「Body swap in the pool.」 作 シクノレ とある小学校の体育教師、竹田光久は自宅でニヤリと笑った。 右手には奇妙な小型の機械が握られている。 その機会は、小学校からの帰り道で怪しい商人から三千円で買い取った機械だ。 深く帽子を被り、サングラスをかけ、夏だというのにコートを着込んだ見るからに怪しい男だった。 光久はいつもならそんな怪しい男を信用したりしないのだが――― 男の差し出した機械と、その効能に心を惹かれ、三千円くらいならと買い取ってしまったのである。 ――――好きな相手の身体を手に入れる機械。 男は確かにそう言った。 もし、効果が出なければもう一度同じ場所で出会い、金を返すというのだ。 光久には数ヶ月前から自分の勤務している小学校の教員が欲しくて堪らなかった。 無論、性的な意味でだ。 光久は顔も良い方ではなく、頭も良くない。 ほぼ運動能力だけで体育教員になった所謂「筋肉馬鹿」である。 そんな光久に彼女が出来るハズもなく、独身のまま三十を過ぎ、現在三十五歳。 光久は明らかな負け組である。 光久に妻がいないことは生徒の間でも噂になっており、何かと「独身」だの「負け組」だのと囃し立てられる。 生徒の前では笑顔で通しているが、内心では激怒していた。 そんな中、光久の担当する学年に、若い女教師が転勤してきた。 彼女こそが光久が想いを寄せる相手、佐山圭子だった。 肩まで伸びた髪と、幼さの残る笑顔が特徴的である。 が、その笑顔と身体のギャップが光久には堪らない。 何故なら彼女はモデル顔負けのスタイルで、Dは確実に超えているであろう胸が、光久の相棒をギンギンにさせる。 そんな彼女の身体を物にしたい…… そんな願望を叶えるため、怪しげな機械を購入したのだった。 翌日は水泳の授業。 圭子のクラスである五年一組ともう一クラス、五年二組の合同授業である。 明日は二組の担任は出張でいないことがわかっているので、生徒達をプールで遊ばせていれば光久と圭子はほぼ二人きりだ。 光久は右手に握られた機械をチラリと見、もう一度ニヤリと笑った。 「せんせーおはよーございまーす!」 「はい、おはよう。橘川さん」 笑顔で挨拶する自分のクラスの女子生徒に、圭子は笑顔で接した。 この学校に転勤してから数ヶ月、すっかり生徒とも打ち解け、圭子は安心していた。 「おっぱい先生おぱよー」 「江口君……。佐山先生か圭子先生って呼びなさいって何度も言ってるでしょ」 呆れ顔で男子生徒に言う。 っていうかおぱよーってなんだ。 「佐山先生、おはようございます」 ふと、野太い男性の声がして、圭子が振り返るとそこに立っていたのは体育担当の竹田光久であった。 「おはようございます。竹田先生」 「一、二時間目は水泳の授業ですので、生徒達に遅れぬよう、言っておいてあげて下さいね」 「はい。わかりました」 一時間目が終わり、二時間目も残り二十分となった。 予定通り時間が余ったため、光久は迷わず生徒達に自由行動をさせた。 全生徒がプールの中ではしゃいでおり、光久もまた、心の内ではしゃいでいた。 海パンの中に隠し持っていた機械を右手に握りしめ、ジャージ姿の圭子の方をジッと見ていた。 もうすぐ、彼女の身体を好きなように出来る。 恐らくこの機械は洗脳でもするのだろう。 この機械によって圭子は光久の思い通りに動く奴隷人形と化すのだろう。 あの身体が好きなように出来ると考えただけで光久の相棒は自己主張を始め、海パンを不自然に盛り上げる。 必死に妄想を振り払い、何とか相棒を自重させると、光久はプールサイドで生徒を見ていた圭子の元へ近づく。 「佐山先生」 「あ、竹田先生」 圭子はニコリと微笑み、光久に一礼する。 「佐山先生」 「はい?」 光久は再度圭子の名を呼ぶと、あの機械を取り出した。 「何ですか?それ」 使い方は男から聞いている。 相手と同時に機械に触れ、欲しいと願うだけだ。 「ちょっと、触って見て下さい」 「はあ……」 圭子の手が機械に近付くにつれ、光久の相棒はまたしても自己主張を始めた。 もう抑える必要はない。 願望成就は目の前だ。 相棒、これからは圭子先生の中にガンガンぶち込んでやるからな。 光久は心の内でこっそりと相棒に約束した。 「こう…ですか?」 圭子の手が機械に触れた。 光久は機械ごと圭子の手を握り締める。 ―――――――――欲しいッッッッ!!! 願った刹那。 「おっぱいせんせー!遊ぼうぜー!!」 江口……だと……!? 「え、わ……きゃっ!」 江口に足を引っ張られ、圭子の身体はプールの中へ…… その手を強く握りしめた光久もまた、プールの中へ…… 「ちょっと江口!何やってんのよ!!」 ボチャン! 女子生徒の声が聞こえると同時に光久は圭子とともにプールの中へと転落する。 確かその声は橘川…… いや、そんなことはどうでもいい。 バチバチバチバチッ!! 身体中に電流が走り、意識は途切れた。 「ん……」 身体に違和感を覚え、光久は目が覚めた。 頭の方がゴムで締め付けられている感覚。 小学生の頃水泳の時に被った帽子のような感覚。 何でこんなものを被っているんだ? 疑問に思いながら光久は帽子を取った。 「……え?」 耳を覆い隠す程の長い髪が降りてくる。 濡れた毛先が頬をくすぐる。 「俺の……髪?」 呟くと同時に、喉元を抑える。 己の口から発せられたとは思えない少女のような声。 いや、最早幼女の声だ。 まだ幼い、少女の声だ。 「どうなって……」 自分の身体を見下ろして、絶句。 身体にピッタリと張り付いた布は、正に女子生徒用のスクール水着。 胸には橘川と振り仮名付きで書いてある。 「え!?え!?」 いつもより目線が低いことに気がつく。 水面に映る顔、長い髪、スクール水着。 そして、一切自己主張をしない相棒。 「まさか――――」 股間に手を当てたが、光久の相棒は姿を消していた。 「うわぁぁぁぁ!!」 光久の絶叫がプール内に響く。 辺りを見回せば、皆一様に似たような動作をして、叫んでいる。 「何で俺が女子の水着着てるんだ!?」とスクール水着を脱ごうとする女子生徒。 「な、なにこれ!?」と内股で股間を抑えている男子生徒。 自分の身体を興味深げに眺めている女子生徒。 プールから上がって女の子座りで泣きべそをかいている男子生徒。 カオスな状況に、光久は再度絶句した。 「そうだ。佐山先生は!」 慌てて辺りを見回すと、すぐ近くで圭子は胸を抑えて騒いでいた。 「うわぁ!俺におっぱい先生のおっぱいがある!!」 江口か……!! どうやらプール内にいた者の身体はランダムに入れ替わってしまったようだ。 「わ、私……竹田先生に……っ!!」 光久の身体はなよなよとした動作で泣きそうな顔をしている。 恐らく、圭子だ。 「何でこんなことに……!」 光久は冷静に原因を追及する。 そして気がついた。 ―――機械だ。 あの機械が原因だ。 あの機械がプールの中に入ったことで、ショートし、誤作動を起こしたのだ。 そして、自分があの機械に対して盛大な勘違いをしていたことに気づく。 好きな相手の身体を手に入れるとは…… ――――――その相手の身体と自分の身体が入れ替わるということだったのだ。 完 |