皮男 その後
「おねぇちゃん、なんか最近ちょっと変わったね」
ギク
妹の美香の言葉に、あたしはギクリとした。
「え、そっ、んなことないと・・・思うけど・・・」
・・・女のカンは鋭いというし、まさか何か感づかれたんじゃないだろうか。
あたしの名は中川美也子
高校生
女
実は、あたしは数週間前に、クラスの男子と中身を交換したんだ。
「・・・てことがあったのよ。びっくりしちゃった」
「ふーん」
翌日の学校。
授業の合間の、友達とのおしゃべり。
いまあたしと話してるのが、その交換をした相手の宇藤くん。
ま、もっとも双方の同意があったわけじゃないので、一方的な入れ替わりではあったんだけど。
「で、そのあとどーしたの?」
「でね、こう言うのよ」
『んっふっふ、動揺してる動揺してる』
『なによその目つき。言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ』
『ふっふっふ、じゃズバリ。おねぇちゃん、彼氏できたでしょ!』
「って言うのよ、失礼しちゃうわね」
「え・・・、失礼しちゃうの?」
「だってあたし、彼氏いないもん」
「えー!?俺は?」
「なにが?」
「ちょ、そーなん?・・・じゃ、俺も彼女いない」
「なんでよ!」
「いててて、耳!耳!」
「・・・あ」
つい彼の耳を引っ張ってしまった。
だって、彼女じゃないなんて言うんだもん。
耳を押さえながら、彼がさらに聞いてきた。
「で、どこらへんが変わったって言ってんの?美香ちゃんは」
「んとね」
『彼氏なんていないわよ!』
『いやいや、だって毎晩電話してるし、最近下ネタ減ったし、絶対怪しいって』
「下ネタ?」
「そう、しもね・・・そんなことどーだっていいのよ!」
「そういえば最近ちょくちょく聞くぜ、下ネタ。
以前は彼女がそんなこと言ってるのを聞いたことなかったのに」
「当たり前でしょ、男の子の前でそんなこと言うわけないじゃない」
実をいうとあたしは、女子の間では『下ネタ大王』と呼ばれているのだ。
顔に似合わず、ってよくいわれる。
男子の前では絶対いえないけど、宇藤くんならどーでもいいし。
「そーか?いや、気にはなってたんだ、そのしもね・・・」
「掘り下げなくてよろしい!」
はづかしーなーもー。
「いや、だから"オレ"って前からそういう性格だったっけ?」
「ん?」
んんんー・・・?
そういえば、あたしが男だったときは、そんなに下ネタなんてトバしてなかったような。
「そうね、これは"アタシ"の性格だわ」
「本物になったときのことを覚えてるか?
俺が最初に違和感を感じたのは、そのときだ。
あんときゃ、下品な物言いにびっくりしたが」
「うっさいな」
あたしが本物になったとき、あたしは彼女の全てを手に入れた。
つまり、ここに彼女も一緒にいるってわけだ。
「あたしの性格は、"アタシ"の影響を受けてるってこと?」
「人格融合みたいなもんかもな」
「ふーん」
「もう中川美也子の中身は、"オレ"じゃないってことか。
なるほど、これでスッキリした」
「なにが?」
「違和感の原因だよ。
俺からみて、中川美也子の性格が以前とはガラリと変わっちゃってるんだ。
入れ替わったせいかと思ったんだけど、"オレ"の性格とも違うじゃん。
なんでだろう、ってずっと考えてた」
「ふーん」
「実はなんてことない。
俺が、猫を被った彼女しか知らなかっただけだったのさ」
「う・・・あたしは褒められてるの?バカにされてるの?」
「いや、どっちでもねぇよ?」
「そう、それならい・・・くも悪くもない・・・」
「じゃあ今度さ、美香ちゃんに会わせてよ。誤解を解いてやるから」
「ん?なにを言うつもり?」
「君のお姉ちゃんの彼氏です」
「ちょっと!それって誤解を解いてなくない!?」
「いーじゃん別に」
「いくない!」
「なんで?」
「いくないったら、いくないの!あたしにはいつか、白馬に乗ったステキな王子様が現れるんだから」
「なに寝言いってんの」
「なによ!」
「今度の日曜、どっか遊びに行かね?」
「あ、いくいく」
「もーいーじゃん、付き合ってることにしね?」
「・・・考えとくわ」
「あー、ちょっと進歩したね」
「うっさいな、感謝しなさいよ!」
「みゃーはもともとツンデレだったのかもな」
「う・・・否定できない・・・」
2人きりでいるとき、彼はあたしのことを"みゃー"と呼ぶ。
そこでチャイムが鳴ったので、お互い席に戻った。
え、あたしの本心?
・・・もちろん秘密だよ。