ある脱皮話
 作:K27


「マジでスゲーな。このオイル」
「うん! ホントにスゴイね」

 三日ほど前のこと、俺と恋人の美由(みゆ)はバイト先の海の家で、科学者風の男から特殊なサンオイル貰った。
 男は「試供品だから、ぜひ使ってみてくれ。気に入ったら店に置いて欲しい」と言い、オイルの入った箱と携帯のアドレスを半ば強制的に俺に手渡した。
 怪しいとは思ったのだが、彼女の美由が「ねえ、使ってみようよ」とせがんでくる。
 俺はどうにも頼まれたらイヤとは言えない性格らしい。まあそれが彼女からのものだという事もあるのだが。
 それに、まあ……ラベルを見て、少なからず興味もあったしな。
 俺達は箱から一瓶失敬すると、バイトが終った後で早速俺の住まいである安アパートで試してみることにした。

「ねえ、ハヤク、ハヤク」
「そう、急かすなよ」

 俺は気合を入れて腕まくりをする。ためしに俺は自分の腕に軽く塗ってみると、俺達は思わず、目を大きく見開いてしまう。

「どうなってるんだぁ? コレ?」
「ウワァ??」

 俺の筋肉質の二の腕が塗った場所を中心にゼリーみたいに、プルンプルンしている。筋肉と言うよりは弾力性のある脂肪に近い。

「ウワー、ウワー。波打っているよ」
「…………」

 俺が開いた口が塞がらないのに対して、彼女の美由はかなり興味津々のご様子だ。

「うわー、伸びるよ。スゴーい」
「って、おい! あんまり引っ張る……!?」
「本当にごっそり取れたね」

 嘘だろ。こんな事って……。今、美由が握っているのは俺の腕――と言うより『肩から指の先までの皮』の方がしっくりくる。
ちなみに俺の腕はと言うと、若干見栄えが鍛える前の状態に戻った感じだ。うーん、何か、スースーする。特に違和感はないんだけどね。
 でもこれで、ラベルに書かれている事が事実だと確信に変わった。これからやろうとする事を考えるだけで俺は少し顔が綻ぶ。

「おい、美由。今度はお前の番だぞ」
「エー。まだ全部塗り終わってないよぅ。ブー」
「チッ、分かった。分かった。じゃあお互いに裸になって、塗り合おうぜ」
「う?ん。賛成!」

 俺達は抱き合いながら体中のあらゆる箇所にオイルを染み込ませた。まっ、ついでにやる事は済ませたけどな。

「そんじゃ、早速脱いでみっか!」
「うん!」
 
 今度はさっきみたいに無理やり破かず(よーく、美由に言い聞かせた)、お互いの背中に爪で切れ目を入れる。
 すると、蝶が繭から脱皮するかのように、俺達は自分の皮膜と言う繭から脱皮した。外の空気に触れると少し肌がピリピリする。
 俺は美由の事が気になったので彼女の方に目を向ける。

「美由……」

 俺の目の前には、まだ中学校時代のあどけなさの残る少女が立っている。彼女は俺に、さっきまで自分が着ていた皮を優しい笑顔で手渡してきた。
 まだ皮からは湯気が上がっており、鼻をくすぐるような甘い汗の匂いと温もりがあった。思わず俺は彼女の皮を抱きしめて、鼻を擦り付け呼吸する。
 そんな俺を彼女はピンク色の頬っぺたを膨らまし目を細めて睨んでいる。うひゃー可愛い。

「もう! ヤラしいんだから」
「美由の事が好きだからだよ」

 俺は彼女の唇目掛けてキスをする。濃厚なキスだ。俺と彼女の舌が絡むたびお互い興奮した。
 普段より柔らかい唇を離すとお互い息が少し荒くなる。

「はぁ、はぁ、それじゃ、着ちゃおうか」
「ぷは。うん、よーし、競争だよ」

 俺は早速彼女の皮を持ち上げてみる。改めてみると、どうにも頼り無さそうだ。本当に着れるのか?
 そうこうしているうちに、美由が俺の皮を下半身まで着込んでいる。異様な光景だ。 上半身は女性。下半身は男性。
 しかも、出来の悪いキグルミのように皮はだぶついている。それを見て俺はつい、にやけてしまう。

