体験入学生
〜第1話〜

:Tarota


高校は3年で終わりなのである。まいった事に。
という訳で進路を考えなきゃいけないんだけど
就職?いや、まだ働きたくないね。
専門学校?いや、まだ自分がやりたい事も見当たらないしね。
という事で、進路希望の紙には、おこがましくも「大学へ進学」って事で提出しておいたのだが

「で、白木君志望校が書いてないんだけど
俺はその日の放課後、進路指導室に呼び出されていた。
向かいには、進路指導の神咲先生の端正な顔立ちが見える。
まだ若い女の先生で、スタイル抜群。男子生徒から圧倒的に指示があり、用も無いのに進路指導室にたむろする輩も多い。今日も、個別相談に呼ばれたと言っただけで、友人からは羨ましがられたものだ。
俺は、ボーっと神咲先生の艶かな薄いピンクの唇が動く様をボーっと眺めながら、適当に答えた。
「いやそれがそのとりあえず、進学ってだけで、特に希望は
「!?あなたは、もう高校3年なのよ。目標を明確にしないと困るでしょう」
「はぁ
とは言われても、ピンとこないし、何より今関心があるのは、ぐっと身を乗り出してきた、先生の豊かな膨らみの中身についてだった。
「本当に狙いたい学校とか無いわけ?」
「ええ
色っぽいため息をついてから、真剣に大学ガイドと向かい合う先生の表情も素敵であった。
しかし、いつまでも、そうして眺めているというのも、間が悪いもので
何気なくパラパラと、積んであったパンフレットをめくっていると、その大学の案内が目に付いた。
「TS大学」
アルファベットを使った名前の大学?
まずその名前に目が行き、続いてそのキャッチコピーに目がいった。
異性の神秘を探る、徹底したカリキュラム
異性を学ぶ大学!?おいおい、そりゃなんだ??
深く考えずに俺は、本と向かい合っている先生に声をかけていた。
「え?何大学ですって?」
「TS大学ですよ、先生」
「そんな大学聞いた事もないわよ」
「え?でも、パンフレットがほら
「あら?本当に
 でも、こんなパンフ、初めて見たわよ」
「え?」
先生は、本当に不思議そうに形の良い眉を歪めながら、そのパンフレットをしげしげと見ている。
この部屋の主である先生が知らないパンフが有るというのも気になる。
「先生、僕ちょっと、その学校に興味ありますから、パンフ下さい」
「え?いいけど
白く細い先生の手が、一瞬躊躇した動きを見せた後、俺の手の中にパンフレットを押し入れた。その際に軽く触れたが、とても柔らかく心地良い感触がした。
「へー。体験入学なんてもあるんだな行ってみようかな」
女の人の手に触れたというドキドキを誤魔化すために、何気なく口に出したその一言に、神咲先生は突然反応した。
「白木君。その大学に行って見るの?」
「えええ試しに見るだけでもと」
「先生も一緒に行くわ」
「え!?」
ドキンと胸が高鳴る。
「ここからそう離れた場所にある訳じゃないのに、まったく聞いた事もないから気になるのよね。
 進路指導として、そんな得体の知れない学校に生徒を進学させるかも知れないなんて事出来ないし。
 だから、調査に行きたいのよ」
「え?あ?はいじゃあ、行きましょうか
思わず席を立っていた。
「くす。今日これからっていう訳じゃないわ。
 問い合わせて見ないと」
そう言うと先生は、再びパンフを取り、電話に向かう。
「もしもし。わたくし、○○高校で進路指導をしている神咲と申しますが
数回のやりとりの後、受話器を置く。
「明後日の11時頃来て欲しいそうよ。
 ここからそう離れた場所じゃないから、1時間目が終わったら抜けて行きましょう。
 担任の先生には、学校見学があるからって、私の方からも伝えておくから」
「はい。じゃあ、宜しくお願いします」
当然ながら、学校の事よりも、先生と一緒に行けると言う事が気になっていた。


そして、当日。
俺はドキドキしながら、先生の横を付き従っていた。
普段も綺麗だけど、今日はまた格別だった。
黄色い女性用のスーツをびしっと着込み、キャリアウーマンを思わせるようだった。
上着の下には清楚な白いブラウス。タイトなスカートから伸びている黒いストッキングが脚線美をより妖しいものに変えている。
いつもは、艶やかな長い黒髪を振り乱しているが、今日は後ろで一本にまとめていた。
化粧もいつもより気合が入っているように見える。
電車に乗っている間、男達の視線が先生に釘着けになっていたが、当然だろう。

「TS大学」と確かに書かれた門を通ると、中は広々としたキャンパスであった。が、何故かすれ違うのは女性ばかりだ。
この学校、まさか女子校なのか?いや、パンフにはそんな事書いてなかった筈だが。
受付で用件を述べると、この大学の理事長が直々に応対に出てくれるという。やはり、進路指導の先生が一緒だから待遇が違うのだろうか?

