続・蒼い衝動 〜ひかる編〜
作 ”つる”
あの事件の後、オレたちは元通りの生活を送っていた。
元通り…とはいっても完全に元通りとはいえない。
あのときの記憶は千穂の中にも、オレの中にも残っているのだから。
しかし、
オレたちはそのことに触れないように…
そして必死に忘れようと努力していた。
「私、変わったかな?
あのとき以来、感覚がちょっとおかしくなっちゃってて」
なのに、今日
千穂はそれに触れてしまった。
いや、オレが触れさせてしまったのかもしれない。
だって、いつも通りの千穂だと思っていたのに
ちょっとした違和感がオレの中に残っていて
それをつい口にしてしまったのだ。
「忘れようとは思うんだけどね…
でも、あいつと感覚を共有してたときの記憶は…
私の中にも残ってるんだよね」
項垂れる千穂。
それを見て
最低だ、オレって…
そう思った。
千穂が少し変わってしまったことは仕方ない。
オレはそう思おうとしている。
仕草とか話し方は以前のままだし
ホントにかわいいと思う。
でも、なんか違うんだ。
千穂は、男を避けるようになった。
そして、女をたまにやらしい目で見るようになっていた。
あの石を身に付ける前は、男女関係なくちょっとおどおどしたかわいい女の子だったのに…
ショックなのは隠せない。
とはいえ、その原因を作ったのは……
いや、原因そのものは、あのネックレスを…石をプレゼントしたオレにある。
だから、オレはそれは罰なんだと思った。
そんなある日のこと…
隣のクラスの福崎がオレをちらちらと見ていることに気が付いた。
福崎って奴は、結構お嬢らしくて、ちょっと傲慢な印象のある奴だ。
オレは一度コクられたのだが、オレに対するそのアタック攻撃と
千穂に対する嫌がらせで参った。
あの軽く裾をパーマしたような後ろ髪と、どうもかわいくない声が鬱陶しくて
オレは何度も断わった挙句
千穂とのラブラブを見せ付けてようやく退いてもらったほどだ。
ちなみにあのときは千穂も困った顔をしていたっけ。
そんなことを思い返しながら、
こっちを気にしているような奴を見ていたのだが、どうもおかしい。
普段のあいつと少し雰囲気が違っているような気がした。
「福崎…
あのさー、前もいったけど、オレ、千穂と付き合ってるんだぜ」
「や、やーだっ、潤一くんったら。
私はそんなの認めてないっていってるでしょ?
それに暫く別れたんじゃないかって話もあったじゃない。
あんなの、無視しちゃえばいいのよ。
どうせ倉田さんが強引に迫っちゃったんでしょう、いやらしいわね」
いかん…
いつもの福崎のペースだ。
最近はすっかりなりを潜めていると思ったのに。
たんにジェラシーを燃やしていただけだったのか…
「だからな。
オレたちはお互いに好きあってるんだってっ。
心配しなくても」
「そんな…倉田さんに気を使わなくたっていいのよ。
私はいつだってOKなんだからぁ」
こいつ
裏と表で人変わり過ぎだ。
千穂の前ではすんごい顔してたくせに。
今は気持ち悪いほど、ぶりっ子(死語)してやがる。
「とにかく、遠慮してくれっていっただろ。
帰ってくれよ」
「あ〜ん、潤一くん。照れちゃってぇ」
福崎はいうだけいうと、
押し返すオレに投げキッスをして自分のクラスへと帰っていった。
振り返ると千穂が不安そうな眼差しでオレを見てやがる。
はぁ…オレはちゃんと断わってるんだから、千穂。
その日、オレは必死に千穂を説得しながら、一緒に下校したのだった。
それから三日。
やはり福崎の奴がオレを見てやがる。
あれだけ丁重にお断りしてやったというのに。
いつまでオレと千穂に嫌がらせするつもりだろうか…
と悩んでいたのだが、
日に日に福崎のアタックパターンが変化し始めていた。
最初
というか、アタック再開日当日はあれだけ積極攻勢だったのに
今日では意外なほどの汐らしさを見せている。
一体何が起きたっていうのだろうか?
