狂魂





<大室健児の視点>

「なぁ、頼むよ」と俺は頭を深く下げた。
 目の前にいる女は、クラスメイトであり俺の幼馴染の四之宮沙希だ。こんな人気のない校舎裏に彼女を呼び出したのには訳があった。
「あたしはいやよ」
 沙希は首を横に振るばかりで俺の話を頑なに受け入れようとしなかった。
 俺が彼女に手渡したピンク色の手紙をしつこく返そうとしてくる。そりゃあ無理もない。何を隠そう、その手紙というのはラブレターなのだから。
 もう一度言おう、その手紙はラブレターだ。
 もちろん書いたのは俺だ。
 とはいえ、それは沙希に向けて書いた手紙ではない。というか、俺は間違ってもこいつにそんなものを書くようなことはしない。
 沙希とは家が近いこともあってか、幼稚園の頃からちょくちょく話をする間柄だ。その頃から可愛げのない性格で、しょっちゅう俺のやることなすことに口を出してくる。そのせいで沙希との話の大半は口喧嘩だ。しかし、今回ばかりは不本意だがこいつの力が必要だった。
「自分で手渡しなさいよ」
「それができないからこうしてお前に頼んでいるんだろ」
「それくらいできない男が何を偉そうに……」
「黒河さんと親友なんだろ? 頼むっ! 一生のお願いだ」
「これで五度目よね、一生のお願い」
 そんなになるっけか……? 一度目は幼稚園の頃の遠足で、どうしてもお弁当のおかずを交換して欲しくて頼んだっけ。あとは、小学校の頃に二度、中学の頃に一度、高校に入って一度、計四度に渡って忘れた宿題を写させて欲しいと頼んだから……正確には六度目か。なんて冷静に計算している場合でもなかった。
「大体あんたみたいな女々しい奴が千歳と本気で付き合えると思ってるの?」
「だから駄目で元々なんだよ!」
「ダメ元なら自分で告れっての!」
 あー、イカン。ホントに融通の利かない奴だな。
 このまま喧嘩しても埒があかないな。仕方がない、ここは譲歩するしかないかな――
「渡すだけでいいんだ。日を改めてきちんと告白すると伝えておいてくれ」
「どういう意味があるの、それ」
「ほら、手紙と口頭だとモノの伝わり方が違うだろ? まず手紙で黒河さんの様子を見て、脈がありそうだったらちゃんと口で告白する」
 そこまで力説すると沙希ははぁ、とため息を吐いた。
「仕方がないわね……」
「やってくれるのか?」
「ま、後でちゃんと本人言うのならね」
 沙希はいかにもやれやれ、といった表情だ。
 ――ごめんな、沙希。そうだ、今度お前の好きなパフェ奢ってやる。
 俺は心の中で変な固唾を呑んだ。



