西暦20X0年代、地球は怪獣や侵略者の脅威にさらされていた。
人々が笑顔を失いかけたその時、頼もしいヒーローたちが現れた。
遠い彼方よりやってきた、彼らの名は……

 



萌える(?)ヒーロー

作:ライターマン




☆ その1:選ばれし者の苦悩 ☆

 ゴゴゴゴゴ――ッ!!

 轟音とともに市街地の地面が突然爆発し、その中から巨大な生物が姿を現した。

 「か……怪獣だあああぁーっ!!」

 怪獣は建物を壊し、道路を踏みつぶし、街を蹂躪する。
 人々が悲鳴を上げ、逃げまどう。
 サイレンがあちこちで、けたたましく鳴り響く。
 そのとき空の彼方から光とともに、暴れる怪獣の眼前に、銀色とブルーのボディの巨人が敢然と舞い降りたっ!!
 「あ……っ! トランスマンだっ!!」
 恐怖におびえていた人々がその巨人を指差し、表情を明るく輝かせた。

 デュワッ!!

 トランスマンは、怪獣に攻撃を仕掛けた。
 パンチを数発、続いてキック。しかし、怪獣にはさほど効いた様子はない。
 トランスマンは光線技を放つため、怪獣から少し距離を取った。
 すると怪獣は、すかさず尻尾を振り回した。尻尾はトランスマンの横腹に命中し、トランスマンは大きく吹き飛ばされてビルに叩きつけられた!!

 崩れ落ちるビル、苦しむ巨人……その胸のカ○ータイマーの色が、突然変わり始めた!!

 「「おおっ!!」」
 戦いを見ていた人々がいっせいにどよめく。
 ヒーローの苦戦に、心配する人々……だが、それ以外の声もかなり多い。

 トランスマンの腕の部分を覆う模様の色が、青から赤へと変わる。
 同時に腕が細く、指先が長くしなやかになっていく。
 続いて脚の部分――色の変化とともに、筋肉の部分が姿を消し、丸みを帯びた柔らかなラインへと変わっていく……


 トランスマンの身体は地球上では急激に女性化する。
 変化が始まると、青一色だった胸のカ○ータイマーに赤味が混じり始め、だんだんと強くなっていく。
 そして全身が真っ赤に染まり、カ○ータイマーが真紅に輝いたら……トランスマンはもう二度と男に戻ることは出来ないのだ!!


 怪獣の攻撃に防戦一方のトランスマン。胸のカ○ータイマーの色が、紫へと変化する。
 肩幅が狭くなり、腰が大きくなって細くなったウエストが括れてくる。
 そして、胸の二つの膨らみが大きく膨らみ始めた……
 「いいぞーっ!!」「もう少しだっ!!」
 あちこちから人々の歓声が上がる。

 ……いいのか、そんなことで?

 怪獣はとどめとばかりに尻尾を振り回した。
 トランスマンは身体の変化に苦しみながらもそれを紙一重で避けると、手首のブレスレットを怪獣に向かって投げつけた。
 ブレスレットは光の刃となって尻尾を、そして反転すると、怪獣の首を切断した!!

 全身が真っ赤になる寸前だったトランスマンは、その場で崩れ落ち……姿を消した。

 戦いが終わり、廃墟となった街。
 瓦礫の影から何者かがひとり、姿を現した。
 「……ふうっ」
 小さな唇から息を吐く声が洩れる。
 その人影は、男が着るようなジャケットとスラックスに身を包んでいた。ウエストの部分がかなり緩んでいるのか、慌ててベルトを締め直す。
 長く艶やかな髪に、張り裂けそうなヒップやシャツを押し上げる胸の二つの膨らみ……と、どう見ても女性なのだが、なぜ体型に合わない服を着て、こんな場所に立っているのだろう?
 「今日の怪獣は強敵だったけど、なんとか倒すことができたわね。それにしてもあぶなかったわ……って、なによこの喋り方っ!?」
 独り言をつぶやいていたその人物は、驚いて身をくねらせ、口に手をやった。
 「やだっ、今度は言葉遣いまで女になっちゃったの? この前ピンチの時はひと月ほど女のままだったけど……今回はそれ以上ってこと? また生理とか来ちゃうのかしら?」
 不安そうな表情で、胸や腰の部分を確かめるように手で押さえる。その仕種にかなりの「しな」が入っているのだが、本人はまだ気づいていないようである。
 「デュナミスト(適能者)として選ばれたときから命を賭けて戦ってきたけど、このままだともっと大事なものを失いそうだわ……あたし」
 彼女(?)はそうつぶやきながら、ビルの谷間へと消えていった……






