無防備な憑依

作:沙亜矢



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キキキキキーーーーーッ
車の急ブレーキの音が辺りに響き渡った。
俺はその音を聞きながら自分の身体が宙を飛んでいるのを感じていた。
道路に叩きつけられる直前までは意識があった。
そう、俺は交通事故に遭ったのだ。
気がつくと足元に俺の身体が横たわっていた。
ファンファンファンファンファン.....
救急車のサイレンが近づいてくる。
「交通事故だってよ」
「死んじゃったのかしら?」
野次馬が俺を取り囲んで好きなことを言ってやがる。
(俺はどうしたんだ?)
状況が理解できないでいると救急隊員が俺の身体をどこかに運ぼうとしている。
(おい、ちょっと待ってくれよ)
俺は慌てて自分の身体に戻った。
急に痛みを感じた。
「うぅ....」
「おい、まだ意識はあるようだぞ。急げ」

俺は木下英一。33歳。
妻と二人で小さなマンションに住んでいる。妻は大学のテニスサークルで一緒だった女性だ。名前を美鈴という。1歳下の32歳。
妻との間には子供はいない。結婚してそろそろ10年になり、二人とも子供が欲しいのだが、なかなかうまくいかない。妻は病院に行って相談しているようだが、原因ははっきりしないらしい。俺にも一緒に来てほしいと言われているが、何となく気恥ずかしくて仕事にかこつけて逃れている。
大学を卒業してすぐ今の会社に入社した。某中堅商社だ。俺はそこで総務課の課長をしている。やるべき仕事は年々増えるのに一向に人員の補充はない。お陰で毎日遅くまで残業をやる羽目になってしまっている。交通事故に遭ったのはそんな仕事帰りのことだった。

俺は救急病院に運ばれた。
そこで緊急手術を施された。
俺には自覚はないが相当重症のようだ。
そのまま集中治療室に移された。

事故に遭った日の夜、気がつくと俺は病室の天井近くをフワフワと浮いていた。
(?)
俺は何が起こっているのか理解できなかった。
自分の身体が1メートルほど下で横たわっているのだ。
そんな姿を見ていると、ふと自分は死んだんだと思った。
なぜか冷静にそんなことを考えた。
数秒後我に返った。
(死ぬなんて嫌だ)
俺は生き返るため必死に自分の身体に戻ろうとした。
しかしこの状態で移動するコツも掴んでいないためか、なかなか思ったように動けない。事故発生時にはあんなに素早く動けたのにもかかわらず。気持ちが焦るばかりだった。
ジタバタと悪戦苦闘した末にやっとのことで自分の身体に戻ることができた。
自分の身体に戻ると、すぐに事故の傷が痛んた。
しかし、痛みを感じることで、自分がまだ生きていることを確認することができるのだ。
それはこれまでにない喜びだった。
しかし、現実の俺の意識は戻らなかった。

次の日も夜になると肉体から離れていた。
2日も続けてこんなことが起こると、少しは冷静に考えることができる。
この時点でようやくこれはもしかしたら幽体離脱なのかなと思った。
俺は自分の身体から離れても、部屋の中をうろうろするだけだった(少しずつスムーズに移動することができるようになった)。
肉体から遠く離れてしまうことで、本当に死んでしまうのではないかという恐怖心があったためだ。
それでも2回目ともなると少しは落ち着いて周りの様子を見る余裕があった。
どうやら今日は普通の病室に移ったようだ。俺のそばにはウトウトしている妻の姿があった。
おそらく昨日から妻はずっと近くにいてくれたのだろう。妻のそんな姿をみると、一日も早く元気にならなければと思った。俺は妻に感謝しながら、自分の身体に戻った。

4日ほどして、ようやく俺は意識を取り戻した。
俺が目を開けたときにはまず最初に妻の嬉しそうな泣き顔が飛び込んできた。
「ごめん、心配かけて。ずっと看病してくれてありがとうな」
「ううん、あなたが生きててくれたら」
事故に遭ってずっと俺は昏睡状態だったらしい。
意識を取り戻した俺にとって幽体離脱したのは夢だったような気がする。
しかし、病室の様子が自分の記憶の通りだった。不思議な気がしながらも、本当に起こったことなんだろうと思った。

意識を取り戻したその日の晩も、気がつくと幽体離脱していた。すでに意識を取り戻していたこともあり、死という最悪の事態から遠ざかったように感じていた。そのためか、何となく冒険心が湧き、その日の夜は思い切って病室を飛び出した。それでも、病院の中を移動するだけだったのだが。
2〜3日は病院内をウロウロしたが、さすがに飽きてきたのと少々離れても死ぬことはないだろうというように感じていたので、ついに病院を飛び出すことにした。目標は近くの看護師寮だ。何の苦労もなく看護師寮に移動することができた。看護師寮では、日々の仕事で疲れているにもかかわらず、看護師さんたちは遅くまでペチャクチャとおしゃべりをしていた。ほとんどが男性の話だ。特にエッチな話で盛り上がっていた。患者のペニスの大きさを克明に覚えているのには驚いた。事務的に処理しているようで実は冷静に観察しているのだ。その中で俺の名前が出てきたときはさすがに嬉しかった。とりあえず平均サイズ以上はあるようだ。俺は少し自信がついた。
そんなふうに夜の散歩でそうとう退屈しのぎになったので、長い入院生活もそれほど退屈せずに済んだ。退院間近のときには、夜になれば眠ることなく意識的に幽体になれるようにまでなっていた。

やがて傷もほとんど癒え、退院の日を迎えることができた。
しかし退院してから最低1週間は自宅療養ということでおとなしくしていないといけない。
でも俺には幽体になって好きなところにいけるという特技がある。
これからも楽しいことが待ってそうだ。

自宅に戻ってからはもっぱらご近所の覗き見に励んでいた。
女子大生の着替えや入浴の様子を覗いたりした。
新婚夫婦のセックスを最初から最後まで覗いていたこともある。
とにかく他人の私生活の覗き見て密かに楽しんでいた。


明日から出勤できるという日のことだった。
いつものように真夜中の散歩をして、自分の家に戻ってくると妻が気持ち良さそうに寝ている顔が目に入った。
(幸せそうな顔をして寝てるんだな)
そんな妻を見てると何となく悪戯をしてみたくなった。
(憑依ってできるのかな?)
俺は眠っている妻の美鈴に身体を重ねてみた。
すっと吸い込まれるような感覚があり、次の瞬間俺は妻の身体に憑依していた。
目を開けると天井が見えた。俺は上半身を起こし、胸を見ようと下を見た。すると目の前に髪の毛が落ちてきた。妻の髪は肩にかかる程度の長さがある。その髪が下を見たことによって目の前に落ちてきたのだ。髪の毛に視界は少し遮られているが、胸の膨らみは確認できた。
俺はパジャマの上から乳房に触れてみた。
(本当に美鈴に乗り移れたんだ)
乳房に触れる感触と同時に、乳房に触れられる感触を感じて、俺は妻に憑依できたことを実感した。
俺は声を出してみた。
「あーあーあーあー」
いつも俺が聞いている美鈴の声とは違う。美鈴は自分の声をこういうふうに聞いているのかと感心した。
俺は乳房を揉んでみた。揉まれることは感じるが、それほど気持ちのいいものではない。
(胸を触られたってこんなもんか)
自分で触ってるだけだから、これくらいなのも当然のような気がした。
乳首の辺りを擦ってみた。
「あっ.....」
電気が走った。これは気持ちいい。女が声を出すはずだ。俺はこの行為にはまった。目を閉じて乳首の辺りを擦った。立っているのがつらくなり、抜け殻状態の俺の身体の横に横たわった。そしてパジャマのボタンを外し、直接、乳首を摘まんだり、擦ったり、揉んだりした。
「あぁぁ、いいわ、あなた〜、もっと〜〜」
俺は美鈴になったつもりで声を出した。
しばらく乳首への刺激を続けた後、俺は右手をショーツの中に滑り込ませた。すでにその部分はしっかりと湿り気を帯びていた。俺は割れ目に指を入れ、小さな突起に触れた。
「ああぁぁぁぁぁ、すごい」
俺は何度も何度もそれを触った。快感は全然衰えなかった。
「あなた、めちゃくちゃにして」
これはセックスの時に時々妻が言っている言葉だ。こんな言葉が発せられる理由が分かったような気がした。俺は長い間、股間の突起に刺激を与え続けた。あまりの気持ち良さに俺の意識は飛んでしまった。
「はぁはぁはぁ...」
俺は身体に残っている快感で意識が朦朧としていた。
(女の快感って凄すぎる....。ちょっとはまりそうだ)
俺は妻のパジャマを綺麗に着直して、元の身体に戻った。


