「狂騒乱舞」
作:愛に死す


 私の名前はルイス=マクラート。魔族のうち夜魔と呼ばれる部族の王だ。配下からは魔王とも呼ばれるが、そのように呼ばれる存在など数多いる。人族の王や領主が数え切れないほど存在するのと同じように、魔族にも様々な種族、民族を統べる王がいる。
「やはり本を読んで思索に耽る時間は心地良い」
 ここのところ隣接する領土のオーガ族が小競り合いを仕掛けてくるので、好きな本さえろくろく読めなかった。今日は珍しく何の報告もないので、玉座で本を片手に過ごしていたのだが、
「た、大変です。侵入者です!」
 優雅な時間は無粋な声によって破られた。配下が慌てた声で報告をする。この城に侵入者とは珍しいことだが、ありえないことではない。それに魔力で動く、スケルトンやゴーレム、リビングメイルを各所に配置してある。私は眠らず、休まず、食わず、の魔法生命体を愛用していた。一度作ってしまえば、不平も言わずに半永久的に動き続ける。細かい作業には向かないが、侵入者を撃退するには最適と言えた。
「何を慌てることがあろう」
「はっ、申し訳ありません」
 配下を下がらせ私は侵入者とやらを見るために遠見の魔法を使った。どうせこそ泥の類だろう。だが私の予想に反して、一階の広間はがらくたが散乱していた。ばらばらになった骨や土くれが無残な姿を晒している。
「ほぅ、いったい何者だ?」
 ろくな知恵がないオーガならともかく、私の領土に攻めこもうとする者はまずいない。僻地で実り豊かとは言えない土地。辺境に位置する私の領土を攻め取っても旨みには乏しいのだ。
「邪魔するぜ」
 玉座の間へと続く大扉を剣で切り裂いて、侵入者が入ってきた。手入れをされていない金髪は土埃で汚れている。瞳は暗い光を宿した青色、口元は引きつった笑いを浮かべていて、まともな人物には見えない。
「人間がわざわざこの地に何の用だ?」
 意外な侵入者に私は目を細めた。脆弱な人間がこの魔族の地にやってきたのが不思議だった。それに私の領土は人の土地と隣接していない。領土争いをしているならともかく、人間が攻めこむのは解せなかった。
「ほう、いい男だな。銀色の髪に赤い瞳の魔王様よ。あんた、強いんだろ?」
 人間は革鎧に一本だけの剣と身軽な格好だった。一人だけで仲間らしき姿は見えない。
「俺の名前はクラトール家のアウト。聞いたことぐらいはあるだろ?」
「確か勇者の家系だったな。では、その勇者が私を倒しにきたというわけか」
 アウトの目は狂気に彩られ正気には見えなかった。勇者とはいえ、一人で魔の地に赴くとは無謀を通り越す。それにクラトール家といえば貴族のはずだが、品性というものをまるで感じさせなかった。
「俺は強い奴と戦いたい。強くて顔のいい奴とな。その整った顔が苦痛に歪む様はさぞ楽しいだろうな」
 喉の奥から低い笑いを漏らし、アウトは剣を構えた。魔王と呼ばれる私でも背筋が寒くなるような狂気に満ちた笑いだ。
「気を緩めていたらあっという間に死んじゃうぜぇ」
 アウトが床を蹴った瞬間、私は脅威を感じて玉座から飛び退る。一陣の白光が煌めき、玉座が真っ二つに切り裂かれた。纏っている銀糸のガーブの端が飛ぶ。
「くっ、速い」
「ほらほら、お喋りする時間なんてないぜ」
 身をよじって斬撃をかわしたつもりだったが、胸に鋭い痛みが走った。胸から赤い血が滲んで衣を汚していく。
「反応がいいな、感心感心」
「舐めた口を」
 奥歯を噛み締め、魔力を右手に集中させた。掌に浮かび上がった青い光を勇者に向かって連続して打つ。肉弾戦よりも魔法戦の方が私には向いているのだ。
「おお、怖いな。一撃を喰らっただけで、骨が砕けそうだ」
 アウトは破壊の力に晒されても不敵な口調を変えない。目に捉えられない速度で私の攻撃を避けている。床が破壊されて、砂煙が舞った。
「こっち、こっち、ほらよ」
 素早い身動きで私に接近したアウトが剣を振るった。魔法を放っていた右腕が肘から切り飛ばされる。鮮血が宙を舞い、アウトの剣と顔を赤く染めあげた。
「ぐうぅっ、この程度で」
「たいした再生能力だな。そうでなきゃ面白くない。もっと俺と愛するように殺し合おうぜぇ」
「不気味なことを喋るな!」
 魔王と冠せられるからには、私にもそれなりの力がある。私は短時間で失った腕を再生させていた。ただ失った血と体力は戻らない。
 勇者とはいえアウトは人間だ。魔族と比べれば、再生力も魔力も低い。一撃を当ててしまえば勝負はつくはず。そう思うのだが、アウトは身軽な動きで私の目を幻惑する。何度も斬撃を浴び、私の銀の衣はぼろぼろになっていた。邪魔になった服を破り捨てると、
「ほぅ、均整の取れたいい肉体だな。好ましいが、惜しいことに経験が不足しているな」
 引き締まった肉体を見て、勇者は口笛を吹いて感心した。
「まだこれからだ……」
 血を流しすぎて再生力が鈍っていた。傷は塞がっているが、完全には治りきらず身体には赤い線が刻まれている。
