禁断

 

 小高い丘の上にある大きな建物、ここは、数年前に閉鎖となった元病院だ。取り壊されもせずに、未だにその面影を残している。
 俺、涼太と彼女の琴音はその建物の前に二人で立っていた。
「ねえ、勝手に入って大丈夫なの?」
「平気だって。こんなところ、誰も来ないだろうし」
 日も暮れて、辺りは真っ暗だ。月の明かりに照らされてその建物は余計に不気味さをかもし出している。

「はぁ、やっぱり来なきゃ良かったかな」
「今更そんなこと言うなよ、琴音だって最初は乗り気だったじゃないか」
 俺と琴音は大学のサークルで知り合った。明るい性格と可愛い顔に俺が一目ぼれし、俺から積極的にアタックし、付き合うことになった。
琴音と付き合うことになってもう1年経つ。最初はデートするのが楽しくて、いつもわくわくしていたのだが、最近は何となくマンネリ化しているのか、デートしていてもあまり楽しいとは思えなくなってきている。琴音のほうも同じような気持ちを抱いているようだ。
琴音のことは好きだ。だから別れようとは思っていない。だからこそ、このマンネリ感を何とかしようと、今日のデートはいつもとは違って刺激的な肝試しをしようということになったのだ。
「何だかちょっと怖いな」
 琴音には聞こえないようにぼそっとつぶやく。この病院はこの辺りでは少し有名な肝試しスポットらしい。何でも医療ミスで死んだ患者が夜な夜な徘徊しているとか、誰もいないはずなのに、夜な夜な変な声が聞こえるとか。
 最初はそんなこと全然信じていなかったが、いざ目の当たりにすると、そんなウワサも本当じゃないかと思えてくる。

「どうする? やめとく?」
……せっかくここまで来たんだから、一応中を見て見ようよ」
「そうだな」
……危なくなったら涼太が守ってね」
 その言葉にドキッとする。久しぶりに琴音を可愛いと思った。
「わかった。まかせろ!」
……うん」
 そう言って腕を組んでくる琴音。最初は心配だったけど、意外と肝試しデートも良いかもしれないな。


 建物には鍵がかかっておらず、簡単に中に入ることができた。とりあえず建物を一回りすることにした。
「怖いね……
「そうだな、いかにも何か出そうだな」
 しかし、中を歩いていても特に変わったことは起こりそうに無い。
「いろんなウワサがあるけど、別に何とも無いよな」
「ふふっ、そうだねー」
 俺も琴音も少し余裕が出てきたみたいだ。

「あれ?ここ、変なドアがあるよ」
 琴音が指差すところ、そこには確かに変なドアがあった。まるで何かを隠しているように部屋の奥に備え付けられている。
「行ってみようか」
「うん!」
 俺たちはそのドアを開けた。


 扉の向こう、そこには――
「何もないな……
 殺風景な部屋。衣類を入れる小さなボックスが数点置いてあるだけだった。
「病院に何でこんな部屋があるんだろうね?」
「うーん、遺体安置所とも違うみたいだし、何だろうな」
 彼女は部屋の周りを不思議そうに歩いている。俺は部屋に置いてあったボックスが気になり中を調べて見ることにした。

 中にはいろいろな衣類が入っていた。その衣類には全て人の顔や手足がくっついている。いや、人を模ったキグルミの上に衣類を着させてあるようだ。そして全て背中側に裂け目が入っている。ものすごくリアルなキグルミだ。
「これは……
 俺は一番上にあったキグルミを手に取った。それは制服を着ている女の子だった。何でこんなものがここに? 何かの研究でもしていたのだろうか。
「何してるの?」
 後ろから琴音が声をかける。そうだ、ちょっと驚かせてやろう。
「なあ、琴音」
 俺は後ろを振り返らずに話し出す。
「ん?何?」
「実はこの病院には、こんなウワサがあるんだ……。夜になると。この病院で亡くなった女子高生が、幽霊となって徘徊していると」
「ちょっと……何言ってるの?」
「そしてその女子高生が使っていた病室がここなんだ」
「うそ……でしょ?」
「そして俺たちみたいな、侵入者が来ると化けて出るんだ……こんな風にな!!」
 俺は今持っている女子高生のキグルミに、背中の裂け目からすばやく頭を入れて琴音のほうを振り向く。
「きゃあ!? ……って、あははははっ!!」
「びっくりした?」
「あはは、笑わさないでよ、何、その格好?」
 俺は女子高生のキグルミを頭にかぶっているだけのおかしな格好になっていた。
「どうしたの、それ?」
「何か、そこに入っていたんだ」
「へえ、他にもあるんだ、ちょっと見てみよう」
 琴音はボックスの他のキグルミを夢中になって見はじめた。

