飴とロリータ(後編)
作:せなちか


 授業、体育、給食……。
 凛ちゃんの体で過ごす久方ぶりの小学生生活は、懐かしさと新鮮さが入り混じって、非常に貴重な体験となった。
 凛ちゃんが普段、学校の友達とどんな話をしているか。どんな先生に何を教わっているか。そして、学習塾での勉強内容。伝聞ではなく本人として直接体感することで、俺は凛ちゃんの暮らしをありのままに知ることができた。
 凛ちゃんの友達も先生も、皆、いい人ばかりだった。たとえば、教室で隣に座っていた弘之君というクラスメイトの男の子は、歳に似合わず落ち着いた優しい子で、ついつい話が弾んでしまった。担任の先生も美人で世話焼きだった。凛ちゃんがああいう風に明るい性格になったのも、やはりこうした環境の影響が大きいのだと思う。父親こそいないものの、聖子さんはあの子に充分な愛情を注いでくれている。それは凛ちゃんの立場から見ても明らかだった。
 今回、凛ちゃんと入れ替わったおかげで、俺はより深くあの子を理解することができた。とんだハプニングだったが、まあ、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。せっかくだから、この経験をこれからの凛ちゃんの指導に役立てていくとしよう。入れ替わった当初のあの暗くどんよりとした気分は、いつの間にか吹き飛んでいた。
 俺たちが元に戻ったのは、ほぼ予定通り、入れ替わった翌日の夕方だった。塾から帰って凛ちゃんの部屋で宿題をしていると、いきなり視界がぼやけて、気がつくと自分の部屋に座っていた。急にごつくなった体に驚いて、ぺたぺた触って確かめた。特に問題なく、元に戻れたようだ。念のために鏡を見ると、確かに元通りの俺の顔が映っていた。
 たった一日入れ替わっただけだというのに、自分の体が無性に懐かしかった。ひょっとしたら、もう元に戻れないんじゃないかという不安があっただけに、無事に戻ってほっとした。思わず、その場でガッツポーズをしてしまったほどだ。
 凛ちゃんの部屋と比べると、俺の部屋はとてつもなく汚かった。そこかしこにゴミが溢れ、汚れたままの衣類が放置されている。さぞかし、凛ちゃんは呆れ果てたことだろう。苦笑いしながら部屋を見回していると、机の上に一枚のメモ用紙が置かれているのに気がついた。
「先生、ありがとう」
 凛ちゃんの字だった。俺あてに書き残しておいたらしい。どうやら、入れ替わって過ごした一日は、あの子にとっても意外と面白かったようだ。悪いことをしたとばかり思っていたが、あながちそうでもなかったのかもしれない。罪悪感があっただけに、安心した。
「よかった。凛ちゃん、喜んでくれたんだ」
 凛ちゃんがくれたメモを、大事に机の中にしまい込んだ。これで全部が全部、元通り。めでたしめでたし。一件落着だった。

 ◇ ◇ ◇ 

 数日後、俺はまた家庭教師の指導のため、凛ちゃんの家を訪れた。
 入れ替わったのは災難だったが、まあ無事に戻れたことでもあるし、これからはその経験も活かして、いっそう頑張って指導していきたい。今日の俺は、いつにも増して前向きだった。
「先生、こないだはどうもありがとー」
 凛ちゃんは俺の顔を見るなり、にっこり笑ってそう言った。何の話か、考えるまでもない。入れ替わりの一件だ。
「いや、礼を言うのは俺の方だよ。大事な体を貸してくれて、ありがとね」
「ううん、いいの。あたしもすっごく楽しかったから」
「そう……よかった、そう言ってくれて。俺、凛ちゃんに迷惑かけたんじゃないかって、心配してたんだ」
 可愛らしい仕草でぶんぶん首を振って、俺の言葉を否定する凛ちゃん。
「そんなことないよ。先生になって、あたし、すっごく面白かった。また入れ替わりたいでーすっ!」
「ははは……それはちょっと、勘弁してほしいな。ああ、そうだ。あのドロップ、返してくれる?」
「うん、いいよ」
 入れ替わった際に、あのドロップは俺(体は凛ちゃんだが)が持っておくことにした。そのため、元に戻った今は、凛ちゃんの手元にある。特にトラブルなどは起こらなかったようで、ひと安心だ。
「はい、どうぞっ」
 机の中から取り出されたドロップの缶を受け取り、中身を確認してから鞄にしまった。これをどうするかは、まだ決めていない。危険物には違いないから、使うにせよ捨てるにせよ、慎重に扱わなくてはならないだろう。
「すごいドロップだったね。あー、面白かった!」
「そんなに面白かったの? ほとんど部屋から出られなくて、退屈だったんじゃない」
「ううん。ゲームとパソコンがあったから、全然、そんなことなかったよ。ママから勉強しろってうるさく言われないし、コンビニで好きなもの買って食べられるし、すごく楽しかった。ひとりだったけど、いっぱい遊んで大満足っ!」
「へえ、よかったね。何をして遊んだの?」
 上機嫌の凛ちゃんに訊ねる。うちに置いてるやつで、子供でも楽しめそうなゲームは、アクション系のが二、三あっただけだと思ったが、意外と時間のかかるロープレでもやっていたのかもしれない。何げない俺の質問に、凛ちゃんは満面の笑みで答えた。
「おなにぃ! おなにぃして遊んだのっ! すっごく気持ちよかったよっ!」
「なっ…… !?」
 幼い口から飛び出した異常な言葉に、驚愕のあまり息をのんだ。開いた口が塞がらない俺の目の前で、凛ちゃんは入れ替わっていた間のことを詳しく語った。
「パソコンつけていいって言われたから、最初はゲームしようと思ったの。そしたら、なんかエッチなゲームとかビデオとかがいっぱいあって、面白そうだったからずっとそれを見てたの。すごかったよー。大人ってああいうことするんだなあって、びっくりしちゃった」