「おい、福崎っ」
「キャッ」
「??」
オレの声に、退散途中呼び止められた福崎が軽い悲鳴を上げる。
そして、落ち着かない目つきで顔を赤らめながら俺を振り返った。
「…じゅ、潤一…くん」
おかしい。
明らかにおかしい。
いつもなら
『潤一く〜ん、今度ねぇ。
私のパパがオーナーしてるレストランができるのぉ、一緒に食べにいかない?』
とかいって、アタックにくるはずなのに…
まるでその仕草は、千穂みたいじゃないか。
オレは凍りつきながら、彼女を呆然と眺めていた。
「…おい、福崎。
どうしたんだ……そんな思い詰めた顔して」
ようやく搾り出せた声でそういうと
「私……潤一……
ね、ねぇ〜ん、今度デートしよ」
突然表情が一変すると、ねだる女の表情になる福崎。
オレはギョッとして、福崎を軽く突き飛ばした。
「キャッ。潤一くんたら、初心なんだから」
「お前、何なんだよ?
さっきからころころ変わりやがって」
「え?わ、私…そ、そんな……」
そういうと、顔を蒼ざめさせた福崎は走り去ってしまった。
そして、オレがクラスへと戻ると、なぜか千穂がニヤニヤした表情をオレを見た。
一体……何が?
千穂は何か知ってるのだろうか?
オレは不安に思いながら、二人の顔を思い浮かべていた。
その次の日の放課後。
用事があるという千穂を先に帰らせて、オレはゆっくりと昇降口へと向かった。
そのとき、下駄箱に一通の封筒が入っていることに気付いた。
それは……
ラブレターのような…間違いなく女っぽい封筒だった。
「これは……」
驚いて開くと
見覚えのある字が並んでいた…いや、並んでいるように見えた。
それは、千穂からの手紙。
そう思った。
だがじっくりと見てみてそうでないことに気付く。
最後に書かれた『福崎 ひかる』という名前。
どうやら、福崎からのもののようだ。
なのに、この既視感。一体何なのだろう?
まるで千穂が書いたようなこの文面。
思い詰めたようなその字。
まるで福崎ではないようなそんな気がした。
呼び出された先は、体育倉庫だった。
部活で鍵を借りることは可能なはずだが…
しかし、扉が閉まっていることといい、どこの部活も使っている雰囲気はない。
だいたい普段、体育の授業以外では使われないからだ。
部活は部活用の倉庫や物置を持っているし、用具も部費で買っているはずだから…
それにしてもなぜ?
そう思っていると
「潤一……くん」
背後から嫌な福崎の声がした。
ちょっと不覚を突かれて、オレは驚いて振り返る。
そこには…
いつものように、ヘアバンド、裾をカールした髪、二重瞼な瞳の福崎がいた。
しかし、普段の勝気な表情がまるでない。
それは……以前の千穂のようだった。
「福崎……いきなりどうしたんだよ?」
「潤一、お願い。
そこに入って」
じゃら
体育倉庫の鍵を持って、思い詰めた表情で迫る福崎。
オレは嫌な予感がして、そのまま引き下がった。
「あのなっ、だからオレは福崎とか付き合わないって…」
「そんな話じゃないのっ。
お願い、聞いて、潤一」
それこそ千穂の仕草を真似したようなその福崎の振る舞いに
オレはただ立ち尽くすばかり。
「福崎……」
「あのね…潤一。
そ、その名前で呼んで欲しくないな。
だって、私、千穂だもん」
項垂れた福崎はそういうと、
セーラー服の逆三角形の当て布をプチプチっと外すと
胸の谷間を見せつけた。
「っ!?」
