パーツチェンジ
作・よしおか
第四幕 おれがあいつで、あいつがおれで?
第一場 TSF文芸雑誌の編集室
舞台の中央。スポットライトが、レザー張りの豪勢な椅子に足を組んで坐る女と、みすぼらしいパイプ椅子に坐る男を照らし出す。女と男は向かい合わせに坐っている。
女 「マッドサイエンティストものですの。ふ〜ん、舞台形式。第一幕が、性感帯の入替り?第二幕が、外見だけの変身?第三幕が、マインドコントロールによる女性化。なんたる陳腐。何たるアイデアの貧困さ。アナグロリズムの根源ですわ。あなた、TSFを甘く見てはいらっしゃいませんか」
男 「いえ、そんな」
女 「いいえ、甘く考えられているわ。男が女になればそれで終わりと考えられているでしょう。そうではなくてよ。その間に起る戸惑い、不安、恐れ、未知の性になった者の将来への不安。それらが無くては・・・。これにはないわ」
男 「そうでしょうか」
女 「そうよ。すぐに書き直していらっしゃい」
男 「わかりました。すぐに書き直してもってきます。かっこいいなあ。巨乳で美人の女性編集長か。頑張ろう。」
男、行き追いよく立ち上がると、下手に、早足で歩き、スポットライトのなかから消える。勢いよくドアの閉まる音。
女、立ち上がり、舞台の中央に出る。
女 「いまどき、マッドTSなんてはやらなくてよ。面白いとは思うけど、古臭いわ。あ〜あ、わたしも早くいっぱしの
編集員になりたいわ。」
ドアが開き、足音が近づいてくる。女が振り返る。
女 「あ、編集長。お帰りなさいませ」
トランペットの音{ふぁふぁふぇ。ふぉふぉふぃっふぇふふぁふぁふぁっふぁふぉ〜〜ふぁ}
女 「滅相もありません。編集長の椅子に坐るなど。決していたしておりません。ピッカピカに磨いていたのです。
牛革はカビやすいですから。オ〜ホホホホホ」
トランペットの音{ふぁっふぁふぉふぉふぉふぇ〜〜〜}
女 「は〜い。自分の席に戻ります」
女、中央から端のみすぼらしい席につく。
女 「何よ。みてらっしゃい。いつか、あの編集長の席に座って、あいつをこき使ってやるから」
トランペットの音{ふふふぁ〜〜ふぃ。ふぁふふぉふぃふぇ、ふぉふぉ〜ふぉ}
女 「ハイ、すみません。静かにします。私語の罰として、編集部のモットーですか。はいわかりました。『TSFは、男が女になればそれでオッケ〜。助平があればなおオッケ〜。』何よ。このくだらないモット〜は」
トランペットの音{ふぁふぃ〜?}
女 「なんでもありません。さあ、お仕事お仕事」
女。机に向かって、なにやら書き物を始める。
トランペットの音{ふぉ〜ふぃふぉふぁ}
女 「は〜い、お茶ですね。すぐにお持ちします。わたしは、大學院まで出て希望の出版社に入ったのは、お茶汲みになるためではございませんわ。編集長と入替ってこき使ってやろうかしら」
女、上手に走り去る。舞台の上、闇。上手より、女がトレイにお茶碗をひとつ乗せて登場。
女 「編集長。お茶をお持ちしました」
トランペットの音{ふぉふぉっふぃ。ふぁふぁふふぉふぇふぉふぃ}
女 「は、はい。ここにお持ちしました。編集長お好みの猫舌ようの温度です」
女。焦って駆けより、何かにつまずき、椅子にぶつかり倒す。何か重いものが倒れる音がする。
静寂。
スポットライト。女を照らしつづける。椅子に倒れて、寄りかかっていた女が起き上がる。
女 「あ〜いた。気をつけろ。お茶を頭からかぶったじゃないか。すぐに入れなおせ。ん?何でそこに俺がいるのだ?」
トランペットの音 {ふぁふぇふぁふぁふぃふぁふぃふ}
女 「おお、俺がいる。そこに俺がいるという事は、俺は誰だ?」
トランペットの音{ふぁ〜んふぉふぇふぁふぉふぁふぃ〜ふぉ〜}
女 「お前ひょっとして、久遠寺か?」
トランペットの音{ふぁふぁふぁふぁふぇふふゅ〜ふぉ〜?}
女 「ということは、俺は久遠寺になってしまったのか」
女。舞台中央に仁王立ちするが、胸の重さにやや前かがみになる。やおら胸を掴み、股間を触る。
女 「ある!ない〜〜〜!!!」
トランペットの音 {ふぉふぃふふぉふぉふぁ、ふぁふぁふぃふぁふぇふふ〜ふぉ?ふふぉふふぃ、ふぉふぁ}
女 「久遠寺はお前だろう」
トランペットの音{ふぉふぁふぇふぁ。ふぉ〜ふぃふぉふぁ}
女 「はい。おっしゃるとおりです。TSFの雑誌を作っていても誰もこんな事信じるわけがないな。それにこの身体で、俺が編集長と言っても誰も信用しないか。くしょ〜。でもまてよ。このからだもなかなかのものだな。ぐふふふ」
無気味な笑いをしながら、女。舞台の下手に去る。
終幕