黒い宝石

 

俺はひと目見て彼女に心を奪われた。

 

夕暮れのダウンタウン。

陽が落ちて暗くなると、女たちが街へ繰り出してくる。

疲れた男たちは、その女たちを目当てに、ここへやってくるのだ。

 

俺もそのひとりだった。

 

派手な衣装に派手な化粧、そしてむせ返るような甘い匂い。

女たちは、傷ついた男を癒してくれる娼婦だ。

 

彼女はその娼婦たちの中でもひと際目立っていた。

 

背が高く、胸は手に余るほど大きい。

厚い唇と、切れ長の瞳。

長い髪にはウェーブがかかり、腰を絞った光沢のあるドレスに・・・黒い肌。

 

そう、彼女は黒人だった。

俺は黒い宝石の虜になってしまったのだ。

 

彼女の前に立つ。

 

「いらっしゃい、遊んでく?」

「ああ」

「うふふ・・・最高の夜をあなたに」

 

 

安宿の一室

薄暗い部屋に、二人きり。

彼女は闇に溶け込んでしまいそうだった。

 

寄り添い、唇を重ねる。

すると、彼女の口から水と、何かカプセルのようなものがねじ込まれた。

 

「ごく」

思わず飲み込んでしまう。

 

「な・・・何を、飲ませた?」

「ふふ・・・すぐにわかるわ・・・」

 

彼女は半歩下がり、服を脱ぎ始めた。

 

チ・・・

 

背中のチャックを下ろす。

手を離すと、ワインレッドのドレスはその場でふわっと床に落ちた。

 

下着の色は黒。

それに網タイツとガーターベルト、そしてコルセットを着けている。

 

紐を緩めてコルセットを外すと、抜群のプロポーションが現れた。

素晴らしい。

 

タイツを脱ぎ、大きな胸を覆っていたブラジャー、そして同じ柄のパンツを脱ぐと、彼女は一糸纏わぬ姿になった。

 

「さ、あなたも脱いで・・・」

 

床にわだかまった彼女の服。

俺も自分の服を脱ぎ始め、床に放った。

 

ほどなく裸になる。

 

「もっとよ・・・」

「え?」

 

彼女は妖しい笑みを浮かべ、右手で自分の左手首を掴む。

そのまま引き抜くような動作をすると・・・左腕が伸びた。

 

「ほら」

 

いや、違う。

肩口から腕の皮が剥け、ごっそり取れたのだ。

彼女は自分の左腕の皮を掴み、ぶら下げている。

 

「あなたもよ」

 

俺は戸惑いながら、同じように引き抜いてみる。

するとやはり、ごっそりと皮が剥けた。

さっきの薬の効果だろうか。

 

皮が剥けた腕は白く、つるんとしている。

毛や、指紋なども一緒に取れてしまったようだ。

彼女のは黒かった。

 

彼女は右腕の皮も引き抜き、その皮を俺に差し出す。

 

「ねぇ・・・とりかえっこしましょ」

 

そう言って俺の皮を奪い、自分の腕に着けていく。

俺も彼女の皮を手に取った。

 

しげしげと眺める。

手袋みたいだな。

 

皮に腕を通す。

中はスベスベしていて、難なく着けることができた。

 

「わ・・・」

 

違和感は全く無い。

手袋をしているような感覚もない。

まるで生まれたときからそうだったかのようだった。

 

「ふふ・・・じゃあ次は脚ね」

 

そういって彼女は太ももの皮を掴んだ。

 

ずる・・・

 

ストッキングを脱ぐような要領で皮を剥く。

その仕草、ほんのり覗く茂みに、俺は釘付けになる。

 

皮の下から現れた肌は、やはり黒くつるんとしていた。

 

「はい」

これも交換する。

 

もらった皮に、脚を通す。

つま先には5本の指が付いているので、俺の足の指もそれぞれに入れた。

足の指を締め付ける感触が心地よい。

踵を入れて、太ももまで引き上げる。

 

両脚を穿くと、俺の脚は彼女の脚になった。

 

ここまでで、俺の下半身はもうすでにバキバキだ。

彼女の脚を撫でながら、彼女の腕でそれを掴む。

 

「う・・・気持ち・・・いい・・・」

「ちょっと気が早いわよ、じゃあ、はいコレ」

 

今度は胸元を掴んで引き下ろす。

ずるん、と大きな胸ごと皮が剥けた。

剥けたあとの彼女の胸は、つるぺたになっている。

 

交換した胸の皮を、自分の胸にあてがう。

すぅ、と馴染むと、ずっしりとした重さを感じた。

 

胸元を見る。

巨乳だ。

こんな角度からは見たことがない。

 

「は・・・ん・・・んん・・・」

 

胸を撫で回す。

重くて柔らかい。

 

そのあと、他の部位も交換していった。

奪い、奪われ、違う自分になっていくさまに、俺はドキドキしていた。

 

そして残るは顔と股間だけとなる。

 

「ふふ・・・もう少し・・・もう少しで・・・」

 

彼女は自分の髪を掴み、そのまま引っ張る。

ずるり、と頭皮ごと顔の皮が剥け、目も鼻もないのっぺらぼうが現れた。

やはり肌は黒い。

 

俺も同じようにした。

 

彼女から顔を受け取り、それを被る。

肩に、髪がかかる感触がした。

 

「うふふ、どう?」

 

俺の顔をした彼女が、鏡を向けてくれた。

それを覗く。

鏡の中の俺の顔は、彼女になっていた。

出会ったときと同じ顔だ。

 

「すごい・・・信じられない・・・」

 

声も彼女になっている。

 

「じゃあ、最後ね」

 

彼女は俺のアレを掴んで引き抜く。

それは残った皮ごと奪われていった。

 

俺も彼女の股間を掴み、それを奪う。

 

手の中のそれは、茂みに覆われていて、ぴくぴくと動いていた。

割れ目からはすでに熱い汁が溢れている。

 

つるんとなった股間に、お互いのものを着けた。

 

ドクン!

 

その途端、今までに感じたことのない感覚を覚えた。

 

欲しい!

 

なにかを強く欲する感情。

熱く、切なく、どうしようもない気持ち。

 

「あ・・・あ・・・」

 

俺は小さく震え、俺の姿をした人のほうを見上げた。

その人は俺の肩に手を置く。

 

「あああっ!」

ビク!

 

触られただけで、全身に痺れるような感覚が走った。

動けない・・・。

 

「うふふ・・・最高の夜にしましょ・・・」

 

そして最高の夜となった。



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