思わず目をそらせようとする目の前で
光り輝く青い石。
それは見覚えのあるものだった。
「お前っ、まさか、あのときのっ!」
オレはビビってそのまま逃げ出す準備をする。
まさかここで体を乗っ取られでもしたらたまらないからだ。
しかし、福崎はボロを見せない。
あくまで千穂のような雰囲気を漂わせながら突っ立っていた。
「あのね……潤一。
あのとき、石に吸い込まれていたのは私だったの。
潤一が私を助けるために必死に石を引き離そうとしてくれていたのは見てた。
でも、引き離されたとき感覚がなくなったのは私だったの。
そう…もう、私の体、奪われちゃっていたのよ」
福崎の瞳から光るものが溢れ出す。
それにオレは、真実を見たような気がして逃げるのを思いとどまった。
あんな卑怯な奴にこんな演技ができるとは思えなかったから…
「でも……オレ、信じられないよ、それだけじゃ。
だって、今の千穂だって、ホントに千穂みたいに見えるし…
偽者だっていう証拠は…」
そう…
それでも信じきれるわけでもなかった。
あのあとの千穂の仕草、振る舞い、全てが元に戻ったように見えたから。
それに対して、福崎は唇を噛んでいった。
「だって……今の私がそうなんだけど……
体を乗っ取るって、記憶も何もかも共有しちゃうってことなんだよ。
ううん、共有するっていうより、何もかもつつぬけって感じなの。
だから……
多分、あの人、きっと私の記憶を……
う、うぇぇん」
福崎…千穂は嗚咽しながら、泣き出した。
ここまでくるともはやウソとは思えない。
そうか、あいつは千穂の記憶を使って成りすましていたのか…
オレは何か納得するものを感じつつ、泣き続ける福崎の肩に手を置いてやった。
体育倉庫に入ったオレは、福崎になった千穂から全て聞き出した。
最初は感覚だけ共有して体を動かせなかったこと。
次第に支配率が増していって、とうとう体を自由に使えるようになったこと。
そして、福崎のことが…記憶を見れるようになってきたこと。
などなど千穂が福崎になってから起きたことをようやく知ったのだった。
話の内容はあいつの話とよく似ている。
千穂は、福崎の体を乗っ取ったわけだ。
そして……今は福崎の魂が封魂石とやらの中に…
オレはゾッとして千穂の胸元で光る青い石を見つめた。
「それより…
これからどうするんだ?
今、石の中には福崎が入ってるんだろう?
もし偽千穂に付けさせても、千穂の体に福崎の魂が入るだけだし」
「そうだよね。
多分…もうすぐ私が福崎さんの体を完全に乗っ取っちゃうんだと思う」
千穂も福崎の体で俯いた。
事態は深刻だ。
まだ千穂の魂が福崎の体に入り込んでいなかったなら、石を偽千穂につけさせるだけでいい。
だが、今や千穂と福崎の魂の立場は入れ替わりつつある。
今の状態だと一度千穂の魂が福崎の体に入りきってしまう他ないように思える。
だとしたらどうすればいいのだろう?
「うーん、難しいな。
一度、福崎に千穂になってもらって……
それから……ん?どうするんだ?」
あいつの魂が封魂石に入ったら、さっさと捨ててしまいたいものだ。
それとも、あいつを福崎にしてしまうっていうのはどうだ?
となると、福崎の魂はまた石に逆戻りして……
確かに最終的には福崎は元の体に戻れる可能性はあるけど
回数を考えると日数が掛かり過ぎるような気がする。
何かいい手はないだろうか?
