『 RENTAL BODY Ver7 〜RB七変化〜 』
作:2bit
「ここが、今日からの俺の職場か」
見上げたビルは警視庁。俺の名前は水無月純。
交番勤務での仕事が認められ、今日から捜査課に配属されることになった新米デカ――ハッキリ言って栄転だぜ。
くぅ〜! 格好いい。格好いいぜ。デカなんて。
きっとあだ名なんか付けられて、激しい銃撃戦で、コートの襟を立てての張り込み。
早朝はあんパンと牛乳。いきすぎた暴走に上司には睨まれたりして……
いい。無茶苦茶いい(妄想ばく進中)
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いかん。涎が出ていた。
スーツの袖で涎を拭い、受付へと向かう。
「すいません。今回捜査七課に配属されることになった水無月巡査だけど、七課はどちらにありますか?」
「七課でしたら三階の突き当たりになります」
「そうですか。失礼します」
受付から離れようとした俺の背に、
「がんばってください」
受付をしていた婦人警官からの激励が飛ぶ。ただ、その寂しげな口調が気になる。
『捜査七課』
プラカードを確かめ、扉を開ける。
何を担当しているのかは知らないが、今日からの俺の職場である。
そこには、少し暑苦しめの数人の男達がいた。
猛者だ。
歴戦の強者を感じさせる視線に射抜かれ、俺の心は震えた。いや、奮えた。
自然、浮かぶ冷笑――
右手を挙げ、
「この度、捜査七課に配属されることになりました、水無月純です」
敬礼する。
「おお、君が水無月君か」
一番奥にある席に座っていた50代前半の男がやってきた。
ずんぐりむっくりした体型からは想像もつかない、隙を感じさせない足運び。
できる。
「私がここの課長をしている狸屋だ」
「宜しくお願いします」
大きく頭を下げた。
「そんなに畏まる必要はないよ。ここはファミリーみたいなものだからな」
人の良さそうな親父だ。でも、底が見えない。
「メンバーを紹介したいが、大半は出払っていてな。ひとまず居る連中だけを紹介しよう」
「ヘルハウンド」
最初に名乗るは、一番近くにいた皮のつなぎをまとったサングラスの男。
「あの……本名は?」
「フッ。ここでは名前は不要だ。ここでの俺はヘルハウンド以外何者でもない」
なんか……
無茶苦茶格好いいじゃないか!
「俺はオリンピック。君はスポーツ好きか?」
オリンピック……?
体育会系の健やかな笑顔を浮かべた男が名乗った。
「んで、次は俺か。俺は浪人だ」
無精ひげの男が言う。侍――ってコトなのか……
「ラビット」白尽くめに隻眼の男。
「チャイナ」カンフースーツを身に、長い三つ編み。
「カウボーイ」腰に二丁の拳銃。
「グレイ」全身灰色……ネズミ男?
そして一番奥の男が手を軽く挙げる。丸太のように太く、鍛えられた赤銅色の腕。
マッカーサーの写真にあったようなパイプをくわえた口を器用に動かし、
「セーラだ」
名乗った。
う〜ん、水兵ってコトなのか?
「君もここで働くようになるならニックネームが必要だな」
「付けていただけるんですか?」
課長の顔を覗き込む。
「ああ。もう決まっている。君はジューンだ」
「ジューン……ですか?」
名前の純からきているのか?それとも六月(水無月)?
どっちらにしても少し安直な気がして、勢い込んでいた気持ちが少し落ちた。
「あの、課長。もう少し別の……」
あだ名の変更を願おうとしたその時、内線に電話が掛かった。
セーラーが受話器を取る。その顔に険しさが増す。
「課長、一課からの221−Wの応援要請だ」
「221−Wか。すまんが、セーラ、ジューン連れて行ってくれるか?」
「かまいません」
コードの意味する内容を知らない俺は、呆然としたままセーラ先輩に引っ張られていった。
「先輩。駐車場なら向こうでは――」
「車の前に準備がいる」
そう言って連れ込まれたのは、七課の奥にある小さな部屋だった。
そこは、何かの研究室のようで……白衣姿の男が一人。検死を担当する鑑識官か?
