パーツチェンジ
作・よしおか
第一幕 博士の異常な関心。
(もしくは、博士はいかにして男であることを止めてうら若き女性になったのか。)
第一場 マッドな実験室
お約束通りの機械のパネルが点滅している。そして、中央には、お決まりの電極線がいっぱいついた美容室のパーマ用ドライヤーのような椅子が二つ並べてある。舞台狭しと、その椅子から伸びたコードが後の機械へとつながっている。
上手より、白衣を着たロマンスグレーだが、かなり若くかわいい男が、中央へと歩いてくる。
(観客に無愛想な顔を見せる。ライト、客席を照らし出す。)
博 士「なんだ、また頭の悪そうな奴らばかり集めよってから。今日はこの今世紀最大の発明品の発表会なのだぞ。タイムは来ているか。フューチャーは?朝日サイエンスは?科学ジャーナルは?」
観 客「は〜い」
博 士「なにがは〜いだ。そんな間抜け面した科学記者がおるか。若くてきれいな娘は・・・」
博士、客席を見回す。そして、頭を落とす。
博 士「若い娘もおらんが、きれいな女もおらん。おい助手。助手はおらんのか」
当りかまわず怒鳴りだす。
助 手「は〜〜〜い」
助手、下手より登場。若く長身でかっこいい男。だが、どこか抜けた感じがする。
助 手「博士、何の御用でしょう」
博 士「何だこやつらは?」
助 手「報道の方々ですが、博士が呼ぶようにおっしゃった」
博 士「わしが言ったのは、一流の科学ジャーナリストだ。こいつらはなんだ」
助 手「はい。国立ジャーナルの方や、週刊サイエント。カガクTVの方々です。他には・・・」
博 士「ほう、国立ジャーナルが来とるのか。どこの国だ」
助 手「国ではありません。国立です」
博 士「だから、国立だろう」
助 手「はい、だからくにたちです。国立さん発行の新聞です」
博 士「くにたちぃ〜〜(pikipiki)漢字で言ったらわからんだろうが」
助 手「はあ?でもわたし達は普通に声を出して話しているのですが・・・」
博 士「言い訳はいらん。だから、そんな紛らわしい名前の時は、ちゃんと説明を入れろ」
助 手「は、はい。なんでぃ、自分がぼけただけじゃないか・・・ぶつぶつぶつ」
博 士「何か言ったか?」
助 手「いえ、何も言っていません」
博 士「おい、ラボセキュリティ。こいつの会話を再生してくれ。大きめにな」
女(声)「わかりました。(助手の声)なんでぃ・じぶんが・・・」
博 士「大きすぎる。もう少し小さく」
女(声)「わかりました。(助手の声)なんでぃ、自分がぼけただけじゃないか。このくそ爺。もっと給料を上げろっていうのだ。安い給料でこき使いあがって、だいたいだなぁ」
助手、慌てて、大きく手をまわす。
助 手「ストップストップ。そこまで言ってないぞ。ただ、ブツブツ言っただけじゃないか」
博 士「こいつには、ブツブツ翻訳機能があるのだ。だからただのブツブツでもちゃんと翻訳するのだ」
助 手「そんなぁ〜〜」
博 士「お前が言った事については、あとでゆっくり聞くとして、週刊サイエントは、サイエンスの間違いじゃないのか」
助 手「いえ、まちがいではありません。ここの地元タウン誌の「菜園斗」のことですから」
博 士「ピキピキ。では、カガクTVは?」
助 手「はい、過愕村立TV局の過愕TVです」
博 士「過愕TVといったら、この村役場の呉作が趣味でやっている所ではないか。視聴者は、呉作だけで、家族からも見放されたTV局だぞ。まともなところはないのか。全部追い返せ」
助 手「でも、無理言って来てもらったのですよ」
博士、客席に向かって立つ。そして、大声でどなる。
博 士「でていけ〜〜」
客席を照らしていたライトが消える。ざわつく声と人が出て行く音。(効果)
助 手「あ〜あ、みんな帰っちゃった。博士どうするのですか。博士が呼べといったから呼んだのに・・・」
博 士「だれが、あんなローカルどっぷりのマスコミなんか相手にするか。まともな所はどうした。」
助 手「来るわけないですよ。この間の瞬間移動の実験の時、‘トリックだ’と叫んだ記者をサルに変えてしまったでしょう。あれ以来、誰も怖がって来てくれませんよ。ここは田舎だから、まだあのことが知れ渡っていなかったから来てくれたのに」
博 士「そういえば、あのサルはどうしている」
助 手「博士が変えたサルですか。天才サルとして、一時期テレビに出ていましたが、何処かのサルの嫁に行きましたよ」
博 士「嫁って、あいつは男だったろうが」
助 手「怒った時、博士が性転換までしてしまったでしょう。今ではあのサルはメスですよ」
博 士「そうか、奴の幸せを祈ろう。さて、助手よ。ビデオカメラを用意しろ」
助 手「はい。で、どうするのですか」
博 士「もちろん。この偉大な実験の記録を撮るのだ。さっさと準備しろ」
助 手「は〜い」
助手は、機械の前に置いてあった三脚のついたビデオカメラを持ってくる。それを、あのドライヤーの前にセットする。
助 手「セット終わりました。ところで、博士」
博 士「なんだ」
助 手「この機械はなんですか?」
博 士「お前、知らずに手伝っていたのか」
助 手「だって、作業中に博士に声をかけると怒り出すでしょう」
博 士「出来上がって聞けばいいだろうが」
助 手「聞こうと思ったら、博士はすぐに報道陣を呼べって。ですから聞くひまがなくて・・・」
博 士「仕方のない奴だな。これは、身体任意部相互交換装置だ」
助 手「身体任意部相互交換装置?」
博 士「そうだ。早い話が好きな部分を相手と交換できるというわけだ」
