているならば元に戻せばいい。そして、社長に物申せば済む。そして、本番は始まった。
「先輩……。男の子になっちゃったってホントなんですね……」
 薬を間違って飲んでしまい、男になった秘書の先輩を新入社員の女子社員が慰めるという企画だった。
「どうしよう、これ……。なんだか気持ち悪い」
 気持ちが入っていた。伝わる快感と見た目の嫌悪感は違う。もちろん、射精する感覚には抵抗は無い。いまでは、すこしオナニーもしている。最近では、沢口をおかずにすることが多い。
「舐めてみたら分かるかも……ん、ちゅっ」
 ミャコは奔放な性格だったらしく、男性経験も豊富だった。なにしろGカップもあり、寄ってくる男は山ほど居た。しかし、そのGカップも20代の半ばが見えるという中、重力の制裁を受け始めていた。AV女優転向には、本人も乗り気だったという。
「ん、ん」
 グラビアで一緒に写真を撮られた女の子に自分のチンポを舐められる。その倒錯した状況にモト子の息子ははちきれんばかりに反応していた。女相手にこんな気持ちになるわけは無い。そう思っていたモト子にとって、心の動揺とミャコの舌技は危険だった。
「あぁあぁああ」
 『そういえば、自分のペニスは初めて舐められるんだ』と思いながら、モト子はミャコの口の中へ精液を流しこんでしまった。ミャコは、舌で出たものを絡めとると一部を指先で摘んで見せた。
「にがーい、これは本物のようですよー」
 男たちに扱かれるのと、自分でしごくのと、別の感情、若干の征服感を感じてしまう。自分が男の側にいるといった変な考えだった。
「せんぱーい、私の方も気持ちよくさせてほしいなぁ」
 甘えた声のミャコにモト子は被さる。自分のおっぱいとミャコのオッパイを重ねるように刷り合わせる。そして、自分の物を咥えさせた口を吸う。舌を入れられて、苦いというミャコの言葉が本当だったと思い知らされる。
 そこで、体勢が逆転した。今度は、ミャコが覆いかぶさるような体勢になる。
「せんぱい、舐めてー」
 仰向けになった自分の顔の前、そこにミャコのパイパンがあった。完全に無毛のそこには、今のモト子にはない縦割れが存在している。そして、テラテラと淫靡に輝いていた。
「きゃっ」
 ミャコは、踏ん切りのつかないモト子の顔に座りこんだ。鼻の頭にクリトリスがある。モト子が口にあたるビラビラとした女性器を必死に舐め始めた。カメラは、そこから舐め上げるようにミャコを撮っていく。そして、モト子の顔がびしゃびしゃとミャコの愛液に濡れていった。ミャコが男に人気だったのがわかる。匂いがいいのだ。舐めていられる。
「ああぁん、先輩、上手です、立派な男の子になれますよー」
 顔から股間を上げたミャコがモト子を褒める。ミャコがモト子に再びディープキスをしたところでカットが入った。
「ミャコちゃん、本当にはじめてかい?」
 そんな言葉が入るほど、ミャコは慣れていた。
「だって、監督の作品、ぜーんぶ見たんですもん。ミャコ感じちゃう作品ばかりでした」
 監督の鼻の下が伸びる。
「そうかいそうかい、うれしいねぇ。今回は、すばらしいレズモノが撮れるぞ、きっと。これは、ボーナスも出るかもしれないなぁ」
 スタッフの間から『焼肉、焼肉』という言葉が投げかけられる。そこで一休みして、モト子の本番ということになった。リハーサルに対する本番ではない。挿入ということだ。
自分の女性器は処女のまま。アナルセックスの回数は2回。そして、筆おろしを友達でしようとしているのだ。隣の部屋の沢口は、念仏を唱えていた。きっと、心の何かを軽くしようとしているのだろう。
「さぁ、いこうか」
 監督の声がかかり、ミャコへの挿入が始まった。沢口の健闘むなしく、生挿入ということになった。
「ピル常用なんで、問題ないですー」
 ミャコの目が光った。小ぶりだが硬いモト子のモノについては、股間がうずくほどの期待をしている。女の容姿についた男のモノ。この状況にひどく興奮しているのはモト子よりも、ミャコなのだった。
「アリスちゃん、前からね好きだったよ」
 そう言って耳打ちされたモト子は股間から痛みを感じるほどの勃起を感じた。
「スタート」
 ミャコのアップから始まる。
「先輩、最後のテスト……やりましょうか」
「え……」
「え、じゃない。もう、そんなにおちん○ん膨らませてるんだからわかるでしょう。私のま○こに入れて、そして、出してもいいんですよ」
 言葉をゆっくりと言う。それだけで、自分の股間が刺激されるほどのエロティックさを発揮する。ミャコはモト子を煽動するように胸を自分で持ち上げ、見せ付ける。
「わ、わたしは!」
 シナリオどおりだった。もう少しまどろっこしいシナリオなら厳しかったかもしれない。女とやりたいとはそこまでは思っていない。しかし、股間からくる快感には、抗えないことが分かっている。そして、女の中は、すばらしい。そんな考えが頭をよぎった自分。自分が女ではない何かになりつつある気がする。しかし、仕事なのだ、借金を返済しなければならないのだ。そして、彼女は自分の事を好きといってくれた。
すべては、理由だった。入れたいための屁理屈だ。
「ああぁ、入ってくる、先輩のが」
 入れた感想。そんなものを考える余裕はなかった。この快感の中で、何度も往復しないといけない。でも、出そうだ。そんな義務感と感情の前に、男優の大変さを痛感した。
「ふっふっふん、ふん、ふん」
 モト子はがんばった。最初の男優、ネギ山武雄が見せた突き技を真似てみた。下では、巨乳がゆれ、上気した顔のミャコが喘いでいる。自分のモノが、女の割れ目を出入りする。そんな不条理さがモト子の視界を一瞬白くさせた。
「きゅうう」
 変な声が出てしまった。しかし、ミャコの中ではドクドクと脈打ち、流れ込む精液がミャコの愛液に混じりあうのが分かる。ミャコは、そこで止まってしまったモト子をにやりと見て、自分で引き抜き始める。
「あー、先輩と私の赤ちゃんできちゃったらー。先輩がお父さんですね」
 そのセリフで挿入は最後だった。モト子の息子からは、後から後から精液が漏れ出て行った。
「きれいにしてあげますね」
 撮影が終わった後なのだが、ミャコがモト子のモノを舐めている。もう空になっているに違いない玉袋も丹念に舐めて、自分の愛液とモト子の精液の残骸を舐め取っていく。竿もずずずと音がするくらい吸い込んで、後処理をしてしまう。
「このままだったら、結婚したいなー」
「私でいいのかな?」
 そこでキスして終わりとなる。カットの声が掛かったときは、セリフを思い出せてよかったと感じた。そして、ミャコとのセックスに気持ちよかったという感想と後ろめたい感情が残ってしまった。