そんな夢のような快感を知った次の日に久しぶりに出社した。
会社に顔を出すと久しぶりに見る部下たちがそれなりに心配した顔で迎えてくれた。
部下は4人いる。男が1人、あと3人は女性だ。
男は生真面目で融通の利かない定年間近の篠沢幸三という男だ。PCの画面に向かい、視線をこちらにチラッと向けて「意外と元気そうですね」と言った。俺にはほとんど興味ないのだろう。もちろん俺もこいつのことは興味はない。20歳以上年上だから、扱いが難しいのだ。早く定年を迎えてくれることを祈るばかりだ。
女の一人は40歳を過ぎた口うるさいおばさんの小松原昭子だ。顔は綺麗なのだが、性格がきつい。そのせいか未だに独身を通している。俺が久しぶりに出社しても「どうせお酒でも飲んでフラフラ歩いてたんでしょ」と言いやがった。本当に可愛い気のない女だ。
二人目は30歳にもうすぐ手が届く藤野峰子だ。顔はイマイチなんだが、身体がいい。男好きするタイプだと思う。本人曰くFカップだそうだ。本人も自分の魅力がどこなのかをよく分かっているのだろう。会社に不似合いな露出度の高い服装を着て、毎日会社にやってくる。うちの社長は助平なので、何も言わないどころか喜んで見ている始末だ。この日も胸の谷間を強調したような服を着ている。「課長、もう大丈夫なんですか?みんな、本当に心配してたんですよ」と言われたが、この女のことだ、どこまで本心か分からない。
三人目は昨年入社の水沢由梨という女性だ。彼女は素直でいい子だ。身長は160センチくらいで、胸は小さからず大きからず(BかCといったところだろう)。妻とのマンネリ化もあり、俺は彼女に密かに好意を持っていた。
俺はパソコンを立ち上げ、メールを立ち上げた。さすがに1ヶ月近く休んでいるとメールの数が半端じゃない。メールを読むだけでも2〜3日はかかりそうだ。俺はメールを読むのをあきらめて、机に貯まっている書類に目を通すことにした。
さすがに久しぶりに仕事をすると夕方には身体がつらくなってきた。
「仕事が貯まってるのに悪いけど、まだ無理できる状態じゃないんで、お先に失礼するよ」
と俺は部下を残して帰宅した。

帰宅すると、夕食を取り、風呂に入って、すぐに寝た。まだ8時過ぎだと言うのに。
妻は「久しぶりの会社だもの。疲れてるんだったら、さっさと寝たら」と言ってくれたので、その言葉に甘えた形をとったのだ。実際疲れていたので、ベッドに入ると俺はすぐに眠りに入った。
夜中に携帯のバイブで目を覚ました。午前2時だった。俺がアラームをセットしていたのだ。バイブにしたのは妻が目を覚まさないようにするため。もしバイブで起きなくたって楽しみが一日できないだけの話だ。
そう、アラームしてまで夜中に起きた目的は妻に憑依してオナニーすることだった。

俺は昨日と同じように妻の身体に憑依した。
今日も問題なく憑依できた。
俺はすぐに左手で乳房を愛撫し、右手で股間の溝を這わせた。
(やっぱすげえや)
俺は毎晩妻の身体に憑依してオナニーした。

その日から、夜になると妻の身体に憑依してオナニーすることが俺の日課になった。
妻の身体で毎晩オナニーしていると、だんだん妻の体調が悪くなった。
何だか疲れが取れないんだそうだ。
そりゃそうだ、俺が毎晩妻の身体でオナニーに励んでいるんだから。
さすがに妻の身体に憑依しているとは言え、俺自身も真夜中に起きるわけだから俺自身も疲れがたまってきた。それで最終的には憑依するのは週末だけ、というルールを自ら作ったのだった。

妻以外の感覚も知りたいと思うようになったのは自然な流れだろう。
俺は次のターゲットとして部下の水沢由梨を選んだ。
上司だから部下の住所は分かる。早速彼女に憑依しようと俺は彼女の住所を覚えて週末に備えた。

土曜になったばかりの夜、いつものように真夜中に目を覚まして、自分の身体から抜け出した。
記憶している住所を頼りに彼女のマンションに向かおうとしたが、どの方向に向かって行けばいいのかさっぱり分からない。
(今日は何とか彼女の部屋にたどり着ければいいかな?でもどっちに向かおう?)
そう思って家を出て、彼女の顔を思い浮かべた。
一瞬目の前にノイズがかかったような気がした。
すると知らない部屋にいた。部屋の感じは女性の部屋のようだ。
(彼女の部屋だったりして...、まさかね)
そう思いながらベッドで眠っている人の顔を見た。水沢由梨だった。
(!)
イメージしてそこに行きたいと思うと、その場所に移動できるとは便利な能力だ。試しに自分の部屋をイメージして戻ろうと思った。一瞬の後、部屋に戻っていた。これは便利な能力だ。幽体でないと使えないのが残念だ。俺は再び水沢由梨の部屋に移動した。
彼女はぐっすりと眠っていた。
俺はゆっくりと水沢由梨に身体を重ねた。無事に憑依できた。
ベッドから出た俺は部屋の明かりを点け、今の姿を見た。ライトブルーのTシャツに、ショーツを履いているだけだった。Tシャツの下には何もつけていない。ノーブラだ。
俺はTシャツを脱いで、ドレッサーの前に立った。それほど大きくない胸を顕わにした水沢由梨が映っていた。手のひらを乳房にあてると、ほとんどの部分が隠れた。俺は中指で乳頭を押さえるようにして、弧を描くように乳房を揉んだ。
(ああ...気持ちいい...)
妻の感じ方よりやや弱い。しかし、すごく心地良い快感だ。目の前の鏡の中では乳房を揉んで恍惚の表情を浮かべている女が映っている。女性の快感を感じ、男性としての視覚的な刺激を受けて、俺の興奮度は急激に上がってきた。

「課長、好きです。愛してます」
俺は声に出して言った。目を閉じて水沢由梨の胸を揉んでいる状況を想像しながら自分の胸を揉んだ。
「下も触ってください」
俺はショーツの中に指を滑り込ませた。
「...ぅん....」
立っていられそうにない。俺は床に寝ころんで、なおもショーツの中で指を動かした。
『ペチャペチャペチャペチャ』
部屋中にいやらしい音が響いている。妻のときのように快感に意識が飛ぶことはなさそうだ。
でも心地よい快感が絶えず押し寄せてくる。
俺は股間への刺激をやめた。ショーツの中はぐしょぐしょになっている。ショーツのお尻の辺りが自分の出した液体で冷たく感じる。
俺はショーツを脱ぎ、オマ○コを観察することにした。
俺は立ち上がり、ドレッサーの前に置いてある手鏡を取った。
そして、床に股を広げて座り、股間に手鏡をやった。
股間に物欲しそうなビラビラが見える。
(綺麗だな。処女なのかな?)
そう思うといきなりこれ以上いやらしいことをするのが申し訳ないような気がした。
俺は少し気持ち悪かったが内側が湿ったショーツを履き、Tシャツを着てベッドに戻った。
そうして水沢由梨から抜け出した。