「お前は何歳だよ?」
 距離を取ったアウトが私の肉体を舐め回すように見ながら尋ねてきた。答える義理もないが、呼吸を整える時間は欲しい。
「人間の年齢にすると十六ってところか。俺より一歳年下の若造だな」
 私の年齢を聞くと、アウトは可笑しそうに笑った。だが、人間年齢に換算すればの話であって、本来なら私の方がずっと年上のはずなのだ。
「つまりまだまだ成長の余地があるということだ。いい、凄くいい! 最高だ!」
 歪んだ笑いをこぼすと、アウトは剣を無造作に構えた。構えなど皆無に等しいのに、裂帛の気合が伝わってくる。
「ぐがぁっ!」
 アウトの姿が消えると同時に懐に入られ、瞬時に手足の腱を断ち切られていた。私は立っていることもままならずに、床に仰向けになって倒れる。生命力の源である血が床に広がっていく。
「死ね死ね死ね、いや死なない程度に死ね!」
「ぐぅっ……はぁはぁ……あがっ……ぜぇぜぇ」
 無造作にアウトは私の身体にぶすぶすと剣を突き刺す。魔王の誇りにかけて悲鳴を上げまいとしたが、それでも曇った呻き声は止められない。
「おい、生きてるな。これくらいやれば充分だろ。全く手間がかかるなぁ」
 返り血で真っ赤に染まったアウトが私を見下ろしていた。私をなぶり者にしておいて、だるそうな顔をしている。
「大人しくしていろよ。やれやれ、魔方陣を描くのが面倒だな」
 剣の先で床を削って、アウトは複雑な図形を描いていた。私はかろうじて息はしているが、指一本動かせないほど衰弱している。魔族は人間に比べてはるかに魔法抵抗が高いので、勇者は私を死の淵に追いやって抵抗する力を奪ったのだろう。数々の魔導書を読んできた私だが、勇者のやろうとしていることはわからない。
「あとは呪文を唱えるだけか」
 狂乱の雄叫びを発していた人物とは思えないほどに、涼やかな声で歌うように呪文が唱えられていく。魔方陣が発光して、金色の光で辺りが満たされる。呪文を唱え終わると、アウトは剣を放り投げた。
「いってぇ。ああ、くそっ、いってぇ!」
 くるくると空中で回転した刃は落ちてくると勇者の太ももを貫いた。生命線とも言える足を自ら傷つけたことが私にはわからない。何らかの儀式に血が必要だったのだろうか。
「それじゃまたあとでな」
 勇者の狂った甲高い笑い声とともに、金色に輝く光は強まっていく。それと同時に私の意識は白く霞んでいった。



 細波のように意識がゆらめきながら、脳が覚醒を始める。私は重い瞼を微かに開けた。どうやらまだ生きてはいるらしい。身体は石化させられたように重かった。視界が歪んで暗い。どこにいるかはわからないが、背中には柔らかい敷布の感触がある。ベッドに寝かされてはいるようだ。
「捕虜にされたか……ここは牢屋なのだろうか?」
 口が渇いていて枯れた声しか出ない。しばらく布団に横になって薄目を開いていると、視力が回復してきた。暗いと思われた部屋には、明かりが灯されている。私の目が曇っていただけらしい。
「ここは……私の寝室ではないか……?」
 まるで勇者アウトと戦ったのは悪夢だったと言わんばかりに、私がいたのは自分の部屋であり、寝ていたのは自分のベッドだった。夢とは思えないほどに現実味を帯びていたのだが。しばし呆然として部屋を眺める。魔王と呼ばれる存在にしてはさほど広くはない住居。机にも椅子にも本棚にも変わったところはない。
「くっ、はぁ、まだ傷が治りきってはいないか……」
 上半身を起こそうとすると、ずきりと太ももが疼いた。傷を負っていることから考えて、夢ではなさそうだ。そこで違和感に気づく。
「配下が着せたのか? わからない、何が起こっているのだ?」
 掠れた声で呟く。私はパジャマを着せられていた。これだけならメイドの仕業と考えることもできたのだが、その選択に問題があるのだ。幾重ものフリルで装飾された柔らかな布地。ピンク色の生地が私の身体を覆っている。
「……どうしてネグリジェなのだ?」
 混乱の極みにあった。勇者との戦いと何を結びつければ、このような格好にさせられるのかわからない。辱めを与えるにしては、手が込みすぎている。
 理由を探るためにベッドから降りて、ふらつく足で鏡の前まで行く。そこで息を飲んだ。
「これは女……しかも人間のか!?」
 起きた時から声がおかしいとは思っていたが、私の声ではないのだから当然だった。鏡に映った姿は、蜂蜜のような透明感のある金髪をした少女だった。湖のような深みのある蒼い瞳が私を見返している。夜魔族は人に近い姿をしている。その感性から言えば、美しい少女と言えた。
「記憶にはない顔だが……」
 太ももの傷が焼けつくように痛い。包帯を巻かれ手当をされてはいるが、ずっと立っているのは辛かった。よたよたとベッドに腰かける。ぼんやりとしていると扉の外から我が部族のものらしき歓声が聞こえた。何事だろうか?
