皮貸し
時刻は深夜1時。
俺は、残業で疲れた体を引きずって自宅のマンションに帰ってきた。
IT関連企業の開発部門なんて、過酷なだけで給料も安い。
転職でもするかな、とか考えながら・・・。
マンションのエントランスに来ると、備え付けのソファーにひとりの女性が座っていた。
年のころは、20代前半にみえる。
ショートの茶髪で、キャミとGパンという格好。
足元はペディキュアを塗っていて、ミュールを履いている。
まつげと目元を強調する最近流行りのメイクをした、そこそこかわいい女だ。
その女は俺と目が合うと、近づいてきてこう言った。
「ねぇ、あなたあたしの体に興味ない?」
「は?」
思わず聞き返す。
なんだ、売りでもする気か?
「興味あるんでしょ。いいのよムリしないで。しばらく貸してあげるから・・・いっぱい・・・楽しんで・・・ね・・・」
「うわ、うわわ!」
不覚ながら、声を上げてしまった。
この女、言うなり、空気が抜けていくようにしぼみ始めたからだ。
人間がしぼむ・・・こんなことが現実にあるのだろうか。
あまりに突然の出来事に、頭が混乱する。
女がいきなり出てきて、いきなりしぼんでいったのだ。ムリもないだろう。
しぼみかけの女が、俺にもたれかかる。
俺は動けない。
やがて女は、床に落ちていく・・・。
そして床には、先ほどまで中身入りだった女の皮だけが残った。
服は着たままだ。
拾い上げると、確かに先ほどの女のように見える。
中身の無い、皮だけの女。
放っとくこともできないので、とりあえず自分の部屋に持ち込んだ。
部屋に戻って、食事と風呂を済ませる。
ひととおり落ち着いたところで、改めて先ほどの皮を取り出した。
床に広げる。
人の形はしているが、その中身は無い。
まるでダッチワイフのようだ。
この女は何者だろう?
一体どういう原理でこうなってるんだろう?
と、疑問は尽きないが、考えても答えがでるわけでもない。
この女は「楽しめ」と言った。
どういうことだ、どう楽しめばいいんだ?
俺は、自分自身がこの皮に興味を持ちはじめているのに気づく。
こんな経験は、めったにない。
まずはこの皮を調べることにしよう。
服を脱がしにかかる。
しかしこれが、なかなか脱がしにくい。
まるで、絡まった洗濯物を解いてるような感じだ。
だが、程なくその作業も完了する。
俺は、しげしげと観察した。
肌の質感、手触りなど、どこもかしこも本物そっくりだ。
もちろん、あそこの形も同じである。
いや、先ほどまでは本物の人間だったのだ。
俺がこの目で見てる。
さて、どうやって楽しもう?
俺は空気穴を探してみた。
ダッチワイフみたいに、膨らますことができるんじゃないかと思ったからだ。
しかし、どこにもそんなものは無かった。
もっとも空気を入れようにも、目や鼻、口などから漏れて、膨らますのに難儀するだろうが。
その代わり、首の後ろから背中と腰にかけてスジがあるのに気づいた。
俺はそれを境に指でつまんで、左右に引っ張ってみる。
スナック菓子の袋を開ける要領だ。
ピーッと音がして、スジが裂けた。
もちろん何も入ってない。
じゃあ、中に何か詰めればいいのだろうか。
俺は辺りを見回して、何か詰められるものを探した。
が、見つかったのはせいぜい座布団とか、クッションの類だ。
こんなものを詰めても、元の人の形に膨らむとは思えない。
・・・ということは、これを着るのか?
俺が。
俺は女の皮を取り上げる。
着ぐるみとして楽しめ、ってことかね。
つまりは、女装しろということか?