「さて、これを脱ぐか……ん!?」
 先ほどまで頭にかぶっていただけのキグルミが、段々と自分の方へ迫ってくるような気がする。
「んっ!?」
 いつの間にか上半身すべてがすっぽりとキグルミの中に入っていた。両手も中に入ってしまい、脱ぐことが出来ない。足を使って脱ごうとするが、その足もキグルミの中に入ってしまう。どう考えてもこの小さな女子高生のキグルミに入りようの無い俺の体が、すっぽりと収まってしまった。
「ほら、見て涼太。男の人のキグルミも会ったよ、うらめしやーってね」
 俺と同じように男のキグルミを頭にかぶってこちらを向く琴音。
「あ、あれ? 中に入って……
 そして、琴音もそのキグルミの中に入ってしまった。

先ほどまでキグルミでまったく見えなかった視界が突然はっきりと見えてくる。俺はどうなったんだ――
「おーい、琴音、……ん!?」
 思わず口を押さえる。何だ今の甲高い声は。その口を押さえている手も、いつもの自分の手よりも遥に小さい。さらに何故か下半身がスースーする。見ると俺はスカートを履いていた。いや、スカートだけではなく、俺は女子高生の制服を着ている。何だこれは。
「あなた、誰?」
 声をかけられ、振り向くと男がそこにいた。
「お前こそ、誰だよ、琴音はどこへ行ったんだ」
 しかし、その男を良く見ると、先ほど琴音がかぶっていた人物に似ている。そういえば俺が今着ている服は先ほどの女子高生のキグルミが着ていたものと同じ制服だ。まさか――
「ひょっとして琴音か?」
「もしかして、涼太なの?」


「すごいね、このキグルミ」
「ああ」
 俺たちはキグルミを着たままで今の状況を確認しあっていた。琴音の外見は完全に男のものだ。おそらく俺も女子高生になっているのだろう。このキグルミのすごいところは、何故かキグルミの外からでも触覚が感じられることだ。スカートから剥き出した足を触ると、触られたという感覚が脳に伝わってくる。
「ねえ、ここはどうなっているの」
 急に琴音が俺の胸に手を当てる。
「ひゃ、ひゃあ!? 何するんだよ!」
 胸からくすぐったいような、何ともいえない感覚が伝わる。
「あっ、ゴメン……、えっ!?あれ?」
 琴音は内股気味にモジモジしている。外見が男なのであまり見ていて気持ちがいいものではない。
「どうした、琴音?」
 俺は琴音に近づく。
「あ……、何だか……、ゴメン!」
「え、ええっ!?」
 何を思ったのか、琴音は俺を押し倒した。琴音の力が強いのか、俺の力が弱くなったのか、俺は抵抗も出来ずに琴音に覆いかぶされた。そして琴音は俺の胸に片手を胸にかけ、もう一方の手をスカートの中に入れてきた。

「ひゃ!? やめ……、んっ、やめてよ! お兄ちゃん!」
「良いじゃないか、俺たちは兄妹だけど好き同士なんだから」
――
何だ?俺は何て言葉を口にしたんだ?
――
そして琴音は何て言ったんだ?

「だからって、兄妹でこんなことするのはまずいよ」
「もう、我慢できないんだ。お前は嫌なのか?」
「お、お兄ちゃんなら良いけど」
 何だこの言葉は。もしかしてキグルミの意思? そして今の俺と、琴音が着ているこれは兄妹だったのか? もしかしてこれはキグルミじゃなくて生きている人間だったのか?
「んぅ……、ひゃん、やだ……
 琴音は俺の平らな股間に指を這わせる。今まで自分が体験したことのない快感が体中を駆け巡る。これが、女のカラダなのか。俺は頭がぼぅっとして意識が朦朧としてくる。


「は、恥ずかしいよぅ……お兄ちゃん」
 自分の発した喘ぎ声が、好きな人に聞かれると思うと恥ずかしい。
「茉利、かわいいよ、ちゅっ」
「んっ!? んっ、ちゅっ、ちゅぷ……
 大好きな人とキスしている。嬉しくて自分から積極的にキスをしにいく。
「茉利、脱がすよ
……うん」
 お兄ちゃんが私の制服を脱がし、私は下着姿になる。こんなことになるのならもっと可愛い下着を履いてこれば良かった。こんな地味な下着履いていて、お兄ちゃんがっかりしちゃうのかな。
「綺麗だよ、茉利」
 そう言ってお兄ちゃんは私の胸を愛撫する。お兄ちゃんの手の温かみが胸に伝わってくる。
「んっ……
 声を出すのは恥ずかしい。でも我慢できなくて出てしまう。お兄ちゃんはショーツの上からやさしく指を這わせる。
「んあっ……、ふぁ……
 お兄ちゃんの優しい刺激に、私の体の中からじんわりと熱いものがこみ上げてくる。
そして、お兄ちゃんは、私の下着を脱がす。私とお兄ちゃんは生まれたままの姿になっていた。