「戻ったぜ」
 錆びた鉄のような血の臭いが漂った。バンッと扉を蹴飛ばして、返り血に塗れた黒い衣服の男が入ってくる。凄惨な笑顔を浮かべた男は、どかりと椅子に腰かけた。
「これ、土産な」
 男は無造作に手に持ったものを床に転がした。赤い飛沫が飛ぶ。虚ろな目が私を見ていた。床に転がったのは、生首。それも、オーガ族とトロル族の王だった。
「……貴様は……」
 私は男を見たまま絶句していた。邪悪な雰囲気は魔族に相応しいと言えるだろう。自信に溢れた姿は頼もしさを覚える。私よりもずっと魔王に相応しい貫禄があった。男の顔は私そのものをしていた。
「起きたみたいだな。なかなか目覚めないから心配したぜ」
「……誰だ?」
「あんなに激しくやりあったのに、忘れちゃったのか。つれないなぁ」
 可笑しそうに喉の奥から低い笑いを漏らす男の姿には見覚えがあった。忘れようがない。
「……アウト、なのか?」
「せーかい。いやぁ、魔族ってのはタフで面白いな」
 オーガキングとトロルキングを惨殺してきたアウトは上機嫌のようだ。にやにやと笑ってこちらを見ている。私の戸惑いを察知して、面白がっているのだろう。
「この身体は元々誰のものだ?」
「肉体を入れ替えたわけだから、俺のに決まってるだろ」
「……わざわざ性別まで変えたわけか」
「はっ、そんな面倒なことをするかよ」
 否定されて私は沈黙した。言っている意味がわからない。
「クラトール家の戦姫といえば俺のことだからな。これでも国にいる時はお淑やかにしてたんだぜ」
 つまりアウトは貴族の令嬢というわけだ。戦いぶりからは想像もできないが、鏡に映った姿を見れば納得はできた。お淑やかにしていたというのは、疑わしいが。
「そんな恵まれた境遇を捨てる理由がわからない。クラトール家といえば名家で、尊敬を集める立場だろう」
「飽きた。家名を背負うのも、家訓に従うのも飽き飽きだ」
 子供のように拗ねた表情だった。
「勇者の家系だからって幼い頃から修行に明け暮れてたんだぜ。魔物討伐で武名を知られてこれからって時にだな」
 アウトの声には激しい怒りが混じっていた。
「国王命令で結婚しろときたもんだ。相手はどこの坊ちゃんか知らんが、やってられるか!」
 思い出したら腹が立ったらしく、アウトは拳を机に打ちつけた。一撃で真っ二つに砕け散る。
「結婚から逃れたとしても、勇者の名前がついて回るからな。それで魔族の世界に身を投じようと思ったわけだが――」
 アウトは話すうちに熱がこもってきたらしい。私が適当に相槌を打つと、聞いてないことまで喋り出した。
「命令を受ける立場は嫌だから、魔族の王で顔が良くてそれなりに強い奴と入れ替わろうと思ったわけだ。少し弱いだけなら技量で補えるからな」
 顔が良いと褒められても全くいい気がしない。むしろ惨めな気持ちになってきた。
「若くて美少年で体力も魔力も優れている好物件とは思わなかったぜ。俺は嬉しくてたまらないね。この美少年の体で、あんなことやこんなことまでしちゃおうかなぁ」
「……何をする気だ?」
「血を見たら滾って仕方ないから一発抜こうかと。お前の口で」
 戦いをしてきて血が昂ぶっているのだろう。黒いズボンが盛り上がっていた。飢えた獣の目をしている。冷静沈着だった王の姿とはほど遠い、欲望を剥き出した姿。自らの姿であるのに、反吐が出そうになる。だが、荒々しい強さを感じさせるのも確かだ。これはこれで一つの魅力だろうか。
「今の貴様は魔王だ。私でなくとも、相手をする者はいくらでもいるだろう。遠慮はしてもらいたいが」
「俺はルイザちゃんがいいぞ。何しろ一目惚れだったからな」
「断る。貴様は一目惚れをした相手にこんな仕打ちをするのか」
 ルイスを女性名にしたルイザで呼ばれて、私は嫌悪に満ちた顔をしていた。軽い口調で言われても真実味がないし、こいつの考えは理解できない。
「ふぅん、俺に復讐したくはないか? その体では復讐もままならないだろ」
「回りくどいのは私も嫌いだ。はっきりと言え」
 勇者の体が優れているとはいえ所詮は人間。私が敗れたのはアウトの技量が並外れているからであって、このままでは勝ち目はない。
「お前が再び魔族になればいい。文献によると三つの穴に魔族の精を注げば、人から魔へ転生できるらしいな」
「……それは私も読んだことはあるし、そのための術も知っているが……」
 人族から魔族になれば、能力は上がるし寿命も延びる。今は敵わないとしても機会を待つこともできるわけだ。このままでは野垂れ死にすることは目に見えている。
「さぁ、ルイザちゃんはどうするかな?」
 顎に手を当ててからかうように言うアウト。選択肢を与えているようで、生か死の二択を迫られているようなものだ。
「ちゃんづけはよせ……」
 破れた私が吠えても迫力に乏しかろうが、意地というものがある。
「刃向かう気はありそうだが、人間は脆いからなぁ。俺は死にかけの傷から完治したってのに、お前の太ももの傷はまだ深そうだ」
