多重憑依
作:リイエ



「は……?」
 あまりにも想定外な事が起きると人は呆けてしまうというが、それは本当なんだなと思えてしまうくらいに唖然としてしまった。
「うわっ、あちっ!」
 開いた口からこぼれ落ちたタバコが手の甲に落ちてしまう。反射的に痛みを感じ払ってしまったが、慌てて地面に落ちたタバコを拾い上げる。
「くそっ」
 自分のやってしまった馬鹿げた姿に、つい汚い言葉を吐いてしまった。
「ふぅ…。しかしこりゃ、一体?」
 改めて監視用モニターを見つめなおす。そこに映っている不可思議な現象を見直すために。


 「最近京子がおかしいの…」
 「珍しく俺に話しかけてきたと思ったら、なんだよ突然」
大学を卒業した後、万年引きこもりの俺は家族からずっと敬遠されていた。収入自体はデイトレード等で儲けていたので追い出されるということは無かったが、厄介者扱いを受けているのは間違いなかった。
 父さんは俺を見ると、ゴミを見るような目で見てくる。確かにその判断は間違ってはいないがちょっと家族として、稼ぎを持っている人に対しての目ではないだろうと思ったりもするが。
 そんな中唯一京子や母さんは俺の事を気にかけてくれていた、色々な付き合いもあって全面的に庇ってくれる事は少なかったが、二人が俺の味方であってくれている事はとても嬉しかった。

しかし、あまり母さんから話しかける事が無かったのに急に相談をされたと思ったら、京子の事か。
「思春期なんだし、色々あるんじゃないのか?」
俺がそっけなく言うと、母さんは俯きながら首を振った。
「最近一緒にお風呂に入ろうとか言ってくるの、一緒に入ったときに私の体を見る目つきがまるで男みたいな感じがして…」
「今まで入ってなかったのに急に言ってくるってのは確かにおかしいな」
あいつももう○学生最上級学年なわけだし、去年もう一人では入れるからとか言っていた気がするが。
「確かにおかしいな、んで俺に相談したって事はなんかして欲しいって事だろ?」
「こんな事本当はあなたに頼んじゃいけないんだろうけど、京子を一日中見張って欲しいの」
「なるほどね。じゃあ、ある程度はじけた事もしても責任は取ってくれよ母さん」
「えぇ、わかったわ…。」
母さんがうなずくのを確認すると、俺は財布を持ちだし出かける準備を始めた。
「なぁ母さん、京子は今いないんだよな?」
「え?えぇ、確かいないと思うわよ」
「どのくらいで戻ってくるかわかる?」
「えーっと、確か今日はクラブ活動があるとかで、6時くらいに帰ってくると思うけど」
俺がそういうと母さんは、時計を見ながらそう言った。
「オーケー、じゃあ今から京子の部屋に監視カメラを設置するから、その機材を買ってくる」
「えっ!?」
「ん、聞き取れなかった?監視カメラだよ、監視カメラ」
「そんな、そこまで…」
「人に見られていないときこそ、本性は見えるからね。これを了承してくれないと、先に進めないんだけど」
母さんは少し考えた後に、ゆっくりとうなずいた。
「じゃあ行ってくるから、明日からは京子を尾行して動向を探るよ」
「あっ…、えぇお願いね」

母さん、なんか後悔をしてる顔だったな。
まぁ、俺に頼んだ時点でこうなるのは想像して欲しいところだったんだけど。
マイクとカメラを買ってきた俺は、京子にはわからないような位置に数箇所仕掛け自分の部屋に戻った。
「ふぁ〜、いつも通りの京子じゃねーか」
特に何も起きないまま、ビデオ撮りに切り替えようかと思ったそのとき、京子がありえない言葉を口にし始めたのだ。

「へへ…、一日のストレス解消はこれに限るぜ」
京子はそういうと、自分の胸の突起をその小さな手でいじり始める。
「んぁっ! こんなに小さくても、はっ、感じるんだから…あっ、女って本当、んっさいこっ…あんっ」
この年齢にしてはあまりにも早熟すぎる行為、幼い中にも成長が見えてきた普段とはまったく違う口調。
「あっ、あっ、あっ」
京子は胸から、自分の性器へ手を伸ばし始めた。
「最初は、はっ…まったく…んぁ、未経験…んっだったのに。今…じゃ、こんな、あふっエロエロな身体に…ひっ」
片方は胸をいじり、もう片方は秘所に指を差し込みながら快感をむさぼる京子。
「あっ、イッちゃう、ひっ!だめっだめ!イッちゃう、イッ、イク―――――!!!!!!!!!!!!!!!」
両足をピンッと伸ばしながら、京子は身体全体をビクンビクン痙攣させそのまま気を失った。