「ま、まさか……俺の秘蔵のエロゲーとAV、見ちゃったの?」
「うん! 他にすることなかったから、いっぱいエッチなお勉強してましたっ! おなにぃもそのとき覚えたんだよ!」
 迂闊だった。まさか子供っぽい凛ちゃんが、あんなものに興味を示すとは思いもしなかった。ある意味、体が入れ替わったときよりもショックが大きかった。戦慄に体を震わせていると、凛ちゃんが小悪魔を思わせるいたずらっぽい表情で畳みかけてきた。
「男の人のおちん○んって、コーフンするとああいう風になるんだね。硬くなってピーンって立っちゃったから、ビデオ見ながら手でシコシコこすってたら、なんかネバネバしたのが噴き出して、すっごく気持ちよかったの。サイコーだったよ。また、やりたいなぁ。あれ」
「ちょっと待つんだ、凛ちゃん……そういうことは、まだ君には早すぎるんだよ。気軽にパソコンを使わせた俺も悪いんだけど、エッチなことはもう忘れなさい。いいね?」
「ええっ、やだよー。だって、こんなに気持ちいいのにぃ……」
 凛ちゃんは椅子を回して正面からこちらを向くと、スカートをまくり上げて股間を俺に見せつけてきた。なんと、パンツをはいていない。凛ちゃんの陰部を隠すものは何もなかった。入れ替わったときに見たツルツルの割れ目が再び俺の視界に飛び込んできて、仰天した。
「元に戻ってからもね、あたし、いっぱいおなにぃしたの。最初はビミョーだったけど、だんだん気持ちよくなってきて……今日も、さっきまでトイレでしてたんだよ、おなにぃ。ほら見て、先生。濡れてるでしょ。これって、気持ちいいっていうショーコだよね? えへへっ」
 俺は驚きを隠せなかった。この子は、本当にあの凛ちゃんなんだろうか。誰か別の人間が、俺を陥れるために凛ちゃんと入れ替わっているのではないか。そんな疑いさえ抱いてしまう。目の前で淫蕩な言葉を並べ立てて、濡れた性器を露出させる凛ちゃんは、無垢な彼女のイメージとはあまりにもかけ離れていた。
「駄目だ、凛ちゃん。君はまだ子供なんだ。もうすぐ中学生だから、多少はエッチな話にも興味が出てくるかもしれないけど、そういうことは、もっと大きくなってからにしなさい」
「そんなのやだ! あたし、先生とセックスしたいんだもん! お願い、先生、あたしとセックスしてぇっ!」
「セッ──あ、あのねえ!」
 とうとう服を脱ぎ始めた凛ちゃんを、無理やり押さえつけた。揉み合いになったが、力で凛ちゃんに負けるわけがない。俺は凛ちゃんの体を後ろから抱きかかえるようにして押さえ込み、耳元でお説教を続けた。
「こらっ! 君の歳でセックスなんて言葉、意味もわからず使っちゃいけませんっ! いい加減にしないと、先生も怒るよ !?」
「セックスくらい知ってるよぉっ! 女の人のアソコに、男の人のおちん○んを入れて『なかだし』したら、赤ちゃんができて妊娠しちゃうんでしょ? ちゃんと知ってるもん! あたし、ひとりっ子だから弟か妹が欲しいの! だから先生、あたしとセックスしてぇっ! 一緒に赤ちゃん作ろうよぉっ!」
 凛ちゃんは俺に劣らず真っ赤な顔で、過激なセリフを連発した。あまりにも常軌を逸した言動だった。無邪気で純真な分、羞恥心もひとより希薄なのかもしれない。だが、まさか俺がそんな誘いに乗るわけにはいかなかった。
「そ、そんなこと、できるわけないだろ !? 凛ちゃんはまだ子供なの。セックスしちゃいけないの、犯罪なの!」
「は、犯罪っ !?」
「そう、犯罪。君とセックスしたら、先生はお巡りさんに捕まっちゃうの。逮捕されて、牢屋に入れられちゃうの! わかる?」
 俺の歳で小学生の少女に手を出せるはずがない。もしもそんなことが発覚してしまったら、俺は即刻お縄である。そう教えると、凛ちゃんは悔しそうに唇を噛んだ。細められた目がわずかに潤んでいた。
「あたし、先生が好き。お父さんのことは全然覚えてないし、学校でも女の先生ばっかりだったから、大人の男の人といっぱいお喋りしたの、先生が初めてなの。優しくて、カッコよくて……ずっと、先生に憧れてた。いつか先生のお嫁さんになれたらいいなあなんて、思ってた」
「俺はそんなこと、考えたこともないよ。凛ちゃんくらいの女の子相手にそんなことを考えてたら、完全にロリコンじゃないか」
「あたしが子供だからダメなの? じゃあ、もしあたしが大人になったら、お嫁さんにしてくれる?」
「ああ、いいよ。もしも君が、そのときになっても心変わりしてなかったらの話だけどね」
 もっとも、そんなことはありえないだろうが。俺はそんなニュアンスを込めて、皮肉っぽくうなずいた。凛ちゃんが大人になってまともな分別と常識を身につければ、きっと今の行動を後悔するだろう。ああ、どうして自分はあの頃、あんなことを言って家庭教師の先生を困らせたんだろう、と。
 ところが、凛ちゃんは俺の返事を聞くと、急に笑顔になった。そして、「わかった。じゃあ、あたし、今から大人になるもんっ!」と言って、俺の手を振りほどいて立ち上がった。
「ママっ、ちょっと来てぇっ!」
 凛ちゃんに大声で呼ばれて、聖子さんが部屋に入ってきた。さっきから騒がしくしてたから、聖子さんも何ごとかと思っていたに違いない。浮かない顔だった。
「凛、どうしたの? そんなに大騒ぎして……先生にご迷惑でしょう」
「あのね、先生。これ、なーんだ?」
 嬉しそうな凛ちゃんの手には、あの赤いドロップがあった。一つくすねていたらしい。
「駄目だよ、凛ちゃん。そんなもの、もう食べちゃ駄目だ。返しなさい」
 厳しい口調でそう言いながらも、俺は油断していた。あのドロップは二人で食べないと意味がない。たとえ凛ちゃんが俺との入れ替わりをもくろんでいるにしても、俺さえ食べなければ、入れ替わることはない。だから甘くみていた。
