ストーカー

コツッコツッコツッコツッコツッ...。
仁藤貴子は夜道を急いでいた。
(課長のやつ、あたしが帰ろうとしてるときに、残業をいいつけるなんて)
貴子がまさに帰ろうとするタイミングで、高柳課長に翌日の会議の資料作成を命じられたせいで、帰りが大幅に遅くなったのだ。
(せっかく今日は愛美と可愛い服でも買いに行こうと思ってたのにな)
そんなことを考えながら家路を急いでいた。

カツッカツッカツッカツッカツッ...。
ふと気がつくと後ろから足音が聞こえる。
その音は貴子の歩くペースとほとんど同じに聞こえた。
(たまたま一緒の方向の人だよね?)
何となく不安を覚えた貴子は自分を納得させるように考えようとした。
しかし相変わらず同じペースでついてくるような気がする。
(まさか...ね......)
貴子は確かめるために立ち止まった。
ついて来ている足音も止まった。
(えっ、嘘!)
貴子はしばらく立ち止まっていた。
後ろの足音が近づく様子はない。
貴子は走り出した。
後ろの足音を振り切るように。
貴子は必死に走った。
ようやくマンションに着いた。
何とか逃げ切ったようだ。
玄関の鍵をかけ、チェーンロックをかけると少し落ち着いた。
(誰だったんだろう、今の?)
『トゥルルルルル...トゥルルルルル...』
電話が鳴った。
何の警戒もせずに貴子は受話器を取った。
「もしもし、仁藤ですけど」
電話の向こうからは息遣いが聞こえるだけで何の返事もない。
しばらくすると、何も言わずに切れた。
「何なのよ、いったい...」
貴子にはこの電話もさっきの足音と無関係だとは思えなかった。

その日から貴子は自分の周りで見え隠れする陰に怯えるようになった。
毎日のようにかかってくる無言電話。
いつも感じる誰かの視線。
帰り道の尾行されているような背後からの足音。
姿がはっきり見えないだけに余計に不気味だった。

そんなことがあって1週間ほどして貴子は親友の愛美に相談した。
「愛美、あたし、最近変な奴につきまとわれているの」
「え?それってストーカーなんじゃない?」
「うん、そうかもしれない。でもそいつが男なのか女なのかも分からないの。だからストーカーかどうかも...。でももう本当に恐くって」
「男であっても女であってもそういうのってストーカー行為って言うんじゃない?絶対警察に相談した方がいいって」
「でも別に何か具体的にされたわけじゃないから警察には行きにくいし」
「でも何かあってからじゃ遅いよ。ダメもとで行ってきなよ」

愛美の言葉に励まされて、貴子は駅前の交番に相談に行った。
しかし、その対応は冷たいものだった。
ある意味、予想通りだったのだが。
「実際何らかの被害が出てるわけじゃないんですよね?だとすると我々もなかなか動きづらいんですよ。該当地域のパトロールは強化しますし、何かの実害が出ればすぐに駆けつけることができるような体制をとりますので、何かあれば連絡ください」
「そんなこと言ったって何か起こったらどう責任とってくれるんですか?」
「それはそうなんだけど警察も人数に限りがあるからんですから」
「でもあたしは毎日恐い思いをしてるんですよ。本当に襲われたりしたら...」
「そうならないように警察もパトロールしていきますので、何か変わったことがあればすぐに連絡してくださいね。よろしくお願いします」
警察はあてにならないな。
そう思い貴子は交番を後にした。


岡田隆志は仁藤貴子のことを愛していた。
隆志にとっては貴子が全てだった。
貴子の姿を見ることができればそれで幸せだった。
決して愛してほしいとかいう気持ちはなかった。
ただ貴子の姿を身近に感じれればそれでよかった。
隆志は貴子の性格・人柄に関してはほとんど知らなかった。
そんなものはどうでもいいくらい貴子の容姿が好きだった。

貴子を最初に見たのは夜の繁華街だった。
栗色に染められたストレートな髪は背中の半分弱を隠していた。
酔っ払いが多い中颯爽と歩いている貴子の姿は隆志の心をとらえた。
隆志は特に意図もなくその女の後をつけた。
そして貴子の住居を知った。

特に定職についていない隆志は自分の好きなことをできる時間を自由に持つことができた。
何もすることがない日には貴子の周りをうろついた。
貴子の視界に入らないように気をつけながら。