「お兄ちゃん、来て……
 私は両手を広げてお兄ちゃんを迎える。
「茉利、いくよ」
 お兄ちゃんと私は体を重ね合わせる。
「痛っ、んんっ……ああん……
 お兄ちゃんのモノを受け入れる。私のアソコは十分に濡れているけれど、お兄ちゃんのモノはすんなりと受け入れられない。
「茉利、痛かったら言うんだぞ」
「うん……、でもお兄ちゃんのだったら……何でも受け入れられるよ」
 ずぶずぶとお兄ちゃんのモノが挿入されてくる。
「うれしい……、今……お兄ちゃんと一つに……なれたよ」
「茉利……、俺も、茉利と繋がってうれしいよ」
 お兄ちゃんは、上下に動いて、動くたびに私のアソコを刺激して気持ちいい。
「いいよぅ……。あん……ああん
「痛くないか……茉利?」
「ううん……、もっと、もっと……、お兄ちゃんの温もりを……、私にちょうだい」
 お兄ちゃんの腰の動きが早くなる。出し入れされるたびに私は声をあげ、お兄ちゃんを求め続ける。
「あん、胸も触って……
 胸がむずむずして切ない。私はお兄ちゃんにお願いする。
「ひゃああん……、ああ……んっ……んぁあん」
 胸への刺激。切ない気持ちが満たされて、さらに大きな快感が私を襲う。
「ひゃん……、んぅっ……いいよぅ
 胸から、アソコから感じる気持ち。ふわふわとして気持ちがいい。何も考えられなくなってきた。こんな気持ちになることができたのは、お兄ちゃんのおかげ。
「ああん……、お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」
「はあっ、はあっ茉利!」
 お兄ちゃんがくれる温もり。その温もりを手放したくなくて私はお兄ちゃんの体に抱きついて離さない。
「茉利、俺……もう
「あっ……ああん……私も……くる」
 どこまでも上り詰めていく感覚。そして意識が無くなってくる。
「で、出る!」
「お、おにいちゃ……あ、ああああああああんっ!!」
 ドクッドクッ――
 お兄ちゃんの精液が私の体の中で満たされるのを感じながら、私は絶頂を迎えた――


「はあっ……はあっお、女のカラダってすごい……
 いつの間にかキグルミの意識と同調していたみたいだ。俺は女のカラダでイッた余韻に浸っていた。
「あん……、まだ感じる……
 体が敏感になっている。ちょっと触るだけでも体がビクビク反応する。

「涼太、だよね……?」
 おにいちゃん、ではなく琴音が声をかけてくる。
「ああ……、すっかりこの女子高生に意識が同調していたみたいだ」
 しかし先ほどのことは全て記憶に残っている。琴音も同じだろう。赤い顔をしていた。
「も、もう脱ぐね……どうやって脱げばいいのかな」
 琴音はしばらく試行錯誤していたが、首に手を置いて剥がすように上に引っ張ると男のキグルミが脱げ、中から琴音が出てきた
「お、俺も脱ぐか……
 足や腰がガクガクしているのを我慢して立ち上がり、同じようにキグルミを脱ぐ。すると俺も簡単に脱ぐことができた。
 
俺たちは元の姿で向き合っていた。
「兄妹でしちゃったんだよね……
「中身は俺たちだから、違うんじゃないか」
「でも、気持ちよかったよね」
「ああ……
 女の体があそこまですごいとは思わなかった。
「もう一回、しない?」
「えっ!?」
 そう言って琴音は俺にキグルミをかぶせてくる。俺の視界が闇に閉ざされ、そしてキグルミが体に張り付いてくる。

 すぐに視界が元に戻る
「琴音、何をする……って、ええ?」
 また俺は女性の体になっていた。先ほどとは異なり、少し落ち着いた声。慌てて自分の姿を確認する。ブラウスを盛り上げる大きな胸。そしてタイトスカートから伸びるくびれのある足。大人の女性の体だ。
「待たせたね」
 目の前には、スーツ姿の男が立っていた。この男性は――
 またキグルミの意識に同調してしまう。
「課長、奥さんにばれないようにしてくれてますよね?」
「ああ、もちろんだ。妻には今日は残業で遅くなると言ってある」
「うれしい。いっぱい愛してくださいね!」
その後もいろんなキグルミに入れられて、俺は琴音と愛し合った。


 あの後、俺たちは病院にあったキグルミを全て回収した。琴音は、あの日から毎日俺を求めるようになっていた。あの夜の肝試しでマンネリ化を打破するどころか、さらに琴音と仲が良くなった気がする。しかし――

「だめよ、私とあなたは教師と生徒なんだから」
「でも、もう限界なんです、先生」
 俺のほうが女性のキグルミを着ている。琴音は男の快感が気に入ったそうだ。そして俺も女の快感が気に入っている。
「ちょ、ちょっとやめて……ああん」
 今日も俺は女として、琴音に抱かれている。


おわり



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