「くっ、忌々しい……」
 夜魔族であれば弱い者でも再生能力を備えている。必要がなかったということもあるが、治癒の魔法というのは神官しか使えないのだ。
「心優しい俺は、お前を助けようとしてるんだぜ」
「よく言う。貴様の欲望を吐き出したいだけだろう」
「あれぇ、わかっちゃう。俺は初めてだからどう処理しようかと困ってさぁ」
 血の滾りを持て余したようにアウトの瞳は熱く潤んでいた。ここで私が断っても部族の者に手を出そうとするだろう。民を守ってこそ王だ。魔王ではあるが、そのように思う。
「……部族の者に手を出さないと約束するなら、貴様の欲求に従おう」
 私は喉の奥から呻くような声を出して、アウトを睨みつけた。
「くくくっ、ルイザ。お前って魔族のくせに優しすぎるな。俺はそれを聞いてやる義理はないんだぜ」
「では、どうしろというのだ?」
「俺にお願いしろよ。私が体で奉仕するので、民には手を出さないでくださいってな。棒読みはダメだぜ」
 体だけではなく心までも辱める要求に、私は肩を震わせて真っ赤になっていた。ここで怒りに任せて戦いを挑みたくなったが、それこそ無駄死にだろう。私は気持ちを落ち着かせるために深呼吸を繰り返した。屈辱に耐えていつか復讐してやる。
「わ、私に、体でご奉仕させて下さい。お、おちん○んをしゃぶりますので、どうか民には手を出さないようお願いします……」
 声が震えた。羞恥と屈辱で頬が紅潮する。これならまだ死の方が容易い。
「俺とは思えないほど恥じらいに満ちた可愛い顔だな。ちょっと愛想笑いをしただけで、男が声をかけてくるわけだぜ」
 寝間着姿の少女が懇願する姿に、アウトは感銘を受けた様子だった。
「いいぜ。俺の興味は強敵を倒すことと、ルイザのことしかないからな。あとはお前の好きにすればいい」
 もっとごねるかと思っていたが、あっさりとアウトは私の要求を飲んだ。
「そんじゃ返り血を流してくるか。オーガの血ってくせぇな。これじゃ気分が台無しだ」
 アウトが浴室に向かうと、メイドが入ってきた。生首の掃除を行ってから、部屋から立ち去っていく。
 私はアウトがいない間にネグリジェの裾をめくると腹を出した。ご丁寧に白いショーツとブラまで着せられていて、思わず赤面する。いかんせん私は魔族としては年若く、その、経験がないのだ。こほんと咳払いして気を取り直すと、指の先に魔力を込める。本来の肉体には劣るが、魔力の質は悪くはない。
「確かこうであったな……」
 指をペンに見立てて、腹に魔法文字を描いていく。儀式魔術だ。これであとは魔族の精を受ければ、この体は魔に生まれ変わる。
「さぁて、やろうぜぇ」
 輝く銀の髪に水を滴らせて、素っ裸のままでアウトは部屋に戻ってきた。引き締まった肉体は、彫刻のような美しさがある。アウトの不敵な表情と相まって、力強さを感じさせた。
 中身が違うだけで、こうも印象が変わるものなのか。自分の領土に閉じこもり、保守的な考えだった私とは大違いだ。覇気のある姿は、好感が持てるともいえる。もっとも、欲望に忠実すぎるのも困るわけだが。部族にとっては敵を屠る頼もしい王かもしれないが、これから征服される身としては落ち着けない。
「ば、馬鹿者、少しは隠すということをしないか!」
「照れちゃってルイザは可愛いな。さぁさぁ、俺はもう我慢しきれないぜ」
 太い血管を脈打たせて硬質化した肉棒は、びくびくと小刻みに震えていた。燃えるような熱気を放って、先端からは先走り汁をこぼしている。私にとっては見慣れたもののはずだが、不気味に感じられた。
「き、貴様は元の肉体が汚されても構わないのか?」
「気にしてないぜ。むしろぐちゃぐちゃにしたくなるな。どんな顔を見せてくれるか楽しみだ」
 獣のように犬歯を剥き出して物騒なことを言うアウトに、私は気圧されそうになった。目の前の男からは荒々しい気が放たれている。
「ほら、やれよ」
 アウトは腰を突き出して、暴れん棒をベッドに座っている私の顔に突きつけた。熱気と雄の臭いが伝わってくる。私は顔をしかめながらも舌を出したが、顎が震えて亀頭を舐められない。悔しさと情けなさで涙が滲む。
「ほらほら、俺は待ちきれないぞ」
 獣のような欲望のはけ口を求めて、アウトがさらに腰を突き出す。
「ぐぅ、うぐぅぅっ……」
 ねっとりとした粘液とにがしょっぱい味が舌に広がり、私は眉をひそめた。濡れた粘膜が触れ合い、舌が発火したように熱くなる。私は屈辱に耐えながら、舌でちろちろと亀頭を舐めた。まさか自分のモノを舐める日が来ようとは夢にも思わない。
「んーっ、物足りんなぁ」
 アウトはぐいぐいと肉棒を押しつけてきた。唇を押し分けて、熱い塊が口一杯に広がる。生臭いような味と臭いが口腔と鼻孔に充満した。ごほごほっと私は苦しそうに咽せたが、吐き出すことは許されない。口の端から涎と先走り汁をこぼしながらも、私はぬるっとした液体を飲みこんだ。
(ううぅ、なんだこれは……体が疼いてきた?)