<四之宮沙希の視点>

 健児に校舎裏に呼び出されたときは、正直驚いた。
 何だろうと思って行ってみたら、なんてことはない、ラブレターのメッセンジャーを頼まれただけだった。
 しかも相手は黒河千歳。他の男子生徒からも学年問わず人気のある、いわばマドンナのような子だ。あたしとは中学の時に一緒のクラスになって以来、一番の親友だ。そういえば千歳を健児に紹介したのはあたしだっけ?
 ――やっぱり男子って千歳みたいな子を好きになっちゃうのかな?
 女のあたしから見ても千歳は可愛いと思う。黒くて長い髪にお嬢様風の気品がよく似合う。時々何を考えているか分からないけど、そこがまたミステリアスな雰囲気ってやつなんだろうな。
 放課後、始終そんなことを考えながら校門の前で千歳を待っていた。
 木曜日はあたしの所属している陸上部は練習が休みだから、いつも放課後まで千歳を待っている。千歳は“黒魔術研究会”という良く分からない部活に所属している。いつもこんなに遅くまで何をやっているのか疑問だけど、聞いてもなかなか教えてくれない。
 日が沈みかけてしばらくして、昇降口から千歳がやってきた。
「大変御待たせしました。帰りましょう」
 相変わらず馬鹿丁寧な挨拶をする千歳。多分接客業とか天職だと思う。
 あたしも最初は敬語とか堅苦しいからいいよって言っていたけど、今ではもう慣れたから別に構わない。あたしの中では最早千歳の口癖みたいな認識だ。
 彼女といつものように他愛のない話をしながら帰る。問題はここからどうやって健児のことを切り出そうか。
「どうしたのですか、沙希」
 千歳が怪訝な表情であたしの顔を覗き込んでくる。どうやらあたしが何を考えているか薄々勘付いているみたい。
 ――うん、ここはストレートに話をしよう。
「あのさ、千歳。あんた今好きな人いる?」
 あたしがそう尋ねると千歳はきょとんとした顔で足を止めた。そりゃそうか。
「好きな、人ですか?」
「そうそう……」
 千歳はしばらく黙り込んで空を仰いだ。彼女が考え込むときは大抵こんなポーズを取る。
「良く、分からないです――」
 そうきたか。
 あたしはやれやれと思いつつ、鞄の中から例のラブレターを取り出した。
「これ、預かり物」
 千歳はラブレターを受け取るとまじまじと眺め続ける。彼女がこういった手紙を受け取るのは日常茶飯事だからこの光景も見慣れてしまった。ただ、今回はあたしが良く知っている奴が書いた手紙だから、千歳がどんな反応するか気にならないといえば嘘になるけど。
「あの、これどなたからの手紙でしょうか?」
 もしや、と思いあたしは手紙を見た。
 ――なるほど。予想通りだ。
 あいつ、名前書いていない。
「ほら、あいつだよ。大室健児。あたしの幼馴染の――」
「ああ、はい。もちろん分かりますよ」
「そうそう、あの馬鹿。なんかいずれまた口頭で告白するってさ。ま、あんたが付き合いたくないってのならそのときにはっきりと断ってあげて」
 あたしの言葉が届いていないのか、千歳はラブレターの文面をひたすら眺めていた。
「分かりました――その時を楽しみにしていますと伝えておいてください」
 千歳がそういうと、ちょうど彼女と別れる道に着いた。
 珍しく千歳は、挨拶をする間もなくそこから走り去っていった。
 ――まさか、ね。
 去り際の千歳はいつもどおりにこやかだったけど、少し頬を紅くしていた気がする。
 あたしの中でひとつの予感が渦巻いていた。本当はいい予感なのに、あたしにとっては悪い予感にしか感じ取れなかった。
 ――なんだろう、これ。
 数秒間、あたしの気持ちは整理整頓で精一杯だった。
 千歳はあたしの親友であると同時に、憧れの存在だ。可愛くて、男子にモテて、その上健児の心も奪って……あたし勝てないよ。
 だから、ごめんね。
 好きなんでしょ、健児のこと。
 だけど――
 あたしも健児のこと、好きなんだ。あなたよりも、ずっと昔から……



<黒河千歳の視点>

 表には出さないけど、その日私は心を高揚させて家に帰りました。帰った後は、貰った手紙をまじまじと眺め続けていました。
 書き出しは「前略」で始まっていました。うふふ、健児さんたら、慣れない手紙を必死で書いたのか、ところどころ字が間違っていますよ。それにお世辞にも綺麗とはいえない字です。でも、一生懸命書いたというのは見てわかります。それが一層私の心をくすぐりました。
 そうなんです。
 私、健児さんのことが前から好きでした。
 沙希に紹介していただいたとき、つまり健児さんと初めて会った日から好きになってしまいました。いわゆる一目惚れです。
 理由なんてありません。けどこの気持ちに嘘もありません。
 ただひとつだけ、どうしても不安なことがありました。
 そう、沙希が健児さんのことを好きなのではないかということです。
 彼女は私よりもずっと昔から健児さんと一緒にいます。それに、彼女の話で健児さんが出てこない日はありません。
 ううん、間違いありません。彼女は確実に健児さんのことが好きなのです。おそらくずっと昔から。
 でも、ごめんなさい。健児さんを奪うわけではありませんが、やはり自分の気持ちを正直に伝えます。
 私は本棚から一冊の辞典を取り出しました。それは、今まで黒魔術研究会で調べた研究成果が綴られています。
 沙希のことを疑うわけではありませんが、万が一彼女が裏切るような行為をするのであれば――