その晩、事務所で騒ぎが起こっていた。
「そろそろ、借金は返せたんじゃないですか、社長」
 そう食って掛かったのは沢口だった。ロケを終えて戻ってきた沢口が社長を問い詰めたのだ。事前に経理からの調べはついていた。
「いやぁ、それがな、モト子の子宮の保存が思った以上に高くついてだな」
「うそ言わないでください。あの研究は、製薬会社から資金がでてるじゃないですか」
 沢口がどこかからか持ち出した書類を見せる。
「ちっ、だがな、いまはCMをもらってだな、元に戻すにしても急にはだな……」
「社長! じゃあ、CMが切れたらもういいんですね」
 社長が気おされている。
「あ、あぁ……。まぁ、借金も返せそうだし……。だがな、あんなに売れてるんだよ?まだ、おいしい時期なんだよ?さわぐっちゃん、いいじゃないか、もう少しだけ、もう少しだから。そう、一定のめどがついてからで」
 沢口が手を机に叩きつけようとしたその時、モト子が入ってきた。
「沢口さん、ありがとう。でも、いま止めると、またファンを裏切ることになっちゃう……。だから、もう少しやってみたいの」
 社長の顔が輝く。
「そうだろうそうだろう、それでこそ女優だな。ほら、大河ドラマのオファーもきているし、それが終わってからでもいいんじゃないか。そうだ、ニューハーフコンテストもあったなぁ、あれも出てみないか。もちろん、優勝だろう。よし、がんばっていきましょう」
 調子が上がったのか、そのままどこかへと走り出していく社長。多分、飲みに行ったのだろう。二人きりにされた沢口とモト子。
「沢口さんの気持ち、とても嬉しいわ。もし良かったら、マネージャーだけじゃなくて……」
 沢口の心臓が鳴りすぎて止まるかと思われる。
「親友になってください」
 沢口の心臓が止まっただろう。真っ白に燃え尽きた状態だ。口から出ているのは魂だろうか。崩れる音が聞こえる。
「あ、あ、あ……」
 モト子はペコリとお辞儀をするとそのまま立ち去った。
「女に戻ったら……、恋人にしてね」
 その声が沢口に聞こえていれば、その日の自棄酒による泥酔の後、自転車に轢かれて、全治2週間は無かっただろう。がんばれ沢口、まけるな沢口、あしたは近いぞ!

しかし、変な事態も起こりつつあった。
「やば、妊娠したかも」
 ミャコのつぶやきは誰に聞かれることも無かった……。



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