僕はママ?(5)


その日の深夜、亮は目を覚ました。

亮は母親に言われて寝床にはいり、しばらく寝たフリをしているつもりだったのが、本当に寝てしまったのだった。

目を覚ました亮は慌てて時計を見る。時計の針は12時半をさしていた。

「しまったわ、本当にねちゃったのね。朝までにこれを置いてこないと・・・」

亮は机の引き出しから小さな木の実をとりだした。

そろそろと足を忍ばせて、母親と父親が寝ているはずの寝室に近づいていく。

すると、二人の寝室から、母親の声が聞こえる。

まだ起きているの?


亮はそっと襖に耳を当てる。

「だっ、だめ! そこは」

母親の軽く叫ぶような声が襖の向こうから聞こえた。

亮は反射的に襖をあけて、部屋に飛びこんだ。


「もうーだめだよ、そこに入っちゃ!」

その瞬間、母親のそう言う声と、その横で携帯ゲーム機を操作している父親の姿が目に入る。

どうやら、二人は携帯ゲーム機で遊んでいたらしい。

てっきり、二人が夫婦の営みをしているのかと心配していた亮は、体がヘナヘナと力が抜けてそこにへたり込んでしまった。

「ん、亮どうした?」

父親は、亮を見ていう。

「あ、なっ、なんでもないよ」

笑ってごまかそうとする亮。

「そうか、じゃあ、もう寝なさい」

父親は立ち上がり、亮を寝床に戻るように促す。

いまは、誤解だったが、二人きりになると、そういう展開になるかもしれない。

「ねえ、今日は一緒にねていい?」

亮は父親にそういう。

「どうしたんだ? 珍しいな」

「ねえ、いいでしょ?」

父親は母親の方を振り返る。

どうする? と目で問いかけたわけだが、母親はきょとんとした顔で見返しているだけだった。

「ねえ、いいでしょ? ママ」

亮は今度は母親に言った。

「うん、いいよ」

にっこりと笑い、母親が言う。

「しかたないなぁ」

父親はそういいながら、亮を布団に入るよう促す。

亮は父親の布団に入る前に、こっそりと母親の枕に自分の部屋から持ってきた木の実を隠して、父親の布団にはいった。

父親の布団は暖かかった。

亮は、しばらく寝た振りをして、折を見て自分の布団に戻るつもりだったが、布団の暖かさはすぐに亮を安らかな眠りに引き寄せる。

「もう寝ちゃったよ」

父親は母親の方をみて笑って言う。

母親もにっこりと笑う。

「しかし、こいつ、いつのまにか大きくなってんだなぁ」

感慨深げに亮を見つめる父親。息子と一緒に寝るのは、まだ低学年のとき以来だ。

「なあ、もうすぐ亮も小学校をでるし、そろそろ二人目を作ろうか?」

優しい声で父は母に言う。

「二人目って?」

「亮に弟か、妹をつくってあげるんだよ」

「ほんと!?」

亮の母親は、嬉しさで飛び起きた。

「あっ、ああ、そろそろ良い頃だろ?」

「ぼく、弟が・・・、じゃなくて、亮に弟がほしいね」

「男の子、二人か、きっと大変だぞ」

笑う父親。

「大丈夫よ、きっと楽しくなるね」

「そうだね」

じっと母親を見ていた父親はおもむろに布団から出て母親の布団に入った。

そしてゆっくりと母親の体を抱きしめる。

「えっ?」

一瞬ビクンと体を震わす、母だったが、父親の体の温かさに、
体がリラックスしていく。

その時、枕元でパキッという乾いた音が聞こえた。

二人はその音が聞こえていたが、何も言わなかった。

もうすでに亮の弟か妹をつくる行為がはじまっていたのである。



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