オレは必死になって、たいした事のない頭を回転させていた。
「くすっ、潤一。
私のためにそこまで必死になってくれるなんてうれしいな」
千穂が福崎の声でそう笑った。
その声と顔はうれしくないが、千穂に喜んでもらえたと思うとオレもうれしい。
オレたちは久しぶりに笑いあった。
そのとき…
ガラッ
という音と共に、千穂…いや、千穂になってるあいつが姿を現した。
どこか確信犯じみたその表情。
間違いなく事情を把握している感じだ。
こいつ、絶対に千穂じゃない。
そうオレは確信した。
「お前、な、何をどうどうと?」
「ふふっ、とうとうバレちまったか。
まあいいけどな。
それより、まさか倉田がこんな早く他人に憑り付いてるとは思わなかったぜ!」
偽千穂はニヤニヤしながら体育倉庫に入ってくると、福崎になっている千穂に近づいていく。
「いや…」
「お前、千穂に近づくなっ」
「ふふっ、君たちにとっては本望なんじゃないか?
取り合えず、俺の魂を石に戻せるかもしれないんだぜ」
「何をっ」
オレは余裕をかます偽千穂にぶち切れて突っかかっていく。
だが…
次の瞬間、オレは激痛に蹲った。
そう…オレは股間を蹴り上げられてしまったのだ。
まさか、そんな急所をついてくるなんて…
あまりの痛みに動けなくなってる間に
見上げると偽千穂は、逃げ道を失った千穂に迫っていた。
「いや…もう、やめて」
「ああ、やめてあげるさ。
倉田さんももう疲れただろう、新しい体に生まれ変わるといいよ。
そう、今日から君は”福崎ひかる”なんだ」
「そ、そんなっ!」
涙を溢れさせながら、膝をガクガクさせる千穂に、
怪しい笑みを浮かべた偽千穂はその手を千穂の頬に当てる。
そして、千穂がそれに気を取られた隙に
グイッ
偽千穂は、千穂の胸元のネックレス…いや、封魂石を引き剥がそうとする。
「い、いやぁぁぁっ。
くっ、苦しい。や、やめてぇぇ」
福崎の体で千穂が苦しんでいる、もがいている。
だが、オレは股間の痛みで精一杯で立ち上がることも叶わなかった。
「倉田さん、君も俺と同じになるのさ。もうすぐね。
倉田さん…いや、”ひかる”ちゃん。
君は、もうすぐ”ひかる”ちゃんの記憶全てが読み取れるようになるんだぜ。
そして、感情もな。
そうなったら、もう…クスッ。
多分元の”倉田千穂”に戻れないぜ!
たとえ、体は元に戻ったとしてもな、ハハハッ」
偽千穂はそういって笑い声を上げた。
その一方、千穂は脂汗を流しながら顔を苦痛にゆがめていた。
「ぎ、ギャャャャッ
お願いっ、やめてぇぇぇ゛」
聞きたくもない福崎ひかるの声で悲鳴を上げる千穂。
「しかし、まさか倉田が”福崎ひかる”になるとはな。
こりゃ笑いものだぜ!
どうだった、自分を恋敵にして、他人の体でオナ○ーしてみて」
「や、やめてっ!」
千穂が目を瞑って、悲鳴を上げる。
だが、偽千穂はやめようとはしなかった。
「最初は感覚だけ共有して、”ひかる”のすること全てを感じてたんだよなあ、倉田も。
どうだった、俺の気持ちも分かっただろ?
もしかして、倉田、”ひかる”のオナ○ーも一緒に感じてたんじゃねぇの?」
「い、いやっ、そんな!」
心外だという表情をしつつも、顔を真っ赤にする千穂。
「他人の体で、同じ人を思ってオナ○ーか。
すげぇな。刺激的だったろう、倉田。
しかも元の自分に……つまり俺にジェラシーとか感じ始めてたりするんじゃないか?