ある日、会社の席についているときに、フッと意識が遠のいた。気がつくと、幽体になっていた。自分の席に目をやると俺が机に突っ伏していた。机の上に置いてあった書類を辺りに撒き散らかしたため、部屋にいるほとんど全員が俺の異変に気がついた。
「きゃー」
「課長!」
部屋の中が騒然となった。俺は慌てて自分の身体に戻って、ゆっくりと顔を上げた。
「大丈夫ですか?」
「ああ大丈夫だ。急にフッと意識がなくなってしまっただけだから」
「もしかしたら、まだ事故の影響が残ってるんじゃないですか?週末ですし疲れがたまっているのもあるのかもしれませんし、あまり無理せずに今日はもう帰られたらいかがですか?」
「でもまだ仕事が溜まってるし。ちょっと医務室に行って横になってくるよ」
俺は医務室に行った。事故にあったことはみんな知っているので特に怪しまれることはない。俺は気分がすぐれないと言ってベッドに横になった。
横になるとすぐ、幽体になり、事務所に戻った。
水沢由梨がパソコンに向かって手書きの文書をワープロ化している。俺はゆっくりと水沢由梨に身体を重ねた。
俺の目の前にパソコンの画面が映った。キーボードを叩いている指は白くて綺麗だ。俺は水沢由梨に憑依した。
夜ではなく昼間に、しかも会社で水沢由梨に憑依するのはドキドキするがワクワクもする。
机の下に目をやるとスカートから出た膝が見える。
自分がいつもいる場所でスカートを履いている。
この事実に俺は恥ずかしさを覚えた。
でも俺は今水沢由梨なのだから当たり前のことだ。
(落ち着け、落ち着け)
俺は心の中で自分に言い聞かせていた。
ふと冷房が気になった。やたらと効き過ぎているような気がする。
女性が冷房のときに膝に毛布をかけるわけだ。

そんなことを考えていると尿意を覚えた。
(冷えすぎのせいかな?)
トイレに行こうかどうしようかと考えていると、隣の藤野が声をかけてきた。
「ねえ、水沢さん、課長、大丈夫かな?」
「ええ、心配ですね」
俺は適当に返事を返した。
「水沢さんは課長のファンだから心配でしょうね」
(えぇ、そうだったのか)
俺は藤野の言葉に驚き恥ずかしくなって自分でも分かるくらい顔が紅潮した。
「あ〜ぁ、真っ赤になって。本当に可愛いんだから。そんなに心配なら様子を見に行ったら。きっと課長も喜ぶわよ、わたしたちみたいなおばさんが行くより」
「はい、そうします」
俺は反射的にそう言って立ち上がった。
「あれ〜、仕事中なのに本当に行くの?冗談だったのに」
「えっ?」
「嘘よ、嘘。行ってらっしゃい」
俺は藤野に翻弄されていた。
ちくしょうと思いながらも
「ちょっと見てきます」
と言って歩き出した。
それほどかかとが高くないミュールだったので歩きづらさはなかった。
歩きづらくないだけに、必要以上に大股にならないように気をつけて歩いた。
歩く度にスカートとパンストがこすれる感じが心地よかった。

部屋を出るととりあえずトイレに向かった。
生まれて初めての女子トイレ。ドキドキしながら入った。
男子トイレに比べると少し広いような気がした。手を洗うところの鏡の上部がアークになっており、鏡自体も大きなものになっていた。その前には化粧を直しながらお喋りしている女性が2人いた。
俺は個室に入りスカートを上げて、パンストとショーツを下ろして、便座に座った。
『シャー』
貯まっていたおしっこが一気に出た。
俺はトイレットペーパーを取り、おしっこが出た部分を拭いた。
(あぁ、すっきりした)
俺はショーツを上げ、パンストを上げ、スカートを正した。
そして水を流して、お喋りしている2人のところで手を洗った。
「ねえ、由梨、木村課長が倒れたんだって」
お喋りしている1人に声をかけられた。確か経理の松野とかいう女性だ。確か水沢由梨とは同期だったと思う。
「えぇ、さっき倒れて、今医務室で寝てる」
俺はどう話そうかと思いながら話したのでぶっきらぼうな言い方になってしまった。
「由梨、心配なんじゃない?」
俺の話し方は意外と気にならなかったようだ。
「今から様子を見に行こうかなと思ってたとこ」
俺は言葉遣いに気をつけて話した。
「うん、そうしなよ。絶対木村課長も喜ぶって」
俺はそんな言葉に押されてトイレを出た。
(水沢くんはあっちこっちで俺のファンだって言ってたみたいだな)
おそらく俺の顔にはいやらしい笑いが浮かんでいただろう。
俺がそんなことを考えながら医務室へ向かって歩いていると、廊下の向こうで俺の姿をした男がうろうろしているのが見えた。

(えっ?)
俺は驚きながらも、男の後を追った。男はすぐに見つかった。
「木下課長、どちらに行かれるんですか?」
俺は周りの目を気にしながら声をかけた。
「誰だ、お前は?」
その男は周りにいる人間のことも気にすることもなく、乱暴な口調で言った。
「とにかくこっちに来てください」
俺は空いている会議室にその男を連れていった。
会議室に入ると、俺は由梨の身体を離れ、自分の身体に戻ろうとした。
しかし、なぜか俺の身体に入り込めず、戻れなかった。
仕方なく水沢由梨の身体に戻った。
「お前は誰なんだ?」
俺のその言葉に俺の姿をした男は俺の顔をじっと見つめた。
やがてニヤリと笑ったかと思うと
「はは〜ん、お前はこの身体の持ち主ってわけか」
と言い出した。
俺が何でばれたんだと思っていると、急に抱きすくめられてキスされた。
「やめろよ」
俺は男の身体を突き飛ばすようにして離れた。
「どうだ、自分にキスされた感想は?」
「感想なんかあるか!」
俺は男を睨んだ。
「それにしても昼間から女の身体に憑依して何してんだよ?変態か?」
男はからかうように言った。
「別にいいじゃないか」
「別にいいけどさ、自分の身体をあんな状態で放置しておくのはまずかったよな。俺みたいなどこの馬の骨とも分からない霊に身体を奪われるって知らなかった?」
「そんなこと、考えてもいなかった」
考えてみれば、自分が他人に憑依できるんだから、他人が俺の身体に憑依できるのは当然のことなのだ。そんな簡単なことが分からなかったなんて迂闊だった。
「普通考えるだろ?まあお前のドジのおかげで久しぶりに生きてる身体に入ることができたんだ。俺にとっちゃありがたいけどよ。後学のために教えてやっけど、今度からは御札かお守りか何かを持っておくことをお勧めするぜ。でも、もう遅いけどよ」
男はいやらしい笑みを浮かべて俺の腕をひっばって俺を抱きしめた。
「やめろってば」
男は俺の言葉を無視して、さらにキスしようとしてきた。
たまらず俺は由梨の身体から抜け出そうとした。
「今抜け出したらお前がこの女にセクハラしてるって思われるぜ」
確かに今抜け出して水沢由梨の意識が戻ったら、俺が無理矢理キスしたと思われるだろう。
そうなったらこのご時勢、会社をクビになる可能性が高い。
さすがにクビになるのは困るので、俺は仕方なく水沢由梨の身体にとどまった。
「なかなか聞き分けのいい奴だ。その調子でサービスしてくれや」
男は俺にキスした。キスしながら俺の胸を揉んだ。
「んんんんん...」
俺は嫌悪感しか感じなかった。しかし執拗に胸を揉まれている内に少しずつ快感を感じるようになっていた。
「へへへ、感じてきたようだな。元の自分に胸を揉まれて感じるとはお前も相当変態だな」
男は俺のスカートの中に手を入れ、パンストとショーツを下げた。
「やめろ...」
俺は抵抗しようとした。
「大きな声を出すと、誰かが入ってくるぜ。そうしたらお前が女をレープしている現場を見られるんだぜ。それでもいいのか」
男にそう言われるとおとなしく従うしかなかった。