 ぞくりと背筋が震えて、呼吸が熱くなってきた。嫌でたまらないはずなのだが、舌が亀頭を舐めてしまっている。そこで私ははっと気づいた。我が一族の体液には誘淫効果がある。同族相手には大して効果はないが、人間相手には充分な効力を発揮するだろう。なにしろ夜魔族の女は、人から淫魔とも呼ばれているのだ。
「れろぉ、はむぅ……むちゅぅぅっ、じゅるっ……ん、んんっ……」
 心でいくら嫌がっても、男汁を吸ってしまった舌と喉は言うことを聞かない。胃で味わうまでは腐ったように感じた空気が、今では好ましいように思われた。鼻までやられてしまったようだ。
「おっ、なかなか良くなってきたぞ。どんな風の吹き回しだ」
「はぐぅ……うっ、体液に誘淫効果などなければ……ちゅうぅ、じゅるるるぅ」
「ふぅん、そいつは面白いな」
 苦かった汁は芳しく美味しく感じられた。もっと甘い汁を求めて、口と舌は陰茎を咥えて舐め回す。男の体液を飲みこむほどに体が火照ってきた。頭だけは冷静でいなくてはならないと思うのだが、
「こうしたらどうなる?」
「ひぃぃんっ、ひゃっ、頭が、ああっ、髪の毛、痺れるぅっ!」
 アウトは口に溜めこんだ唾液をぼたぼたと頭の頭に降らせてきた。ねっとりとした唾液が髪をべとべとにし、頭皮にじわりと染みこんでくる。それだけでは飽きたらず、アウトは頭を洗うようにくしゃくしゃと髪を掻き混ぜた。
「俺ってこんな声で泣くんだな。瑞々しい声で聞き惚れるぜ。俺じゃ出せそうもないぞ。ルイザは女向きの性格をしているんじゃね」
「ああぁぁっ、髪が、頭が、熱いっ! はぐぅぁっ、くっ、やめろ、やめてください……!」
 髪を撫でられるだけで、火で炙られたように感じてしまう。狂おしい熱が脳髄を溶かしていく。気がおかしくなりそうだ。私は目を潤ませて懇願したが、アウトは薄く笑っただけだった。私の痴態を面白そうに眺めている。
 辛うじて正気を保ってはいるが、脳は桃色に染められていた。理性の声は弱くなり、私はせっせと肉棒をしゃぶり尽くす。とぷとぷと先端から流れる我慢汁が多くなり、私は舌で芳しい液体を堪能していた。魔汁を吸いこんだ舌は、長く伸縮するようになっていく。鎖骨にまで伸びそうな舌を生かして、陰茎に赤い蛇を這わせ、絡めて、巻きつける。
「……これが男の快感か。いいぜ、たまらんな……」
 もっと温かい口の中を貪ろうと、アウトが私の頭を掴んで腰を出した。喉の奥を突かれ涙目になりながらも、私は口腔を満たす灼熱に唾液を塗し吸い取っていく。息苦しさに耐えながら奉仕していると、陰茎がぶるるっと震えて肥大化した。
「うっくぅ、くっ!? はあっ!」
 傲然不遜としているアウトにしては戸惑った声を出した。困惑と陶酔に真紅の瞳が揺れている。あどけない顔もできるのだなと私が思っていると、矛先からどろっとした白濁が放たれた。
「ふはぁ、ああっ、はあっ、くあっ!」
 悩ましく切ない女のような吐息を吐きながら、アウトはがくがくと腰を震えさせている。津波のように白い波が口内に押し寄せてきた。蒸すような雄の臭いに魅了されながら、私は細い喉を上下させて男の欲望を飲み干していく。喉を粘ついた液体が通っていった。ここのところ自慰行為をしてなかったせいか、精液は大量に溜められていたらしい。若い精の奔流はなかなか止まらなかった。
「ごくぅ、うぐぅ、ごくんっ、ごくっ……ぐむぅ、ごっ、ごく、ごくんっ」
 喉につかえながらも私は嚥下を繰り返した。唇も舌も喉も胃も熱い。精液に侵された場所が疼いている。飲みきれなかった白い粘液が口からこぼれた。信じられないほどの量だった。それほど気持ちよかったのかと見上げると、潤んだ瞳を震わせて頬を紅に染めたアウトの姿がある。
「ふうぅっ、お前可愛いなぁ。俺はますます惚れちまうぞ。これだけじゃ満足しきれねぇ」
「……言っておくが、貴様の顔だからな……」
 可愛いと言われても私は反応に困る。対等に話す存在などいなかったのだから、新鮮とはいえるが。
 精液を飲み干してしまうと、耳に異変を感じた。肉が痙攣して引き延ばされている。耳に触れてみると耳の上端が尖っていた。魔としての変化が進行したらしい。目に見える体の変化がわかっても、アウトは意に介していなかった。本当に元の体がどうなろうと関心がないようだ。
「さぁーて、第二弾といくか。脱ぐか、脱がされるか、好きな方を選びな」
 一度精を吐き出しても、アウトの股間は萎えることなく元気にそびえ立っている。赤黒く屹立し、硬いままだった。欲望の底が知れない。
「……私自らが脱ぐ。手を出すな」
「はいはい、俺は待っているから好きにしろ」
 熱く湿った息を吐きながら、ピンクのネグリジェを脱ぐ。夜魔の精を飲みこんだ体は、さらなる興奮と快楽を望んでいた。胸の先と股間と尻の内側という、今まで感じたことがなかった部分が疼いている。気を抜いてしまうと、自らの手で慰めたくなった。