俺って罪な女だよなぁ」
微妙な力具合で、石を引き剥がしつつもその均衡を保っている偽千穂。
まるで千穂をいたぶっているようだ。
「やめろっ、黙れっ。
千穂に何をする気なんだっ!?」
俺はようやく声を絞り出すと、偽千穂にそういってやった。
「ふんっ。
何をするって、倉田を”福崎ひかる”にしてしまうのさ。
もしかすると、倉田も生まれ変われるかもしれないぜ。
性格も変わっちまってよ。
あの大人しい倉田が、あの”ひかる”みたいな女に生まれ変わるんだ、ドキドキしないか、潤一」
偽千穂は、オレの気持ちを逆なでするようにそういった。
「くそっ」
「ハハハッ、まあお前はそこで指でも咥えて見てな!」
「いや、いやぁぁ」
千穂の悲鳴がする中、偽千穂は微笑むと、福崎の…千穂の今の体をなぞるように触りだした。
ぞわぞわするのか、千穂が身をよじって抵抗している。
「ほら、感じろよ、倉田。
”ひかる”の体だぜ、それが。
もっと感じて自分のものにしちまいな」
「やめてぇ、お願い」
苦しさに快楽が混ざり出したのか、声音が変わり始める千穂。
しかし、声が福崎のものであるのは変わらない。
「ハハハッ、倉田が”ひかる”の声で喘いでるぞ。
すごい光景だな」
偽千穂はそれに喜びつつ、セーラー服の裾から手を忍ばせ、千穂の胸の辺りでモゾモゾさせ始めた。
「んっ、やぁ!」
千穂は顎を突き上げて、悶えている。
信じられないような光景だ。
見た目には、千穂と福崎ひかるが絡んでいるようにしか見えない。
「倉田も”ひかる”の体を自分で動かせるようになってからオナ○ーしたのか?
よかっただろ?他人の体でするのって、興奮するよなぁ」
「そんなぁ、ち、違うよぉ」
千穂は汗や涙をだらだら流しながら必死に否定する。
「そうかぁ?
あんなに積極的な”福崎ひかる”になったんだぜ。
絶対オナ○ーとか激しそうじゃん、”ひかる”って。
その体に倉田は入ったんだ、やめられるはずないって」
偽千穂はそういうと、千穂のスカートに右手を突っ込んだ。
「ひ、ひぃっ!」
「おっ、濡れてるじゃん。
倉田、”ひかる”の体で感じてるんだ」
「ち、がう…く、くぅっ!」
千穂がガクガクと震えた。
偽千穂はそんな千穂を見てうれしそうに股間の手を怪しく動かしている。
「もうすぐだ。
もうすぐ、倉田の魂が”福崎ひかる”の体に完全に乗っ取るんだ。
倉田が”ひかる”の体で喘いでるなんて、いい光景だよなぁ、潤一」
「そんな…」
オレはもはや何もいえなくなっていた。
「あ、はぁはぁっ、や、やめて……」
千穂は必死に抵抗しているような声を上げるが、
ふと見ると自分の手をセーラー服の上から胸の膨らみに宛がっているのだった。
まるで言葉と体が離反しているようなその情景。
オレは、黙ったまま溜まった唾を飲み込んだ。
「知ってるか?
…そういや、潤一には話したっけなぁ。
封魂石から乗っ取る方の精神も乗っ取られる側の記憶に影響されるんだぜ。
それって、どういう意味か分かるよなぁ。
倉田千穂は、”福崎ひかる”の体を奪いつつも、”福崎ひかる”の記憶に侵食されるのさ」
「や、やめてくれ!」
オレはたまらなくなって思わず耳を塞いだ。
一体、オレは何をしているのだろう?
千穂を助けなければいけないはずなのに…
なんでただ傍観しているだけなんだ!?
「ほれ、見てみろよ、潤一」
震えが止まらないオレが、ハッとして見上げると、
千穂が”福崎ひかる”の肉体で…『自ら』オナ○ーをしている最中だった。
偽千穂に火を付けられて止められなくなってのか、
壁に背中を預けたまま、イヤラシク両手を動かして、自分の今の肉体を愛撫している。
「あ、や、やぁ………こんな…うっ、ん!」
「くく……倉田が”ひかる”の肉体を感じて喜んでるのか、
それとも倉田が”ひかる”のイヤラシサを吸収して
”ひかる”に成りきってオナ○ーしてるだけなのか、
どっちなんだろうなぁ?