時間があれば貴子の姿を追った。
どんな女性か知らないが、どんどん貴子のことを好きになっていくのが分かった。
多くの時間に貴子の姿を追っていると少しずつだが貴子の性格が分かってきた。
自分がこんなに愛しているのに、それを迷惑そうな素振りを見せるわがままな女だった。
そんなわがままな女があんなに綺麗な姿をしてるなんて許せなかった。
貴子の姿は自分のような人間こそ相応しいものだという妄想に取りつかれるまで、そう多くの時間は必要としなかった。

隆志はいつものように物陰に隠れて貴子の姿を追っていた。
「おい、そこの兄ちゃん、これ買わねえか?」
隆志は声をかけてきた方を見た。
そこには路上生活者らしき風体をした男がいた。
男の前には数個の品物が置かれていた。
どれもガラクタ同然の物だった。
隆志は男を無視したが、男はなおも隆志に話しかけてきた。
「このメガネは夜中でも周りがよく見えるんだぞ。彼女を追いかけるにはちょうどいいんじゃないか」
「どうしてそれを?」
「さっきからの兄ちゃんの行動を見てたらだれでも分かるぞ」
「......」
「まあいいじゃないか。それより買うのか買わないのか?」
「他にどんなのがあるんだ?」
「これはどうだ?万能マスターキーだ。どんな鍵でも開けれるぞ」
「そんなものが本当にあるのか?どうせ嘘だろ?」
それからもいかにも怪しいものを出して来た。
どれも本当だったらすごいものだ。
しかしどうせ嘘に決まっている。
「これが最後だ。この薬は身体を入れ替えることができるんだ」
「飲むだけでか?」
「飲んで相手の中で射精すればいい」
この話に関してはなぜか嘘ではないという気がした。
根拠はない。
まさに勘だ。
「いくらだ?」
「買ってくれるのか?2万だ」
「2万か。そんなにするんだったらいらない」
「ちょっ...ちょっと待ってくれ。1万8千、いや1万5千でどうだ?」
「1万なら買う」
「それだと俺の儲けがない」
「こんな怪しいものなんだからどうせそんなにしなかっただろう。1万にしろ」
「1万2千だ。これ以上は無理だ」
「分かった。それじゃ1万2千で手を打とう」
隆志は男に金を渡し、商品を受け取った。
「へへへ。毎度ありぃ。ただし効果がなくても俺を恨まないでくれよ」
この薬は偽物ではない。
隆志はこれは神が自分にくれたチャンスだと思った。


入れ替わり実行の日、隆志は貴子の後をつけた。
いつもと違っていたのは、足音で自分の存在を伝えるような歩き方をしなかったことだ。
今日は貴子に見つからないように注意しながら歩いた。
貴子がマンションのドアを開けた。
隆志は音もなく貴子の背後に近づき、クロロホルムを含ませたハンカチを貴子の口に押し当てた。
ほどなく貴子は意識をなくした。

隆志は貴子をかつぎドアの鍵をかけた。
部屋に入りベッドに貴子を下ろした。
「うまくいけば、貴子の身体は俺の物になるんだ」
隆志は興奮を抑えながら貴子の服を剥いだ。
「想像してた通り綺麗な身体だ」
目の前に顕わになった貴子の身体をじっくりと眺めた。
「いよいよこの薬の効果を確かめることができるんだ」

隆志は貴子の腹の辺りにまたがり両手を乳房に重ねた。
そして貴子の乳房を優しく揉んだ。
何度も何度も。
気を失っているはずの貴子が甘い吐息を吐いた。

隆志のペニスはズボンの中で大きくなっていた。
隆志は乳房を揉むのをやめ自分も全裸になった。

隆志は貴子の割れ目に指を這わせた。
少し湿っている。
何度か割れ目に沿って指を前後させた。
やがて貴子のオマ○コは強い湿り気を帯びてきた。
隆志は貴子のオ○ンコに指を突き立てた。
そしてその指を入れたり出したりした。
クチュクチュクチュクチュクチュクチュ...。
やがて貴子の体内から出た液体が淫らな音をたて始めた。