<四之宮沙希の視点>

 一晩考えた結果、あたしは決心した。
 千歳……ごめんね。
 心の中で何度も謝りながら、あたしは登校してくる健児を待ち伏せた。
 珍しくあいつは時間に余裕をもって登校してきた。目の下に隈をつくっているところをみると、どうやらあまり眠れなかったみたいだ。
「おはよう、健児」
「ん? 珍しいな、お前から挨拶してくるなんて」
「実は健児に話があって……」
「なんだよ、勉強のこと以外ならなんでも聞けよ。あ、もしかして昨日の……」
「あのさ、今日の放課後、校舎裏にきてほしいんだ……」



<大室健児の視点>

 なんか上手くいえないけど、こんなに胸がドキドキしたのは何年ぶりだろうか。
 まさか、あの紗希が俺のこと……
 うわっ、どうしよう!? あの目は絶対冗談じゃなくて本気だって! それぐらい俺でも分かるって!
 でも俺には黒河さんっていう好きな人が――といいたいところだけど、紗希の話だとどうやらあまり脈がなかったとのことだ。
 まぁダメ元だったしな。それはそれで仕方がないが……
 今はそれよりも紗希への返事をどうするか考えないと。
 それから俺はゲームや勉強をしようとしたが、全くといっていいほど手につかないので、とりあえず寝そべって考えた。
 あいつとはただの幼馴染。口うるさくて、おせっかいで、喧嘩もするけど、いつも俺の傍にいた。
 黒河さんに振られた今、俺にとって一番大事な人は誰か、もう分かりきっていることじゃないか。
 ――うん、間違いない。
「俺は、紗希のことが好きだ!」
 気持ちを整理した俺は、高らかに叫んでそのまま寝てしまった。



<黒河千歳の視点>

 どういうことでしょうか――
 私が今朝登校したら、教室の黒板に「祝! 幼馴染カップル誕生」という文字が大きく書かれていました。そしてその下には健児さんと紗希の名前が……
 教室内は二人を囃し立てるように、男女の入り混じった歓声が響いていました。当の健児さんと紗希は、顔を紅くして俯いていました。あの様子からすると、どうやら本当に二人が付き合うことになったみたいです。
 私は紗希の席へと近付いていきました。
「おめでとう、紗希」
 そういうと紗希は私の顔を見ながら少し怯えた表情をしました。それはもしかしたら私に対する申し訳なさの表れなのかもしれません。
「あ、ありがとう……」
 はにかみながら微笑む紗希が、少し憎らしく思えました。

 ――なぜ、あなたはそんなに笑っていられるのですか?
 ――なぜ、あなたは私を裏切ったのですか?
 お煎餅を思いっきり握りつぶすところを想像してください。私の心の中は今そんな感じです。非常に脆く、一度崩れてしまえば二度とは元に戻れません。それもこれも、紗希のせいです。
 紗希、分かっていますよね。
 あなたは私の心を粉々にしてしまったのです。
 そして健児さんも同罪です。いくら幼馴染とはいえ、私のことをあっさりと諦めて彼女に乗り換えるなんて……
 私には我慢できませんでした。私を裏切っておいて、幸せになろうとする二人のことが……

 でも紗希は親友で、健児さんは私の好きな人――
 私たちがこれからも一緒にいる方法はたったひとつだけあります。
 そう、“あれ”を使うときがやってきました。

 “3人”を“2人”にする……私にはこれしか道がありませんでした。


<四之宮紗希の視点>

 あたしは今、校舎裏にいる。
 一昨日は健児にここへ呼び出されて手紙を渡すように頼まれた――
 昨日はここで健児に告白をした――
 そして今日は再び呼び出されたのだ。ただし健児ではなく、千歳に――
 思えばここへ三日連続で来ていることに気がついた。
 千歳、怒っているのかな。怒っているなら、さっきはどうして「おめでとう」なんていったんだろう?
 あたしは不安で不安で仕方がなかった。もういっそのことメチャクチャに怒りをぶつけてもらって構わなかった。ホントあたしって最低だな。

