チャイドル

 

「ねえねえ聞いてよ、理麻がね、今日、芸能事務所にスカウトされちゃったのよ!」

斉藤家の夕食の席で、主婦の理香子が上機嫌に言う。

「怪しいところじゃないのか?」

一家の大黒柱である竜彦が、怪訝そうに聞く。

「それが、ほら、あの有名な」

そういって、理香子は、バッグからごそごそと、スカウトマンから貰ったという名刺を取り出した。

「へえ、すごい、有名なところじゃない!」

理麻の5つ上の姉で中学生になる律子が、興奮した口調で言う。

「そこは、そんなに有名なのかい?」

竜彦の母、理麻にとっては祖母に当たる志津江が質問する。

「もちろんよ」

そう答えたのは、理香子だった。

「でもなぁ芸能界って、理麻はどうなんだい?」

竜彦は、母の横でから揚げを食べている理麻に聞いた。

「うーん、人前でなにかやるなんて、あたし、自信ないよ・・・」

困ったように言う理麻。

「でも、こんなチャンスもったいないよね」

律子は言う。

「それもそうだなぁ、よし!」

そういって竜彦は、立ち上がって、部屋を出て行ってしまった。

「お父さんどうしたのかしら?」

理香子が、様子を見に行こうとして立ち上がったところで、竜彦が部屋にもどってきた。

「これだよ、これ!」

竜彦が持ってきたのは、ぶらさがり健康器のような形をした機械だった。

「あら、ぶらさがり健康器じゃない。もう、いつのまに買ったのよ?」

理香子が非難した口調で言う。

「ちがうちがう、これは、お父さんの会社で開発している、すごい機械なんだ」

「なにそれ〜?」

律子がどうせくだらないものでしょう?という目を向ける。

「ん、なんだその目は、疑うならためしてみろ、ほら律子ぶらさがれ」

竜彦は、律子をたたせて、健康器らしきそれに娘をぶら下がらせる。

「こう?」

律子はぶら下がってみた。

「そして、俺も、こうやてぶらさがるんだ」

竜彦もいっしょにぶらさがる。体重100キロを超える竜彦がぶらさがると健康機はみしみしと大きな音を立てた。

「ちょっ、ちょっとお父さん、狭いよ」

律子が抗議する。

「まあまて、もうすぐだ」

竜彦が言う。

「もうすぐ・・・」

律子の言葉は途中で切れ、

「・・・って、何が起こるのよ」

竜彦が口を開いた。

「なにこれ?」

竜彦は慌てて健康器から手を離す。

「なにこれ、ねぇ、なによこれ?」

竜彦は自分の体を眺めまわす。

「どうだ、これがお父さんの会社で作った、ぶら下がり健康器型、入れ替わりマシンだ」

得意そうに律子が言った。

「ちょっと、アタシやだよー、お父さんの体なんて!」

竜彦は、嫌そうに身をくねらせる。本来の体ならかわいらしいだろう仕草も、中年男の姿でやると不気味なだけだった。

 

ちなみに、今の体と中身の関係はこのようになっている。


竜彦(中身は律子)

律子(中身は竜彦)

 


「とまあ、こういう機械があるから、それで理麻と誰かが入れ替わって、理麻の代りに芸能活動をすれば良い」

律子が言う。

「ちょっと、お父さん、いいかげん体戻してよ!」

竜彦が、文句を言う。

「まあ、いいじゃない、今は理麻のこれからの事が先決よ」

理香子は言う。

「でも誰が、理麻の代わりをすればいいのかしらねぇ」

理香子が言うと、志津江が手を上げた。

「そりゃ、わししかおらんじゃろ」

「わしはなぁ、昔歌手になりたかったんじゃよ、だからぜひ理麻の代わりをやりたい」

「理麻いいの?」

竜彦が聞く。

「おばあちゃんなら、いいよ」

理麻は言う。

「じゃあ、理麻と、おふくろ、いっしょにぶら下がってくれ」

律子は二人を健康器にぶらさがらせる。

 

 

「ひゃあ、本当に入れ替わったわい! 若い体は良いのう」

理麻は嬉しそうに自分の体をぺたぺたと触りまくる。

その横で、志津江はニコニコとその様子を眺めている。

 

ちなみに、今の体と中身の関係はこのようになっている。

竜彦(中身は律子)

律子(中身は竜彦)

理麻(中身は志津江)

志津江(中身は理麻)


「じゃあ、お袋が理麻の代りにふさわしいか審査しなくちゃな」

律子が行った。

「なんじゃと、なんでじゃ?わしで決定じゃないのかい?」

理麻は口を尖らせる。

「あたりまえだろ、理麻が芸能界で大成功すれば、一気にローンも返せるかもしれない。これは我が家の一大ぷろじぇくとなんだよ」

律子がいう。

二人の外見だけみれば、姉と妹が言い争っているように見える。

「ふん、じゃあ、わしはなにをすればいいんじゃ?」

「そうだな、まずは自己紹介からだ。」

律子が言う。

「しかたない、やってやるわい」

「佐藤理麻ですじゃ、よろしくじゃ」

笑顔で理麻は言う。

「もう、おばあちゃん、まじめにやってよ」

竜彦が口を尖らす。

「真面目にやっとるわい!」

理麻はぷりぷりと怒り出した。

「おばちゃん、その語尾どうにかならないの?」

理香子も言う。

「これはどうにもならん、これを直したらわしのアイデンティティが消滅してしまうんじゃい!」

「しょうがない、おばあちゃんはだめね、ていうことは次はアタシね」

理香子が言った。

「ちょっと、お母さん、いまさら芸能活動なんてしたいわけ?」

竜彦が言う。

「そうだ、お母さんが理麻の体を使うなんていやだよな?」

律子も言う。

「いいよ、あたしの体使っても」

志津江はニコニコ笑ってそう言った。

「よーし、じゃあ入れ替わるわよ。ほらおばあちゃんそっちにぶら下がって!」

理麻と理香子がいっしょに健康器にぶらさがる。

ほどなくして、二人は入れ替わった。

 

