幼馴染の一日交換(中編)
作:Tira


「ちょっと!これ、どういう事よ」
「どういう事って?」
「どうしてこんなに散らかってるの?それにその癖のついた髪っ!ちゃんと手入れしてないじゃないのっ」
昨日まで艶のあった長い髪の変わり果てた様子に勇次は男らしく、それでいて女口調で言葉を吐いた。
「そんなに怒らなくてもいいだろ。今は俺の体なんだから」
「だから私らしくして欲しいのっ!」
「だったらお前も女言葉なんか使わずに俺らしく話してくれよ」
「そうしてるわよっ。勇次の前だから自分の言葉で話しているだけじゃない」
「まあまあ、そう怒らなくても」
「あ〜あ。私の大事な髪が……それに……」
絨毯の上に散らかってる丸められたティッシュペーパーに、勇次は顔を赤らめた。
「ね、ねえ勇二。こ、これって……」
「香澄の体、すげぇ気持ちいいよ。女の体ってこんなに違うんだな」
「し、信じられないっ!」
怒りと恥ずかしさで、タコのように耳まで真っ赤に染まった勇次は、急いでティッシュペーパーをゴミ箱に押し込んだ。
中には空になったお菓子の袋が幾つも入っている。
食べたい物も我慢して、三キロ痩せようと頑張っていたのに。
「お母さんが変に思うじゃないのっ!」
「もう思われてるよ。さっきも聞いただろ」
「はぁ〜。私は勇次のお父さんとお母さんにばれないよう、必死に頑張ったんだからっ」
「俺は別にばれても構わないって。どっちみち、体が入れ替わってるのは二十四時間だけなんだから。後、数時間もすれば強制的に元に戻るし」
「それでも嫌なのっ!私は一秒でも早く自分の体に戻りたいのにっ」
「仕方ないって。俺にだってどうしようもないんだからさ」
「もう〜っ。あんな薬、飲まなきゃ良かった」
「今更言ってもしょうがないだろ。折角他人の体になったんだからもっと前向きに楽しもうぜ」
「楽しめないっ!」
勇二は眉間に皺を作りながら、ずっと険しい口調で話していた。
もちろん、勇二の体には香澄の精神が、そして香澄の体には勇二の精神が入っている。
知人からもらった薬を面白半分に飲んだ二人の体は、二十四時間という限られた時間を以って入れ替わってしまったのだ。
勇二らしく振舞わなければ怪しまれると内心ビクビクしている香澄に対し、勇二は香澄の体を楽しんでいるようだった。
初めて体験する異性の体に、大層ご満悦の様子。
「何なら俺が楽しませてやろうか?男の体も捨てたもんじゃないからさ」
「嫌っ。絶対そんな事しない」
「あっそ。俺は香澄の体、もっと楽しませてもらうから」
「なっ……」
絶句した勇二の表情を見て薄笑いした香澄は、扉を軽く叩く音に耳を傾けた。
「香澄、入るわよ」
「は〜い、お母さん」
「…………」
あっけらかんと香澄の声で返事をした勇二。
母親に話を遮られたため、香澄は勇二の姿のまま仕方なく机上のセーラー服をハンガーに掛け始めた。


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