そんな疑問を浮かべる俺をよそに、
「ジューンのは出来ているか?」
「はい。出来てますよ、セーラさん。完璧の仕上がりです」
「出来てるって何が――」
訊ねる言葉が終わらぬ内に、俺は奥の壁に設置されていた何かの装置に押し込まれていた……
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頬を撫でる感触に目を覚ました。どうやら、車に乗せられているようだ。車体が揺れる度に、何かが頬を撫でる。
撫でる『モノ』をどかそうと手で払う。その腕が白い――手袋をしていた。
そして、払ったモノは肌理の荒い編み目が見えた。
何だ?
怪訝に思い見下ろしたそこには…… 「――――ッ!?」
自分の姿に呆然とする。
見慣れぬ二つのふくらみ。全貌がよく解らないが……どうやら純白のウエディングドレスみたいだ。
「何なのよ……これ?」
ガラスに映るは、うら若い美女の花嫁。
「ジューンブライダル(六月の花嫁)。あなたのジューンは、結婚詐欺や結婚式場での張り込みを担当するコード名よ」
隣から涼しげな声が聞こえた。
「捜査七課――通称七変化。RBを利用した囮捜査や支援を担当しているトコよ」
横を見れば、セーラー服姿の女子高生が座っている。
「あなたは?」
「嫌ね。セーラよ。セーラ。私は女子中高生の囮捜査を担当しているの。今回は、従姉のお姉さんの結婚式に、招かれた親戚の女子高生ってコトね」
…………(汗)
「そんな、私、できません!」
「大丈夫よ。一応性格性質設定は施してあるから」
だから……不安と期待に心が高鳴るの!?
でも、この心理状態って、全然大丈夫じゃない。
どうやら私は、栄転ではなく左遷されたのかも知れない……たぶん、きっと……
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――って、もう嫌だぁ!!!!!!」
俺の叫びが捜査七課に響き渡る。
「来る日も来る日も花嫁なんて、俺の人生おかしくなりそうだよ!」
いくら性格性質設定は、元の体に戻れば関係ないとは言っても、あまりの連続しように俺の精神は疲弊しきっていた。
この間の非番の日、デパートのウインドウに飾られていたウエディングドレスに見とれ憧れ、思わず着てみたくなったなんて、口が裂けても言えない。
本当に、このまま花嫁ばかりやらされていると、マジでやばすぎる。「花嫁は嫌か?」
「嫌です」
課長の問いかけに俺は即答でキッパリと応えた。
「そうか」
部屋を見渡す課長。
「グレイ。例の仕事、人が足りないって言っていたな?」
灰色尽くめの先輩はコクリと寡黙に頷いた。そう言えば、この人のRB姿を見たことがなかったけど、何を担当しているんだ?
些細な疑問を浮かべている俺を無視するように、
「なら、気分転換にジューンを参加させろ。ついでに、私自身が指揮を執る」
「例の仕事って?」
訝る俺に対し、
「なに。ちょっとした人の多い場所にスリ団が来るってたれ込みがあってな。それの一斉検挙だ」
課長はそれ以上教えてくれなかった。
まぁ、ウエディングドレスを着なくて済むならそれもいいかも……
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――って、甘かった。
熱気むんむんとした空間でガックリと項垂れる。かなり広いはずの空間は、冷房など意味をなさないほどの人の群でごったかえしていた。
膨大な本を抱えた人々の群に難儀していると、
「☆∞£℃¢%&☆@◇↓↑○(よう、捜査はどうだ?)」
耳障りな言語と共に、頭の中に直接言葉が届く。
振り返った先には、宇宙人――グレイが立っていた。
あまりに際だった先輩の姿なのに、この空間では埋没し、全く目立たない。
「≪∋⊇∃○∴(頑張れよ)」
そう残して、人混みの中に紛れるように去っていった。
かく言う自分のRBは――
「ねぇ、キミ、写真撮らせてよ」
「ポーズ取って、ポーズ。決めポーズ」
「やん、可愛い♪」
掛けられた声に対し、上目遣いに見上げる。
低すぎる身長のため、世界が変わって見えた。
ピンクのヒラヒラと、もわっとした装飾。不思議な形をした杖――
否応なく視線を集め、思わず俯きたくなる。
でも、性格性質設定が邪魔して、それも出来ない。
「サクラ。愛想よう、笑い。可愛い顔が台無しやで」
「サクラって言うな!」
思わず、隣にいる謎の生き物と化している課長を殴りつけてしまった魔法少女と化した自分がいた。
あぁ〜、性格変わりそう……
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