☆ その2:愛の力で ☆

 昼前の街はあちこちでビルが崩れ、瓦礫の中から炎や黒煙が立ち上っていた。
 その中で向き合う、二つの巨大な影。
 ひとつは凶悪なる怪獣。最近出没する怪獣は、極彩色のボディにいくつもの兵器が仕込まれており、「何者かの侵略兵器」だという噂もある。
 そしてもう一つは、平和の使者である銀色の巨人。
 人々は、彼のことを「トランスマンエース(A)」と呼んでいた……

 怪獣の身体から触手が伸びて、エースに襲い掛かる!! しかしエースは頭上で光を集めて光輪を作り、投げ放った。
 光輪は触手を切り落とし、怪獣本体にもダメージを与える。
 エースは身体を大きくひねってから、両腕をL字型に組んで正面に向き直る。垂直に立てた右腕の部分から発射された虹色の光線がとどめを刺し、怪獣の体は爆発四散した。


 怪獣を倒したエースはその姿を消した。
 しばらくして街の片隅に二つの光が降り立ち、人の形を取り始めると、そこに一組の男女が現れた。
 そのうちの一人……というか俺は、大きく息を吐き出すと、もう一人に向かって大きく頷いた。
 俺の名は深波祐次(みなみ・ゆうじ)、そして微笑みながら頷き返す彼女の名は、北都聖子(ほくと・せいこ)
 ふたりとも侵略者撃退専門スペシャルチームのメンバーである。そして実は俺……いや、俺たちこそが銀色の巨人――トランスマンエースなのだ。
 銀河連邦の宇宙警備隊の一員であるエースは、地球上では三分間しか活動できない。
 そこでエースは俺たちの中に宿り、いざという時に変身して侵略者と戦うのである。

 「こちらファルコン。怪獣の殲滅を確認」「……よし、ご苦労だった。全員帰投せよ」

 上空を旋回する大型戦闘機からの報告、そして基地で指揮する隊長からの命令が、通信機を通して耳に入ってきた。

 「隊長?」

 通信機にいきなり聖子の声が割り込んできて、俺は驚いて彼女の方を見た。
 しかし聖子は口を動かしていない。代わりにICレコーダーを自分の通信機に近づけて、自分の声を再生していた。

 「すいません。あたしたち、今日は休暇の予定で買い物とかするつもりだったんです。ですからそのう……」

 おそらくこういう時のために、あらかじめ録音しておいたのだろう。
 ちなみに休暇の予定だったのは本当だ……申請もちゃんと提出してある。

 「よかろう。北都、深波両隊員の休暇を許可する。報告書は明日提出しろ」
 「了解」

 隊長は聖子の言葉を疑いもせずに許可を出した。
 ICレコーダーの再生を止めて通信を切った聖子は、にっこりと俺に微笑みかけた。俺は思わず呆れてしまう。
 (お前……いつの間にそんなものを用意してたんだ?)
 (へっへーん、すごいでしょ)
 一時的だが一心同体の関係の俺たちだ。アイコンタクトでもこのくらいの会話はできる。
 (さ、これで今日一杯フリーなんだし……さっそく休暇を楽しみましょっ)
 すごく嬉しそうな足取りで車に向かう聖子。俺は大きく溜息をつくと、そのあとを追って歩き出した。