 ところが、凛ちゃんは俺の予想以上に狡猾だった。ドロップを自分の口の中にぽいっと放り込むと、勝ち誇ったように得意げな笑みを浮かべてみせた。
「実はね、さっきママに黄色い方のを食べてもらったの。先生なら、これがどういうことかわかるよね?」
「ええっ! 聖子さん、あれを食べちゃったんですかっ !?」
「え、何のことですか? ああ、あのドロップ──はい、凛から一つもらいました」
 何が何だかまるでわかっていない顔で、こくんとうなずく聖子さん。なんてこった。入れ替わったのを聖子さんに秘密にしておいたのが、今になって裏目に出てしまった。
「えへへっ、あたしが大人になったら、お嫁さんにしてくれるんだよね? ママみたいな大人の体になったら……」
「やめるんだ、凛ちゃん。そんなことをしても──」
 ドロップを噛み砕く、ガリっという音がした。途端に、凛ちゃんと聖子さんの二人ともが、くたっとその場に崩れ落ちた。
「り、凛ちゃんっ! 聖子さんっ!」
 介抱しようとする俺の手を振り払って、聖子さんが立ち上がる。自分の体をジロジロ見下ろし、ぺたぺた触って服装や体格を確かめると、突然ニコニコ顔で笑いだした。


「やったぁ、ママの体だぁっ! わーい、大成功っ!」
 小さな子供みたいに、両手を挙げて飛び上がる聖子さん。いや、子供みたいじゃない。見た目は成熟した大人の女性でも、今の聖子さんの心は完全に小学生の女の子になってしまっているんだ。
「せ、聖子さん……ホントに凛ちゃんと入れ替わっちゃったのか」
「そうだよー。今はあたしがママで、ママがあたしっ! これで、あたしも大人の仲間入りだねっ!」
「違うよ、凛ちゃん」俺は小さく頭を振った。「体だけ大人になっても、そんなの本当の大人じゃない。君は間違ってるよ」
「間違ってないもん。体も顔も全部ママのだから、ちゃんとした大人だもん」
 聖子さんはムッとした表情を浮かべると、自分の豊かな乳房を両手でつかんで揉みしだいた。
「ほら、見てよ先生。ママのおっぱい、すっごく柔らかいんだよ。それにとっても重たいの。あたしの体、もう子供じゃない。立派な大人の体なんだよ」
「凛ちゃん……」
 それは違う。そう言おうとしたが、その前に聖子さんが俺に抱きついてきた。ふわりと揺れた髪からとてもいい香りが漂ってきて、俺の鼻腔を刺激した。
「ねえ、先生。あたし、大人になったよ。だから約束通りあたしと結婚して。あたし、先生の奥さんになってあげる。ねえ、いいでしょ?」
「駄目だ。そんなことできないよ」
「え、でも、さっき約束したよね? あたしをお嫁さんにしてくれるって、言ったよね。あたしとセックスしてくれるって、言ったよね? ねえ、先生……」
 聖子さんは俺の体をきつく抱きしめて、甘い猫なで声をあげた。ボリュームたっぷりの胸が二人の体で押し潰されて、とてもいい感触だ。見ているだけでも充分に魅力的だったが、こうして密着すると本当に艶かしい体なのがよくわかる。みずみずしい肌は三十代になった今でも少女のような張りを保っているし、体のラインも全く崩れていない。とても子持ちの未亡人とは思えない、若々しい体だった。それでいて、熟れた女に特有の生々しいフェロモンが俺の野性を激しく煽りたててくるのだ。正直、耐えるのが辛い。
「だから駄目だってば。早く元に戻るんだ」俺は心の内に芽生えた欲情を誤魔化すように、早口で言った。
「それは無理。入れ替わっちゃったら、丸一日はこのまんまなんでしょ? 戻りたくても、戻れないよ」
 そういえばそうだった。あのドロップの効き目は二十四時間。二人が元に戻るのは、早くても明日の夕方ということになる。こうなった以上、聖子さんに隠し通すというわけにはいかないだろう。一連の騒ぎを引き起こしてしまったのはこの俺なんだから、ちゃんと事情を説明して謝らなくては。まったく、頭の痛い話だった。
 そのときだ。
「うわっ !? り、凛ちゃん、何を……」
 いきなり股間を撫で上げられて、俺はゾクリと身震いした。我ながら情けない悲鳴だったが、仕方がないと思う。聖子さんの細く長い指が、俺の敏感な部分をズボン越しにもてあそんでいるのだ。これで興奮しないわけがない。どうしたものかと戸惑っていると、聖子さんが俺の耳にフゥっと息を吹きかけてきた。
「いいでしょ、先生……ねえ、セックスしよ? 先生も男の人だもん。したいよねぇ、セックス。あたしもしたいんだよ。ほら、しちゃおうよぉ」
 抗いがたい誘惑だった。凛ちゃんの家庭教師を始めて以来、俺が聖子さんを性欲の対象としてとらえたことが一度もなかったかというと、恥ずかしながらそうではなかった。どれほど分別のある紳士を装っていようと、俺も所詮ひとりの男。年上の女性がかもし出す色香に惑わされ、卑しい牡の目で見てしまったことは幾度となくあった。こんな美人が夫と死別してから再婚もせず、娘と二人っきりで静かに暮らしているというのが本当に信じられなかった。亡くなった夫に操を立てているのだろうが、そんなもったいないことをするくらいなら、いっそ俺が……などと、変態めいた妄想を抱いたことすらあった。
 もちろん、それは全て俺の脳内での話。まさか現実のものになろうなどとは、考えたこともなかった。
 だが、今起こっていることは全て現実。立ちすくんだ俺に聖子さんがしなだれかかり、豊かな胸を押しつけながら「セックスしよう」と誘っているのだ。異常極まりない事態だった。まるで自分が夢の世界に迷い込み、妄想の住人になってしまったかのような錯覚に囚われてしまう。
「凛ちゃん、やめるんだ。こんなことをしても、後で君のお母さんが悲しむだけだ……」