「すげぇ濡れてるぜ。びしょびしょじゃねえか。淫乱の才能があるんじゃね」
「う、うるさい。全ては貴様のせいだ!」
 股間を覆う白い布地は、内側から滲み出た蜜で濡れそぼっていた。アウトにからかわれて私は恥ずかしさに悶えながら、ブラジャーを外そうと試みる。背中に手を回してもたもたとホックを外そうとする私を、アウトはおかしそうに見ていた。
「ルイザはこれから大変だなぁ。毎日ブラの付け替えなんて」
「……くっ、うぐぐっ、慣れればいいのだろう……」
 一発出して少しはすっきりしているのか、アウトの表情には余裕が見られる。血に猛り狂っていなければ、愛嬌らしきものがあった。
 私の顔だというのに、さっきから見たことのない表情を次々とされている。目まぐるしく変わる目つき、顔つきに感心した。素直に感情を表に出せるのは羨ましくもなる。王としての責務が、私から表情を奪っていたから。
 苦労してブラとショーツを脱ぐと、太ももに巻かれた包帯だけの姿になる。太ももの痛みは薄れていた。魔に近づいたことで、傷が癒えはじめたらしい。
「おっぱいもお尻も乏しいぞ。もう少し何とかしろ」
「元は貴様の肉体だろうが! それは貴様が責任を持て!」
 豊満な肢体をしている夜魔族の女の基準から考えると、アウトの肉体は女としては実り豊かではないといえた。戦士として鍛えられているが、女としての成長はまだまだだ。
「よしよし、責任を持って鍛えちゃおうかな」
 左右の指を不気味に蠢かせて、アウトが唇の端を舐めた。不吉な感じのする口調だ。
「怯えを隠そうとする顔も美味そうだな。健気だねぇ」
「どこまで私を侮辱すれば……ぬわぁ!」
 視界が半回転した。石造りの天井が見える。アウトが私をベッドに押し倒したのだ。覆い被さってきたアウトの顔を思わず殴りつけたが、当たる寸前で力が抜けた。自分の顔を殴るのは気が引けてしまう。
「ひゅうぅぅっ、極上の手触りだな。俺も実はあんま触ってことないんだぜ」
「……胸が、乳首が、ぐうぅぅっ、変な熱が……つあぁっ、あっ、あつい……」
 憤怒と憎悪が体を縛る快感に打ち勝っている間は、空元気でも身動きは取れていた。だが、アウトが乳房を弄り始めると、抑えていた熱が再燃する。燻っていた甘い炎は、全身を悩ましく焦がす。肌理細かい白い肌から、珠のような汗が浮かんだ。
 破壊魔とは思えない繊細な手さばきで、アウトは乳房に置いた指を踊らせていた。信じられないが元は女性ということで、愛撫は優しくしているのかもしれない。いっそ強く乱暴に扱われた方が、刃向かう余地があるというものなのに。優しく扱われては、快楽に囚われてしまいそうだ。
「乳首が濃い桃色に染まって、つんと勃ってきたぜ。薄い胸でも感じちゃってる?」
「……こ、この程度……はあっ、はつぅ……な、何でもない……」
「そんじゃ舐めちゃおうかな」
「ひぐうぅぅっ、あづっ、はあぁぁっ……やあっ、胸、燃える……ひいぃ、ああっ!」
 左右の桃色の乳首を一舐めされただけで、先端に業火を灯されたようだ。身をよじって胸を襲う炎から逃れようとするが、乳房は甘く蒸されてしまっている。感度が引き上げられた双丘は撫でられただけで、感じてしまった。
 桃色の霞が脳を満たし始めて、意識が朧げになっていく。頭の片隅で抵抗しようとする声はあるのだが、蕩けてしまった体は動こうとしない。私の表情の変化を読み取ったアウトは、乳房を捏ね回すように揉んでいた。掌に包み隠されてしまう大きさだが、抜群の感度を誇っている。
「ああぁぁん、いいぃっ……おっぱい、いい、気持ちいい……もっと、もっとぉ」
 私は太ももを擦り合わせ、自ら快感を求めていた。潤んだ喘ぎ声が部屋に木霊する。鼓膜を打ちつける甘い女の声に、ますます情欲は燃え盛った。女勇者を屈服させて喘ぎ声を出させている、そんな錯覚をおこさせるのだ。
 女の悶え泣く声を聞いて、アウトは目をぎらつかせた。もっと官能的な声を引き出そうと、円を描くようにして乳房を揉みほぐす。少女の啜り泣く声が大きくなり、少年の欲望を加速させる。
「もうここはびしゃびしゃの洪水だな。シーツに水たまりができそうだぜ」
「……そんな、見ないで、くれ……あぁん、恥ずかしい、くふぅ、んんっ!」
 股間を仰ぎ見たアウトがからかうような口調で言った。恥ずかしさで悶絶しそうだったが、私は期待のこもった潤んだ視線を男に向けてしまう。股間が疼いて仕方がない。
 黄金色の薄い茂みは、熱い蜜でべっとりと濡れていた。まだ男を受け入れたことのない秘所は、興奮しているとはいっても蕾のままだ。僅かに垣間見える割れ目の中は、綺麗な薄い桜色をしている。処女の色だ。
「はぁん、くっ……そこ、くぅん……ひっ、ひぃ、たまらない……」
 女の悩ましい悲鳴が高まる。乳房を執拗に揉みほぐしていた手が下がって、秘裂をくすぐり始めた。くちゅくちゅという泡混じりの淫靡な水音が鳴り響き、甘い疼きと淫らな音に私は頬を熱くする。