隆志は十分に湿り気を帯び受け入れる準備の整った貴子のオマ○コにペニスを挿入した。
隆志の28年間の人生で初めてのセックスだった。
貴子の中はすごく温かい。
「すごい。女の中ってこんな感じなんだ」
貴子の膣の襞が隆志のペニスにまとわりついてくる。
隆志が腰を動かすと意識を失っているにもかかわらず貴子の身体は確実に反応した。
「...んんっ....」
貴子は小さな声を出した。
そして隆志のペニスを時々キュッと締めつけてくる。
「あっ、やべっ」
28年間童貞だった隆志には貴子の中は気持ちよすぎた。
耐えることもできずに、隆志は自分の思いのこもった精子を貴子の中にぶちまけた。
その瞬間視界が揺れた。

すぐに視界がはっきりとした。
すると胸に圧迫感を覚えた。
誰かに覆い被さられているらしい。
隆志が何とか身体を入れ替えようと身体を動かしたときだった。
「...ぅん...」
隆志の股間に変な感覚を感じた。
それは身体に入れられたペニスが抜け出た感覚だった。

覆い被さっていた身体から逃れ身体が自由になると隆志は自分の身体を見下ろした。
胸にはふくよかな膨らみがある。
腰は綺麗な曲線にくびれていて魅力的なヒップに続いている。
見慣れたペニスは見当たらない。
恥ずかしげな茂みが見えるだけだった。
オマ○コからはついさっき自分が出した精液が流れ出てきた。
少し気持ち悪かったがあえて気にせず、隆志は鏡を探した。
さすがに女の子の部屋だ。
タンスの近くの壁に全身が映るくらいの鏡があった。
隆志は鏡の前に立った。
鏡には追い求めた貴子の姿が映っていた。
「すっげぇ、マジで貴子になれたぜ」
鏡の中の貴子がガッツポーズをした。


(筆者注)

 


これ以降では "身体(心)"で記載します。
仁藤貴子の身体に岡田隆志の心が入っている場合、
「貴子(隆志)」と表記します。



「それじゃ、そろそろ仕上げと行こうか」
貴子(隆志)は110番に電話した。
「もしもし、もしもし、ストーカーが部屋に...。助けてぇ」
それだけ言って電話を切った。
「これであと少ししたら警察が来るな。それじゃそろそろ起こすとするか」
貴子(隆志)は元の自分の姿の男に近づいた。

「おい、起きろよ」
貴子は誰かから頬を叩かれた。
(な...何?誰かいるの?)
視界が定まらなかった。
意識も定まらなかった。
「やっと起きたか?」
少しずつ視界がはっきりしてきた。
目の前にいる女の顔を認識できた。
貴子自身だった。
「えっ、どうして?」
思わず言葉が漏れた。
それは自分が聞きなれた声ではなかった。
貴子は自分の身体を見た。
見慣れた自分の身体ではなかった。
醜いブヨブヨした男の身体だった。
「何が起こったの?」
「あんたの身体と俺の身体を入れ替えたのさ」
「うそ。そんなことできるわけが...」
「じゃ、実際今の俺たちの状態はどう説明するんだ?あんたは俺になってるんだぜ」
貴子は改めて自分の姿を見た。
太い腕。
ごつごつした短い指。
乳房のない胸。
股間についているペニス。
「こんなのいやよ。すぐに元に戻して」
「俺はあんたの身体が欲しかったんだ。こんな綺麗な身体があんたみたいな性悪女のものだなんて許せなくってね。だから俺が代わりにあんたの身体をもらってやるよ」
「何言ってるの。早く戻しなさいよ」
隆志(貴子)は貴子(隆志)につかみかかった。

パトカーのサイレンが近づいてくる。
マンションの前でブレーキ音がした。
やがて玄関のドアを激しく叩く音がした。
「仁藤さん、仁藤さん。大丈夫ですか?」
その声を聞いて貴子(隆志)はニヤッと笑った。
「お迎えが来たようだぜ」
「えっ、どういうこと?」
隆志(貴子)が一瞬力を緩めたすきに貴子(隆志)は貴子から離れた。
「こういうことさ」
貴子(隆志)は思い切り息を吸い込んだ。
「助けてぇ」
貴子(隆志)は大きな声で叫んだ。
「ほら、もうすぐ俺を助けに来てくれるんだぞ」
貴子(隆志)は隆志(貴子)に小声で言った。
「よし、突入だ」
ドアの外からそういう声が聞こえたかと思うと、玄関から複数の足音がして、男が部屋に入ってきた。
「婦女暴行の現行犯で逮捕する」
隆志(貴子)は警官に押さえつけられた。
「あたしは何もしてない。やったのはそいつよ。そいつはあたしの身体を奪ったのよ」
「何を訳の分からんことを言ってるんだ。さっさと来い」
隆志(貴子)は警官に連行された。
「お嬢さんも警察までご同行くださいませんか。調書を取りたいので」
「はい。でもその前に服を着てもいいですか?」
「ああ、それはもちろん。我々は前で待ってますから準備ができたらお願いします」
貴子(隆志)は大急ぎで自分が出した精液をティシュで始末し、剥ぎ取った貴子の服をきた。
そして笑いたいのをこらえて神妙な面持ちで警官に同行した。


