プレコーシ ぼくとお姉さんの入れ替え物語 作・JuJu #14(最終話) 「ねえ」 お風呂場で横になり、ぼくを抱きしめたまま、美穂さんはささやいた。 「脱衣所で定期を落としたとき、わたしのことを好きだから、いつもわたしの写真を持ち歩いていたって、いってくれたよね」 ぼくはばれた秘密を思いだし、恥ずかしさと、定期入れなんかに入れて持ち歩くんじゃなかったという後悔の念に駆られた。 「――ごめんね。 体が入れ替わったのは、わたしのせいなの」 ぼくは驚いて美穂さんを見た。 「あのね、実はね。わたしも修太くんのことが気になっていたんだ」 その言葉に、快感の余韻も醒めてしまった。 そんなぼくをよそに、美穂さんはぼくの胸の中で、ぼんやりと空(くう)を見ていた。 そして、とつとつと話し始めた。 「もちろん、修太くんがまだちっちゃな時は、弟のように感じていた。 でも、成長するにつれて、体格も男らしくなってきて、それにあわせて、わたしもなんだか、修太くんを見ているとときめくようになったの。 でも、修太くんからみたら、わたしなんておばさんでしょ? だから相手にされないと思ってあきらめていたんだ。でも、やっぱりどうしてもあきらめきれなくて。 ねえ、今日行ったあの神社に、恋愛成就の御利益があるって、知ってた? その昔、あの泉の龍神が、若い男女の縁を結んだっていう伝説があるんだって。 だから前からずっと、修太くんといっしょに、大泉神社にお参りに行きたいと思っていたんだ。 でも、なかなかいい出せなくて。 そこで花火大会にさそうふりをすれば、いっしょに神社にお参りにいけるかなって思ったんだ。 だから大学の女友達と花火大会に行く予定だったっていうのも、あれも全部うそ。最初からそんな予定ははいっていなかったの。ほんとうは、花火大会なんてどうでもよかったの。ぜんぶ、修太くんを神社に誘うためだったのよ。 神社で願いごとをしたでしょう? あのときだって、修太くんと結ばれますようにって神様にお祈りしたんだよ。 かなわない恋ならば、せめてまねごとだけでもしたかったの。いつわりでいいから、デートをしたかったの。 だから、これで修太くんへの思いは断つつもりだったの。本当よ。 でも、それは無理だった。たとえまねごとでも、デートをしたら、もう、どうしても修太くんと別れたくないって気持ちがいっぱいになってしまって、ますます修太くんへの気持ちが高ぶってしまったの。 神社のお参りのあと、歩きながら、わたしはそんなことを考えていたんだよ。 そしたら、コーヒー屋さんがあって。この行き場のない思いをどうしたらいいのか、うらなってもらうことにしたの。誰かに相談することで、はけ口を求めていたのかもしれない。 そうしたら、あのコーヒー屋さんの女の子が、ジュースをくれたの。修太くんも飲んだでしょう? 黄色いゼリージュース。 このジュースには不思議な力があるって、コーヒー屋さんの女の子にいわれたの。このゼリージュースを好きな相手と半分ずつ飲めば、互いのことが解り合えるようになるって。そのあとは、あなたしだいだって、そういわれた。 もちろん、わたしだってそんな話、にわかには信じられなかった。けれども、わらにもすがるつもりで信じることにした。それほど、わたしは修太くんのことを恋い焦がれていたの。 お互いのことが解り合えるような状態になるっていうから、媚薬みたいなものだろうとおもっていたんだけど。 まさか体が入れ替わってしまうなんて、想像もしなかったわ。でもおしっこをすれば元に戻るって女の子から聞いていたから、それほどあわてはしなかったけど。 そこで体が入れ替わったことを口実に、修太くんをわたしの部屋につれてきて、この後入れ替わった生活に必要な知識だからといつわって、修太くんに好きな人がいるのかとか、どんな女性がタイプなのかとか、いろいろ聞き出すことにしたの。 でも、まさかその途中で痴漢が出るとは予定外だったわ。 しかたがないから、質問はあとまわしにして、先に修太くんの体を洗うことにしたの。 でも、修太くんの裸を見ていたら、男の子の体のせいか興奮してきてしまい、その後は男の子の性欲にまかせてしまった。 これがあらましよ」 空を見つめていた美穂さんの視線が、こんどはぼくに向けられる。 「ねえ。今日、わたしの浴衣姿、嫌らしい気持ちで見ていたでしょう」 ぼくはいいわけすることもできなかった。 男は気がついていないとおもっているらしいが、女からすれば、いやらしい目で見ていることはばれている。そのことを、今日美穂さんの体で、いやというほど教えられた。 とうぜん美穂さんも、ぼくがいやらしい心で浴衣姿を見ていたことを知っているはずだった。 「やっぱりそうなのね。でも、修太くんだったらいくらでも見ていいのに。そんな盗み見みたいなことなんてしなくてもよかったのに。 好きなだけ見てよかったんだよ。だって、今日は修太くんのために浴衣を着たんだから。大切な修太くんとのデートのために、おめかししたんだから。 ねえ、すこしは女っぽく見えた? 修太くんの心を誘惑できた?」 遠くで花火の音が鳴っていた。花火はこれで終了らしく、過ぎゆく夏を惜しむように、たくさんの花火が一斉に鳴り響いていた。 そして、美穂さんは、ぼくの耳元に口を寄せていった。 「好きよ。修太くん」 美穂さんはふたたび、ぼくの胸に顔をうずめた。 「コーヒー屋の女の子の話が本当ならば、そろそろもとにもどる頃ね」 美穂さんのいうとおり、ぼくの目から浴室が消えたと思うと、今度は、女性の胸が目の前にあった。というか、ぼくは美穂さんを両手で抱きしめて、おっぱいに顔をうずめていた。 「うわっ!」 ぼくはあわてて、美穂さんの胸から頭を離した。 美穂さんがぼくの頭をなでた。 「元に戻ったみたいね。 修太くんの体、汗でびっしょりね。 洗ってあげるから、そこに座って。 修太くんのご両親には、花火大会で遅くなるってわたしからいっておくから、ゆっくりしていってね」 その後、美穂さんが体を洗ってくれている間、ずっとぼくは固まって動けなかった。 美穂さんは自分の体もついでに洗うと、ぼくたちはお風呂場から出た。 ふたり並んで、タオルで濡れた体を拭いた。ドライヤーで髪を乾かす。 一通り終わると、美穂さんがいった。 「それじゃ、改めて、恋人同士として確かめ合おうか? 二回目のセックス。今度は、本物の男と女として、きちんとやろうね」 美穂さんはやさしくぼくの手を引いて、彼女の寝室に導いた。 (了) あとがきへ |