 あれ?
 なんだろう、この匂い――
 なんか、甘い……匂いが、す……る……



<大室健児の視点>

 ん……ここはどこだ?
 真っ暗で、何も見えない……
 俺はガンガン疼く頭を押さえながら、記憶が途切れる直前のことを思い出していた。
 昼間、俺の鞄に差出人不明の手紙が入っていた。そこには『話があります。放課後に校舎裏まで来てください』と書かれていた。まさかラブレターかと思った。だとしたら断らなければならない。なぜならば俺には既に紗希という大事な恋人がいるから。そう思った俺は使命感を持ちながら校舎裏へと向かった。
 ――記憶は、そこでお終いだ。
 もしかしてあれか? 何者かに拉致監禁されたとか、そういう状況なのか?
 その上何故だろうか、体が妙にふわふわと軽い気がする。力も全然出せないし、まるで自分の体じゃないみたいだ。
 ここがどこなのか、そして今自分がどうなっているのかを確認しようにも部屋が真っ暗で何も見えない。俺は焦燥感さえ抱いた。
 ――どうなっちまうんだ、これから。
『クスッ、お目覚めですか?』
 どこからともなく女の声が聞こえた。その声には聞き覚えがあった。
「まさか、黒河さん?」
『ええ、そのとおりです』
 オイオイ、どうなっているんだよ。
 なんで黒河さんまでここにいるんだよ。
 そうか、俺と一緒に何者かに捕まったんだな。そうだ、そうとしか考えられない。
「黒河さん……もしかして一緒に捕まったのか?」
 俺は可能な限り納得のいく答えを出そうと質問した。
『いいえ、ちがいますよ』
 俺の考えは即座に切られた。
 ――ハハ、ちょっと待てよ。
 じゃあ何か? それってまさか黒河さんが……
『ちなみにあなたをここに運んだのは私です』
 その間、俺は何もいえなくなった。
 全く、俺の悪い予感が次々と当たりやがる。頼むから、ひとつでいいから嘘だっていってくれよ。
『ところで……随分と声が高くなっていますね。風邪ですか?』
 黒河さんは皮肉をこめた口調で話した。
 そういえば、さっきからこの声はどこから発せられているんだ? 随分近くから出ているような気がするけど、何か違和感がある。
『そろそろ電気をつけましょうか』
 この声、まさか……
 さっきから妙に違和感があると思った。その答えがやっと俺にも分かった。
 黒河さんの台詞を喋っているのは、俺自身だ――