ようやく警察の取調べから解放された貴子(隆志)はまっすぐ貴子のマンションに戻った。
「ついに貴子の身体を手に入れたぞ」
貴子(隆志)は部屋に入ると全裸になって今の自分の身体をチェックした。
「さすがに俺が惚れた身体だな。出てるところは出て、括れるところは括れてるぜ」
貴子(隆志)は持ち上げるように乳房を持ち上げた。
「なかなか重いもんだな。それにしてもとても柔らかい」
貴子(隆志)は人差し指で乳首の先に触れた。
「あん」
胸の先にペニスがついているようだ。
「俺としたことが女みたいな声を出しちまった。って俺は今女だったな。ははははは...」
貴子(隆志)は十分に乳房を堪能してから手を股間に移動させた。
そこはすでに湿り気を帯びていた。
「あっ、すごい。これがクリトリスなのか...」
貴子(隆志)は自分の出した粘液を指につけ、小さな突起物をいじった。
すごく気持ちよかった。
時間も忘れてそこを触っていた。
気がつくと股間の辺りがグチョグチョに濡れていた。
「女の快感って終わりがないんだな。男だったらピュッと出したら終わりだもんな。注意しないとオナニーしすぎて睡眠不足になりそうだぜ」
貴子(隆志)は股間の気持ち悪さを洗い流すためにシャワーを浴びた。
シャワーを浴びながら浴室の鏡に映る今の身体を見ているうちに、今の自分の姿をいろんな人間に見せつけたいと思った。
そしてシャワーを浴び終わると、貴子(隆志)は化粧もそこそこに街に飛び出した。
化粧なんかしてなくても貴子の美しさには変わりはないはずだ。
街ではこれまでの人生では考えられないほどの注目を浴びた。
貴子(隆志)は勝ち誇ったような気分になった。
何人もの男に声をかけられた。
貴子(隆志)はそもそも貴子のことを好きになったくらいだから精神的には男よりも女が好きだ。
したがって男とつき合う気など全くなかった。
それでも声をかけられるのは嬉しいものだった。
「ねえ、彼女、時間ある?」
「お茶でもどう?」
男のそんな誘い文句に何も言わずに笑顔を返すだけだった。
そんなふうに街を歩いていると空腹を覚えた。
ちょうどそんなタイミングでまたしても声をかけられた。
「お嬢さん、ちょっとつきあいませんか?」
金を持っていそうな男だ。
そう思ったときに貴子(隆志)のお腹が鳴った。
「ははは、お腹が空いているんだったら、食事でもどうですか?」
男は貴子(隆志)の返事も待たずに携帯を取り出してどこかに電話した。
「もしもし篠宮だが、部屋は空いてますか?今から女性と二人で行きたいんですが。....大丈夫ですか?それではすぐに行きますので、よろしく」
男は電話を切って貴子(隆志)に歩み寄った。
「店を予約しましたのでつき合っていただけますよね?」
貴子(隆志)は食事につられて男の誘いに乗った。

連れて行かれたのは入ったことのない高級そうな店だった。
しかも明らかにVIPの部屋らしいところに連れて行かれた。
出てきた料理はどれも食べたこともないものだった。
しかも最高にうまかった。
食事でほんのわずかのワインを飲んだ。
元の身体にははわずかだったが、貴子の身体には多すぎたようだ。
貴子(隆志)がそれに気づいたときはすでに手遅れだった。