「ようこそTS大学へ。私がこの学校の理事長をしております、徳則です」
応接室で出迎えたのは、背の低い男だった。
「初めまして、○○高校の神咲です。進路指導をしております」
先生と理事長がそこで名刺の交換をする。
「はいはい伺っておりますよ。何でも我が校の見学に来られたとかで」
「ええ、家の白木君が、見学したいと申しますので
俺の名前が出たところで、軽く会釈をしておく。それにしても、神咲先生から紹介を受けるなんてムズ痒い気分だ。
「何分、わたくしが不勉強なものですから、こちらの学校について何も知らないものですから
「なるほど、それで一緒に見学に参られたのですな」
「ええ
「ま、我が校はまだまだマイナーな存在ですから、仕方ありませんよ。
 なんなりと、質問があればお受けしますが」
「では、TS大学で教えているという『TS』ってどんなモノなのですか?」
「はぁご存知でらっしゃらないのですかそうですねちょっと待ってて下さいよ」
突然、理事長の体が震えると、そのまま前向きに倒れこんだ。
いきなりの事に驚きながら、恐る恐る理事長の体を揺さぶるが、まったく反応が見られない。
「せ、先生動かないですよ
「脈はあるみたいだけど、意識はまるでないわ!」
俺と先生が理事長の体を前におろおろしていると、いきなり扉が開き。
「お待たせ!
 これが、TSです!!」
と、私服姿の女の子がそう言った。
「は?」
俺と先生が、なんだこの娘は?という顔を向ける。
「だから、これがTSなんですよ。解ります?」
ふるふると同時に首を振る。
「それより理事長さんが倒れちゃって大変なのよ。
 あなた、ここの生徒でしょ、誰か呼んできて」
先生の問いに対しその子が答えたのは、信じ難い言葉だった。
「ああ、心配ご無用。俺が理事長ですから
 この娘の体に憑依させて貰ってるんですよ。
 ほらほら
大きな胸を誇示するように突き出し、それを自分の手で掴むと、無意味に揺らして見せた。
「は?」
あまりに突然の言動・動作に戸惑ってしまう。
「ほらほら、こんなに揉んでみても、駄目ですか?」
女の子は、綺麗な顔をいやらしく歪めながら、さらに自分の胸を揉みはじめる。
「言っときますけど、これ本物のおっぱいですからね。
 中にアンマンなんかが入ってて女装してるってオチじゃないですからね」
そんな事言われなくったって、その胸が本物だって事は解る。
しかし、それにしても、最近の女子大生の風紀はなんて乱れているんだ。
お陰で、俺の息子はビンビンにつっぱっていた。今夜のメニューは決定だね。ごちそうさまです。
「うーん。やっぱり実感が沸きませんか。
 こういう、まったくの素人ってなにぶん例が無いものでして
 まぁ、私について来てください」
突っ伏したままの理事長の体を心配しながらも、仕方なく、その娘に従って応接室を後にした。


女の子は、廊下をどんどんと進んで行き、やけに幅広く長い階段を登っていく。
何処に連れていかれるのか不安になり、先生と顔を見合わせながらも着いていくしかない。
やっとこ、階段の終わりが見えた頃。
「ここらでいいでしょう!」
いきなりそう言うと、先導の女の子が立ち止まり、こっちを振り向く。
にっこりと、満面の笑みを浮かべている。こちらも釣られて笑いそうになると
どん!と並んで立っていた俺と先生の肩を突き飛ばす。その威力の前にこらえる事ができずに、丁度先生と抱き合うような感じで、もつれながら階段を転げ落ちて行く。
神咲先生の綺麗な顔が回転と共に溶けていきやがて目を回して意識がはじけ飛んでいった。

………

気がつくと、固い床の上に倒れていた。
延々と続く階段が、視界に映る。そうだ、あんなに長い階段を転げ落ちてきたんだ。よく生きているもんだ。
上体を起き上がらせると、何か違和感を憶えた。それまで感じた事の無いような、体の一部が揺れ動く感じ、それに後頭部耳と首筋にも何かで覆われているような感じがする。
俺は揺れ動いたような感じのした部分すなわち胸元に目を向けてみた。そして、驚いた。
さっきまでは、学生服に覆われた平らな胸だった筈なのに、白いブラウスと鮮やかな黄色い上着を押し上げる膨らみがそこにあったからだ。
なんなんだこれは!?
突如、出現した豊かな膨らみに、恐る恐る手を近づけて見る。そして、その手を見てまたも驚いた。
こんなに細く、こんなに長く、こんなに白く、こんなに繊細な、しかも爪が薄いピンク色に塗られている手が自分の手の訳がない。
俺は慌てて全身を見回そうとして、床に倒れている人物に気がついた。
その人物は学生服を着ていた。そして、その顔に見覚えがあった。
こうして見たことは無かったが、間違え様もなくわかる、俺の顔だった。
その俺の顔がぴくぴくっと動き、ぱちっと目が開いた。
頭を振り、額を手で押さえ、なよなよと起き上がるその仕草は、体格に似合わず女性的なものであった。
俺は思わず声をかけずには居られなかった。