 部屋の中が一気に明るくなった。
 それまで分からなかった部屋の内部がようやくはっきりと見えた。
 部屋の中にはかなり広く、大きな棚がいくつも並べられている。そこには分厚い本やカラフルな薬品がいくつも並べられている。それだけでなく、髑髏を模した置物、水晶玉、他にもワケのわからないものがたくさん置かれていた。
『後ろを見てごらんなさい』
 俺は恐る恐る後ろを振り返った。
 その瞬間、今まで引っかかっていた疑問がようやく理解できた。
 俺の背後に、黒河さん……いや、黒河がいた。いつものようにセーラー服姿の、可愛らしい彼女だ。
 彼女はどこか目を丸くして驚いているようだった。それを見て俺も目を丸くした。
 ……なんてな。
 馬鹿なことをいっている場合じゃない。
 それは、鏡に映った俺自身だろうが!
 俺が、黒河になっちまったんだろうが!
『どうですか? 私になった感想は』
 それまで驚いていた鏡の中の黒河が、急に歪んだように恐ろしい顔になった。しかしすぐにまた驚いた表情に戻った。
「おい、どうなってるんだよ!? 俺の、俺の身体は……」
『心配しなくても、あなたの身体はあそこにありますよ』
 鏡の中の黒河は部屋の隅を指差した。
 そこには見覚えのある学生服姿の男が横たわっていた。
「あれは……俺?」
 どうなっているんだ? まさか、死んでいるのか?
 俺は俺のほうへおもむろに走っていった。
「おい、しっかりしろ!」
 俺は俺に向かって何度も声をかけた。
「ん、んん……」
 どうやら意識があるようだ。
 しかし、俺はここにいるはずだ。ということは、こいつは一体……
「ち、ちと、せ……? どう、して……」
 俺の身体が、ゆっくりと喋った。
「千歳って……まさか!?」
 黒河のことを千歳と呼ぶ奴は、俺は一人しか知らない。というよりも一人しかいなかった。
「紗希、なのか?」
 俺が呼びかけると俺の身体がハッと目を開いた。そして目の前にある鏡に向かってダッシュしていった。
 その後は予想通りだった。そいつは鏡に映った自分自身をみるなり、へなへなとその場に座り込んでしまった。
「やっぱり、紗希なのか?」
「どういうこと? どうしてあたしが健児に……」
『おはよう、紗希。いい夢でも見らましたか?』
「黒河、俺たちに一体何をした!?」
 俺、いや黒河になった俺と黒河が同時に同じ口で喋る絵柄は、紗希にしてみればひどく滑稽に見えただろう。しかしそんなことを構う気などなかった。
『簡単なことです。魂を移し替えたのですよ』
 魂を、移し替えた? そんな馬鹿なこと……
『紗希の魂を健児さんの身体に、そして健児さんの魂を私の身体に移しました。さすがに一人の身体に二人分の魂を入れるのは苦労しましたが、このとおり成功してなによりです』
「そんなことできるわけないだろう? お前頭おかしいんじゃ……」
「まさか黒魔術で……」
 俺はそこではっとした。そうだ、黒河は黒魔術研究会だったんだ。
 そんな胡散臭いものを信用はしていなかったが、しかし……
『嘘ではありませんよ。こうしてあなたが私になっているのがなによりの証拠です』
 俺の手が意志とは関係なしに胸を掴んだ。女の子特有の柔らかい感触が手のひらに伝わってくる。
『ほら、このとおりです。いいでしょう、これからは憧れの人の胸を触り放題ですよ。胸だけとはいわず、身体の隅々まで……』
「なんだよ、なんだよこれ!?」
『ご不満ですか?』
「当たり前だろう! 今すぐ元に戻せよ!」
『どうしてですか? これならみなさん好きな人と一緒にいられるのですよ』
「ふざけんな! こんなことしてただですむと……」
 それ以上喋ろうとした途端、俺の口が勝手に閉じられる。どうやら黒河の意志を優先してしまうようだ。
『もうムリですよ。健児さんは私になったのですから。私には逆らえません』
「千歳、どうしてこんなこと……」
『あなたが悪いのですよ。紗希が裏切らなければこんなことにはならなかった。健児さんも私のことをずっと好きでいてくれたら――』
 おい、それってもしかして、黒河も俺のこと……
「ごめんね、千歳。ごめんね、ごめんね、ごめんね――」
 俺になってしまった紗希は涙目で必死に謝り続けている。
 今、俺の顔はどんな風になっているのだろうか。怖すぎて鏡を見る気にもなれない。
『でももうそんなことはどうでもよろしいです。健児さんも、紗希も、私も……みんな好きな人と一緒になれたのですから』
 そういいながら黒河はセーラー服のリボンに手をかけ、するするとほどいた。もちろん俺の意志とは裏腹に、だ。
「おい、やめろ!」
「千歳、やめて!」
『ふふっ、今夜は楽しみましょうね。“2人”でね……』



<黒河千歳の視点>

 そういえば……
 抜け殻になった紗希の身体のことを忘れていました。
 早いところ処分しにいきましょう。明日あたりにでも……






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