気がついたときはどこかのホテルに連れて来られたようだった。
しかもすでに全裸になっていた。
密着した身体。
重ねられた唇。
男の手が執拗に乳房を愛撫してくる。
「...あっ....あん....」
たまらず喘ぎ声が漏れた。
「やっと気がついた?」
「どうして...?」
「男が女にご馳走する。女が身体でお返しする。これって常識だろ?」
男が貴子(隆志)の乳首をつまんだ。
「...んっ...」
「君って感じやすいんだね?嬉しいよ」
男は貴子(隆志)の乳首を愛撫した。
貴子(隆志)は乳首を触られる快感におかしくなりそうだった。
自分で触ったときと比べ物にならないほどの快感だった。
女の身体の感覚にまだ慣れていない貴子(隆志)にとっては強すぎる快感だった。
息ができないほどだった。
「本当に君って初めてみたいな反応するんだな」
男の手が貴子(隆志)の脚を広げようとした。
貴子(隆志)は抵抗することもなく、どちらかというと自ら脚を広げた。
男のペニスが入ってきた。
「あっ...ぁぁ......」
貴子(隆志)は男のペニスを抵抗もなく受け入れた。
「やっぱり初めてじゃないんだ」
貴子(隆志)は入れられただけでいってしまいそうになった。
「初めてでもないのにこんなになってしまって...。君って本当に可愛いよな」
そんな貴子(隆志)の様子を見て男は不思議そうだった。
貴子(隆志)はアルコールのせいか男に突かれる嫌悪感も感じずにセックスの快感を、セックスの喜びを感じることができた。
貴子(隆志)は男の腕の中で何度も快感に打ち震えた。
あまりの快感に男の背中に爪の痕を残した。
男が貴子(隆志)の中で弾けた。
子宮で男の精液を受け止めたときには快感で気を失った。

気がついたときはすでに男の姿はなかった。
机の上に走り書きのメモが残されていた。
「素敵な夜をありがとう。また会ってくれるのならここにメールしてください」
そして男のメルアドらしきものが書いてあった。

貴子(隆志)は事故のような出来事とは言え一度男に抱かれたことで男に抱かれることに対する嫌悪感がなくなった。
それどころか女としてのセックスの快感が気に入ってしまった。
貴子の勤め先には電話一本で退職することを告げ、夜な夜な男漁りに街に繰り出した。
安定した収入はなくなったが一緒に寝た男の中にはフリーターだった自分が一ヶ月働くより高額の小遣いをくれる男もいてお金に困ることはなかった。

何人かの男に抱かれたことで分かったことは、相手によって全然感じ方が違うことだった。
ただただ痛いだけの男もいた。
男だけの自己満足だけで女のことを何も気にしない男もいた。
それなりに感じさせてくれる男もいたが、失神するほどの快感には出会えなかった。

(最初の男が一番よかったな)
貴子(隆志)は最初の男が残したメルアドにメールした。
返事はすぐに返ってきた。
「今夜9時に前回会ったところで待ってる」
貴子(隆志)はまた会えることが嬉しかった。
男とのセックスのことを考えるだけで股間が湿るような気がした。

貴子(隆志)は念入りに化粧をして着飾って待ち合わせ場所に行った。
その頃には女として化粧することや女らしい言葉遣いや仕草は当たり前のようにできるようになっていた。

貴子(隆志)が8時半くらいから待っていると5分もしないうちに男がやって来た。
「あれっ?俺のほうが絶対に早いと思ったのにな。もう待ってたんだ」
「あなたに早く会いたくって」
「俺もさ。じゃ車に乗って。俺まだ食事してないんだ。君は?」
「あたしは食事を済ませてきたから」
「それじゃ寿司屋にでも行こうか。寿司だったら少しはつき合ってくれるだろ?」
「ええ、いいわ」
二人は寿司屋で簡単な食事を済ませ、すぐにホテルに向かった。
ホテルの部屋に入ると二人はすぐに抱き合った。
貴子(隆志)は最初のときとは違いセックスの経験こそ重ねていたが、この男の前ではその経験も役に立たなかった。
貴子(隆志)は快感に溺れる雌でしかないのだ。
男の精液を受けたときには身体を動かすのも面倒なくらいセックスで全てを消耗した。
「君って本当に面白いな。それに君の持ち物も俺のものととても相性がいいようだ。今まで決まった女性とはつき合わない主義なんだけど君とならつき合ってもいいな」
「本当に?」
「その証拠ってことじゃないけど俺の名前を教えておこう。篠宮洋平だ。俺ってあんまり自分のことを教えないんだぜ。だってまとわりつかれたりしたら嫌だからな」
「あたしは仁藤貴子」
「貴子っていうのか。いい名前だ」
洋平はヨーロッパの家具の輸入販売を扱う会社を経営しているとのことだ。
道理で金を持っているはずだ。
それに何と言ってもセックスの相性がとても良い。
洋平も貴子(隆志)も二人が恋人という仲になることを拒む理由はなかった。