「先生、好きだよ。こっち向いて」
 説得を遮り、聖子さんが俺の頬に手をかけた。くいっと顔を向かい合わせにさせられ、いとも容易く唇を奪われてしまう。薄くルージュのひかれた聖子さんの唇は、ゼリーのようにぷるぷると柔らかかった。
「えへへっ、あたしのファーストキス。元に戻ったら、またあたしの体でしようね」
 頬を赤らめてはにかむ聖子さんの顔と、普段の凛ちゃんの笑顔が重なって見えて、ついドキリとしてしまう。見た目は聖子さんだが、中身は凛ちゃん。その事実を改めて思い知らされた。
「あはっ、もう硬くなってる。先生もコーフンしてるんだね。嬉しい」
 すっかり勃起してしまった俺の股間を、聖子さんがいとおしげに撫でた。ズボンのテントを揉みほぐす緩慢な手つきに、もどかしさを感じてしまう。こんなこといけないと頭ではわかっているのだが、どんどん膨れ上がる俺の欲望は、とどまるところを知らなかった。その気になればいつでも払いのけられるのに、まるで体が金縛りにあったかのように動かない。
 聖子さんの手の感触に我を忘れていると、突然、彼女が体重をかけて、俺の体にもたれかかった。凛ちゃんのような子供ならどうということもないのだが、聖子さんの体格ではそうもいかない。ふらっとよろめいて、そのままベッドに押し倒される。上にのしかかった聖子さんが、逆光の中で口を三日月の形に歪めるのが見えた。
「先生、セックスしようよぉ……こんなにおちん○んを硬くして、したくないなんてウソに決まってるじゃない。ウソもウソ、大ウソだよぉ」
「い、いや、これは男の生理現象というもので、別に俺がしたいわけじゃあ……」
「ウソつき。ウソをついちゃダメだって、いつもママが言ってるよ? ま、今はあたしがママなんだけどねー。きゃははっ」
 聖子さんが俺の腰に手を伸ばして、ベルトをカチャカチャ外しはじめた。ズボンのファスナーが開かれて、下着の中からそそり立った一物が取り出されるまでの間、俺は抵抗もできずにじっとしていた。ひょっとしたら、もうこの時点で俺は完全に彼女のモノになっていたのかもしれない。抵抗できなかったんじゃなく、あえてしなかったんだ。
「先生のおちん○ん……こうやって見ると、やっぱり変な形だね。入れ替わってるときは自分のだから、そんなに気にならなかったんだけどなぁ。うーん、変なの」
 などと言いながら、俺の性器を撫で回す。愛撫というほどでもない、たどたどしい手つき。だが、俺の股間はそれで充分に興奮して、よりいっそう燃え上がってしまう。指で触れるたびにピクピク蠢く男性器を、聖子さんはオモチャで遊ぶ子供のようにいじり回した。皮を剥いたり、袋を揉んで中身をつまんだり、もうやりたい放題だ。
「も、もういいだろう。やめてくれ、凛ちゃん。これ以上はしちゃいけない」
「ダーメ、まだまだこれからだもん。先生の、なめてあげるね。暴れたら噛んじゃうよ?」
 ビンビンに張り詰めた陰部に、聖子さんの唇がくちゅりと触れた。赤い唇が真っ二つに割れて、ゆっくり俺のチン○を飲み込んでいく。入れ替わっている間に、この子はこんなことまで覚えてしまったのか。俺があのドロップを食べさせてしまったばかりに……暗澹たる思いだった。
 いたたまれない気分とは裏腹に、俺のチン○は聖子さんの口の中で丹念にしごかれ、ますますいきりたっていく。熱い舌が軟体動物のように蠢いて、ねっとりと絡みついてくるのがたまらなく気持ちいい。最高だった。もちろん、凛ちゃんにフェラチオの経験があろうはずもないが、聖子さんの口内は男を魅了してやまない魔性の触手となって、俺を夢中にさせる。このままではすぐに果ててしまいそうだ。
「どう、先生。気持ちいい?」一旦口を離して、聖子さんがニカっと笑った。
「駄目だ、凛ちゃん。こんなこと──ううっ、これ以上、気持ちよくしちゃダメだ……」
「あはは、やっぱり気持ちいいんじゃない。ザーメンっていうんだっけ? 気持ちよくなると、あれが出るんでしょ。いいよ。あたしが飲んであげるから、いっぱい出してね」
 聖子さんの手が俺のをマイクのように握りしめ、先端に舌を這わせる。ぱっくり割れた亀頭を舌がこするように撫で上げ、敏感な部分を摩擦してくる。俺の背筋がゾクゾク震えて、射精の欲求に身悶えした。駄目だ。聖子さんの口の中を、俺の汚い汁で汚すわけにはいかない。そうは思いながらも、自分の心の隅に「このまま射精したい」という欲望が湧き上がっているのを、否定することはできなかった。
 聖子さんに自分の精液を飲んでほしい。普段の俺ならば、そんな淫らな衝動に突き動かされることもなかっただろうが、この状況においては話が違う。何しろ、向こうから進んで俺のチン○をしゃぶり、誘惑してきているのだ。ここで逃げるのは男の名折れ、据え膳食わぬは何とやら──そんな囁き声が、自分の内から聞こえてくる。駄目だ、駄目だと口ではうわごとのように繰り返してはいるものの、もはや何が駄目なのか、自分でもよくわからなかった。
「ダメだ、凛ちゃん。もう出る、出るから離れてくれ……!」
「だからぁ、飲んであげるってば。ほら、先生。いいから出してよぉ」
 俺の脳髄を貫く快感と、舌っ足らずの甘い声。これ以上抗うのは不可能だった。俺はついに根負けして、聖子さんの頭を乱暴に両手でつかむと、陰部にぐいぐい押しつけた。チン○を喉の奥まで突っ込んだところで、待ち望んだ灼熱の塊を思いきりぶちまける。俺の豹変ぶりに、聖子さんは目を白黒させて、激しく咳き込んでいた。
「げほっ、ごほっ! ううっ、先生、ひどいよぉ。喉が──うええっ、ドロドロするぅ……」
「もういい。凛ちゃん、君の気持ちはよくわかったから」