ダッチにできないなら、そのままブルセラグッズとして楽しむしかない。
匂いを嗅いだり、自分で着たりだ。
裂け目を広げてみる。
入るかな、ここに。
まずは足からかな。
俺は女の皮の脚の部分をたくし上げ、靴下を履くように足を入れる。
オレンジ色のペディキュアが見えた。
きついかと思ったが、皮が若干伸びてくれたので、なんとか足を入れることができた。
次は腰の部分にかかる。
これもきつい。股間がピチピチだ。
頑張って、腕を入れる。
やはり小さい。
胸も、びろんと広がってしまい、しかもしぼんでいた。
最後に顔だ。
フードのようになっているそれを、俺は被る。
破れやしないかと、ひやひやしたが、なんとか入った。
目の部分から、周りが見える。
鏡を見ると、全身キツキツだ。
これじゃ、この上から服とか着れないし、外には出られない。
ダメじゃん・・・。
諦めて他の方法を考えよう、と皮を脱ぎかけたとき・・・。
体に何かが起こるのを感じた。
きつかった脚、腕、股間その他は、だんだんと元の形に戻りだし、背中の裂け目も塞がっていく。
体つきも丸く変化して、身を縮めるようにしていた姿勢も楽になる。
その変化は、程なくして終わった。
何が起こったのだろうと、鏡を覗く。
するとそこには、さっきの女がいた。
いや、俺だ。
鏡の前に立ってるのは、確かに俺のはず。
視線を落として、自分の体を見る。
どこを見回しても、元の俺の体ではない。
女の体だ。
信じられないが、どうやら俺は、女の皮を被って女になったらしい。
そうか、あの女が楽しめ、と言ったのはこういうことか。
と合点がいく。
明日はちょうど休みだし、では遠慮なく遊ばせてもらうとしよう。
時刻は2時半を回っていたが、朝まではまだ時間がある。
寝なければならないが、素直に寝てしまうのはもったいない。
俺はベッドに座り、自分の胸を揉み始めた。
「んぅ・・・ぁ、ん・・・」
ちょっとした好奇心からオナニーを始めたのだが、いつもと違うのに気づいた。
着ている皮の下の、自分の一物を探しても見つからないのだ。
というか、何かを着ているという感覚がまるで無い。
しかも体に感じるこの感覚。
どういうわけか、この体は女の体として機能していた。
胸を掴む。
胸を回すようにして揉む。
乳首を手のひらで転がす。
ちょっとつまんでみる。
いろいろと試してみた。
ゾクゾクとした感覚が心地よい。
股間が濡れてるのがわかる。
が、まだまだ弄らないで焦らす。
自分で自分を苛めていた。
「んん、んぁ、ぅ、は、はぁ、はぁ」
だんだん気分が高揚していく。
股間にも、いつのまにか指がいっていた。
割れ目に沿って撫でる。
指の入るところを探して押し込む。
「・・・ぅ、あ・・・ん」
ズブズブという感触。
熱い汁が、指を伝って手のひらに落ちてくるのがわかる。
指を2本、膣に入れたまま、親指でクリを探す。
「ぅぁ!はあはあ、っあ・・・っく、ああぁ・・・・ぁは・・・」
男では感じることのできない、ものすごい快感に俺は夢中になっていた。
「んんんんんっ!はあっあああああああ!!・・・・・・・・・ぅ・・・」
イった。
話には聞いていたが、女の快感というのは本当にすごい。
男のではない、初めての女のオナニーだ。
しばらくは腰に力が入らなかった。
どうやらこの皮は、ただの全身タイツではないらしい。
いまの俺の体は、完全に女の体だった。
にわかには信じがたいが、今しがたオナニーを済ませたところだ。
ここはひとつ、現実をありのまま受け入れるべきだろう。
気持ちいいことも済ませたので、そろそろ寝ようかと思ったが、ふとメイクを落とさなきゃ、と思い当たる。
ついでに風呂にも入りなおしたい。
さらに、明日のお出かけ時の化粧用品も無いことに気づいた。
コンビニでいいかな?
風呂は後回しにして、買い物に出かけるため、俺は着替えた。
さっきまで、この女が着ていた服を身に着ける。
財布を持って、近所のコンビニへ行く。
コンビニの化粧品売り場だ。
って、よく考えたら、俺は化粧品のことを全然知らねぇ。
とりあえず、メイク落としかな。
あとは、これとこれとこれと・・・。
不思議なことに、俺は化粧品のことなど知らないハズなのに、ひょいひょいとチョイスしていた。
化粧水、ファンデ、マスカラ、口紅など・・・。
これも皮を着てるおかげか?
