とてもシンプルな物語(後)

 

「う……。分かったわよ……
 文句を言ってもどうしようもないと悟った香苗は、弱々しくではあったが覚悟をきめ、充の股間に指先をゆっくりと伸ばしていった。普段自分でも触っているのだろう。その触り方は、ためらい交じりのものではあったが、充は確かに気持ち良さを感じ取っていた。

 

「うぁっ。なんかびくっとする……! お前ってこんなオナニーしてんだ……
「馬鹿言ってんじゃないわよ! してないわよ! 黙って寝てなさい!」
 充の気遣いのない発言に香苗が怒りをあらわにする。しかし、普段からこんなやり取りにも慣れているのだろう。充は気にした風もなく言葉を続けた。
「じゃあなんで濡らし方知ってんだよ。つくならもっとましな嘘いで!」
「黙れっつってんでしょ……!」
 もっともな事を言われた香苗は、それが自分の体である事も考えずに、内ももをつまんで力一杯にひねった。充は抵抗しようと腕を伸ばしたが、男の力で簡単にあしらわれてしまい、歯向かう事が出来なかった。
「ちょ! お前の体だろうが! いででで! ごめ! 悪かったって!」
 なんとか抗議をしていた充だったが、いつまでも緩まない力に、本気で怒っているのだとようやく理解し、謝罪の言葉を口にした。それを聞いて香苗は手を離したが、それでも、遅すぎる謝罪には相当な不満があるようだった。
「ったく! ほら、続けるわよ!」
 赤くなった内ももを見て、軽く後悔した香苗だったが、自分のやった事なので何も言えない。全部充のせいだから。事が済んだら充に文句をぶつけようとだけ決め、改めて股間に指を伸ばしていった。
「ん……! うぉ……! くぁ……っ」
「黙ってなさいって。恥ずかしい……
 色気のない喘ぎ声を出している充に香苗が言葉を投げかける。その言い方に先ほどの強さが無いのは、それが勝手に漏れ出る言葉なのだと、香苗自身が理解しているからだ。
「そんな言われても、勝手に声が……ふぁ……!」
 自分のオナニーを鏡で見ているような気持ちになり、香苗は恥ずかしくてたまらなくなった。そして、先ほどのドタバタで一度縮んでしまっていた自分のモノが、そんな充の姿に興奮してか、自然と大きくなってくるのが分かり、また別の戸惑いも感じていた。
……これくらいで良いかなあ。結構濡れてると思うけど分かんないわ……
 そう言って香苗が手を離すと、充は物足りなさそうに香苗の方を見つめた。
「あれ、もう終わり? もっとやって欲しいんだけど……
「調子乗るな! バカ!!」
 充の言葉に何故か恥ずかしさを覚えた香苗は、力一杯充の頭を殴った。いててと言いながら頭をさすった充が言い返さなかったのは、自分の言葉がやはり恥ずかしかったからだ。

……早く入れろよ。ほら」
 顔を軽く紅潮させている充は、先ほどの失言をごまかすように香苗にうながした。
「う、うん……
 香苗もいよいよ覚悟を決めた。充の足の間から入り込み、上に乗るような形になり、股間に自分のモノをあて、ゆっくりと押し込んでいった。
「うぁ……! 痛ぇ! ちょっとストップ!」
 痛いとは聞いていたが、軽く押し当てただけで裂けるような痛みが伝わり、充は咄嗟に叫んでしまった。それがあまりに悲痛な声であったため、香苗は腰を引いて離れてしまった。
「だ、大丈夫? 止めようか?」
「止めたら意味無いだろ、我慢するから入れろって」
 心配してかけた言葉だったが、止めてしまう訳にはいかない。充もそれが分かっているのだろう。本当は止めたいところであったが、それを表に出す事でためらわせてはいけないと考え、香苗に対して強がって見せた。

「じ、じゃあ、入れるね?」
「おう、またさっきみたいになると進まないから、一気に突っ込めよ」
 改めて体勢を整えた香苗はその言葉に従い、モノをあてがうと渾身の力で突き入れた。その瞬間充はあまりの痛みに、ブチっというゴムが千切れたような音が聞いた気がした。
「ぐあ……っ!」
「ん……、すご……! ヌルっとしてる……!」
 充の苦悶の表情に比べ、香苗は恍惚とした表情を浮かべていた。挿入した瞬間、想像以上の気持ち良さを感じていたのだ。そして、これを動かしたらどんな気分になるのだろうという好奇心に勝てず、ゆっくりと腰を動かした。
「づぁ……! ちょ……! 動くな……!」
 当然だが、その動きは充に苦痛しか伝えてこなかった。充の言葉に香苗は腰の動きを止めたが、正直もどかしくて、動かしたい気持ちでいっぱいだった。そしてその気持ちは、普段の香苗なら決して言わないだろう言葉として充に投げかけられた。
「ね、ねぇ。男の感じってこんななの? その……すごい、動かしたいんだけど……
「知らねぇよ。経験無いんだから。それより動くなよな! 絶対無理!」
「で、でも……入れてるだけで気持ち良くて……。少しだけ動かしちゃダメ……?」
「我慢しろよ! 今動かされたらマジ無理!」
「ゴメン、これ、我慢できない!」
 充の願いを無視して香苗は腰を前後に動かした。それまで我慢していた反動もあり、かなり激しい動きだった。
「うぁ! 止まれって! 痛っ!」
「すごい、出し入れするたびにゾクゾクする……
 男の快楽に夢中になっている香苗には、充の悲痛な訴えが届かなかった。聞こえてはいたが、その願いを聞いて腰の動きを止める事をしたくなかったのだ。
「せ、せめて、もっとゆっくり……! いや、ていうかとっととイけよ! 早く終わらせて抜け!!」
 その言葉を、もっと激しく動かしていい、と受け取った香苗は、渾身の力で腰を前後させた。そして充は、その強烈な痛みに、自分の言葉を強く後悔していた。
「あ、なんか来る……! 急に気持ち良く……! あっ、イく……!」
 その瞬間、香苗は勢いよくモノを抜いた。それと同時に先端から精液が勢いよく吐き出され、充の腹の上に飛び散った。
「なっ!? 馬鹿! なんで抜くんだよ!」
 充が驚きの声を上げる。香苗の行動があまりにも予想外だったのだ。
「だ、だって中に出したら妊娠しちゃ……
「中に出さなきゃ入れ替わりは戻んねーんだよ! 言ってただろうが! だいたい入れ替わりを戻すためなら妊娠しないって聞いてただろうが!」
 あれだけの痛みに耐えたのが無駄に終わった。その事実が充を苛立たせ、相当に厳しい口調になっていた。事前に中に出すようにちゃんと念押ししておくべきだったと、充は後悔していた。
「そ、それはそうだけどやっぱり怖いよ……!」
「あー、もう、何のためにあんな痛い思いしたんだよぉ……
 行為の最中ほどではないにせよ、未だに痛みが止まらずに泣きそうな充は、頭をかきむしりながら呟いた。
「ゴメンね……。で、でも、二回目からはそんな痛くないっていうし……ね?」
「仕方ねぇなあ、次はちゃんと中に出せよ!」
 そう言って充はしぶしぶ、再び足を開いた。
 しかし、痛みで頭が一杯の充は気付いていなかった。香苗はあまりの気持ち良さにこれで終わってしまうのが嫌になり、咄嗟に入れ替わりが戻らないように外に出していたのだという事に。
 香苗は目の前で足を開いている充を見ながら、次はどう理由を付けて中出し失敗させようかと、頭を悩ませるのだった。

inserted by FC2 system