え、どうよ、潤一?」
「千穂…」
オレは、更に混乱に陥ってしまう。
自分は何をしていいのか、千穂のために何をすべきなのか、分からない。
千穂が福崎の肉体で自らオナ○ーしてるという事実に、ただ愕然としていた。
「んっ、あ……やぁ、やだ……はぁはぁっ」
千穂のオナ○ーが更に激しさを増していく。
膝がガクガクして、今にも跪いてしまいそうだ。
「そろそろ頃合かもな。
倉田がイった瞬間に、”ひかる”の魂を引き抜いてやる。
そしたらどんな風になるんだろうなぁ?
俺のときは、気が付いたときには、倉田の記憶が完全に見れるようになってたけど…
イった瞬間にやったら、もっとすごいことになってたりして」
偽千穂は、千穂とは思えないような怪しい表情で不気味に笑った。
千穂はといえば、封魂石を引き剥がされかけている苦痛とオナ○ーをしている快感で、
相殺されているせいか、なんともいえない顔付きだった。
敢えて言えば、薬物中毒で何も目に映っていないようなそんな顔をしている。
「千穂!」
オレは必死に叫んだ。
だが、千穂の……”福崎ひかる”の体がビクビクと震えだし
イくと思われた、当にその瞬間。
「い、イャァァァ!!」
青い光が激しく点滅し
ピカッ
と最後の光を放ったとき
千穂=”福崎ひかる”の体は崩れ落ち、
偽千穂の手には、”福崎”の魂が封じられた封魂石が残されていた。
あれからどれほど経っただろう。
オレは必死に”福崎ひかる”の肉体を揺すぶっていた。
千穂の魂が入っているはずの”福崎ひかる”の肉体を…
傍ではニヤニヤしながら偽千穂が傍観している。
「ん、うぅ……」
ホントなら見たくもないはずの福崎の顔に変化が現れ、
オレはそっと福崎の顔を叩く。
「……ん、ふぁ」
まるで長い眠りから覚めたような眼で、福崎がオレを見た。
「千穂?」
そんなオレの問いに
「や、やだっ、潤一く〜ん」
福崎はまるで千穂ではないかのような仕草で飛び起きると、
両手を頬に当てて、うっとりとオレを見る。
「お、お前……ち、千穂、なんだよな?」
「私?私は福崎ひかるよ!
で、でも…潤一くんの膝枕なんてっ!
ひかる、恥かしいィ〜ん」
今まで千穂が見せたことのないような仕草でやんやんする福崎。
オレは、思わず脱力して、福崎を見ていた。
「ハハハッ、もしかして倉田の奴、”ひかる”の記憶に犯されちまってんじゃねぇの?」
横から見ていた偽千穂がおかしそうに笑い声を上げて、腹を抱えた。
「そんな!」
顔を蒼ざめさせるオレを無視するように、偽千穂は福崎に近づく。
「よう、倉田。
”ひかる”に生まれ変わった気分はどうだ?」
「く、倉田?
なんで私があんな鬱陶しい女なんか……」
そこまでいって福崎の表情がハッとするように変わった。
そして、焦点の合っていない目を凍らせたまま、頭を抱え込んで俯く。
「私……今、何を……そんな、どういうことなの?」
「ふふっ、どうやら”ひかる”の記憶がモロに入っちまったみたいだなぁ。
そんなに一編に思い出したら、”ひかる”に成りきっちまうぜ、倉田」
「私は……福崎ひ、かる……違う!私は…く、倉田…千穂のはずだよね?」
福崎は震えながらオレを見つめる。
「千穂!お前は千穂だ!