「お、おいお前誰だ?
 俺なのか?」

口から飛び出したのは、甲高く響く声であった。
その声に反応して俺の姿をしたそいつが振り返り、ぎょっとしたような目と出会う。

「あ、あ、あたしがいるわ!!」

そいつは、女言葉でそういった。
あたし?どこの『あたし』だと言うのだ?

「お、俺は白木と言います。
 俺には目の前に俺がいるようにみえるんですが、あなたは誰ですか?」

「わわたしは、神咲よ私には私が目の前にもう一人いるように見えるわ」

俺達は、確かめ合うように、にじり寄って行った。
目の前の俺は、今の俺と比べて大きく力強く、包み込まれそうな感じだった。
そして、御互いに自分と相手のそれぞれの姿をまじまじと見て、ようやく状況を察した。
だが、この状況に対する答えは二人のどちらかの口からではなく、意外な所から降ってきた。

「おお、見事に入れ替わったようですな。
 まだまだ、TS士としてのわしの腕も衰えてなかったって事ですな。
 ほっほほほ」

慌てて声のした方を見れば、俺達をここまで連れて来た女生徒が、階段の中腹からこちらを見下ろしていた。
丈の短いスカートから、白い布が丸みえだったが、そんな事などお構い無しと言った感じに、大股に階段を下っている。
スカートの他にも大きな胸がゆさゆさと跳ね動いていたが、むしろそれを楽しんでいるように、にやにやと笑いながら、「ぼいーんぼいーんひらひら〜」と訳の解らない歌を口ずさんでいた。
そして、身を寄せ合うようにしていた俺達と同じ段に進出してきた。
彼女は俺達を見下ろし、楽し気な口調で言った。

「どうです?今度こそ解りましたでしょう。これがTSなんです!」

「体を入れ替える事がですか?」

おずおずと、神咲先生が低い声で尋ねた。自分の口から出る声に慣れていないらしく、言い終わる前から喉に手を当てていた。

「入れ替えだろうと、憑依だろうと、変身だろうと、手段はどうだっていいんですよ。
 異性の体になってしまうそして、その状況を楽しむ事、それこそがTSなんです!」

そう言いきった女の子の声は、変わらない声であったのにも関わらず、威厳に満ちたものが感じられた。
今なら確かにはっきりと解る。この娘の中に理事長が宿っているんだと。
そう感心した途端に、キリッっとしたイメージのあった理事長の可愛らしい顔が歪み、

「どうだね、白木君美人の先生になった感想は?」

突然そう言われてドキリとなる。
そうだよ俺の体は今、神咲先生の体なんだよ
おずおずと自分の体を見回してみる。
スカートから伸びている脚は、黒いストッキングに覆われて、意識していないのに『く』の字に曲がって座っている。
大きな胸が存在感を主張し、腕も手も細く白く、しなやかに宙を舞っている。
この視界に入るもの全てが、自分の体なのであり、自分は神咲先生の体を所有しているのである。
俺が体を弄り始め、その感触に酔っているのを、理事長は楽しそうに眺めながら、矛先を変えて質問した。

「神咲先生の方はどうです?若い男の子の教え子の体になった感想は?」

「え?あその

目をぱちくりさせながら、初めて気がついたように、自分の体を手を脚を、ジロジロと眺め始めた。
そして、同じように自分の体を触り出した。

「ほほほお二人とも、今の自分の体に興味深々なようですなぁ
 いいですぞそうでなくてはいけませんぞぉ
 自分の体が異性になってしまったのに、興味を示さないなんていうのは興ざめもいいところですからなぁ
 いや、これは私としたことが萌えツボの価値観を押しつけてしまうような事を
 『私の基準では』と付け加えておきましょうか」

理事長の独り言などお構いなしに、俺達は自分達の今の体を楽しんでいた。
「お二人には、更に『TS的な楽しみ』を知っていただくために、特別実習室に御連れしようと思うんですよ。
 鏡覗いて確認して見たいでしょ今の状況を

俺達の動きがぴたりと止まった。
理事長の申し出はまるで悪魔の契約にも思える。
「鏡の他にも色々ありますよくく

子悪魔的な妖しい笑みを浮かべる理事長の声が、俺の耳にやけにこびりついた。

<続く>


あとがき

またですか?
そうです続きます^^;;
某氏や某氏になんか言われそうですが、まぁそのぉ
それにしても、理事長がいい味出しすぎですなぁ






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