 聖子さんの体を抱き寄せて、冷たい声で囁いた。紳士の矜持、道徳、倫理観……そういった邪魔なものが、いっぺんに吹き飛んでしまったような気がする。わけもわからず呆然とする聖子さんに、俺はきっぱり宣言した。
「君を抱く。ちょっと乱暴にするけど、後悔するなよ」
「え? せ、先生、いきなりどうしちゃったの? なんか怖いよ……」
「君が悪いんだ。ひとが下手に出てたら図に乗りやがって……こうなったら、たっぷりとお仕置きしてやるからな。覚悟しろ」
 聖子さんの服に手をかけ、力任せに引っ張った。ブラウスのボタンが弾け飛び、ブラジャーに包まれた大きな乳房が姿を見せる。「やだぁ。先生、やりすぎだよぉ……」という訴えを無視して、背中のホックを引きちぎるように外すと、プルンと弾む乳が丸見えになった。実に眼福である。
 三十過ぎの母親とは思えない、きめ細やかな白い素肌。先っちょの突起はぷっくらと膨れ上がり、俺を誘っているようにも見えた。そこに歯をたててかぶりつく。痛い、と悲鳴があがったが、舌先で突起を突ついてコロコロ転がすと、すぐに甘い声が混じり始めた。
「ああっ、先生、噛んじゃダメぇ。痛いよぉっ」
「痛いだけかい? 正直に言いなよ。ほら、どんな感じがする?」
「あふぅっ、うう……い、痛いのに、変な気分になっちゃう……」
「気持ちいいんだろ。こんなに乳首を硬くして……ホントに、君はエッチな子だ」
「うん、気持ちいい。気持ちいいのぉ。だからもっと、もっとしてぇ……」
 幼い口調でおねだりしてくる、女やもめの清楚な母親。熟れた女の肉体は久しぶりに男に抱かれるのをただ純粋に喜んでいるようだが、やはり心が無垢の少女のそれだからか、表情や仕草の端々に未知の体験に対する期待と恐怖が垣間見えた。外見と中身の凄まじいギャップに、自然と俺も高ぶってしまう。
 フレアスカートに手を伸ばすと、また乱暴に脱がされると思ったんだろう。聖子さんはそれを自分から脱ぎだした。肌色のストッキングに覆われた太ももと、大事な部分を隠す紫色の布切れがさらけ出されて、何とも扇情的だ。こんなに大胆な下着をはくなんて、最初からこうなるのを期待していたんじゃないのか。そんなことを考えた。
 聖子さんをベッドに寝かせ、脚を大股に開かせる。M字開脚のポーズだ。申し訳程度に下着に隠された陰部の向こうに形のいいヘソと乳房が、さらにその向こう側に半ば怯えた彼女の顔が見える。とてもいい眺めだ。まな板に載せられた魚のような格好の聖子さんを観察していると、自分がこの女を支配しているという実感が湧いてきて、自然とサドっ気を刺激される。
「ここ、触るよ」
 俺の言葉に、聖子さんは赤い顔でうなずいた。総レースの上品な下着は既にいやらしい汁に濡れ始めていて、聖母のような清らかさと娼婦の卑しさとを、同時に兼ね備えていた。染みのついたクロッチの部分をそっと撫で回すと、ビクンと体が震えて、切ない声があがる。さかりのついた猫のような鳴き声だった。
「ふああっ、熱い。アソコが熱いよぉ……」
 女の唇を布越しに男に触られて、蜜をとろりと垂れ流している。生真面目な聖子さんのことだから、もう何年も亡夫に義理立てしたまま、誰にもここを触らせなかったに違いない。その間、自慰はしていたのだろうか。幼い娘を寝かしつけたあと、ムラムラと湧き上がる性欲に耐えかねて、声を殺して自分を慰めていたのだろうか。俺の妄想の種は尽きない。
 パンツをずらして、びしょびしょの陰部に直接触れた。とても熱い。ヤケドをしそうなくらいに煮えたぎっている。柔らかな大陰唇を指で突つくと、それ自体が意思を持っているかのように、ヒクヒクと収縮を繰り返した。男が欲しい、チン○が欲しいと懇願しているように見える。まったく、大した淫乱ぶりだ。
「これも脱いで。君の生まれたところ、全部見たい」
「う、うん……わかった」
 素直にうなずく返事にも、俺に媚びるような色が混じっていた。中身はまだ初潮を迎えているかも疑わしい女の子だというのに、もう男に色目を使うことを知っている。俺の家で見たビデオの影響だろうか? いや、違う。おそらく、女という生き物の中に、男を誘惑するという行為が本能として刷り込まれているのだ。聖子さんは頬を羞恥に染めながら、俺に言われるままに下着を腰からスルスルと抜いていった。
 ようやく現れた、聖子さんの性器。意外にも色が薄く、整った形をしていた。とても一児の母とは思えない。本当にここから凛ちゃんが生まれてきたのだろうかと、疑念すら抱いてしまう。ただ、毛は人並みに生え揃っており、指で触れると黒い毛先がサワサワとまとわりついてきた。感度も良好なようで、俺が触るたびに体を細かく跳ねさせ、見ている俺を楽しませた。
 どうせなら、入れる前にもうちょっとほぐしておこう。聖子さんの陰部を指で広げて、ゆっくり顔を近づけた。汁に濡れたビラビラも、しっかり立ち上がった豆の形も、全てを思うがままに見渡せる。発情した牝の臭いがつんと鼻をつき、俺の股間がますます硬くなった。
「先生。何するの?」
「ん、味見しようかと思ってさ。なめるからじっとしててね」
 平然と答えて、舌を伸ばす。トロトロに溶けた秘所の蜜が俺の舌にからみつき、唇を濡らした。少し酸味がある。下品にジュルジュル音を立てて吸い上げると、聖子さんは身をよじって激しく喘いだ。中身が三十路の母親だろうが、小学生の娘だろうが関係ない。こうして牡に抱かれて、感激してのたうち回るのが牝の本性なのである。その意味で、俺の前にいるのは、まさしく一匹の牝だった。
「やだやだぁっ! そんなことされちゃ、おかしくなっちゃうよぉっ!」