隆志が貴子になって2ヶ月が経ったある日のことだった。
「私の身体を返して」
貴子(隆志)の前に隆志(貴子)が現れた。
「何だ。もう釈放されたのか」
「もちろん実刑判決を受けたわよ。でもあれくらいの犯行なら執行猶予ってのがつくでしょ?そんなことも知らないの?」
「なら俺の前に現れたりしたらまた捕まるぜ。今度は執行猶予はなしだな」
「こんな身体でいるくらいならあなたを殺してあたしも死ぬわ」
「それは物騒だな。ぜひ近づけなくしないとやばいかもな。俺もか弱い女だし」
貴子(隆志)はニヤッと笑った。
「きゃあああ、助けてぇぇぇ。ストーカーよぉ」
周りの人々が「何だ何だ」とか言いながら近づいてきた。
「覚えてなさいよ。絶対に元に戻してもらうから」
「そんなこと今さら無理だよ。もう俺の前に姿を現すなよ」
隆志(貴子)は逃げるように去って行った。
「今の誰?」
ちょうどそこへ洋平がやってきた。
「あいつは前にあたしをストーカーしてた男よ。警察から釈放されて性懲りもなくまたあたしの前に姿を現したの」
「そんな奴がいたのか。もし今度現れたら俺が追っ払ってやるよ」
「うん、お願いね」
貴子(隆志)は洋平の胸に顔を埋めてニヤッと笑った。

何もない日が1ヶ月ほど過ぎた。
「俺の身体を返せ」
もう諦めたかと思っていたのだが、またしても隆志(貴子)が貴子(隆志)と洋平に向かってきた。
洋平は貴子(隆志)をかばうように貴子(隆志)の前に立ちはだかった。
隆志(貴子)は洋平の胸倉を掴んだ。
「俺の身体を返せって言ってんだろ」
洋平は貴子(隆志)の方に振り返った。
「貴子さん、こいつ何言ってるんですか?」
「こいつ、ちょっとおかしいみたいなの」
「金輪際貴子さんの前に姿を現すな」
洋平は隆志(貴子)に向かってちょっと脅すために隠し持っていた包丁を出したときだった。
「何言ってんだ。お前の方こそ」
隆志(貴子)が洋平に掴み掛かろうとした。
その拍子に隆志(貴子)の胸の辺りに包丁が突き刺さった。
「きゃあああ」
貴子(隆志)は驚いて叫んだ。
洋平が隆志(貴子)の胸から包丁を抜くと大量の血が辺りに飛び散った。
洋平の全身は隆志(貴子)の血で血まみれになった。
「いや、ちょっと脅そうと思っただけなのに。こんなことになるなんて」
洋平は呆然と立ち尽くしていた。
遠くで「人殺しだ」という声が聞こえた。
貴子(隆志)は慌てて洋平の手を握り、その場を逃げ出した。

貴子(隆志)は洋平を連れて、貴子のマンションに逃げ込んだ。
洋平は喉が渇いたのか水を一杯飲み干した。
そうすることで少し落ち着いたようだった。
「どうするの?」
「僕、警察に自首します」
「そんな...」
「仕方ないです。人を殺したんだから。でも警察に行く前に少しの時間、貴子さんといさせてください」
「ごめんね。あたしのせいで」
洋平が貴子(隆志)を抱きしめた。
貴子(隆志)は洋平の愛撫に身を任せた。
おそらく警察に捕まってしまうと二度と洋平とのセックスはできないだろう。
貴子(隆志)はおそらく最後になるであろう洋平とセックスしたかった。
二人は全裸になり、お互いの性器を口で刺激し合った。
やがて洋平のペニスが貴子(隆志)の中に入ってきた。
(あぁ、気持ちいい...。この男は金もあるし、セックスの相性も良かったのに残念だな。でもまあ次の男を捜せばいいんだし)
貴子(隆志)が考えていると洋平が黄色い透明の薬を親指と人差し指に挟んでいた。
「これ、何か分かりますか?」

