皮男2



「宇藤くん、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
『ざわっ』

にわかにクラス内が沸いた。
俺に声をかけてきたのは、クラスでも人気の女子だ。
その女が、男に対して「話がある」というんだから、皆の興味も引こうというものだろう。

「ん?ああ」
俺は生返事をしつつ、そちらを見やる。
彼女は、ついて来いというそぶりで歩き始めた。

クラス中の視線を背中に感じつつ、俺はあとにつづく。


人気の無い校舎の片隅。
俺から話を切り出す。
「さっきのあれ、わざとだろ」
「あれってなによ」
「教室で俺に声をかけたことだよ。注目の的じゃねぇか」
「あ、うん、まあね。ほら、自分が可愛い女の子に声をかけられたら気分いいじゃない?」
「そうかもしれないけど、なに、俺たち付き合ってることにするのか?」
「んー、そうね、どうしよっか?」

まあ、その辺のことはひとまず置いといて。
「で?話ってなんだ?元に戻る気になったのか?」
「まさか。あたしは一生あたしでいるわよ。そのためにあんたにアレを持ってきてもらうようにお願いしたんじゃない」

昨日の夜、彼女からの携帯で「持ってきて欲しいものがある」と連絡があった。
それは、小型のパソコンほどの大きさの、ある機械だ。

実は、俺たちはその機械を使って、数日前に入れ替わったのだ。
といっても、本物の彼女にはその自覚は全然なく、一方的な入れ替わりだったけどな。

その機械とは、『○○研究所の人体実験シリーズ その7』の教材である「スキンメーカー」という機械だ。
この機械に写真を入れると、そこに写ってる人にそっくりの皮(着ぐるみ)を作ることができる。
それを着ると、その人そっくりに変身できるのだ。

ただし、写真からだけで作った場合だと見えないところ、例えば服に隠れてるところとか、体の機能とか写真に写らない部分は
機械のほうで補正され、そこが本人と違う部分になってしまうことがある。
声などは、骨格やら肉付きやらを分析して、近いものにすることはできるようだが、まあその辺が限界かな。
やはり、記憶なども含め、より本人に近づけたいなら本人からデータを取らなければならない。

ここ数日、入れ替わったものの彼女は自分の記憶が無いため、まま難儀をすることもあったようだ。
これまではなんとかごまかせたようだが、先のことも考えていまのうちに完全に彼女の属性を取り込んでおく必要がある。
それも早いほうがいい。

「というわけで早速やるわよ。例の倉庫、先に行ってるからアレもってきて」
「あいよう」
というわけで彼女は倉庫に向かった。

俺は機械を取りに教室へ戻る。
そしてヤジるヤツらをあしらいつつ、カバンを持って倉庫に向かう。

倉庫。
離れにあるせいもあって、ほとんど人が来ない
数日前、俺と彼女が入れ替わった場所だ。

持ってきた機械からプローブを出し、準備を整える。

「じゃ、あとはよろしくな」
言いつつ、俺は自分を脱ぎ始めた。

俺は皮男だ。
彼女が彼女と入れ替わるために、自分の皮を彼女に着せたものだ。
本体の記憶を持ってるが、俺は自分がコピーであることもわかってる。

頭の部分さえ被せておけば、他の部分が露出していても主導権は俺にある。
しかし、いまからする作業は本物の彼女からデータを取ることだ。
そのためには頭の部分を、どうしても露出させなければならない。
だが、頭を取られると、俺は自分で自分を着ることもできなくなってしまう。

まあ、その辺のフォローは彼女の仕事だ。

ひと皮剥くと、中から女の子が出てきた。
俺の制御を失うと、くたっと力が抜けて横たわる。
意識は無いが、いつ目を覚ますかわからない。

彼女(俺の本体)は、機械から出てるプローブを女の子の頭と左腕に取り付ける。
これで記憶と体の詳細データを取り込むのだ。

実は俺もこうして作られた。
本体の記憶を持ってるのは、そういうわけだ。
そうでなきゃ、皮が主導権を握って活動なんかできないからな。

準備ができたようだ。
スイッチを入れる。

ぱち。
プ、キュィ〜ン!

機械が作動を始めた。
データの取り込みが終わるまでは少し時間がかかる。

その間、俺の本体は周りをきょろきょろと警戒していた。
誰か来るかもしれないし、女の子が目を覚ましてしまうかもしれない。

ピー。
しばらくして、完了の合図が鳴った。

俺の本体は、取り付けていたプローブを外し、俺を元通りに女の子に着せる。
俺は再び動けるようになった。

女の子も目を覚ますこともなかったみたいだし、滞りなく終わったみたいだな。

「これの出番は無かったわね」
という彼女の手には、シェーカーと呼ばれる銃のようなものが握られていた。
強力な超音波で脳震盪を起こさせて、人を気絶させる物騒な道具だ。

「おいおい・・・」
突っ込む気にもならない。

「さて」
完全版の皮ができたので、着替えだ。

彼女は着ている制服を脱ぎ始める。
上着、スカート、ブラウス、プラジャーからパンツまで一糸纏わぬ姿になった。
そして、完全版の皮を手に取り、そのまま今度は着込んでいく。
ほどなくして、それも終わる。
「これで、これからはあたしが本物ね」

服を着ている間、なんだか上の空のようにみえる。
「ふんふん」
さっそく彼女は、自分の記憶を探ってるようだ。

「ふーん、ホントはあたし、処女だったんだね」
以前の皮は、機械補正が入ったものだ。
そういう楽しみ方をするための機械でもあったから、そういうふうに補正されたものができたのだろう。

「あ、そうだ、喜んで宇藤くん。あんたもともと候補に入ってたのよ」
「ほー、そりゃ良かったな」
「あとね、由美子は斉藤くんがお気に入りで、サキは徹くんが気になってるみたい」
「つーか、女子ってのはそんなことを言い合ってんのかよ」
「というか、そういう話がメインね」
「ふーん」
といいつつ、彼女の腕を掴んでひきよせる。

「きゃ」
「んー」
俺は甘えるように抱きついた。

「ちょっと何よ、離してよ」
「いやー、さっき生着替えを見せられたんで勃っちゃった」
「あたしは処女だって言ったでしょ」
「いーじゃん、結婚しようぜ」
「ばか!」
顔が真っ赤だ。

そのあと、スマタだ手コキだのと揉め、パンツ貸すから自分でしごけという意見も出たが、結局お口でしてもらえることになった。


ということで、気持ちいいこともしたので、俺たちは帰ることにした。
「じゃね、また明日」
「おう」
「ふふ、明日からの生活がまた楽しみだわ」
「そうかい、そりゃよかったな」

彼女は一生このままでいたいと言っていた。
研究所の技術は精度が高いので、それは問題ない。
俺も俺の人生を歩むのか。

「ま、なるようになるさ」

翌日、二人はクラスメイトから質問攻めにあった。



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