「ああぁぁぁぁっ! な、なに!? ひゃあぁぁぁぁっ、す、すごいっ、凄くいいっ!」
 雷のように体を貫く激しい衝撃に私は背を仰け反らせ、切れ切れの切ない悲鳴を上げた。びしゃびしゃと蜜が噴き出し、アウトの手を水浸しにしている。
 頭が真っ白くなって、何も考えられなくなった。軽く絶頂に達したのだろうか。男では到底味わうことのできない、甘く、切なく、狂おしい快感。アウトは秘裂の上端に位置する豆をこりこりと指で揉み潰したのだ。亀頭よりもはるかに神経の集中している小さな突起を弄られては、女としての快感に不慣れな私はたまったものではない。
「はふぅ、ふうぅ……はあぁ、ああっ……」
 アウトが秘所への愛撫をやめても、絶頂の余韻が細波のように押し寄せてくる。私は体を小刻みに揺らして、静まらない快感を味わっていた。
「そろそろ……いくぜ……」
 血に飢えた猛獣のような荒い息を吐いて、アウトが体を重ねようと迫ってきた。恐怖と期待で背筋に震えが走る。私は不安と願望で揺れる瞳で、男の股間を見た。沸騰する血液を一点に集中させた肉棒は、猛々しさを増して太く反り返っている。喉がごくりと鳴る。頭の冷静な部分は危険を訴えるのだが、愛撫で弛緩した体はそれに応じない。
「あっ……」
 亀頭の先が秘所に触れただけで、太陽のような熱が伝わってきた。指でまさぐられた秘裂は、開花寸前にまでなっている。女の甘酸っぱい芳香を漂わせていた。半ば口を開いた割れ目に切っ先がねじ込まれていく。肉が裂ける音を聞いたような気がした。
「くうぅぅっ、ぐぐぅぅっ!」
 股座から脳天を切断するような激痛に、快感に溶けていた意識が覚醒する。先ほどまでの痴態が頭をよぎって絶望したくなったが、思考する時間を与える間もなく痛みが襲ってくる。刺すような、焦がすような、抉るような、経験したことのない苦痛。私は唇を引き結んで声を出すまいとしたが、咽せるような呻きが漏れた。頬に涙の粒が流れる。
「これで俺は童貞卒業、お前は処女貫通ってわけだ」
 苦しそうに呻く私とは対照的に、アウトの顔は恍惚に染まっている。重低音を撒き散らす鈍痛に、下腹部はじんじんと痺れていた。放射熱を発する太く長い物体が、根本まで完全に埋まっている。純血を奪った証が、接合部から流れていた。
「自然の摂理というやつだ。意外に何とかなるもんだぜ」
 男になったばかりだというのに、アウトは滑らかな動きで腰を使い始めた。膣内をずりずりと血膨れした亀頭が粘膜を擦っていく。痛みは少ないが、内臓を掻き混ぜられるような違和感がある。どうやら膣内に染みこんだ雄汁が、痛みを緩和しているらしい。
「ぐいぐい締めつけてくるぜ。温かく湿っていてたまらんな」
 容赦なくアウトは腰をぶつけてきた。弾けるような肉の音と濁ったような水の音が連なって響き渡る。雄と雌が合わせる淫らな音。男が吐く息が南風となって、二つの山を揺らした。
「あぁぁぁん、ああっ、感じる! くぅ、はぁぁぁん、流されては……ああっ!」
 痛みが通り過ぎると、暴力的なまでの快感が体の中心に集まり、全身へと痺れを広げていく。男にこつこつと子宮壁を叩かれるたびに、私は体も心も雌に染められていく気がした。膣壁を熱く尖った肉棒で擦られると、快楽にむせび泣く女の声が放たれる。
「ルイザ、いい顔してるぜ。俺とお前の体の相性は良さそうだ」
 嬉しそうな男の声。アウトは男の快楽にのめり込んでいた。私もこの体の虜になりそうで危険を感じるのだが、男の一突きごとに心がばらばらになっていく。いつしか自ら腰を振って男を迎え入れていた。
「くぅ……そろそろ……」
 アウトの声に切羽詰まったような響きが伴う。逞しい男根が膨れ上がり、その時が間近であることを告げた。膣がざわざわと蠢いて、男を限界まで追い詰める。
「ぐうぅぅっ、で、出る……」
「すごっ……あつ、燃える……ああぁぁっ、はぁっ……これ、これが女……こんなの、味わったら、おかしく……はあぁぁん、壊れる、やぁぁっ!」
 恐怖とそれをはるかに上回る大きな快感の波。溶岩のようなどろどろとした白濁は、子宮を叩きつけ膣をべちょべちょにしていく。悩ましく、狂おしい熱の奔流に、神経が焼き切れそうだ。股座から一気に背筋を電撃が駆け抜け、脳を直撃する。女の快感が脳に深く刻まれていた。
「あぁん、む、胸が……熱い、ぐぅ、爆発しそ、うだ……!」
 乳首がぷるぷると震え、胸肉の表面が波打っていた。胸の内側から噴火間際のような膨張する熱を感じる。
「ああああぁぁぁぁっ!」
 熱が弾けたと思った瞬間、乳房が揺れながら実りを豊かにしていく。甘く疼きながら急速に熟してった。悩ましい熱が収まると、夜魔族の女ほどではないにしても、美しく実った二つの果実が胸の上で揺れていた。腹に描いた魔法文字が青白い輝きを放っている。
「最高だ、最高だぜ、まさか成長もするとはなぁ」
「はぁあぁん、胸、おっぱい……ひゃぁっ、舐め……くぅぅん!」