 止めどなく溢れてくる陰部の蜜を、無言ですすり上げる。唇で割れ目を覆うように塞いで、舌で中身をほじくってやるのが彼女のお気に入りのようだった。性器の中で暴れ回る舌の感触が、よほどお気に召したのだろう。陰部の上についている突起が硬くそそり立っていた。入れ替わったときに散々もてあそんだ凛ちゃんのものと比べて、ひと回りは大きい。もちろん、俺がそこを見逃すはずもない。舌で突つき回してべろんと皮を剥いてやると、聖子さんは狂ったように腰を浮かせて痙攣した。早くも絶頂を迎えたらしい。
「凛ちゃん、イっちゃった?」
「はあっ、はひぃっ、ひい──イ、イっちゃった? あたし……どこにイっちゃうの?」
「どこにって……イっちゃうっていうの、わかるよね?」
 聖子さんはふるふると首を振った。どうやら、「イク」という表現がわからないらしい。これだけエロい体をしていながら、「イク」ことの意味も知らないとは……やはり、中身は幼い女の子なのだと思い知らされる。だが、それがいい。肉体は男を求めてやまない熟女のものでありながら、心はわずかに耳年増なだけの臆病な少女。体の快楽に振り回されて、滅茶苦茶に乱れるさまがたまらない。
 本物の聖子さんだったら、おそらく、もっと余裕を持って対処することができただろう。若い男と子持ちの女。飢えた狼のように余裕をなくして早々に肉欲に溺れていたのは、俺の方だったに違いない。ところが、凛ちゃんと聖子さんが入れ替わったことで、状況はまるで異なるものとなった。ひと回りも年上の未亡人を俺がリードして、無知な彼女に性の手ほどきをしてやってるのだ。実に奇妙で面白い。笑いがこみ上げてきて我慢できなかった。
「じゃあ、そろそろ本番だ。セックスするよ、凛ちゃん」
「わぁ、ホントにセックスするんだ……ドキドキする」
 パンパンに膨れ上がった一物を見せつけると、聖子さんは期待と恐怖に目を丸くした。今からこれで、自分の秘所を貫かれるのだ。知識としてわかってはいても、いざ実践するとなると腰が引けてしまうのもやむを得ない。俺は聖子さんの両脚を持ち上げ、挿入しやすい位置に股間を持っていった。
「いくよ、凛ちゃん」
「う、うん……あたし、頑張る」
 覚悟を決めて、歯を食いしばる聖子さん。処女じゃないんだからこんなに力まなくてもいいのだが、凛ちゃんにとっては、これが初体験ということになる。初めてが母親と入れ替わった状態でのアブノーマルなセックスとは……この子も本当に変な子だ。まあいい。ここまで俺を想ってくれているんだから、素直に俺の女にしてやるのが誠意というものだろう。俺も腹をくくり、腰をずんと前に突き出した。
「あっ、ああっ、ああ……入ってくる。先生のおちん○ん、入ってくるよぉっ!」
 口を開けた聖子さんが、悩ましげに舌を伸ばした。この体にとって何年ぶりの男の味だろうか。久しぶりにくわえ込んだ牡を逃すまいと、必死で締めつけてくる。その子持ちとは思えないきつい締めつけに加え、幾重にも重なったヒダが生き物のように絡みついて、俺の精を搾り取ろうとする。まさに絶品、素晴らしい名器だった。
 奥まで貫いたところで一度、動きを止めて聖子さんの顔に見入る。日ごろの清楚で落ち着いた母親の表情はどこへやら、涙を流して頬を緩ませ、よだれを垂らす聖子さんのマヌケ面は、交尾に励む牝犬のそれと何ら変わらなかった。完全に理性が快楽に飲み込まれてしまっている。しかし、素晴らしく美しい。惚れてしまいそうだ。
「はああっ、ダメぇ。動いたら、お腹がキューってなって、怖いよぉっ」
 ぐりぐりと腰を押しつけると、聖子さんは背筋をそらし、全身を小刻みに震わせた。小さな絶頂の波が絶え間なく押し寄せているらしく、俺が動いて前後するたびに、「はうっ、ひああっ」と何度も鳴いて、あられもない姿でよがり狂った。
「凛ちゃん、俺とのセックス、気持ちいい?」
「うん、気持ちいい……気持ちいいよぉ。やだぁ、なにこれぇ、お股が溶けちゃいそう……」
「ところで、凛ちゃん。お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
 問うと、聖子さんは焦点を失った瞳でぼんやりと俺を見やった。いつもの聖子さんとは似ても似つかぬ、肉欲に塗り潰された目だった。
「お、お願い? お願いって、はああんっ、なに?」
「俺のこと、『先生』じゃなくて、『お兄ちゃん』って呼んでくれないかな。実は前から、君にそう呼んでほしかったんだ」
「お、お兄ちゃん……? うん、わかった。これからはお兄ちゃんって呼ぶ……」
 少し戸惑いつつも、素直にうなずいてくれる聖子さん。途端に、彼女の中に埋まった俺のものが硬度を増して、膣内を圧迫した。ひと回りも年上の女性に「お兄ちゃん」と呼ばれただけでこんなに興奮してしまうとは、自分でも意外だった。アブノーマルって素晴らしい。
「う、うああんっ、おにっ、お兄ちゃあんっ!」
「凛ちゃんの顔、エロいね。顔だけじゃない。アソコも、こんなに俺を締めつけて離さないよ。わかる? 抜こうとしたら、お腹の中が引っ張られそうになるだろう。ほら、ほら。そんなに俺のチン○、気に入ったのかい?」
 腰を押さえて、奥まで入ったチン○をぐぐっと引き抜いた。ねっとり絡みついたヒダが引っ張られて、中でこすれて強烈な刺激となる。聖子さんは金切り声をあげて体をヒクつかせ、何度も絶頂を繰り返した。
「きひいぃっ! やあっ、いやあぁっ! お兄ちゃん、もうやめて! 許してぇっ!」
 中が激しく収縮して、俺まで持っていかれそうになる。既にチン○は射精の準備を整え、種つけの瞬間を今か今かと待ちわびていた。だが、まだだ。もう少しだけ我慢だ。俺は腰に力をためて、トドメとばかりに猛烈なピストン運動を開始した。パン、パンと肉が鳴って、絹を引き裂くような聖子さんの悲鳴がこだまする。
「あひぃっ、ふああ──ダメ、ダメぇっ! こんなにされたら、頭がっ、頭がおかしくなっちゃうよぉっ!」