福崎なんかじゃねぇ」
オレは、すがるような思いで、福崎の肩をガシッと掴んだ。
「じゃ、聞くけど、”ひかるちゃん”、誕生日はいつ?」
「3月23日……」
「え!?」
横槍を入れるような偽千穂の質問に条件反射的に答える福崎……千穂。
だが、それは…千穂の誕生日ではなかった。
「あっはっはっは……それじゃないだろ?倉田の誕生日って。
うわ、倉田の自我壊れちゃってるよ。
”ひかる”に成りきっちまってるんじゃないか?やっぱ」
「やだ、やだ……ど、どうなってるの、私?」
千穂は混乱してしまったのか、蹲ったまま、焦りの表情を浮かべ、床を見つめる。
「私…自分が福崎さんみたいに思えちゃう……何なの、これ!?
怖い、怖いよ……潤一、”ひかる”こわ〜い」
千穂は、座ったままのオレに抱きついてきた。
普段の千穂のものではない……福崎の匂いがオレの鼻に入ってくる。
うざいと思っていた福崎になってしまった千穂。
”福崎ひかる”っぽくなってしまった千穂。
オレは訳が分からなくなりつつあった。
「ち、千穂…」
「私、どうなっちゃうのぉ?
いや〜ん、私、”ひかる”なんかになりたくないわよぉ〜」
口調が福崎の混ざってしまって、
千穂が喋っているのか、福崎が演技をしているだけなのか、
まるで掴めない。
「こんなことって……」
呆然自失のオレの前で、千穂は……千穂は……”福崎ひかる”に生まれ変わったのだった。
あれから三ヶ月が経った。
今でも…千穂……いや、”ひかる”とは付き合っている。
体が変わっても、千穂を守りたいという気持ちはなんとか自分の中で保っていた。
”ひかる”は、すっかり振る舞いが”ひかる”に成りきってしまい、
学校や家でも何の苦労もなく”ひかる”の生活を送っている。
しかし、オレだけは見ていて心が締め付けられるのだった。
オレが、股間の痛みを理由に動けなかったばかりに、
千穂は”ひかる”になってしまったのだから。
実のところ、千穂が”ひかる”の体でイってしまったとき、
股間の痛みはもうかなり引いていたんだ。
だから動こうと思えば動けたのに、オレは……オレは…
そう悔しく思いながらも、活発になったかつての千穂を今日もこうして眺めている。
「どうしたの、潤一く〜ん」
”ひかる”の部屋に遊びにきていたオレは、驚いて振り返った。
そこには福崎の姿のままの千穂が、色っぽい表情で、オレの首に腕を回していた。
「あ、いや、何でもない…」
「それにしても……千穂がこんな金持ちのお嬢様になるなんてなぁ」
そう…全く、ただのうざったいお嬢だった”福崎ひかる”に千穂がなってしまうなんて…
あの事件の前なら考えられないことだった。
「何よぉ、どうせ私は自慢ったらしくて傲慢な女ですよ!」
”ひかる”はぷいっとしながら、クローゼットの方に顔を向ける。
そこには、千穂が持っていなかったようなたくさんの衣装が入っていた。
さすがは金持ちだ。
「ねぇ、潤一くん。
私のドレス姿みたい?」
「へっ!?」
「ふ〜ん、見たいのね。
いいわよ、見せて差し上げても、ほ〜ほっほ」
そういうと、”ひかる”は立ち上がってクローゼットへと向かう。
そして、俺の目も気にせずに着替え始めた。
「お、おい」
「あは、私の着替え見て下さらない?潤一く〜ん」
「だからやめろよ!」
「そんな真剣な瞳で見つめちゃって、ひかる、うれしィ!」
投げキッスまでしてくる”ひかる”。
ここまで”ひかる”っぽくなってしまうなんて…
オレは、ちょっと衝撃を覚えつつ、”ひかる”の半裸から視線を逸らせなかった。
福崎ひかるは確かにブスではない。美人ではある。
ただ、あの裾をカールした髪型とパチッとしすぎた目、
そしてあの性格がどうもオレのタイプからかけ離れているだけだ。
多分、一応”ひかる”のことが好きな男もそれなりにいるはずと思うし、もてるとは思うけど…
でも、あの傲慢さと押しの強さに、手が出せないんだろう。
それに対して、千穂の控えめで優しくて、かわいいところがオレはとても気に入っていたのに…
そのどっちも千穂の魂が失ってしまうなんてな。
それどころか、千穂と”福崎ひかる”が一つになってしまうとは!