「笑わないでよ。バカ」
「ゴメン、あんまり面白かったからさ」
「それより、これは競争なんだから。早く着ないと罰ゲームだぞ」
「分かってるって」

 何時からそんなルールになったんだろう? まあ、いいか。俺もとっとと着ないとな。まずは、背中切れ目からゆっくり足を入れる。
 中は良い意味で生暖かく、ヌルヌルしているのが、また気持ち良い。足先まで入れると皮は驚くほど伸びて俺の脚を包み込んだ。
 もう片方の足を入れ、腰まで上げると彼女の皮は俺の下半身を飲み込む。ちょうど、彼女の大事な部分と俺のシンボルが重なり合う。彼女とシンクロしているみたいな一体感を感じた。
 少しの間、悦に浸っていると彼女が俺をガン見している。多分、俺の場合は彼女とは違い、色んな意味でキツイんだろう。

「ぷふぅ。キャハハハ」
「お前こそ笑うなよ」
「だって、だって。あそこがモッコリしているんだもん」
「ウルサイ! いいから早く着るぞ」

 もうこうなったら、絶対に意地でも勝ってやる。俺は下半身に続いて、皮の上半身を持ち上げ、腕を中に入れていく。ギュギュと両方の手を指先まで入れ終わると最後に美由の頭部を被る。
 耳を掴み、目と鼻や口が上手く重なるようにして。そうだ、忘れるところだった。オイルは……ハッ! 先に美由が使っている。

「残念でした。アタシの勝ちぃ。イエーイ」
「チクショウ!」

 彼女は憎たらしいほど、俺に勝ち誇ったポーズを見せ付けている。フッ、まあ、いいさ。俺は大人だからな……チクショウ!
――この後、俺は黙って彼女の様子を見物する事にした(つーか、見守るしか出来ないしな)。彼女はまず、オイルをたっぷりと下半身に塗りつけている。それも気持ちよさそうに。感じているんだろうか。時折、彼女は身を震わしている。俺が余計な事を考えている内に、下半身の皮膚の弛みがなくなっている。
 しかも、俺のムスコがあんなにも元気にそそり立っているじゃないか。

「アン! 吸い付いてくる。何コレ!?」
「だ、大丈夫か?」
「うん、平気……それより、全部塗らなきゃ」

 彼女はそう言うと、作業を開始した。満遍なく大量にオイルを使っている。程なくして彼女は全身にオイルを塗りつけ終る。さっきまでの違和感が嘘のように無くなる。
俺の目の前には俺になった彼女が仁王立ちしている。恥ずかしげも無く、堂々と。本来の俺より男らしいんじゃないのか。

「はい、コレ」

 もう一人の俺(美由)は、俺の声色を使って、俺にオイルを手渡す。うん? 何か少ない気がする。とりあえず、俺は、残りを気にしながら、薄く体中に塗付けてく。

「はう!?」

 効果はすぐに現れた。彼女の皮が本来の俺の身体をさらに締め付け始めたのだ。身長が縮む。骨が軋む。身体に第二の皮膚が張り付く感じだ。
 胸が膨らむにつれて快感の波が押し寄せてくる。これ以上無い、彼女の匂いと恐ろしいほどの一体感を全神経で感じた。背中の穴が塞がり。俺も彼女と同様に変化が終るが一つだけ可笑しな箇所があった。

「ウフフ、キャハハハ!!」
「だから、笑うなって言ってるだろうが」
「無理だってば、出たり入ったりしているんだもん」
「お前の所為だろうが!」

 いくら怒鳴ろうが可愛らしくなった姿と声では迫力も何もあったもんじゃない。見る人が見れば、この瞬間が萌えって感じなんだろうか。
 ――言わなくても分かると思うが俺が着ている皮の――彼女の秘所から俺の巨根が顔を出している。やっぱり、あの時、箱ゴト、持ってくるんだった。
 この後、俺(美由)は罰ゲームと称し、美由(俺)と何回もヤル事となる。一日中飽きるまでな(まあ、飽きないだろうけど)。










 えっ? 何か忘れているんじゃないかって。ああそうか、ラベルに何て書いてあったかって事か。
 確か『日差しからアナタの肌を守る最適な皮を作ります(恋人限定)』だったかな。








 注意書き あくまでも試供品ですので、副作用があるかも知れません。  BY K27




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