9.旅行の準備

 「香山さん。」

 「はい。」

既にデートのときは『課長』の呼称はなくなっている。

「次の3連休は沖縄に行きましょう。予約がとれたんです。次の土曜日の8時に羽田で待ち合わせですよ」そういって松下は軽くキスをして、チケットを渡して帰っていった。突然のことに香山は何も言えなかった。

 (強引だわ。強引よ。心の準備だってまだ。それにしても)

これまでキス、それもいわゆるディープキスもしていないのにどうしていきなりこうなるのか。香山にとっては本当にいきなりのことだった。一方で、いよいよ来るべき時が来たと思った。そう、このくらい強引でないとたぶん私は踏み出せないかもしれない。

 

 そのころ電車の中で松下はほくそ笑んでいた。

(びっくりしたみたいだな。女としていろいろ教えてあげた が、そろそろセックスしてもいいだろう。レストランの座席に座るときとか、メニューを決めるとき、グループで行動するとき、くくくく、俺に決定され、俺に 従うことが自然にできるようになったからな。やっぱり処女を破るときはレイプっぽくやりたいけど、女らしくなってくれていないと面白くないからな。今が一 番いい時期だ。さて、今日からオナニーは禁止して精力をためておかなきゃな。)

 

 

 「課長、ここ、、、、違ってませんか?」

「あ、そ、そうね、どうしたのかしら私、こんな初歩的なミス。役員会に提出するレポートなのに。ありがとう、教えてくれて。」

にっこり微笑む香山に部下の石井はどぎまぎした。

(なんだか今日の課長、色っぽいな。こんな女性と恋人にな れたらうれしいだろうなー。課長と恋人になれたら俺が食事とか洗濯とかやってあげてもいいや。そしてセックスも、  そうだな、きっと課長は受身っていう イメージはないから、とことん俺が尽くしてあげて、、、こんなところでなんてことをかんがえているんだろう、いかん、正気に戻れ   )

「課長、昨日からちょっと変ですよ。風邪ですか?」

「ううん、なんでもないわ。いつも通りよ。」

「そうですか?」(いつもよりなんだか少女っぽいっていか、かわいいっていうか、あーーあ、いいなぁ、こんな女性を彼女にするってどんな男かな。仕事がすごくできる大人の男なんだろうな。)

「いつまで見てるの?さっさと机にもどりなさい。」

「は、はい。失礼しました。」(急に冷たい感じになるんだものな。女ってわからないよ。)

 

(いけないわ。なんだかぼーっとしちゃってる。)

ちらりと松下の方を向くと松下は素知らぬ顔で仕事に集中していた。

(私が女だからかしら。週末のことが気になってしょうがないのに。男性って仕事と女性と区別できて女性はそういうのは難しいってほんとかもしれないわ。今週末は行けないからエステは今日行ってみようかしら。女ってつくづく面倒ね。でも、初めて抱かれちゃうから、、)

 また顔を赤らめて仕事に集中できなくなる香山であった。

今日はタイトスカートを身にまとっていた。女を意識してからタイトスカートが多くなった。自分がすごく魅力的な肢体をしていることはわかっている。(腕が少し太いかな)

そんなことを人前で言おうものなら容赦なく、また自慢してぇ、などと虐められるかもしれない。自分が男で今の自分を抱けるとなったときにはむしゃぶりつくように責め続けるだろう。少し虐めたくなってしまうかもしれない。自分では腰のくびれが好きだ。

(きっと松下さんも)

そう思ってつい腰のラインを強調してしまう。今日は生理のまっただ中であったが、松下の目を気にして今週はずっとおしゃれをしていた。年若い男性社員がヨダレをたらすのは当然かもしれなかった。

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