「俺が無理矢理ショーツを脱がせると破いちまうかもしれんぜ。そうなったら...」
男の言わんとすることは分かった。俺は自らパンストとショーツを脱ぎ去った。
「よーし、いい子だ。それじゃ机の上に寝てもらおうか。お尻を机に乗せてな」
俺は男の言う通り、机に座った。そしてその状態から、そのまま仰向けに寝た。会議室の机の硬さを感じていた。
男はズボンを脱ぎ、大きくなったペニスを見せつけていた。
「それじゃいただこうとするか」
男は俺の脚を掴むと、俺の脚を大きく広げて自分の方に俺を引き寄せた。俺はお尻が半分机から落ちそうになり、その状態で男のペニスが挿入された。
(あっ、入れられた)
俺は自分の身体の中に異物が入ってくるのを感じた。痛みは全くなく、スムーズに挿入された。
「おぉ、なかなか締まるじゃねえか。処女じゃなかったのは残念だけどよ」
確かに処女じゃなかったのは俺にとっても意外だった。しかしそれ以上に俺は股間にペニスの入った不思議な快感を感じていた。
「それじゃさっさとすませてやるぜ」
男は手で俺の腰をしっかり掴むと、手で俺の身体全体を前後に揺らした。まさに俺の身体を使ってマスターベーションをしているようだ。
「あっ....あっ....あっ....あっ....あっ....」
会議室の机の痛みを背中に感じながらも、俺は不覚にも快感を感じていた。感じていたなんてもんじゃない。翻弄されていた。オナニーなんて目じゃない。恐ろしいまでの快感が俺の身体を駆けめぐった。男が思いっきり俺の奥までペニスをぶつけたとき、俺の意識は完全に飛んだ。水沢由梨になってオナニーしたときには考えられないくらいの物凄い絶頂感だった。
男は俺の身体から離れた。俺のオマ○コからは男が出した白い粘液が流れていた。
「なかなかいい持ち物を持ってるじゃないか、気に入った。お前、俺と来い。俺の身体の家に案内しろ」
俺は良からぬ予感がしたが、今は言われた通りにするしかなかった。

「分かった。それじゃ課の者に帰ることを伝えてくる」
俺は快感の波に飲まれ続けてボゥ〜っとした意識の中、身体を起こした。
「そんな邪魔臭いこと、いいじゃないかよ」
「いや、一言言ってくるだけだから少しの間ここで待ってくれ」
「しゃあねえな、じゃ、ちょっとだけだぜ。待ちくたびれたら手当たり次第女を襲ってやるからな」
俺が立ち上がると男の放った精液が逆流して流れ出てくるのを感じた。
俺は手元にあったティシュでそれを拭き取ると、ショーツとパンストを履き、自分の服装を確認してから会議室を出た。
俺は急いで事務所に戻った。
「課長、やっぱり体調が悪くて帰られるそうです」
「一人で大丈夫なの?」
「私がついていきます」
「あなたが家に連れていく方がやばかったりして」
藤野と小松原が面白そうに笑っている。
「とにかく行ってきます」
俺は水沢由梨のバッグを持って事務所を出て、会議室に向かった。
「やっと来たか。待ちくたびれてレープを実行する寸前だったぜ、はっはっはっはっ...」
「本当に家に行くのか?」
「おいおい、そんな可愛い顔してるんだから、もっと女らしい話し方をしてくれよ」
「うるさい」
「おぉ、恐〜」

俺は男を連れて会社を出た。
「おい、どうやって行くんだ?」
俺はいつも通り電車で帰るのはまずいような気がしていた。そこでタクシーに乗ることにした。
「タクシーで帰ろう」
「そんなに俺と二人っきりになりたいのか?」
相変わらず男はスケベそうな目をして俺を見ている。こんな状態で多くの人の中に連れて行くのは危険だ。
俺はタクシーを止めて、男とともに後ろの座席に乗り込んだ。
俺は運転手に行き先を告げた。
男は車中でずっと俺の太腿をなでていた。
「やめろってば」
「いいじゃないか、減るもんじゃないんだし」
男がよく使う言葉だが、本当に腹立たしい言葉だと思った。
やがてタクシーが俺の家の前に着いた。
俺は運転手に金を渡し、タクシーを降りた。

呼び鈴を鳴らすと、妻が出てきた。
「あらっ、あなた。早かったのね?こちらは?」
美鈴は男に声をかけ、俺の顔を不審そうに見た。
「これが俺の嫁さんか。今のお前の身体の方がよっぽど艶っぽいぜ、なあ」
男は俺の顔を見ていやらしそうに笑った。
「とにかく夫婦なんだから一回くらいは味見しとかないとな」
男は美鈴の腕を取ると家の中に入って行った。
「あなた、どうしたの?」
美鈴は状況が理解できないようだった。何とか抵抗しようと試みているのだが、男の力には逆らうことができず引きずられるようについて行った。
「おい、寝室はどこだ?」
男は俺に向かって質問した。俺は仕方なくベッドのある部屋を教えた。男は美鈴を引きずるように連れて行き、妻をベッドに放った。
「あなた、どうしたの?」
美鈴は怯えたように男を見ていた。
「おい、教えてやれよ。お前の旦那の身体は訳の分からん霊に奪われたとな」
男は俺の顔を見ながら言った。
「えっ、どういうことなの?」
妻は男と俺の顔を交互に見た。
「お前が旦那だと思ってる俺は、実は中身は旦那じゃないってことさ。あそこのいやらしい身体の姉ちゃんの中にいるのが旦那さ」
美鈴はゆっくりと俺の方を見た。その目は助けを求めているような眼だった。
「旦那はついさっき、この俺に抱かれてヒィヒィよがっていたんだぜ、処女のようにな。元の自分に抱かれて感じるなんて変態だと思うだろ?なっ、そうだろ?」
「うそ...?」
「嘘だと思うなら、そこの姉ちゃんの格好した変態の旦那に聞いてみなって」
俺は妻の顔を直視できなかった。そんな俺の態度に、美鈴はその男の話が真実であることだと覚ったようだ。
「そんな....嘘よね?お願い、嘘って言って」
誰にいうでもなく妻は叫んだ。悲鳴にも近い妻の叫びだった。
「とにかく状況は分かっただろ?」
男はそう言って妻の服を引き裂いた。
「やめて───────」
俺は目の前で妻が犯されているのを見ていることしかできなかった。