「もう少し……もう少しだっ! もう少しで、俺もイクからっ! 凛ちゃんの中に出すからっ!」
「ダメ、イっちゃうっ! あああっ、はああぁっ、イグううぅっ……!」
 聖子さんの体が壊れたオモチャのように跳ねた。馬鹿みたいによだれと鼻水を垂らしてアヘ顔を晒しながら、膣をキュウウっと引き絞って、射精を要求してくる。そのご要望にこたえて、俺は聖子さんの体にのしかかるようにしてチン○をぐぐっと一番奥まで突き込むと、一気に尿道口を解き放った。
「あふああぁっ! お兄ちゃあぁんっ !!」
 精液が凄まじい勢いでほとばしり、聖子さんの中にぶちまけられた。あまりの衝撃に、俺の腰がガクガクと震えてしまう。それが新たなスイッチとなって、聖子さんを更なる高みへと導いた。母の肉体で味わう初めての絶頂に、彼女は潮さえ噴いて酔いしれていた。
 たっぷりと時間をかけて熱い塊を出し終えると、ようやく興奮が引いていく。萎えたチン○が抜ける際、ごぽっと小さな音がした。いったいどこに貯めこんでいたのかと思わせるほどの量だった。危険日だったら、間違いなく当ててしまっているだろう。その自信があった。
 よほど気持ちよかったのか、聖子さんは白目を剥いて失神してしまっていた。幼い心には強烈すぎたのだろう。まだ快感の名残が残っているのか、時折、ピクピクと体が震えてうめき声が漏れてきた。
「え? な、なんで私がそこに──ええっ !? わ、私、どうなっちゃったのっ !?」
 背後から聞こえてきた声に振り向くと、真っ青な顔の女の子が立ちすくんでいた。凛ちゃんの体になった聖子さんが、やっと起きたらしい。さっぱり事情がわからず、途方に暮れているようだ。
 無理もない。目が覚めたら自分が幼い娘になってて、しかも本当の自分の体は知らないうちに家庭教師の男に犯されてたんだからな。恐怖と困惑に顔を歪ませて兎のように震えているのが、とても可愛らしかった。
 さて、どう説明したものか。そそのかしたのは凛ちゃんだが、こうなってしまった以上は、俺も共犯ということになる。誤魔化すわけにはいかないだろう。俺はチン○丸出しのままで立ち上がると、怯える凛ちゃんに優しく笑いかけた。

 ◇ ◇ ◇ 

 大学は昼からだった。
 夕べ、夜更かしをしてしまったこともあって、午前中はゆっくり惰眠を貪るつもりだったのだが、なぜかいつもの時間に叩き起こされてしまった。
「お兄ちゃん、いつまで寝てるの !? あたし、もう行ってくるからね!」
 寝ぼけまなこをこすると、ベッドの脇に赤いランドセルを背負った女の子が立っているのが見えた。名前は横山凛。俺の同居人で、元気いっぱいの明るい小学生だ。
「ああ、いってらっしゃい。でも、もうちょっと寝かせてほしいなあ。俺、今日は遅いから……」
「ダーメっ! ほら、いつものやつ、ちゃんとやってよ。あれしてくれないと、あたし、学校行かないよ?」
「はいはい……じゃあ、じっとしてね」
 おねだりしてくる凛ちゃんの頬を押さえて、そっと唇を重ねてやる。口をはむはむさせて唇の肉を入念に味わったのち、舌を入れて口内をかき回すと、幼い体が軽く震えて興奮を伝えてきた。
「はあ……あふっ、おにいっ、お兄ちゃあん……」
「はい、おはようのキス、おしまい。満足した?」
「うん、ありがとう。お兄ちゃん、だーいすきっ!」
 満面の笑みで抱きついてくる凛ちゃん。こうして笑うと年相応のあどけなさがにじみ出て、何とも愛くるしい。俺と暮らすようになって以来、すっかりエロい行為にハマってしまった凛ちゃんではあるが、以前の純真さはいささかも損なわれてはいなかった。
「帰ってきたら、またいっぱいエッチしようね。それじゃあ、いってきまーす!」
 早足で駆けていく凛ちゃんを見送って、もう一度、寝直そうとした俺だったが、今度は聖子さんに呼び止められてしまった。
「よかったら、一緒に朝ごはんを食べませんか?」
 食卓の上には、白いご飯に焼き魚や味噌汁など、王道とも言える朝餉が並べられていた。どうやら、俺が凛ちゃんに叩き起こされるのはお見通しだったらしい。さすが親子だ。この家の住人になってまだ日が浅い俺では、とても太刀打ちできそうにない。ここは郷に入っては郷に従い、ありがたくいただくことにする。
 刻み海苔をまぶした炊きたてご飯をかきこんでいると、テーブルの向こうの聖子さんと目が合った。何か言いたそうな表情だった。
「どうしたんですか、聖子さん。俺の顔、なんかついてます?」
「いえ、何でもありません。ただ、家の中が賑やかになったなあって思って。これからもっと賑やかになるんでしょうけど」
「はあ、すいません……なんか、いろいろ迷惑かけちゃって」
 今回のことで、この人には本当に苦労させたと思う。いくら謝っても許してもらえるわけではないが、このように真正面から無言で見つめられると、頭を下げずにはいられなかった。
「いいえ、もういいんです。あの子が望んだことですし、それに私も覚悟を決めましたから。これからも、家族としてよろしくお願いしますね」
 見事に膨らんだ自分の腹を撫でながら、俺に微笑みかけてくる聖子さん。あんな目に遭っても、これだけ前向きでいられるのだから感心する。もっとも、凛ちゃんに言わせると、「元々、ママは先生に気があった」ということだそうだが。ちょっと信じがたい話だ。
 聖子さんと入れ替わった凛ちゃんは、あれから毎日あのドロップを食べ続けて、母親の体で俺とセックスを繰り返した。当然のように彼女は俺の子を身ごもってしまい、ようやくドロップが切れて二人が元に戻ったときには、もはや堕胎も不可能なありさまだった。