 膣に硬さを維持した陰茎を入れたまま、アウトは双丘に手を伸ばした。揉み応えを増した膨らみを縦横無尽に揉んでいる。甘美な波動が乳首を中心に浸透して、私は艶かしい吐息を吐き出した。女の体は尽きることのない快楽で包まれている。肌も、肉も、血も、感じやすくできているようだ。
「また燃えてきたぜ、いいぜ、止まらねぇ! こっちに尻を向けろ!」
 ひとしきり柔肉の感触を楽しむと、アウトは勢いを回復した燃える矛先を引き抜いた。膣襞が名残惜しそうにひくひくと痙攣する。栓を失ってどぽっと精液と愛液が、秘裂から垂れ流れてシーツを汚した。
 私は子宮を包む熱の余韻に浸りながら、のろのろと俯きになった。頭が桃色に支配され、気持ちのいいことしか考えられない。アウトの命令に従ってしまっていた。雌犬のように四つん這いになるとお尻を突き上げる。夜魔族に近づいて肉の厚みを増した尻がぷるると揺れる。
「これでお前は俺の男……いや、女か。どっちでもいいか」
 細かなことを気にしない、大まかな性格のアウトらしい言い草だ。桃のように割れる尻に灼熱が突きつけられる。直腸の粘膜は男の予感に、煮え立っていた。私は男を誘うように、腰と尻をくねらせる。アウトの涎がぽたっと背中に落ちた。
「くはぁぁぁ、締まる、こいつはきついぜ……」
「ううぅぅん、重い……びりびりが、痺れる……はぁっ、あああっ!」
 本来は異物を受け入れない場所が、めりめりと押し広げられていく。秘所より狭い肉孔に、アウトは苦しげな声を漏らした。灼熱に炙られた尻が真っ赤に熟して、汗が流れ落ちていく。
「おおぅ、ぐ、ぐぅ、あまり、もちそうもねぇ……」
 全てを搾り取ろうとする粘膜の締まりに、アウトが断末魔のような獣の叫びを放つ。牢獄に囚われた獣が暴れるが如く、涎を垂らしながら勃起した肉棒が牙を剥いた。ごりごりと粘膜を削るように動く陰茎に、私の腰が痺れて砕けそうになる。
「くぅぅっ、こ、これで終わりだぁぁっ!」
「あっ、ああっ、ひゃっ……ひゃあぁぁっ、あぁっ!」
 もはや私の中には精を受け入れて魔に転生するという当初の目的は忘れ去られていた。熱の高まりを感じて、直腸が期待に震える。体内にある全ての精を吐き出そうと、アウトは力の限り腰を突き立てた。三回目にしては多い白い怒濤が、粘膜を塗り潰していく。最後の一滴まで搾り取ろうと、尻穴がひくひくと蠢いていた。
「ぜぇぜぇ、はぁ、オーガやトロルどもを相手にしたより疲れたぜ……」
 満足げな表情でアウトは後方に尻餅をついた。私も全身を蕩かす甘い感覚に浸りながら、ベッドに体を預けた。下半身が甘美に痺れて、力が入らない。
 そのままぐったりとしていたかったが、背中の筋肉と神経が疼いて私を寝かせなかった。
「あがぁぁっ、ううぅぅっ……っはぁっ、はっ!」
 背中の肉が盛り上がり始める。肩甲骨と尾てい骨が飛び出すように隆起して、肉を突き破って新しい器官が飛び出した。夜魔族の女にしかない翼と尻尾だ。コウモリのような薄い皮膜を持った黒い翼と、先端がハートのように尖った尻尾が生えていた。羽は小さく、尻尾は短い。夜魔の子供のような大きさだ。これは魔として生まれ変わったばかりなので、仕方ないとも言えた。
「これでお前は再び夜魔族ってわけだ」
 多少は元の肉体の変貌に思うところがあるのか、アウトの声は淡々としていた。
「……そうだ、な」
 勇者として鍛えられていた筋肉の一部が脂肪に変換され、身体能力は低下している。ただ魔力は底上げされて、体の内側から高まった力を感じた。これなら元の肉体に引けを取らない。
 疲れ果てたアウトがベッドに倒れてくる。私の隣に寝転がると、腰に手を回してきた。そのまま引き寄せると、顔を近づけてくる。悪戯っぽく笑っている顔が印象的だった。
「んむぅ……」
 私は避けなかった。唇を重ねるだけのシンプルなキス。ただそれも悪くはない。怒りと恨みはあるが、それに匹敵する関心と興味が湧いていた。魔王としての代わり映えのない毎日に飽き飽きしていたのかもしれない。
「貴様が隙を見せたら、遠慮なく体を取り戻させてもらう。油断しないことだな。それまでは貴様の好きにしていろ」
「そうじゃなきゃ面白くないぜ。そんじゃさっそく好きにさせてもらうかな」
 再びキス。今度はお互いの感触を貪る激しい接吻だった。舌を絡ませ唾液を啜りあう。
 私の胸の内に様々な激しい感情が渦巻いていた。激怒と憎悪、好奇と興味、そして今まで感じたことのない熱い感情。その正体はまだわからないが、退屈よりはいい。アウトといれば、退屈とは無縁でいられそうだ。
 私たちは飽きることなく唇を交え、お互いの体を抱き締めあった。



 年月を経て、魔族の土地に一大国家が誕生するがそれはまた別のお話――。





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