買い物を済ませ、自宅に戻る。
そして風呂に入って、今度こそ寝ることにした。
明日が楽しみだ。
翌朝、起きたときはもう10時近くになっていた。
俺はブランチも外で取ろうと思い、出かける準備をする。
まずは着替えだ。
とはいっても、他に女物の服を持ってるわけではない。
昨日着ていた服だ。
今日はショッピングもするつもりなので、服も買おう。
そしてメイクを始める。
もちろん、やり方なんて知らない。
しかし、鏡の前に座ると不思議と手が動く。
コンビニのときと同じで、女の皮を着ているからだろう。
ただ、意外とメイクというのは時間がかかるようで、結局お出かけの準備が整ったときには、昼を回っていた。
これじゃ、ブランチじゃなくて、立派な昼食だな。
まあ、腹も減ったので、お出かけしよう。
繁華街に出た。
女ひとりなので、立ち食い蕎麦やら定食屋などには入れない。
ショッピングセンター内で、パスタ屋を見つけて腹ごしらえをする。
そのあとに、ウィンドウショッピング。
いろいろなブティックなどを見て回る。
いまはどんなファッションが流行りなんだろうか。
そういえば俺は、そういう女性向きの情報も全然知らない。
いや、当然といえば当然なんだが。
周りを見回して、他の女の子の服装をチェックとかしてみる。
もちろん参考にするためだ。
そういう涙ぐましい努力の末、2〜3着分を購入。
穿いてみたいと思っていた、ミニスカートも買った。
アクセサリーの類も見てみる。
あんまりよくわからないが、適当に指輪とかペンダントとかを買ってみた。
あとは下着だ。
男のときは、絶対入れなかった下着屋だが、今は女なので堂々と入れる。
女の下着ってのは、派手なものが多いんだな。
結局、結構な出費になってしまったが、買い物自体には満足できた。
荷物を置きに、一旦自宅に戻ろう。
このあとのお楽しみもあるしな。
夕方、自宅に戻った俺は、着替えて化粧をしなおした。
このあと、ナンパされに行くためだ。
この体は結構かわいいので、おめかしすれば放っとく男は少ないだろう。
メシを奢らせて、その後は・・・。
昨夜はオナニーだったが、今度はSEXに興味が湧いていた。
今は女なのだから、女として体験してみたい。
オナニーも気持ち良かったが、SEXは未知の領域だ。
俺は、女としてそれを経験できることに、ワクワクしていた。
程なく、準備を済ませた俺は、もう一度街へ出た。
夕方だが、まだ明るい。
思った通り、あちこちから視線を感じる。
さっき買ったミニスカートを穿いてるからだろう。
俺は、なにをするでもなく、街をぶらぶらしていた。
ナンパ待ちである。
「あの、すいません」
しばらくすると、誰かが後から声をかけてきた。
「はぃ?」
振り返ると、男がひとりいる。
短く刈った髪と、ハンサムとはいえないが爽やかな印象を受ける顔だ。
やはりナンパだった。
イケメンではなかったが、そこそこいい男だし、要は需要と供給が一致すればいいのである。
俺は当然OKをして、この男にごちそうになることにした。
ディナーにはまだ少々早かったので、それまで喫茶店やらゲーセンで時間をつぶす。
そうして遊んでいると、いい頃合いになってきた。
男が、いい店を知っているというので、そこに行くことにする。
途中、大通りへ出るのに近道だというので、狭い小道に入った。
ちょっと期待してみたのだが、男はひょいひょいと道の出口まで進んでいく。
どうやら本気で通過するだけのようだ。
俺は男の服の裾をつまんで引き止める。
「ん、どしたの?」
男が振り返った。
俺が上目づかいで見てやると、それに気づいたのか、肩をつかんで道の奥にいく。
辺りに人目がないのを確認して、俺たちはキスをした。
「はぁぁ・・・」
ディープなやつだ。
唇を離すと溜息が出た。
「続きはまたあとでね」
こんなところで始めるわけにもいかないので、お楽しみは後ということにして、俺たちは店に向かった。
ホテル。