 一方、その間の聖子さんは、娘の体で散々な目に遭わされていた。凛ちゃんに「もう二度と元に戻れない」と嘘を教えられ、さらに入れ替わったのをこれ幸いと、調子に乗った凛ちゃんに「自分の娘」として厳しくしつけられ(口答えなどしようものなら凛ちゃんに押さえ込まれて、泣いて謝るまで尻をひっぱたかれていた。あれはハタ目にもひどかった)、母親のプライドをズタズタにされていた。元に戻る直前には、ビクビク怯えて元の自分の顔色をうかがいながら、必死で凛ちゃんになりきっていたくらいだ。
 この人の不幸はそれにとどまらない。やっと元の体に戻ったあとも、今度は自分の意思などお構いなしに俺の子供を産まされることとなり、気の毒なことこの上なかった。しかし、こうなってしまっては産むより他に選択肢はない。だいぶ悩んでいたようだが、結局は凛ちゃんの提案通りに俺を家族に迎え入れ、一緒に暮らす決意を固めてくれた。俺としてはけじめをつけるつもりできっちり入籍したかったのだが、それは聖子さんに拒否された。曰く、「私じゃなくて、凛をもらってやって下さい」とのこと。そういうわけで、俺は晴れて凛ちゃんの婚約者として、横山家に自分の居場所を確保することとなったのである。もうすぐ生まれる子供も含め、かなりややこしくて非常識な家族構成になってしまったが、ある意味で両手に華、薔薇色の新生活とも言える。
 それもこれも、全部あのドロップのおかげだった。凛ちゃんと入れ替わって大騒ぎしたのも、今となっては懐かしい思い出だ。もう残らず使い切ってしまったが、これだけの幸福を与えてくれたのだから悔いはない。俺にとっては、あれは本当に幸せのドロップだった。
「ふう、聖子さんの味噌汁、すごく美味しいです。俺、こんな味噌汁を作ってくれる女性と暮らしたかったんですよ……って、あれ?」
 今までの出来事を思い起こして幸せに浸っていると、突然、歯に何か硬いものが当たった。味噌汁の具にしては妙だ。硬くて小さくて、噛むとガリリと歯ごたえがあり、まるで果物のような甘味が口の中に広がっていく。これは何の味だろう。ひょっとしてイチゴだろうか。あれ、イチゴといえば──
「やっと食べてくれましたね。途中でバレちゃうんじゃないかって、ヒヤヒヤしました」
 俺の目の前で、聖子さんがニコニコ笑いながら、黄色い飴玉を取り出した。間違いない、あのドロップだ。ポイっと口に入れて、ガリガリガリ。どういうことか訊ねる間もなく、俺は気を失ってしまった。
 数分後、意識を取り戻した俺が見たのは、テーブルの向かいに座って不敵に笑う「俺」の姿だった。
「うふふ、うまくいきました。体が軽くて、とってもすがすがしい気分です。これが男の人の体……やっぱりたくましいですね。女の細腕とは大違いだわ」
「せ、聖子さん? 俺、いったいどうなって……う、うわあっ !?」
 目を剥いた。俺の腹部が突き出て、まるで妊婦のようになっていたのだ。マタニティの上に清潔な白のエプロンをつけて、妊婦のようなデカい腹をかかえて、そして女みたいなかん高い声。そんなバカな。これじゃまるで、聖子さんじゃないか。
「ま、まさかこの体、ひょっとして聖子さんの……」
「はい。入れ替わったんですよ、私たち。どうですか? お腹が重たくて、しょうがないでしょう。妊婦って、そんな感じなんですよ。自分の赤ちゃんの重さ、しっかり実感して下さいね」
 聖子さんが立ち上がって、ご機嫌の顔で俺を見下ろしてくる。見慣れた自分の顔のはずなのに、無性に怖かった。膨らんだ腹の重みが心にのしかかってきて、潰れてしまいそうだった。
「な、なんでこんな……もう、あのドロップはないんじゃ……」
「実は、また送ってきたんですよ、あの飴玉。試供品みたいなものなんですって? 凛がアンケートか何かを書いて送ったらしくて、そしたら、また追加で届いちゃって」
「俺」の太い腕に、ぐっと肩をつかまれた。男と女、体格差は歴然だ。もしも彼女に暴力を振るわれたら、俺に抵抗のすべはない。凛ちゃんと入れ替わったときの心細さが再びこみ上げてきて、泣きそうになった。女の体だから涙腺が緩いのかもしれないが、何とも情けない。
「ど、どうするつもりですか。俺の体、返してほしいんですけど……」
「どうもしませんよ。ただ、その子が産まれるまで、私と代わってほしいだけです。あんな痛い思いをするのはもうまっぴら。せっかく便利なドロップが手に入ったんだから、あなたに代わりをしてもらいます」
「え……俺に赤ん坊を産め、と?」
「その通りです。あと、今回のことで散々、凛に煮え湯を飲まされましたから、あの子にもきっちりお仕置きをしておかないと……ふふふ、帰ってくるのが楽しみだわ。どういう風にいたぶってやろうかしら」
 歌うようにつぶやいて、自分の唇をペロリとなめる聖子さん。普段のこの人からは想像もできない、サディストの表情だった。凛ちゃんといい、この人といい、ここの親子には本当に驚かされる。いっそ婿入りをやめて逃げ出そうかなと思いもしたが、こんな身重の体では、外に出ることもままならない。
「さあ、あの子が帰ってくるまで、二人で思いっきり楽しみましょう。知ってますか? 安定期になると、多少のセックスは胎教にいいんですよ。ふふふ……たっぷり可愛がってあげますからね。男の人のセックスって、どんな感じなのかしら。楽しみだわぁ」
「や、やだあああっ! セックスしたくなぁいっ! 赤ん坊も産みたくなぁいっ! いやだああああっ !!」
 俺の悲鳴が響き渡ったが、当然のことながら、助けなど現れるはずもない。
 かくして薔薇色の新生活が一転、地獄の日々が始まった。


(完)


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