「やっぱりお前の方がいいや」
妻を犯した後、男は俺の顔を見た。そして、犯され呆然としている美鈴をベッドから床へ突き落とした。美鈴は鈍い音を立て、床に転がった。
「うううう.....」
美鈴は呻き声をあげた。
俺は男に腕を引っ張られ、そのままベッドに倒れこんだ。
あっという間に服を脱がされ、全裸にされた。
「さっきはオマ○コしか見てなかったけど、やっぱりいやらしい身体をしてるぜ。胸がもうちょっと大きかったらいいんだけどよ」
男のそんな言葉に俺は思わず胸を右腕で隠した。
「ほぉ〜、そういう反応を見るとすっかり女が板についたようだな。そそられるぜ」
「うるさい」
俺の乱暴な言葉に妻の身体がビクッと動いた。
「やっぱり本当なの?」
ほとんど聞こえない小さな声で妻が呟いた。
「ああそうさ、さっきからそう言ってるだろ?この女がお前の旦那なんだぜ」
男は俺にのしかかり、俺の身体中に舌を這わせた。
「や...めろ.....」
俺は言葉では抵抗したが、身体は敏感に反応していた。俺の股間からはどんどん愛液が湧き出て、おしっこをしたようにビショビショになっていた。しかしそばに妻がいるため俺は必死に声を出すのを堪えた。
「お前の旦那が、俺に抱かれて喘いでいる姿をよーく見とけよ」
俺は男を迎え入れやすいように無意識に脚を広げた。身体は男のペニスを求めていた。
「ほら見てみな。お前の旦那は俺のチン○ンが欲しくて欲しくて自分から股を広げてるぜ。すっかり淫乱女になっちまったみたいだな」
男は俺の股間にペニスをあてた。
「でもすぐに期待に応えるのも芸がないかもな」
俺は股間からペニスが離れるのを感じた。
「えっ?」
俺は予想と違う展開に一瞬とまどった。
「旦那のやつ、俺がチンチ○入れないんで欲求不満みたいな顔してるぜ。本当スケベエなんだからな」
俺は本当に物欲しそうな顔をしていたんだと思う。
「もうちょっと待ちな。ちょっと味見をしたくなったんだよ」
男は俺の股間に顔をうずめた。
「ちょ...ちょっと待て」
俺はなぜか恥ずかしさを覚え、脚を閉じようとした。
しかし男の手でしっかりと押さえられており全く閉じることができなかった。
男の舌が俺の股間を舐め上げた。
「...くふっ.....」
俺は言葉にならない声を発した。
「艶っぽい声を出すねぇ。旦那はよっぽどクンニされるのが好きなようだな」
男は俺の股間に舌を這わせた。俺は恥ずかしさと気持ち良さで気が狂いそうだった。
「や...やめろ。やめてくれ。おかしくなる...」
男は俺の股間から顔を離し、ペニスを膣口にあてた。
「そいじゃ、旦那が大好きなチ○チンを入れてやるとすっか」
男がゆっくりと腰を突き出した。
「...んっ....」
男のペニスが入ってきた。
条件反射のように俺のオマン○が男のペニスを締め付けた。
「お前の旦那のオマ○コはいやらしくってよ、入れたらすぐに俺のペニスをむちゃくちゃ締め付けるんだぜ」
男が動き出した。男の動きに合わせて俺の乳房がプルンプルン揺れているのを感じた。それ以上に俺は下腹部から沸きあがってくる快感に身を委ねるしかなかった。
「あっ...あっ...あっ...あっ...あっ...あっ...あっ...あっ...あっ...」
俺は快感に声を出さずにいられなかった。
「ほ〜ら、見てみな。これがお前の旦那の今の姿さ。盛りのついたセックス大好きな雌犬みたいだろ?」
男の屈辱的な言葉は俺に届いていなかった。妻が傍にいることもどうでもよかった。俺はただただセックスの快感の渦に飲まれていた。
「どうだ、気持ちいいか?」
「ん...ん...ん...気...持ち.....いい.......」
条件反射のように答えてしまった。
「ははははは、とんだ旦那だぜ、なあ。よっしゃ、フィニッシュと行こうか」
男はさらに激しく俺を突いた。
「あっ..あっ..あっ..あっ..あっ..あっ..あっ..あっ..あっ..あっ..」
子宮を突かれる感じにどんどん昇りつめて行った。
「うおおおおお」
男が獣のように叫んだ。俺は子宮の中に液体が出されたのを感じ、男とともに絶頂に昇り詰めた。
俺の目からは涙がこぼれていた。経験したことのない物凄い快感のせいなのか妻の前で女として犯された屈辱のせいなのか自分でも分からなかった。
「久しぶりに実体に入って行動するだけでも疲れるのに、その上 短い間に3回もセックスすると、さすがに疲れるぜ」
そう言ったかと数秒で男は裸のまま寝入ってしまった。

俺はベッドから起き出した。3回目だというのに少なくない精液が放出されたのだろう。俺の中から男の放った精液が流れ出てきた。気持ち悪かったが、それより妻のことが心配だ。俺は魂が抜けたように床に転がっている妻を起こそうと手を取った。
「触らないで」
妻は俺を汚い物でも見るように言った。
「さっきは信じかけたけど、そんな馬鹿な話があるわけないわ。どうせ主人とアンタが組んで私を追い出そうとしているだけなんでしょ」
「いや、美鈴、...」
「下手な猿芝居はやめてよ。どうしてアンタみたいな女に私が美鈴って呼ばれなくちゃいけないのよ。そんなに出て行って欲しいんだったら、出て行ってあげるわよ。さよなら」
俺は何も言えなかった。所詮今の状態を理解するなんて無理な話だ。
妻は実家に戻った。
離婚届が送られてきたのは数日後のことだった。

俺はとにかくシャワーを浴びて身体を綺麗にしたかった。
元の自分の身体から出た物とは言え、精液がいっぱい身体についていたからだ。
シャワーを浴び、着る服を探した。俺の男の服は全く着ることができない。仕方なく、妻の服を身につけた。サイズは小さかったが、これしか着る物がなかった。

寝ている男のベッドに腰掛け、俺は一旦由梨の身体から出た。由梨の身体がベッドに横たわった。俺は元の自分の身体に入ろうとした。
やはり俺は元の自分の身体に入り込むことはできなかった。
仕方なく俺は由梨の身体に戻った。
男のそばにいて、隙を見つけて身体を取り戻すしかない。
そう思ったのだ。

翌朝、男が起きると、俺を抱き寄せ、こう言った。
「お前、ゆうべ俺に乗り移ろうとしただろう?生意気な奴だ。○※#$▲◇....」
男が何か小さな声で言った。
「何言ってるんだ?」
「な〜に。ちょっとしたおまじないだ。お前が悪いことをできないようにな」
その日も一日中男は俺を犯した。俺の身体は快感に素直に反応した。俺の元の身体は自分でも信じられないくらいタフだった。俺は何度も突かれた。その度に気を失うような快感を感じた。

男が眠ったので、再度身体に戻ることを試そうとした。
しかし、俺は由梨の身体からすら出ることができなかった。
(なぜだ?)
俺が焦っていると、男がパチッと目を開けて言った。
「俺がアンタの魂をその身体に閉じ込めてやったんだよ。アンタは当分その身体でいてもらうからな。お前の身体と俺の魂、そして、その身体とのお前の魂、この組合せのセックスの相性はこれまで経験した中では最高の相性の良さなんだぜ。本当に信じられないくらいだ。今お前の魂がその身体から出て行かれちゃせっかくの楽しみが半減するんだ」
俺は水沢由梨の身体に閉じ込められてしまった。

俺は水沢由梨として会社に行かせてもらうよう男にお願いした。
一応言い訳としてはいつまでもこんなことしているとお金がなくなるということ言った。
しかし本音は、一日中男と一緒にいて、ずっとセックスしていると、俺自身がおかしくなりそうだからだ。
さすがに男も金がなくなるのは困ると思ったのかどうかは定かではないが、俺が会社に行くことだけは許してくれた。