助 手「それはなにに使えるのですか」
博 士「女のおっぱいを胸にくっつけたりとか。あそこを交換したりとかな・・・なにを言わせるのだ。さっさと準備しろ」
助 手「セッティングは終わっていますが」
博 士「じゃあ、アルバイトを連れて来い。粗相の無いようにな」
ナレーション「アルバイトとは、マッドサイエンティストたるもの美女で実験しなくては・・・というコンセプトから、高額のバイト料で雇った美女の事である。高額のバイト料を払うために、助手の給料は一向に上がらないのである。ま、いいか」
助手、上手に消える。すぐに、清楚な髪の長い美少女を連れて戻ってくる。
助 手「連れてきました」
アルバイト「やっとお仕事。あまりに待たされるから寝ちゃった。そうしたら、この人が気持よく寝ているのに起しやがって」
博 士「いや、すまん。やっと、実験の準備が終わってな」
アルバイト「まあいいわ。バイト料たくさんもらっているから」
助 手「たくさんのバイト料?」
博 士「助手。何をしている。彼女を坐らせてセッティングしろ」
助 手「は〜い。バイト料・・・」
博士、助手にアルバイトを例の機械の上手側に坐らせて、博士は、下手側に坐る。
博士、助手にスイッチを入れるように合図する。
(舞台のライト、消える。フラッシュ点滅15秒。舞台のライト、点く)
助手、博士に近寄る。
助 手「大丈夫ですか」
博士、機械から立ち上がり、舞台中央に立ち、身体のあちらこちらを触って、にやりと笑う。
博 士「成功だ」
舞台のライト消える。
第二幕 博士の寝室
博士、ベッドに座り、ニヤつきながら身体中を触りまくる。アルバイトもその横に座り、身体を触りまくるが、不思議そうな顔をしている。
助手、その後ろに立って、不可思議な顔をして、二人を見ている。
博 士「実験は成功だ。女の感じ方とはこう言うものなのか」
アルバイト「やっぱり、男はつまらないわね。あそこ以外はほとんど感じないもの」
博 士「か、か、感じる。胸を触っただけでこんなに感じるなんて・・・」
アルバイト「あら?それだけで行っているの。そんなものじゃないわよ。女は・・・でも、男も、あそこに集中して、ん、ん、なにか、出そうで出ない・・・ん、ん、ん〜〜〜」
アルバイトは、あそこを触っている。博士は、身体中を触りながら、恍惚とした顔になっている。
助手はこの状況が理解できない。外見はふたりとも変わっていない。
博士。そんな助手の方に顔を向ける。
博 士「どうした、そんな顔をして。実験は成功だぞ」
助 手「おめでとうございます。ところで博士。どうなったのですか?」
博 士「見ていてわからんか」
助 手「はあ、さっぱり」
博 士「アルバイトと身体全体の性感帯を入れ替えたのだ。つまり、身体のあちらこちらを触られたときに女が『わたし、感じるの。』といっておったが、ウソじゃなかったわい。女とはこういう風に感じるのじゃな。女は敏感じゃのう。」
アルバイト「どうしたらいいの、この感覚。ああ、わたし、わたしおかしくなりそう。あそこに何かがたまっていくわ。」
博 士「あん、あん、あん。わしもじゃ。おかしくなりそ〜〜〜。ああ、出したくてもでてくれないぞ〜」
舞台のライト消える。
第三場 再びマッドな実験室
助手、あの機械の整備をしている。
上手よりアルバイトと博士が手をつないでやってくる。アルバイトは腰を引き、博士は、腰をもそもそとしながら・・・
助 手「いいのですか。本当に」
アルバイト「ええ、この感覚から開放されるのなら」
助 手「う〜ん。でも、そこまでやらなくてもいいのではないですか」
博 士「この感覚のフィニッシュを知りたいのだ」
助 手「ええ!」
博士の言葉のあとにアルバイトは恥ずかしそうにうなずく。
助 手「は、はかせ?」
アルバイト「わたしも開放感を味わってみたいの」
助手、あきれたような顔をして二人を見比べて、ため息をつくと、機械から離れて、準備を始める。
アルバイトは、下手。博士は上手に坐る。助手、スイッチを入れる。
(舞台のライト消える。フラッシュ点滅20秒。フラッシュが消え、闇になる。舞台のライト点く)
下手に博士。上手にアルバイトが坐っている。
二人、自分の身体を触る。
博士、胸と股間を抑えて言う。
博 士「ある。ない」
アルバイト。おそるおそる胸と股間を抑えて叫ぶ。
アルバイト「ない。ある〜〜〜」
舞台のライト消える。
第四場 博士の書斎
白衣を着て、うっすらと化粧をしたアルバイトが、しとやかに動き回っている。
下手より助手が現れる。
助 手「博士、準備ができました」
アルバイト「ありがとうございます。それでは参りましょうか」
助 手「博士、アルバイトは何処に行ったのですか」
アルバイト「あの方は出かけられましたわ。男を探求するのだとおっしゃって・・・」
博士と呼ばれたアルバイトの女性は、軽やかに動き回る。助手、戸惑いながらもきれいになった博士(アルバイトの女性の姿をしている)を見つめる。
博 士「どうなさったの。わたしを見つめたりして」
助 手「いやべつに。さあ、実験を始めましょう」
博 士「うふ、おかしな方」
さっさと下手に小走りで歩き去る助手を追って、博士(元アルバイト)も舞台から退場。
―幕―
―第二幕へ続く―
あとがき
これは、或る人にわたしの部分入替りを見てみたいと言われて書いてみました。
舞台実況的にやったつもりですが如何でしょう。ラストは、尻切れですが、続きますので、ご勘弁を・・・