「ふぅ、いやしかし…」
俺は再びタバコに火をつけ、先ほどのビデオを見直した。
家族が官能的な行為、そして違う口調…。
一体京子に何が起きているのだろうか。

次の日、京子にばれない様に学校に登校するのをつけはじめた。
さすがに学校内に忍び込むのはまずいかとは思ったが、入らないわけにはいかずしぶしぶ進入することに。
所詮は○学校、セキュリティーが甘いのですんなりとはいれたが…どう控えめに見てもビデオカメラを持った不審者、見つかれば即御用だな。
体育倉庫、更衣室、そして京子の近くの女子トイレにヤマを張り、それぞれビデオカメラを仕掛ける。夜に回収しに行かなければならないのがきついが、ここにいるよりリスクは低いだろう。
家に戻った俺は、再度妹の部屋に入った。
「なにかおかしくなったきっかけや、京子が持ちそうにない物とかは無いのか」
変貌には必ずきっかけがある、どう見てもあれは多重人格障害を患ってそうな感じだったがそれを認めたくない俺がいた。
「だってな…京子がまさか」
しかし、その考えは危ない。すべての可能性を考えつつ京子の部屋を探索したが、特にめぼしいものは見当たらなかった。
「まぁ、物で性格が変わるわけもねーよな」
「さてと」
俺は1階に降り、母さんに話を聞くことにした。
京子が帰ってくるまでは、まだたっぷり時間もある、この手の話は今するしかないだろう。
「母さん」
「どうしたの風太?」
「いや、えーっと」
話そうとは思ったが、こんなことどう切り出せばいいのかと、頭をかきながら黙ってしまう。
「京子の事?」
「ん…まぁ、そうなるかな」
「なに、何かわかったの?」
「と、いうより質問なんだけどね」
「え、えぇ…」
「これはまじめな質問だから、怒らないで聞いてくれよ」
「わかったわ」
俺がそういうと、母さんの顔が真剣になる。
「え…っとさ、そのさ…」
「勿体つけないで、早く言って頂戴」
「ん、わかった。単刀直入に聞くけど、京子が昨日自慰をしていたんだ。それもかなり頻繁にやっているような感じだった」
「え…」
「それでさ、なにかそういう予兆とかあった……って母さん!?」
俺の言葉がよほど刺激的だったのか、母さんはその場で倒れこんでしまった。
すんでで、抱きかかえる。
「大丈夫母さん!母さん!?」
やっぱり言わなきゃ良かった…。
布団を敷いて倒れた母さんを寝かしつけた後、途中だった家事を一通り終え自分の部屋に戻った。

ダンッッ!!
「あー、何だこれ!!一体何が起きているってんだよ!!」
あまりに理解不明な現象に感情に任せて机を叩く。
タバコに火をつけ、冷静に考え始める。
「そろそろ京子が帰ってくる時間だな、軽く話してみるか」
数ミリも吸っていないタバコを灰皿に置き、俺は1階のリビングへ向かった。

「ただいま〜」
元気な声と共に、ドアを勢いよく開ける音がする。
相変わらずおてんば加減は変わってないように思えるが。
2階に上がるにはこのリビングを必ず通るはず、普段いない俺がここに座っていることでどんな反応を見せるかな。
「おかーさーん?」
そういうと同時に、リビングのドアが開く。
座っているのが母さんだと思っていたらしく、笑顔で入ってきたのだが俺の顔を見たとたんに急に表情が消えてしまう。
そのまま、俺なんかいなかったように2階へ上がろうとしはじめた。
「いやいやいや、俺に挨拶もなしなのか?」
声をかけたことによって、少し立ち止まったが、やはり何も反応が無くそのまま2階へ上がってしまった。
すぐ後に、バタンと扉の閉まる音が聞こえた。
「なんだあの態度は」
初めて取られたあの態度、まるで父さんが俺を見るような目で見ていた気がする。
『おにーちゃーん!!』
『ははは!何だい京子〜』
ウフフフウフフフ…っていけないいけない。
さすがにここまでとはいかないが、ある程度は懐いていてくれたのに。
それにあの目が気になるな、男特有のあの視線。
「男特有?」
何か引っかかるものはあるが、もやもやは取れない。
そういえば昨日母さんが言っていた言葉…。
「くぁ〜、ここのところ寝てないし、夜まで寝るとするか」
考えても仕方が無いので、仮眠を取るため自分の部屋に帰ることにした。

深夜、家族全員が寝静まっていることを確認した後、俺は京子の学校へと向かう。
「最近の学校は警備会社が管理しているんだな、やべぇやべぇ」
朝はゆるいと思ったセキュリティーだったが、それは見当違いだったみたいだった。
しかし、警報も無事ならずに、ビデオカメラを回収する。

「これには何もない、これにも」
体育倉庫、女子更衣室には特に何も映っていなかった。
「これに無ければ無駄ぼ…おっと」

女子トイレ、しかもビデオの時間を見ると授業中と思える時間に京子ともう一人の女の子が映っている。
「さて…」
「えぇ、さっちゃん…こんなところにきてどうするの?」
京子は不安顔でさっちゃんと呼ぶ、女の子を見る。
しかし、さっきの態度とは大違いだな。
「えぇ、さっ…むぐっ!!ん、ぷはっ!!な、なにをするの!?」
「何でもいいじゃない、気持ちいいことをしよう」
「え、身体が!?お、おい!お前はな…」
そういうと、女の子は動けなくなった京子を個室に引きずり込んだようだ。
な!?
「や、やめろ…、いやだ、あっがごっ!!」
ズボボボボボボボボボ!!! ニュルンッ!
奇妙な音が流れた後、個室のドアが静かに開いた。
女の子の姿は見えずに、なぜか京子だけの姿しか見えない。
「うふふふ、これからは私が…あんっ!」
そういいながら、京子は自分の胸を愛撫し始める。

あの音の正体は一体…京子の言葉の意味は。
俺は頭が回らないまま、すでにビデオ再生が終わったモニターを見続けていた。



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