ちなみに、今の体と中身の関係はこのようになっている。


理麻(中身は理香子)

志津江(中身は理麻)

理香子(中身は志津江)

竜彦(中身は律子)

律子(中身は竜彦)

 

 

「あー、若い体はいいわね〜」

理麻はまた自分の体をぺたぺたと触っている。

「ふむ、この体もまあ悪くないわい」

理香子も自分の体をぺたぺたと触る。

「もう、いつまでも自分の体さわっていないで、審査行くよ」

竜彦が言った。

「じゃあ、自己紹介からだな、じゃあ理香子、なんか自己紹介してみろ」

「佐藤理麻です!よろしくね!」

理麻がそういった瞬間、茶の間が一瞬にして凍りつく。

「もうやめてよ、お母さん、気持ち悪いよ!」

竜彦が心底嫌そうに言った。

「もう、なによ、おかあさんがんばったのに!」

「もう次はアタシよ!」

竜彦が言う。

「いや、それより先に、いったん休憩しようや。理麻もずっとお袋のすがたじゃいやだろ、いったん戻りなさい」

律子は言った。

「はあい」

理麻と、志津江が健康器にぶら下がり、理麻は元に戻った。理麻の体に入っていた理香子は姑である志津江の体になった。

「もどったー」

理麻は嬉しそうに言った。

「やだわぁ、義母さんの体になるなんて」

ぼそっと志津江がつぶやいた。

「ちょっと、理香子さん、なにか酷いこといわなかったかい?」

「いいえ、なんにもいってませんよ」

志津江はシレッと応えた。

「ちょっと、お父さん、アタシの方もすぐに戻してよ。アタシさっきからずっとお父さんだよ」

竜彦が抗議した。

「おまえはどうせ、すぐに理麻とかわるんだろ、我慢しなさい」

律子は言う。

 

ちなみに、今の体と中身の関係はこのようになっている。


理麻(中身は理麻)

志津江(中身は理香子)

理香子(中身は志津江)

竜彦(中身は律子)

律子(中身は竜彦)

 

「よーし、じゃあ、つぎはアタシよ! 完璧な理麻を演じてやるわ!」

竜彦はそういって、理麻を健康器にぶらさがらせた。

「じゃあ、アタシも」

そういって竜彦が健康器にぶらさがった瞬間、メキッと大きな音を立てて、健康器が壊れた。

理麻と竜彦は、健康機から落ちてしりもちをついた。

「いったーい!」

竜彦はしりをさすりながら、たちあがる。

「うわっ、あたし、お父さんのおしり触ってる! きたなーい!」

竜彦はあわてて手を離す。

「汚いとは何だ!」

律子が憤慨する。

「理麻だいじょうぶ?」

志津江があわてて理麻に近づく。

「うん、でも」

そういって理麻は健康機を見た。

健康機は竜彦の重みに耐え切れず壊れてしまったようだ。

 

「これ・・・、どうすんの?」

壊れた健康機を見て、律子、竜彦と志津江の顔が青くなった。

「それがなぁ、実はこれ試作機で」

律子は自信なさげにいう。 

「もう、それしかないの!? それ、いったいいつ直るの?」

竜彦は声を荒げて言う

「それが・・・、その・・・、その入れ替わり機能自体、まったく偶然に、奇跡的にできたものなんだ・・・」

律子の声はどんどん小さくなっていった。

「もしかして、直せないなんていうんじゃないわよね?」

志津江が律子に詰め寄る。

「まあ、そうともいえなくもないかなぁ、なんて・・・」

 

 

エピローグ

 

それから数年・・・、

志津江は、結局戻れないまま、姑としての生活をしている。最近、痴呆になりかけていてたまに、近所を徘徊しては、理香子に家に引き戻されている。

理香子は、嫁としての暮らしを堪能しているが、最近、志津江の介護に疲れてきている。

竜彦は、会社をやめてしまい、ずっと部屋に引きこもってネカマとしてネットで活動をしていたらしいが。最近は女装も始めて外に出るようになった。

律子は、高校を出てすぐに以前、勤めていた会社に就職し、あの健康機の開発チームに入れるようがんばっている。

 

そして、理麻は結局、自分の体で芸能界に入り、子役としてそれなりの成功を収めて、今は演技の勉強を本格的にはじめている。

 

 

家族はそれからも、それなりに暮らしましたとさ。

 

 

 

 

 

お・わ・り

 

 

 

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あとがき

チャイドルをネタに家族で入れ替わりものを書いてみようと思い立ち書いてみたらこんな話になりました。

なんとも、まとまりのない終わり方で、もうしわけないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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