「おはようございます」
俺は水沢由梨として出勤した。服は出勤途中一度由梨の部屋に寄って着替えてきたのだ。慣れない化粧も適当にした。ファンデーションと口紅をつけたくらいだが、元々綺麗な顔立ちだったのでそれなりに見られるようになっていると思う。
俺は水沢由梨の席に座りパソコンを立ち上げた。
すると藤野がすぐに俺に話しかけてきた。
「ねえ、聞いた?木村課長やっぱりもう少し休むんだって」
俺が家から妻の振りをして人事に連絡したのだ。
「そうなんですか?」
「再起不能だったりして」
「そんなことないです。きっと元気になって出社されます」
「水沢さんの希望でしょ、それって」
俺たちがそんな話をしていると人事部長の沖田部長がやってきた。
「総務課の諸君、ちょっと聞いて欲しい。すでに知っているかもしれないが、木村課長が事故の後遺症でさらに一ヶ月間休むことになった。その後のことは容態を見て決めるが、もしかすると長引くかもしれない。しかし、その間も業務を止めることはできない。木村課長が休んでいる間は篠沢さんに課長代行を務めてもらうことにする」
篠沢は嬉しそうな顔をしていた。万年平社員の男が定年を目の前にして掴んだ役職だ。まさに有終の美を飾るといったところなんだろう。
「そういうわけで私が課長代行をすることになりました。皆さん、よろしく。木村課長が戻ってこられるまで力を合わせていきましょう」
いつも暗い男が妙に弾んだ声で話しているのが何か物悲しい。
仕事が始まると水沢由梨としての弱い立場を思い知らされた。
「水沢くん、コピーを8部頼む」
「水沢くん、お茶」
「水沢くん、これをワープロに入れてくれ。1時間で」
篠沢からこれでもかというくらい単純作業が降りてきた。
俺はその度に従順な女子社員の振りをしなければならなかった。
「水沢さん、なんか篠沢の奴、威張ってるよね?」
藤野が話しかけてきた。
「そうですか?頑張っておられるだけじゃないんですか?」
「いいや、あいつ絶対調子に乗ってるよ。こうしてみると木村課長の方が仕事を頼むときでも気配りがあったよね?」
俺は自分が褒められているのが単純に嬉しかった。
「そうですね」
「水沢さんが木村のファンになった理由が分かるような気がする。やっぱり30前半で課長になるだけのことはあるわね」
「そうですよね」
俺は水沢由梨として何とかボロが出ないよう意識して女性としての言葉遣いを心がけた。行動もばれないように女らしく女らしくと思いながら行動していた。おかげで夕方にはヘトヘトに疲れていた。

(あ〜、やっと一日が終わったぁ)
俺が帰ろうとすると藤野が声をかけてきた。
「ねえ水沢さん、週末何か用事ある?」
「はい、ちょっと」
「合コンがあるんだけど女の子が一人足りないのよ、あなただったら可愛いし男性陣も喜ぶと思うんだけど」
(女として合コンか、ちょっと面白そうだな)
と思ったが、そういう事態ではない。
「ごめんなさい。本当にその日は用事があるんです。また次の機会に誘ってください」
俺は会社を出て、水沢由梨のマンションに急いだ。
俺はマンションに着くと、下着や服や化粧品を鞄につめた。
それを持って俺の家に帰った。

男は電気もつけずに暗いままでテレビを見ていた。
「やっと帰ったのか?腹減ったぞ」
「はい、今から作ります」
「今から?どっかその辺で買ってこい」
「あっ、すみません、分かりました」
俺は今日一日言われたことに従順に答えていたので反射的にそう答えてしまった。しまったと思い男の顔を見たが、男は特に気にしていない様子だった。
俺は近所のコンピニに行き適当な惣菜を買って夕食の支度をした。
「飯食ったら、すぐにやるぞ」
「でも後片付けをしないと」
「そんなのいつでもいいから、さっさと来い」

男は俺を寝室に引っ張って行った。
こいつと出会い、短い期間に10回以上も抱かれていると、男に胸を触られただけで、俺の身体は火照り、下半身に湿り気を帯びるようになっていた。ほとんどパブロフの犬状態だ。
男に抱かれる嫌悪感は全くなくなっていた。
それどころか突かれることに喜びを感じていた。
しかしそれを男に覚られるのは屈辱的だ。
俺は必死に嫌がっている振りを続けていた。

行為が終わってから俺は思い切って合コンのことを切り出した。
「今日会社の者に合コンに誘われたんだ」
「合コン?何だ、それ?」
「男と女の出会いを設定する飲み会ってとこじゃないか」
「それぐらい知ってるぜ。そういう意味じゃなくって、どうして中身が男のお前がそんなものに行きたがるかっていう意味で聞いたんだ」
「別に行きたいって言ったわけじゃない」
「わざわざそんな話を出すってことは俺の許可が欲しいんだろ?いいぜ、行ってきな。お前もそんな身体に閉じ込められているんだ。たまには息抜きしないとな」
「いいのか?」
「やっぱり行きたいんじゃないか。いいぜ、別に。行ってくればいいさ」

早速次の日、藤野に週末の合コンに参加できるようになったことを伝えた。
「じゃ、具体的な場所が決まったらメールするね。相手は大企業の人らしいよ」
「はい、分かりました。それじゃ金曜日楽しみにしてます」
俺は心から合コンが楽しみだった。自分でもなぜだか分からなかったが。

毎日会社で女性として過ごしていると女性らしい仕草は確実に身についた。女性らしい言葉遣いも最初はたどたどしかったが、週半ばになるとほとんど自然に口から出るようになった。
それでも家であの男と接するときは意識して男であるように振舞った。頭の中で考えているときでも女言葉で考えるようになってしまっており、男っぽい口調にすることにかなりの努力が必要になっていた。

金曜の仕事が終わると、俺は合コンに行った。もちろん女性として参加するのは初めてだ。俺は朝からウキウキしていた。男どもは俺に対してすけべそうな視線を送ってくる。なぜかそれが嫌だとは思わなかった。
まず初めに自己紹介が始まった。
「水沢由梨。22歳です」
「由梨ちゃんって言うのか。可愛いよね。彼氏はいるの?」
「決まった人はいませーん」
「へぇ、じゃ僕たちにもチャンスがあるんだ。今日来て良かったぁ」
「俺も立候補するぞ」
「俺も」
俺は大した人気だった。しかし、それも最初のうちだけだった。女性としてどういう話をしたらいいのか分からなかったのでスムーズに会話できなかったのだ。やはり女性としてのバックグラウンドがないことが何となく男性陣に伝わるのかもしれない。フェロモンが出ている藤野たちの方がいいようだ。
俺はあまりアルコールを飲まないようにして、ホステス役に徹した。飲み物の注文を聞いたり、水割りを作ったりした。女性グループの幹事は藤野なんだが、彼女は男に囲まれて話に興じていた。
「ごめんね。何かずっとみんなの世話ばかりさせちゃって。楽しんでる?」
「あっ、はい、楽しんでます。それに私一番年下だから」
「こんな場で年齢なんて関係ないって。少しくらい放っておいたって、自分らが勝手にやるから大丈夫だって」
多田と名乗った青年は僕の隣に座った。
「それじゃ乾杯しよう」
「乾杯♪」
俺は目の前の生ビールを半分くらい飲んだ。
「へぇ、意外と強いんだね」
「いいえ、そんなに飲めません」
確かにこの言葉通りだった。元の俺にとってはほとんど飲んでないレベルしか口にいれてないのだが、水沢由梨の身体にすれば飲みすぎたようだ。多田としばらく話していたが、やがて襲ってくる睡魔に勝てずにうつらうつらし出した。みんなの声が遠くから聞こえる。
「大丈夫?」
「大好きな課長がいなくて寂しいからって飲み過ぎるなんて」
「とりあえず場所を変えよう」
「誰か由梨ちゃんを運んでよ」
意識がはっきりしない俺は誰かの肩に捕まって歩いていた。