 俺たちの乗った車は、被害を免れた街中の立体駐車場へと入った。
 一番奥の方で車を停めると、聖子はまわりに人がいないか辺りを見回した。いちいちそんなことしなくても、窓をスモークモードにすれば外からは見えないのだけど。
 確認が終わると、聖子は後部座席に置いていたバッグの一つを俺に渡した。
 隊員服は街中じゃ結構目立つから、これに着替えろということである。まったく用意周到というか、なんというか……
 (……おいっ!!)
 俺はバッグの中を覗きこみ……絶句した。
 「さ、早く着替えてね」
 俺の非難の視線を意にも介さず、にっこりと笑いながら聖子が言う――ただしその声は、女性にしてはかなり太い。
 「できるかっ!! 早くリングを出せっ!! …………」
 俺は思わず声を張り上げた。頭のてっぺんを突き抜けるような高い声……本当はこんな声なんか出したくないんだが。
 「嫌よっ。今日はそれ着てくれなきゃ戻してあげないっ」
 そう言って、聖子はプイッとそっぽを向く。こうなってはもう何を言っても聞き入れてくれない。
 「はああ……判ったよ……」
 大きく溜息をつきながら、俺は隊員服のファスナーを下ろして胸の部分を開いた。
 中から見事なサイズの、二つの膨らみが姿をあらわした。


 俺と聖子は右手の中指に、「A」をかたどったリングをはめている。
 侵略者撃退チームに入る前、俺は病院勤務の看護士をしていて、聖子は病院そばのパン屋の職人見習いで、俺の憧れの人だった。
 ある日、俺は意を決してパンの納入で病院を訪れた聖子に告白した。
 ところがその時、突如怪獣が現れて、病院を襲ったのだ。
 俺たち二人は瓦礫の下敷きになった。しかしトランスマンエースに新しい命と、このリングを与えられたのである。
 ピンチのときは互いのリングが光り、俺たちはリングをはめた手を触れ合わせる――すなわち「トランスタッチ」を行う。エースの意思と俺たちの愛……それらがひとつになるとき、俺たちは光の巨人トランスマンエースに合体変身するのだ。
 ところが「二人で変身」というのは前例がないらしく、一度変身をすると、解除してもその影響が俺たちの身体に残る。
 どんな影響かというと……一言で言えば、お互いの性別が入れ替わるのである。

 早い話、聖子が男性になり、俺が女になってしまうのだ。

 元に戻る方法は簡単だ。もう一度リングを触れ合わせればいい。……ただしお互いの同意が必要である。
 触れ合わせなければいつまでもこのままだし、一方が元に戻ることを拒否すれば、触れ合わせても何も起こらない。
 最初の頃は戸惑っていた聖子だったが、最近では慣れてきたのか、この状況を楽しむようになってきた。変身を解除してから基地に戻るまで二人きりのときは互いの性別を戻さずに、女の身体になった俺をからかうようになったのだ。
 そして今日は……


 「うんうん、すごく似合ってるよ。裕子ちゃん」
 「だ――誰が裕子だっ……」
 人通りの多いストリートの中、満足そうに頷く聖子に、俺は顔を赤くしながら小声で文句を言った。
 ううっ……胸がブラジャーで寄せて上げられてるっ。
 それにショーツがぴったりと股間に張り付いてるし、黒のミニスカートがすごく恥ずかしい。
 「い……いつまでこんな格好をしてなきゃならないんだよ?」
 「もっちろん、今日一杯よっ」
 恐る恐るの問い掛けに、聖子は事も無げに恐ろしい事を言うと、
 「さあ、今日はデート、裕子ちゃんとデートっ♪」
 「…………」
 男の姿ではしゃぐ彼女(?)に、俺はめまいをおぼえた。


 「うーん、美味しいっ!!」
 レストランで注文した料理を口に入れ、満足そうに微笑む聖子。
 うーん、惚れ直してしまいそうだ……姿が男でなければもっとよかったんだが……
 俺は心の中でそう呟きながら、ナイフとフォークでステーキを切り分けた。
 「あ、そのサイズ大きすぎ。もっと小さく切らないと」
 聖子が俺の切ったステーキを指さし、そう指摘した。
 「い、いや、このくらいならちゃんと口の中に入るよ……たぶん」
 「だめよ、口を大きく開けて食べるなんて。女の子なんだからもっと慎ましく――」
 「できるかっ!! 俺は女の子じゃないっ。だいたいお前だって今、大きく口開けて食ってたじゃないか」
 「へへっ、一度やってみたかったのよね〜」
 そう言って小さく舌を出す聖子。ああ、こんなので誤魔化される俺って……
 俺はステーキを小さく切り分けながら、心の中で涙を流した。

 追伸。オーダーした300グラムステーキセットは意地で完食しました。


 「じゃあ、次はどこへ行く?」
 公園のベンチに腰を下ろしながら、聖子が訊ねてくる。
 「そんな事聞かれてもなあ……」
 本当はいろいろ考えてたんだけど、この格好であまりあちこち行きたくないんだよな……
 「映画なんてどう? ほらっ」
 聖子がビルの看板を指差す。そこには――

 『怪獣大決戦、東京壊滅!!