洋平が手に持っているのは例の薬だった。
「ど...どうしてそれを...」
「あなたが持っていた薬の残りよ」
洋平の口調が変わった。
「どうして洋平さんがそんな物を持ってるの?」
「まだ分かんないの?あたしよ、貴子」
「ま...まさか......」
「本人がそう言ってるんだから間違いないんじゃなくて?」
「お前、貴子なのか?それじゃお前が殺した俺の身体に入っていたのは誰なんだ?」
「ああ、彼ね。彼は洋平くんよ。男同士でもこの薬は効くのね。彼を眠らせて、彼のお尻を犯してあげたら入れ替わることができたってわけ。だからあなたになった洋平はあたしに向かって『俺の身体を返せ』って言ってたでしょ?」
今になって考えてみると確かに自分ではなく洋平に向かって言っていたような気がする。
急に乱暴な言葉遣いになったのは洋平の精神が入っていたということなら納得がいく。
「どうやら分かったようね。あたしと洋平くんは入れ替わった。そのおかげであなたに怪しまれずに近づくことができたってわけ」
「いつから入れ替わってたんだ?」
「そんなに前じゃないわ。昨日からよ。あなたの家でこの薬を見つけたときは嬉しかったわ。さっさとこんなもの処分しておけばよかったのに、あなたも馬鹿ね」
「今から飲んでも遅いぞ」
「だからあなたは馬鹿だって言うのよ。あたしがここに戻ってきたときに最初に何したか覚えてる?」
「水を飲んで...あっ」
「そういうこと。それじゃ仕上げに入りましょうか」
洋平(貴子)は貴子(隆志)の腰をしっかりと抱き腰を動かし出した。
「や...やめ...ろ....」
「中で出したら入れ替わるのよね?あたしも洋平と入れ替わるまで半信半疑だったわ。それにしても不思議な気分ね。あたしが男になって自分自身を犯すなんて。あなたも最後のあたしの感覚を楽しみたいでしょ?まだもう少しこのままの状態を続けてあげるわね」
貴子(隆志)は必死に逃れようとしたが、女の力ではいかんともしがたかった。
洋平(貴子)はゆっくりリズミカルに抽送を続けた。
貴子(隆志)は抵抗することも諦め、抱かれる快感に身を預けているようだった。
「...あ...あ...あ...あ...あ....」
洋平(貴子)が突くたびに貴子(隆志)の声があがる。
「気持ちいい?そろそろ行くわよ。最後の女の快感、しっかりと味わいなさいよ」
洋平(貴子)が腰の動きを速めた。
洋平(貴子)も貴子(隆志)も同時に昇り詰めようとしていた。
「あああ...出そう......」
「やめ...て.....くれ......」
「出すわよ」
洋平(貴子)は濃厚なザーメンを貴子(隆志)の中に吐き出した。
「あぁぁぁぁぁ」
洋平(貴子)と貴子(隆志)は同時に絶頂に到達した。

貴子は絶頂感で意識がはっきりしない状態だった。
それでもパトカーのサイレンが近づき、近くで止まったことは何とか分かった。
すぐに玄関のドアを叩く音が聞こえた。
(ちょうどいいタイミングで来てくれたのね...)
自分が抽送したとはいえ長時間の抽送のせいかなかなか快感の波が去らなかった。
久しぶりの女の快感に頭がついていかないのかもしれない。
いずれにせよ全く身体に力が入らなかったのだ。
このままだと洋平になった隆志に何をされるか分かったものではない。
何となくそういう危険性を感じていたので、玄関のドアを叩く音にホッとした。
すぐに警察が踏み込んできた。
「篠宮洋平、殺人容疑で逮捕する」
洋平の姿になった隆志は警察に取り押さえられた。
「違う。俺はやってない。やったのはこの女だ」
「黙れ。お前が殺ったのを見ていた人間は何人もいてるんだ。言いたいことがあるんなら警察で聞こう」
洋平になった隆志は警察に連れて行かれた。
貴子は形だけの調書を取られてすぐに解放された。

「やっとこれでストーカーから解放されたのね。本当に長かったわ」
貴子は久々の自分の身体の感触を懐かしく触りながら呟いた。


《完》

 

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