二次会はカラオケに行っているようだ。
ぼんやりとした意識の中、誰かが歌っている声がする。
決して子守唄になるような歌ではなかったが、俺は子守唄にして眠っていた。

「もうそろそろ時間だから解散しようよ」
「誰が由梨ちゃんを送っていくんだ?」
「俺が送る」
「お前、送り狼になるなよ」
何だかそんなやりとりがしたかと思うと、俺は誰かの肩にもたれ掛かって歩き出した。

気がついたときにはどこかの部屋で横になっていた。
横にはコンパで一緒だった男がいた。名前も覚えていない。少なくとも多田ではなかった。
「やっと気がついたか。ここまで連れてくるの大変だったんだぜ」
俺は一瞬状況を把握できなかった。しかし男の胸板が見え、自分もブラジャーとショーツだけになっていることに気がつくと、一気にアルコールも醒めたような気がした。おそらく酔い潰れた俺はラブホテルに連れ込まれたのだろう。

「何をしたの?」
俺は布団で胸を隠しながら叫んだ。
「まだ何もしてないさ、まだな。それに入ろうって言ったの由梨ちゃんだぜ」
「嘘」
「嘘じゃないさ。ホテルのネオンが見えてきたら『疲れた〜。休んでいこ』って行ったんだぜ」
そう言われるとそんなことを言ったような気がする。俺がそんなことを考えていると、男は布団を一気に引っ張った。俺の手にあった布団は奪い取られ、下着姿の俺が男の目の前にあらわになった。
「上下ピンクで揃えるなんて、こういう事態を期待してたんだろ?」
「下着の色を揃えるなんて普通よ」
「まあそういうことにしとこうか」
そういうと男は俺の上に圧し掛かってきた。
「いやっ、やめてっ」
男は俺の両腕を押さえつけ、首筋に舌を這わせた。
俺は脚をジタバタして抵抗していたが、男の手が乳房に行くとあの男に仕込まれた条件反射が発動した。俺の身体は火照り受入準備ができてしまい、抵抗することができなくなった。
俺がおとなしくなると、あの男と同じような順序で攻めてきた。
(男って結局同じようなやり方しかしないんだ)
俺はなぜか冷静にそんなことを考えていた。
愛撫に感じているとフッと目の前からいなくなった。
枕元に置いてあったコンドームに手を伸ばしたのだった。
「心配するな、ちゃんとつけてやっから」
男は自分のペニスにコンドームをつけた。
「それじゃいくぜ」
コンドームのついたペニスは何となく冷たい感じがした。
(何もつけない方がいいな)
無責任にもそんなことを考えていた。男の持ち物は元の俺の物よりも小さいためか、男が動き出してもそれほど強く感じなかった。しかし、男はアッと言う間にはててしまった。
「へへへ、まあまあよかったぜ」
男は出してしまえばいいのかもしれないが、中途半端に欲情した俺には欲求不満だけが残った。
男は寝息を立てて眠ってしまった。俺は男を起こさないようにベッドから抜け出し、シャワーを浴びた。これから家に戻るにあたて、男の匂いを洗い流そうとしたのだ。あの男にこのことがばれたらと思うと、恐ろしい気がする。
シャワーを浴びると、服を着て軽く化粧をした。
「それじゃ」
俺は眠っている男に形ばかりの別れを言って、ホテルを後にした。

「ただいま」
相変わらず男は暗いままテレビを見ていた。
「遅かったじゃねえか。それじゃ早速やるぜ」
男は待ちかねたように俺を寝室に引っ張って行った。
「なんだ?シャンプーの匂いがするぞ。それに...男の匂いもする」
男は俺の顔に鼻を近づけ、クンクン臭いをかいだ。
「だって合コンに行ったんだもん、男の人もいるでしょ?」
俺は焦っていたので、普通に女言葉で言い返してしまった。
「それで気に入った男と一緒にホテルにでも行ったのか?」
「そ....そんなこと....していない」
今度は言葉遣いに気をつけて言い返した。
「それでそいつに抱かれてどうだった?うまかったか?」
「していないって言ってるだろ」
「お前、俺が魂になってどこでも行けるって分かってんだろ?」
男がニヤッと笑った。
「ま...まさか...。ずっと監視してたのか?」
「監視だなんて人聞きの悪いことを言うなよ。お前を見守ってやってたんだぞ。だから嘘をついても無駄だってこと。分かったか?」
男がどこまで知っているのか分からない。しかし、これ以上シラを切っても無駄だろうことは悟った。俺はこれ以上言い訳しないことにした。
「今度はだんまりか。まあいい。とにかくやろうぜ」
男は俺を裸にしてキスをした。俺は嫌がる振りをしていたが、内心では身体にくすぶっている欲求不満を解消してくれる期待感に満ちていた。もう下の方は湿り始めている。
「今日はやめた。気分が乗らない」
男は急に俺を突き放してベッドに腰掛けた。
「どうして?」
「お前のせいだ。お前が浮気したから全然チンポが大きくならないんだよ」
「......」
「したくったってこんな状態じゃできないだろ?それともお前が大きくしてくれるのか?」
男はベッドに腰掛けて俺の顔を見てニヤニヤしていた。
俺は男の前に跪いた。
「何しようって言うんだよ。まさかフェラチオか?元自分のチンポを銜えるっていうのか?そこまでして抱かれたいのか?ホント淫乱女になってしまったんだなあ、お前は」
男は俺に屈辱的な言葉を浴びせた。しかし俺の頭にあったのはこのモヤモヤした欲求を何とかしてほしいという一点だった。
俺は男のペニスに顔を近づけた。おしっこの匂いと生臭い匂いがした。
俺はペニスを手に取った。グニャリと感触だった。俺は両手をペニスを添え、思い切って先を舐めた。何とも言えない臭さが鼻をついた。覚悟を決めて口の中に入れた。口の中で舌を動かしていると少しずつ硬度を上げていくのが分かった。吸うとペニスが脈打つような感じだった。
「さすが元男だね。どうすれば気持ちいいかよく分かってるぜ」
俺の口の中で男のペニスが大きくなった。

男は俺の口からペニスを抜くとベッドに仰向けに寝た。
「さて次はどうする?俺は動く元気もないんだ」
俺は男の腰の辺りにまたがった。男のペニスを右手で固定し、そこにゆっくりと腰を下ろした。
「...ん...んん.....」
男のペニスがしっかりと俺の中に入った。子宮に当たっている。
「今日は積極的だねぇ〜。次はどうするんだ?」
俺は上下に腰を動かした。子宮が突かれるのが実感できる。
「おい、そんなペースじゃなかなか終わんないじゃないのか?」
男は俺の腰を掴むと上下に激しく揺すった。
「...ぁ...ぁ...ぁ...ぁ...ぁ...ぁ...」
「いいぜ、感じてきた」
男が放出したと同時に俺は身体を男の胸に預けて快感に身を委ねていた。
男は俺の髪を撫でながら言った。
「どうだ、よかったか?」
「ええ、とっても」
快感でぼぅ〜っとした頭で応えた。
「お前、俺が憑依できるってこと、知ってるんだよな。さっきの男のセックス下手だったろ?」
「ずっと見てたんでしょ?」
男は何も言わず変な間が空いた。そのときある考えが頭をよぎった。
「.....まさか?」
「分かったか?さっきの男も中身は俺さ。お前を欲求不満にするために下手にするのは大変だったぜ」
「わたしにフェラチオをさせるため?」
「別にそんなことまでは考えてなかったけどよ。お前が欲求不満になったらどうするかなと思ってちょっとした実験をしただけだ」
「ひどい...」
「ところで、さっきからずっと女言葉だけど、すっかり女になっちまったのか?」
「そんなことはない」
俺は口調を変えて言った。
「無理するなって。お前は会社に行ってる間、ずっと女として振舞わなくちゃいけないだろ。そんな生活が一週間も続いたもんだから、お前の仕草はすっかり女みたいになったよな。まさかこんな短期間に俺の狙い通りになるとは思ってなかったけどよ」
(会社に行くことを許してくたのはそういう狙いがあったの?)
そんなことに気がつかない俺も迂闊だった。
「今のお前を見てると、とても男の魂が入ってるなんて思えないよな。言葉遣いだって、無理して男の言い方をしようとしてるみたいだが、何かの拍子で女言葉になってるのはお前も気がついているだろう?素直に女になっちまいなって。その方がお互い楽しめるってもんだぜ」