俗っぽい言い方をすれば、ラブホだ。
食事を終えた俺たちは、ラブホに来ている。
メシはマズくはなかった。
なかなかおしゃれな店だったし、カップルも多かったので、ナンパご用達の店だったのだろう。
俺も今度使ってみようかな。
ともあれラブホである。
俺はシャワーを浴びていた。
してもらうんだから、念入りに洗わなきゃな。
とはいえ、あまりのんびり入っていても時間がもったいない。
しかしさすがラブホ。風呂はうちのよりもデカいわ。
俺がシャワーを済ませたあと、男も風呂に入る。
お互い、綺麗になったところでベッドへ。
ベッドに座ると、男が押し倒してきた。
実は中身が男だとも知らないで。
自分の髪から、シャンプーの香りがする。
バスローブを一枚脱げば、もう裸だ。
「ん、ぁ・・・は、ぅ、ん・・・んあ、ぅ・・・ふ・・・ふ・・・」
軽くキスをしたあと、胸を中心に愛撫される。
やさしく扱ってくれた。
こそばゆいなか、それとは違う感覚も感じる。
気持ちいい。
思考力が落ちて、あまりモノを考えられなくなってきた。
「はあ、はあ、あ、ふ・・・んんぁ、っくぅ、ん、ぁあぅ、んっ」
息が荒くなる。
自然と体がよがる。
そろそろくるころだ。
「・・・きて」
催促した。
男も承知だったらしく、自分のモノを俺の股間にあてがう。
ズブズブ。
という感触とともに、俺の中が一杯に埋まってきた。
俺もかなり濡れていたらしく、意外とすんなり入ってくる。
オナニーのときの指とは、あきらかに違う。
「はぐ、ぅ、ふぁ、は・・・」
いっぱいいっぱいになったところで、男が動く。
俺も腰が浮く。
ぬちゃぬちゃとした感触が、だんだんと俺を高揚させる。
もう少し、もう少し・・・。
や、もう限界だ。
「は!ぁぅ、ふ・・・っ!」
一瞬真っ白になった。
くたっ、と力が抜ける。
見ると、男もいったところのようだ。
俺の中で、脈打つものを感じる。
女としてのSEXは、思っていた以上によかった。
しばらく余韻を楽しんだあと、俺たちはラブホを出る。
明日も仕事だしな。
別れ際に、男が俺の連絡先を欲しがったが、「次会ったときにね」とかなんとか言ってごまかした。
自宅に戻ってきた。
尾けられたとしても、マンションがバレるだけで、部屋まではわからないだろう。
俺はメイクを落として、風呂の用意をした。
メシは食った。気持ちいいこともしたので、あとは風呂入って寝るだけだ。
そういえば、この皮はどうやったら脱げるのだろう、と考える。
明日も仕事なので、このままでは困る。
困るのだが、そうなったらそうなったで、仕事を休めばいいか。
というか、もう面倒くさいので、明日は休んじまうかな。
もう俺は、このまま皮が脱げなくてもいいような気分になっていた。
翌朝。
昨夜は早く寝たため、少し早く目が覚めた。
起きると、自分の体が元の男に戻ってるのに気づく。
ああ、もう時間切れなのか。残念だな・・・。
昨日のことを思い出す。不思議な体験だった。
のろのろと起きて、リビングに行く。
すると、テーブルに手紙が置いてあった。
『おはよーっ。昨日は楽しめたかな?悪いんだけど、あたしもこれから用事があるんで、これで失礼するね。縁があったらまた会おう〜。byebye』
どうやら、彼女は帰ったようだ。
まあ、そこそこ楽しめたので、感謝しておこう。
ふと、部屋を見回すと、昨日買った服が消えているのに気づく。
あと、化粧品も無い。
怪訝に思って、手元の手紙をもう一度見る。
裏返すと、続きが書いてあった。
『P・S 服と化粧品は必要ないだろうから、もらっといてあげるね。あと代金も頂きました。thx〜』
あわてて財布とか戸棚を確認すると、合計で10数万消えていた。
・・・やられた。
抜かりのない女だったようだ。
しかし、なぜか気分は悪くない。
女を体験できたんだから、安いもんだろう。
次の機会があったら、ぜひまたお願いしたいくらいだ。
とりあえず、今日は気分よく仕事ができる気がした。