プレコーシ ぼくとお姉さんの入れ替え物語 作・JuJu #8 ぼくたちは、美穂さんのマンションに着いた。 「ここがわたしの部屋よ」 自分の部屋に男を招き入れるというのに、美穂さんは女としてあまりにも無防備だった。そんなところからも、美穂さんがぼくのことを子供だと思っていることがうかがえた。 だけど、美穂さんがどう思っていようとも、ぼくには自分が男だという自負があった。年頃で一人暮らしの女性の部屋に、しかも夜に、男が入っていくのはどうかと思い、ぼくは玄関前で躊躇(ちゅうちょ)していた。すると彼女は玄関の奥から笑顔でぼくを誘い入れた。 「どうしたの? 遠慮しないで入ってね」 ぼくの姿をした美穂さんがいう。 まるでぼくが平然と美穂さんの部屋に入り、美穂さんが遠慮がちにしているような、そんな不思議な気分になった。 「お……、おじゃまします……」 * 廊下を抜け、美穂さんが引き戸を開く。 そこは居間だった。 入るとすぐ、美穂さんの香りが充満しているのがわかった。それは街中で向かい合ったときに感じる髪の香りなどとは違い、ここで生活している女性の匂いだった。 (ここが美穂さんの部屋なんだ) 質素だけど上質なタンスがおいてあった。床には、座卓と座椅子がおいてあって、そのとなりには……。 「あっ!」 ぼくの口から、美穂さんの甲高い声が出た。 「ん? 何?」 「あの……あれ……」 ――そこにはブラジャーが無造作に脱ぎ捨てられていた。 「あ! ごめんごめん」 美穂さんは照れながらあわててブラジャーを拾うと、タンスを開けて中に押し込んだ。 そんなことをぼくの体でやられると、ちょっと照れる。 * ぼくは浴衣の裾を気にしながら、座卓にすわった。美穂さんの体であぐらをかくのは申し訳ない気がしたので、ひざをそろえて正座にした。 美穂さんが氷の入ったアイスコーヒーをおいた。 「それで痴漢のことだけど。大丈夫だった?」 正面にすわった美穂さんが、真顔でぼくを見つめる。 痴漢という言葉を聞いて、あのときの恐怖がいっきに膨らんで、心全体を覆い尽くす。せっかく美穂さんの部屋に入れてもらった、浮かれた気分が醒める。 ぼくは静かにうつむいた。 痴漢のことは、思い出すのもいやだった。 遠くで神社の花火の音がしていることに気がついた。 美穂さんは「ここからだと建物の陰に隠れて見えないのよねー」といった。 ぼくはうつむいたまま、花火の音を聞きながら、告白した。男に痴漢をされたとき、ふとももにあるものを掛けられたのだ。熱くてねばねばする液体。それが何かは理解していたが、だからこそその正体については、いままで考えないようにしていた。 「実は、ふともものあたりに、何かを掛けられました……」 ぼくの告白を聞いた美穂さんは、立ち上がるとぼくのわきに来た。腕をつかんで、ぼくに立ち上がるように催促した。 ぼくが立ち上がるのに合わせて美穂さんはひざ立ちになり。ぼくの浴衣の裾(すそ)をまくった。 美穂さんは裾をまくりあげたまま、ぼくの脚を凝視して黙り込んだ。 なんだかたまらなく恥ずかしかった。 やがて、美穂さんは憎々しげにいった。 「あの痴漢……」 それから心配するような顔でぼくを見上げると、ゆっくりと立ち上がった。 「ちょっとまっていてね」 そういって、部屋においてあるティシュペーパーの箱を手に取って戻ってきた。箱から数枚のティシュペーパーを抜き取ると、ぼくの太股をぬぐった。 「落ちきらないか……。それに、ふき取っただけじゃ気持ち悪いし……」 美穂さんは、しばらく腕を組んで思案していた。が、やがて決心したように、ひざ立ちから立ち上がると、引き戸を開けて廊下に出た。 「こっちよ」 廊下からぼくを手招きした。 ぼくは美穂さんにいわれるままに後を追った。 * 「こ、ここは……」 行き着いた場所を見て、ぼくは体を固まらせてしまった。そこは洗濯機と乾燥機がある小さな部屋。その隣には磨りガラスの扉が開いており、その奥にお風呂場が見えた。 つまり、美穂さんに呼ばれた場所は脱衣所だった。 どうやらお風呂場で脚を洗う気らしい。 美穂さんは気がついていないのだろうか。浴衣を精液をつけられた部分までまくるということは、ぼくが美穂さんのふとももや、もしかしたらパンツまで見てしまうということなのだ。 「だって、痴漢に変な物を付けられたんだから、洗い落とさないとならないでしょう?」 「それはそうですが……。 ――わかりました」 ぼくは、ふるえる手でなんとか浴衣の裾をつかんでたくし上げた。パンツが見えないように注意しながら、ふとももをあらわにした。 「そんなんじゃ、浴衣が邪魔できちんと洗い落とせないでしょ。 浴衣を、脱がなきゃ」 美穂さんは、平然といいはなった。 そんなことをしたら、ぼくは美穂さんの下着姿を見ることになる。 「えっ! でも……ぼく……」 「どうしたの。浴衣の脱ぎ方がわからないの? じゃあ、わたしが脱がせてあげる」 「そ、そうじゃなくて……」 「ん? ――ああ、なんだ。そういうことね。 わたしの体だったら見ていいのよ。 っていうか、今はきみの体なんだし」 それを聞いてぼくはつばを飲み込んだ。 #9へ |