とてもシンプルな物語(前)

 

「本当にセックスしたら戻るのかよ」
 あぐらをかいて頭をかきむしるその姿は、およそ女とは思えないものだった。先ほどまで綺麗に整っていた肩までの黒髪がその乱暴な仕草でぐしゃぐしゃに乱れてしまうが、それも全く気にならないようだ。

 

「知らないわよ、あたしだってやりたくないんだからね。……はじめてなのにこんな」
 こちらはまた対照的に、スポーツ刈りに日焼けした、いかにもスポーツマンという雰囲気であるのに、女性のようにしなをつくり、何も知らない人間であれば、ニューハーフか何かだろうと判断する事だろう。
「お前はまだ良いだろうが。気持ち良いだろうからさ。こっちはお前の代わりに激痛に耐えなきゃなんねぇんだよ。」
 顔をしかめうなだれるその女の姿からは、したくないという態度がありありと伝わってきた。
「あんたが被害者みたいな言い方しないでよ! 痛いのだって大事な……大事な……!」
 勝手な言い分に香苗はカッとして声を荒げ立ち上がる。動作は女のものでも、二十センチ近く身長差がある相手に上から睨まれると、相当な迫力がある。その迫力に気押され、充は慌てて座るよううながした。
「泣くなよー……。俺の体でそんな女みたいな事されると困るんだよー」
 流石に言い過ぎたと考えたのだろう。申し訳なさそうな声だったが、なんのフォローにもならないその言い方は全くの逆効果だった。
「みたいってなによ! あたしは女よ! あんたこそ、男みたいにあぐらかいてんじゃないわよ!」
 女みたい、という言葉に逆らうように言い返す。この状況で怒りをぶつけるのは問題をこじらせるだけだと頭では分かっているのだが、相手の無配慮さに我慢が出来なかったのだろう。
「怒鳴んなよ! 男なんだから仕方ねぇだろうが! 文句あんなら帰るぞ!」
 スカートの隙間から下着が見えるのも気にせず、ひざを立ててすっくと立ち上がる。怒りを隠そうともせず、大きな足音を立ててドアに向かいドアノブに手をかけるが、後ろからかなりの力で肩を掴まれた。
「あたしの家はここなの! 帰るって何よ!」
 顔を真っ赤にして涙を流す男の姿は、やはり気色の良いものではなかったが、それが自分のせいだと考えた充は、再び頭をかきむしり、ベッドの上に戻って乱暴に尻を乗せた。
……悪かったよ。泣くなよ。ほら、やろうぜ」
 女からの誘いとはとても思えない色気のない言い方だ。普通の男であれば、このような誘われ方では決して嬉しくはないだろう。それでも香苗は、やらざるを得ない状況なのだと自分に言い聞かせ、涙を拭いながら音を響かせないよう静かにベッドに尻を乗せた。

……脱がなきゃ、ね」
 しばらくお互い動かずにいたが、業を煮やした香苗が目線を合わせずにポツリと呟いた。その言葉には充に伝えるというよりも、自分に言い聞かせるような意味が含まれているように感じられた。
……ん、そうだな」
 こっちも同じなのだろう。うつむいたまま、目を向ける事無くあいづちを打った。
 しかし、それで会話は終わってしまい再び部屋の中には沈黙が訪れた。

……よし!」
 充が立ち上がり、勢いよく上着を脱いだ。乱雑に脱がされ投げ捨てられたセーラー服は裏表が逆になっており、充の大雑把さを伝えてきた。
「ちょっ……! 何脱いでんのよ!」
 慌てて脱ぎ捨てられたセーラー服を拾ったところで自分の行為のおかしさに気付いた。
……そうか。脱がなきゃ出来ないもんね……
 自分の行動の気まずさをごまかすためか、セーラー服を裏返して元通りにして畳んだ。そうこうしているうちに充は他の服も脱ぎ、すっかり全裸になってしまっていた。
 そんな充の配慮のない行動に抗議したくなったが、これからやるべきことを思うと自分の方がお門違いなのだと思い、香苗は言葉を飲み込んだ。
「ほら、早く脱げよ。俺だけ裸だとバカみたいじゃん」
 流石に恥ずかしいのか、充は顔を赤らめていた。それを見て香苗は慌てて学生服のボタンに手をかける。

