15.真実

 

 社長室に呼ばれて入るとそこには既に健司さんが来ていた。社長室に呼ばれることはありえないことなのでドキドキして入ったけれど、ちょっと安心。

「ああ、来ましたか。そこにかけて下さい。二人にはいろいろと申し訳ないことをしましたね。すみませんでした。」

当社の社長は女性である。確か60歳を超えているはずなのに、40歳くらいに見える。すごくわかくて綺麗だわ。初めて間近に見てそう思う。すごいわ。圧倒されていると社長が言葉を続ける。健司さんにはあらかた話はされているみたいだった。

「薬の効果は素晴らしかったでしょう?でも世間には売り出しは出来ないから社内で有効に使うことにしたんです。あなた方の他にも既にもう何人かに使っているんですよ。気がつかなかったでしょ?ふふふ。」

えーーーーー?何人かに使ってるって、そんな大変なことしていいの??

「そんなに驚かないでもいいのよ。どこもそうなんだけどダメな社員はいるわ。そこを有効に活用していくために使おうと思ったのよ。あなた方はもともと優秀だからあまりわからないかもしれないでしょうけど、あの薬で性が入れ替わると仕事の能力が高くなるのよ。」

社長の話はこうだった。あまり能力が高くない男女の社員の性を代えて優秀な社員にするらしいのだ。もちろん家族構成やらなんやらも調べて問題が無さそうな社員を選ぶらしい。

「女性から男性になった人は女性らしい気遣いをしながらも、より男性的で攻撃的な営業ができるようになるの。優しくて力強い男性ってある意味理想よね。そしてセックスも強くなるの。松下課長の場合もそうよね。」

二人で顔を染めてうつむく。

「でも松下課長にはさっきり言っておいたわ。浮気はダメよって。結婚してからも浮気なんかしたらいけないわ。そうでしょ、松下課長。」

「はい、もちろんです、社長。」

「よろしい。ふふ、結婚相手ってあなたのことよ、香山課長。」

「えーーーー?!」

思わず声を出して驚いた。横をみるとニッコリ笑う健司さんがいる。そこで健司さんは退室させられた。

「彼は大丈夫よ。浮気なんか出来ないから。この会社を追い出されたら困るでしょ。そもそも今の仕事が好きみたいだし、役員を約束されたら危険なことはしないわよ。野心のある男性だからね。」

役員?そこまで社長が考えていることを知ってビックリするやら嬉しいやら。

「次はあなたね。彼との結婚には異論はないわよね。」

「はい、もちろんですわ。」

「よろしい。そうそう、男性が女性に変わった場合の効果を説明してなかったわね。」

その効果とはこういうことだった。頭が良くなる、記憶力や判断力、決断力などが極端に上昇するのはこの場合も同じ。しかも、女性としての能力も通常の女性より格段に上がるというのだ。スタイル、顔、そしてセックスも。老化も遅くて若さが続くらしい。

「だってほら、私をみればわかるでしょう?60歳には見えないと思うけど?」

「えーーーーー?すると社長も、ですか?」

「そうよ。旦那はこの会社の創業家なんだけど社長のプレッシャーに耐えられずにいて、それこそほんとうに間違って薬を飲んでしまった私を見初めたのよ。ふふふ。だから薬の効果はよく知ってるわ。」

目を丸くしたとはこのことだ。驚いた私に社長が話を続ける。

「仕事では男に舐められないように頑張るでしょ。美人で切れもののキャリアウーマン。うふふ、でもセックスではMっ気が相当強くなるのよね。でしょ?」

「は、はい。」

真っ赤になってうなずく私。

「男性の征服欲っていうのはよく知ってるし、それに応えようとするほど自分の被征服欲の存在を思い知らされる。松下さんみたいに男性化した人にはたまらない女性になってるのよあなたは。一方で男性は社長とかからの命令は絶対だから、安心して。彼は絶対に裏切らないわ。」

嬉しい。これでずっと女として生きていくことが出来る。老化が遅いというのも心強い。だって、私は女だから。でも役員夫人になるの?私が?ピンとこないわ。私もなれるかしら?

「ごめんなさいね。あなたがいくら優秀でも女性を役員には 出来ないわ。やっぱり男性上位の社会だから、わかるでしょ?男性って自分の奥さんだけでなくて女性一般よりも上位でいたいものなのよ。あなた方二人を別組 織に配属した理由もそれ。ああ、あなたは今日から社長室兼企画部よ。でも企画部のほうが偉いって思う場合もあるから、家庭では徹底的に尽くしてあげて。特 にセックスはね。そんなことをあえて言わなくても今のあなたならそうするでしょうけれどね。ふふふ、存分に彼の征服欲を満たしてあげて。あなたもそのほう がうれしいでしょ?」

全てを見透かされていて恥ずかしいけど、その通りだと思った。女性相手なら結構あけすけに話せるわ。

「ではあなたは今日から社長室秘書兼企画部よ。よろしく頼むわ。もう一つ。女性化した人が2名企画部に配属させたから、そっちの面倒もみて欲しいの。松下さんのところにも男性化した2名を置いてるから、いってる意味は、わかるでしょう?」

「は、はい。」

秘書兼企画の仕事よりもそっちのほうがプレッシャーだわ。 でも社長は私の今後の生活の安定を作ってくれた人。恩返しの意味でも頑張らないといけない。引き継ぎの計画や諸々の打ち合わせが終わるとやっと解放され た。営業ルームに戻ると雰囲気が違う。?健司さんが近寄ってくるといきなりだった。

「結婚してほしい。」

ここで?皆が見てるよ。いいの?

「はい、喜んで。」

すぐに抱きしめられてキス。これからプロポーズするって聞いていた課員は固唾を飲んでいた。パチパチと拍手が。振り返ると社長がいた。そこで皆も祝福の拍手が。両親を亡くして親戚付き合いもない私は結婚式は無 かったからこれが結婚式のようなものだった。私は晴れて松下佳織になったのだ。

 

ただし、会社では旧姓をそのまま使うわ。だって私はキャリアウーマンなんだからね。

 

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