 「見るかあぁぁ――っ!!」
 仮にも怪獣退治してる人間が、そんなもの見ようと思うか?
 っていうか、現実に怪獣が暴れまわってるのにそんな映画を作る映画会社って、何考えてんだいったい……
 がっくりと項垂れた俺は、視界の片隅にあるものを捉えて立ち上がった。
 「……ごめん、ちょっと待ってて」
 俺は小走りで公園を出た。そして、怪獣被害で荒れた道路で身動きが取れない車椅子の老人に駆け寄った。
 「大丈夫ですか? お手伝いします」
 老人にそう声をかけて、俺は安全な歩道まで車椅子を押し上げた。
 「あ、ありがとうございます。……お嬢さん」
 「…………」
 その老人は礼を言いながら去っていった。あとのひと言は聞かなかったことにしておく。
 「ご苦労さま」
 聖子が微笑みながら、自販機で買ってきたジュースを俺に手渡した。「……やっぱり放っておけない?」
 「……うん」
 俺は頷きながら、ジュースに口をつける。
 つい先日までは、ああいったことが日常だった。病気や身体の不自由な人たちの手伝いをして、喜びを得る日々――
 「だよね〜っ。あの日、怪獣が襲ってこなければ……今でもナース服着て看護婦さんやってたはずだもんね」

 ぶほっ!!

 俺は飲んでたジュースを盛大に噴き出した。「……だ、だ――誰が看護婦さんだっ!! 誰がっ!!」








 「あ……ねえねえ、あれ見て」
 「うん?」
 聖子の言葉に指差す方を見てみると、そこにあったのは一軒のブティックだった。
 「あの店がどうかしたのか?」
 「張り紙を見てよ。『本日開店、全品試着可』だって」
 「へーっ、店をアピールするためのサービスってやつかな? フリフリのワンピースにスポーツウエア……イブニングドレスまである」
 「うーん、裕子ちゃんに着せたいっ!!」
 「お……おいっ!?」
 俺は慌てて逃げようとしたが、聖子に腕をつかまれて店内に引っ張り込まれた。

 「いらっしゃいませ」

 店に入った俺たちに、店員の男が恭しく頭を下げる。派手な服だが、目つきが鋭いのがちょっと気になった。
 「ショーウィンドウに出ていた服を、ひと通り試着したいんだけど?」
 「かしこまりました……奥の試着室へどうぞ」
 案内に従って、俺たちは奥へと入っていく。
 「ここが試着室? 何にもないけど」
 首を傾げる聖子に、店員が振り返って無気味に笑った。
 なにかやばい……そう思った瞬間、部屋が真っ暗になり、俺たちは首筋に衝撃を受けて気絶した。

 「フハハハハ、まんまと罠にかかったなトランスマンエース」

 気がついたとき、俺たちは手足を縛られていた。
 目の前には異形の侵略者の姿。……くそっ、油断だった。
 こいつは俺たちの正体と行動を調べ、虎視眈々とこのチャンスを狙っていたのだ。
 「まずは変身できないように、リングをいただこうか」
 そう言って、侵略者は俺たちの指からリングを取り上げた。……ちっ! 手首を縛ってるロープがもう少しで外れそうだったのにっ。
 「さあ、これで恐れるものは何もない。今こそ地球を我が手に!!」
 そう言うと、侵略者はいきなり巨大化した。
 間一髪、ロープから解放された手で自由になった俺と聖子は、崩れ落ちる瓦礫を避けて脱出した。