 ゆっくりとではあるが確実に服を脱いでいった香苗の手の動きが、あと一枚で裸というところでピタリと止まった。
……んだよ、早く脱げって」
「うぅ……。やだなぁ……
「ほら、脱がなきゃ始まんないだろ!」
 業を煮やした充がトランクスの裾をグイと引っ張る。香苗は慌てて抑えようとしたが、完全に油断していたため、あっさりと脱がされてしまった。
「やっ! ちょっと!」
「やっ、じゃねえよ。ほら、とっととやって元に戻るぞ……ってなんだよ。全然縮んでんじゃん」
 充の指摘通り、香苗の股間のモノは小さくうなだれていて、とても挿入できるような状態ではなかった。
「そ、そんな事言われたって分かんないわよ。どうすればいいのよ」
 そう返事するのも当り前だろう。今は自分の体の一部とはいえ、これまでに一度も触った事もない部分なのだから。
「どうってそりゃあ……。エロい事考えたりいじったりすればいいんだよ」
「い、いじるってそんな……
 当り前だろう、と言いたげな充の説明だったが、香苗にはかなり刺激が強すぎたようだ。香苗は顔を赤らめて目をそらすと、棒立ちになってしまった。
「あー、もう! ほら貸してみろ!」
 業を煮やした充が乱暴な手つきで香苗のモノを握ってきた。香苗はその行動に驚いて一歩後ろに下がり、充の手から逃げ出した。
「きゃ! あたしの体なんだからね、それ!」
「お前が出来ないっつってんだからしょうがねーだろ! おら、じっとしてろって!」
 香苗が逃げた方向に充も一歩踏み込み、再び香苗のモノを握った。今度は香苗も覚悟が出来ていたのか、それ以上は逃げ出そうとせず、ぐっと堪えるような表情で充の手が触れるのを受け入れた。
「あ……。やっ、ちょ……。ん……!」
 本来自分には存在しないはずの場所への刺激に、香苗は戸惑いを隠せなかった。そして、ほんのわずかだが気持ち良さを感じ、とても口には出せなかったが、もっと触って欲しい、と確かに思っていた。
「あんま俺の顔で喘ぐなよ、気持ち悪ぃ……。おら、こんなもんだろ」
「ぇ……? あ……。こ、こんな大きくなるんだ……。それになんか……。ムズムズしてる……。何これ……
 流石に元々は自分の体なだけはあるのあろう。充は慣れた手つきで簡単に香苗のモノを大きくした。そして香苗は、もういじられていないはずなのに、モノ全体に伝わる妙な気持ち良さにもどかしさを感じていた。
「そのままいじってれば出るけど、出したら意味無いだろ。おら、早く入れろよ!」
 ベッドに戻って、やはり乱暴に寝そべった充は、ひざを立てて足を大きく開いた。先ほどから、何かにつけ自分が今女なのだと意識していない充の動作に文句を言いたい香苗だったが、どういえば充に伝わるか分からず困っていた。
「そんな足開かないでよ! それに、そんなんで入るわけ無いでしょ! その、ぬ……濡らさなきゃ……
 今度は香苗が充に説明をしなければならない番だったが、香苗は恥ずかしさに口ごもってしまう。その表情は先ほど以上に赤くなっていた。男になった自分の体をどうこうする以上に、それを説明するのが恥ずかしかったのだろう。
「え? 濡らす? なんだよそれ。どうやんだよ。唾でも付ければ良いのか?」
 そんな香苗の雰囲気が分からないのか、それとも全く気にしていないのか、充はあけすけと聞き返した。
「そんなんじゃなくて! あの、その……。同じ……
「ん? 何? 同じ?」
「同じ……ように……その……いじって……
「いじるってどこ? 分かんねーよ。さっきやってやったんだから、今度はやってくれよ」
 しどろもどろとした香苗に業を煮やし、充は香苗に提案をした。そしてそれは、香苗を戸惑わせるのに充分な効果を発揮した。
「あ、あたしが!?」
「分かんねーんだからしかたねぇだろ! ほら、早く濡らせって!」
 充は強引に香苗の腕をひっぱり、足の間に呼び込んだ。女のか弱い力であったが、戸惑い混乱していた香苗は簡単に引っ張られてしまった。



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