男は俺の上に覆いかぶさった。
「もっと素直になってみろよ」
俺は無駄に頑張るのに少し疲れていた。もう男でも女でもどっちでもいいような気がした。自分の気持ちに素直に従おうと思った。
男は俺を寝かせ、乳房や乳首に舌を這わせた。
「...あぁ...いぃ....」
俺は素直に感じたことを言葉にした。
「そうだ、その調子だ」
いつもより執拗に男の舌が全身に這い回った。
「ねぇ...、早く...来て......」
俺は早く入れて欲しかった。
「何が欲しいんだ?」
「...あなたのおチン○ン」
「おれのチンポをどうすればいい?」
「....わたしの.....オマ○コに入れて」
「やっぱり女は素直じゃなくっちゃな。それじゃお望み通りに入れてやるぜ」
男のペニスが入ってきた。ついさっきセックスしたばかりなのにそれよりも感じる。
「あああ...すごい....」
男が激しく動いた。
「..ぁん...ぁん...ぁん...ぁん...ぁん...ぁん...わたしをメチャクチャにして」
男の動きは長い時間続いた。
「..ぁん...ぁん...ぁん...ぁぁぁ...もう...もうダメ....早く...来て......」
「よし行くぞ」
「来て─────────────────」
これまでも凄い絶頂感だと思っていたが、それ以上の絶頂感だった。
死んでしまうのかと思った。俺は男の腕の中で痙攣していた。
.....少しずつ意識が戻ってきた。男のペニスが俺の中で小さくなっている。男が抜き出そうとしたが、俺がそれを止めた。
「もう少しこのままでいて」
「本当に女になっちまったみたいだな」
「わたしは女よ。あなたに開発されちゃったの」
男は俺のリクエストに応えてしばらくつながったままでいてくれた。
やがて男のペニスが自然と抜け出てしまい、男は俺の横に仰向けで横になった。
「綺麗にしてあげる」
俺は小さくなった男のペニスを銜えた。男のペニスは二人の粘液が混じっておりベトベトになっていた。俺はそれを丁寧に舐めあげた。ペニスだけではなく袋も綺麗に舐めた。
「おい、どうしたんだよ」
「だってこの子がわたしを気持ちよくしてくれるんだもん。感謝を込めて綺麗にしてあげたかったんだ」
「素直になれとは言ったが、いきなりそこまで変わるとはな」
「今まで結構我慢してたんだもん。今日からは女としてしっかり愛してほしいの」
俺は男の前に完全に屈した。自分が男であったプライドを捨てさったのだ。

俺は毎日会社から帰ると男に抱かれる毎日が続いた。
俺にとってそんな生活がなくてはならないもののように感じていた。


コンドームをつけない、いつも中出しというセックスを続けていたため、当然のように、俺は妊娠した。
妻とは結婚して10年間、子宝に恵まれなかったが、こういう状態になって子宝に恵まれるとは皮肉だ。
男は俺の妊娠に気づくといかにも興ざめという表情をした。
「そうか。妊娠しちまったか。妊娠すると身体も何かと微妙に変化するから、最高の相性も終わりだろうな。ちょうどこの身体にもお前の身体にも飽きてきたから、出て行って次の身体を捜すことにするぜ。お前にかけた術を解いてやっから二人で幸せに暮らしな。こう見えても俺は優しいんだぜ、じゃあな」
俺の身体がバタッと倒れた。
俺は由梨の身体から抜け出そうと念じると、簡単に抜け出すことができた。
半年振りに元の身体に戻れた。しかし、何とも言えない違和感があった。由梨の身体に馴染みすぎたのかも知れない。
目の前の由梨の身体がゆっくりと起き上がった。
「あっ、課長。わたし、どうしてたんですか?何かずっと眠ってたみたい」
俺は自分の身体に戻れて喜んでいたが、水沢由梨にこの事態をどう説明すべきか迷った。
しかし嘘を言っても仕方がないので、結局事実を教えた。
俺の身体を悪霊に乗っ取られたこと。
俺の魂を由梨の身体に閉じ込められたこと。
俺が由梨として犯されたこと。
それが原因で妻と離婚したこと。
「じゃ、課長の奥さんとはその悪霊のせいで離婚したんですか?」
彼女はもっと取り乱すかと思ったが意外と冷静だった。もしかすると由梨の身体の中で事態を感じていたのかもしれないなと思った。
「そうなんだ。それから...」
俺は言いよどんだ。じっと由梨のお腹の辺りを見た。
由梨はその意味を理解したようだった。やはり何となく事態が分かっていたんだろう。
「私のお腹に課長の赤ちゃんが宿ってるんですね?課長はこれからどうされたいんですか?」
「会社に復帰して、何とか元のような平和な毎日を取り戻したいと思ってる」
「そういうことじゃなくって、お腹の子供のことです」
「養育費はきちんと支払う」
「課長は今独身なんですよね?」
「そうだったな。それじゃ、法的にもきちんと父親になって一緒に育てていこう」
「そんな言い方しかできないんですか?」
「ごめん、素直になれないのが悪いところだな。......君を愛している。君と結婚したい。そして親子3人で暮らそう」
「こういう状況ですからそうした方がいいんでしょうね。私も課長のことはずっと憧れてましたし、こちらこそよろしくお願いします。絶対に幸せにしてくださいね」
由梨はニコッと笑った。まさに天使の微笑だった。
俺は思わず由梨を抱きしめた。
「課長、苦しいですよ」
俺は由梨にキスをした。由梨の身体はどこをどう触ったら感じるかは熟知している。俺の愛撫に由梨は大きな声をあげていた。首を振りながら「もうダメ」「おかしくなりそう」を何度も言った。俺は俺として初めて由梨と結ばれた。
「課長ってセックスが上手ですね。わたし、こんなに感じたの、初めてです。絶対に幸せにしてくださいね、約束ですよ」
お世辞かどうか分からないが、由梨はそう言って幸せそうに笑った。
俺はその笑顔に幸せにすることを心の中で誓った。
同時に幽体離脱することも自ら封じた。

次の日から会社に復帰した。
幸いにもまだクビにならずにすんでいた。
すぐに由梨との婚姻届を役所に出し、会社にもそう届けた。
由梨は寿退社ということになった。


妻となった由梨は可愛い女の子を産んだ。
さらに二人目もお腹に入っている。

俺は幸せだ。
美人の妻と可愛い子供たちに恵まれて。

しかし、日に日に自分の身体に対する違和感が強くなっていった。
もう一度女としてセックスしたいという欲望がどんどん強くなっているのだ。
もう爆発寸前だ。
抑えきれない。
俺は男に抱かれたかった。
突かれたかった。
俺の魂はそのための身体を求めていた。
自分の欲望を満たすために、妻を、子供を、そして自分の肉体を捨てる日がやってくることを俺は、俺の理性は、怖れていた。
しかしそんな理性など消し飛んでしまう日はもう目の前に迫っていた。


《完》


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