 侵略者が街を破壊する。
 ビルが壊れ、人々が悲鳴を上げながら逃げまどう。
 俺たちは武器を求めて車へ向かったが、侵略者に気付かれて行く手を阻まれてしまった。
 「踏み潰してくれるっ」
 侵略者の足が大きく上がる。……万事休すか。
 武器はなく援軍も間に合わない。それに、リングがなければエースに変身する事ができない。
 「祐次さん、ごめんなさい。あ――あたしのせいで……」
 聖子が涙を浮かべる。俺はその姿に胸が熱くなった。
 「謝る事なんかない。奴らの存在に気がつかなかった俺が悪いんだ」
 俺は聖子をしっかりと抱きしめた。
 「……祐次さん」
 聖子の姿が涙でにじむ。巨大な足に踏み潰される最後の瞬間、俺たちは互いの唇を重ね合わせた。


 それは俺と聖子の愛の奇跡……トランスキッス。
 俺たちは光に包まれてひとつになり、光の巨人が出現した。


 街に平和が戻った。
 変身したエースはいつにもまして凄まじいパワーをみせて、侵略者を撃退した。聖子曰く、俺たち二人の愛の力がエースに力を与えたということらしい。
 同時にリングも取り戻し、それは再び俺たちの指にはめられている。
 ところが……

 「も、元に戻らないっ!? おい聖子っ!!」「ち……ちゃんと同意してるわよっ! どうしてっ!?」

 俺たちの顔は蒼ざめていた。車(奇跡的に無傷だった。さすがはスペシャルチーム仕様)に戻った俺たちは、さっきから何度もリングを触れ合わせているのだが、お互いの性別が逆転したまま、元に戻らないのだ。
 「これってやっぱり……キスで変身したから?」
 「……そ、そうかも」
 通常と違う方法で変身したのだ。だから今までの方法では戻れないのかもしれない。
 「じゃあ、もう一度キスすれば元に戻れるかも。ちょっとやってみましょう」
 「ええっ!?」
 俺は驚きの声を上げる。さっきは無我夢中でキスをしたが、あらためてやるというのは……ちょっと――
 「なによ、他に方法があるの?」
 そう言われては文句の返しようがない。
 俺が小さく頷くと、聖子の顔が近づいてきた。
 「…………」
 相手は聖子だけど……俺、女として男とキッスをするんだよな――
 そう考えてしまい、思わず目を閉じてしまう。
 あっ、今、唇が重なった……心臓がドキドキして、頭がぼうっとなる。恥ずかしくて目を開けることができない……え!? 舌が入ってきた? ちょっと待てっ! さっきはそんな事やってない…………ああ……聖子の手が俺の胸に……ってまだ元に戻ってないのかよ? …………って揉むなあああああ〜っ!!

 そのまま俺は、頭の中が真っ白になり……




















 「これからは、お前が一人でエースになるんだ」
 俺は右手の中指からリングを外し、聖子へと手渡した。
 「裕子……できるのだろうか? 僕に――」
 聖子が不安そうな表情でリングを受け取り、左手にはめる。
 ……いや、聖子ではない。今は互いの名前の最後の字を交換して、聖子は「聖次」に、俺は祐次から「裕子」になっていた。
 結局、あれから数ヶ月経ったが、俺たちの身体は元に戻っていない。周囲には「侵略者に捕まって身体を改造された」と主張して、なんとか納得させている。
 そして俺は、今日限りでスペシャルチームを離れる事になり、リングを聖次に託したのである。
 「できるさ、お前なら」
 二つのリングをはめた聖次に、俺は力強く頷いた。
 俺はもうエースになれないが、エースの力と俺たちの愛は、リングとともに聖次の左手にある。
 「じゃあ、僕からはこれを……」
 そう言って何かを俺の手に握らせると、聖次は俺から離れ、両手のリングを触れ合わせた。

 まばゆい光とともに、トランスマンエースの巨体が姿を現した。

 俺は握らされた手をゆっくりと開いた。
 中から出てきたのは綺麗なデザインの指輪だった。……あいつ、こんなものを用意してたのか。
 俺が指輪を左手の薬指にはめると、エースが大きく頷いた。

 「ふふっ、頑張れよエース。地球と……この子の未来のために」

 そう言うと、俺は指輪が光る左手で、お腹にそっと手を当てた……

(おわり)


おことわり

この物語はフィクションです。劇中に出てくる人物、団体は全て架空の物で実在の物とは何の関係もありません。





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