はぁ。
少し考え込んでいる間に、オレはふと”ひかる”の異変に気付いた。
「千穂……?」
「はぁはぁ…ごめんね、私、感じちゃって……
あはぁん」
「お、おい?」
”ひかる”は、すごく光沢のあるすべすべしていそうなドレスに身を包みながら、
鏡の中を自分を眺めて身をよじっていた。
「あん!こうしてると、すごく興奮しちゃうの、私」
「何やってるんだ、千穂!」
「私、福崎さんのこと苦手だったのに……
こうしてると、自分って”綺麗”って思っちゃうの」
”ひかる”はうっとりとしながら、鏡の中の自分を眺め回していた。
「千穂……」
「信じられないでしょ?
私だって、福崎さんのこと…嫌いなのに……なのに!
ああ、私、感じちゃうの!」
”ひかる”は、高級そうな椅子に座り込むと、
はぁはぁいいながら、ドレスの中に手を差し込んだ。
「ん〜、いい……なんて、気持ちいいの……
私、自分が”福崎ひかる”なんだって思うだけで興奮しちゃう」
「千穂……」
「そうよ、そうなの。
”ひかる”、いつも自分の美しさにめろめろなの。
ああ、うっとりしちゃう。
なんて、美しいのかしら」
上気した表情で、”ひかる”は自分の体を確かめていく。
「ああ……知ってた?
”ひかる”、私が福崎さんになる前から、ずっとこんなことしてたのよ。
私、何でも分かるんだもの。
”ひかる”ってナルシストだったのね……私までうつっちゃった……あん」
「おい……」
「自分の嫌いな人なのに、うれしいの。
”ひかる”になれたことが快感になってくるの。
私、生まれ変わっちゃった。
倉田千穂だった自分がウソみたい。
ああ、なんて気持ちなの!」
オレは、身動きが取れないまま、”ひかる”のオナ○ーショウを眺めていた。
「私が変わっていっちゃうの。
言葉遣いも、仕草も、振る舞いもみんな”ひかる”になってくぅ。
あんなに怖かったのに、今は快感なのぉ」
千穂が”ひかる”へと変わっていく。
それなのに、ドキドキしているオレは何なのだろう?
今、オレは、”ひかる”に千穂の姿を……千穂の魂を重ね合わせて見ている。
そして、その千穂が”ひかる”の肉体でオナ○ーをしているのに興奮している。
千穂を……千穂を”倉田千穂”に戻さなければならないはずなのに……
いつしかオレたちは、封魂石の存在を忘れていってしまっていた。
(おわり)
まずはSatoさん、ごめんなさい!
なんか話が暴走してしまって、うまく書けなかったような…
もう一編書きますから、許して下さいねぇぇぇ。m(_
_;)m
あとがき
”つる”です。
まあ省略しなくてもよいとは思うのですが…
まあダーク色を出してしまったので
今回はつる****と敢えて名乗らなかったりします。
私が書いたもので
こういう雰囲気のお話といえば
2000年夏公開(笑)の『アタシは誰?』があるのですが
こういう手の話は結構好きだったりします。
まあ普段あまりダークなもの書かないので
たまにはいいかなって
”ひかる”という名前ですが
某漫画の影響を受けてますね。
ヒロインと彼女の絡み?結構好きです。
恋のライバル同士で
立場が入れ替わってしまったとしたら?
結構ドキドキものですよねぇ。
たとえ
TS
でなくても
あ、ここで書かなくてもお分かりの通り
今回はTSはなしですね。
ごめんなさい。
ちょっとこの手の話
どれくらい人気があるのか見てみたくって(笑)
もしお気に召しましたら幸いです。