絶望の果ての新生
作:ラウル



200X年6月7日

僕は須藤 遥(すどう はるか)。名前のせいでよく女性に間違われるが男だ。
去年東大を卒業して、今は某大手メーカーに勤めており今年で25になる。
収入は人並み以上だが彼女は居ない。もっとも、作る気も無いが……

この名前と身長165に対して体重が137もある体系のせいで、小中高大と男子女子問わず常に虐めの対象となっていた。
現実の女性に対する恐怖からか、所謂オタク向け作品に手を出し、オタクになるのに時間は掛からなかった。
もっとも、現実の女性に未練が無いわけでは無い。
休日には制服が可愛いと有名な学校へ出向き、コッソリと撮影するのが趣味になっていた。
こうする事で、今も会社で続く辛い嫌がらせや苛めにも耐えることが出来ていた。
今日までは……


「クビ、ですか?」

出社した直後に、僕を呼び出した部長が告げた。

「すまないがね、君は特に部署内で評判が悪い。風呂に入って無いだの歯は磨かないだの君の悪い噂は後を絶たんのだ。
噂が部署内だけで済んでいればよかったが、上の耳にも届いてしまったようでね、そんな人間は即刻クビだと……」

「そんな!!毎日風呂は入ってますし、歯も磨いてます。根も葉もない濡れ衣だ!」

僕の反論に、しかし部長は

「解っている。だが君の評判は取引先でも悪いのだ。容姿が気持ち悪いだの、
無茶な話だが大手からの話では私にはどうする事もできん。退職金はちゃんと出すから、な!」

部長もこれ以上関わりたく無いようで、言い終えるとそそくさと部屋を出て行った。

僕が自分のデスクに戻ると、僕の私物等が全て机の上に置かれていた。呆然とした僕の横を通ったOLのアケミちゃんが

「あ、遥さん。今日で退職と聞いたので私物全て出しときました〜今までお疲れ様でした〜♪」

見下すような目で、しかし声は明るくアケミちゃんが告げる。僕のデスク近くの同僚もニヤニヤとこちらを見ていた。

「おー遥〜お疲れ。いやー残念だなぁ、同期の奴が一人減ると辛いよ〜」

ワザとらしく、同期の上山が声を掛けてくる。言葉は残念の様だが、口調から大変喜んでいるのは直ぐに解った。
何せ、会社内で僕に嫌がらせをしていたのは他ならぬこの上山なのだから。
だが、僕には人を殴る度胸も無く……用意されたダンボールに私物を詰め終えるとそのまま部署を出た。
出るときに同僚達の「何あれ〜愛想ない〜」や「いいじゃん、やっと辞めさせられたし」だのの言葉が聞こえた。

家に着いた僕は、呆然としながら時間を過ごした。今までクビにならなかっただけでも奇跡だと言う気持ちと、
何故僕がこんな目にと言う気落ちが入り混じり、僕の心が絶望の淵に沈む。
ふと時計を見る。午後3時半、学校が終わり始める時間だ。僕は一時の安らぎを求めてある学校へ向かうことにした。

僕の家から電車で約30分の距離にある、名門お嬢様校で有名な私立セフィール女学園。
幼稚舎から大学まで一環して受けられる、某一部で有名な文庫のような学校である。
この学校の制服はまた可愛く出来ており、僕が一番好きな制服だった。
ワンピースタイプにバレーシューズ風の革靴と正に某文庫の様な制服だ。
幼稚舎から高等部まで制服のデザインは同じで、リボンがそれぞれ違うデザインになっている。

セフィールの最寄り駅で降りて、後は徒歩で5分程。途中の大きな交差点で赤信号に捕まる。
前からは、帰宅部なのだろうセフィールの女生徒が何人か駅に向かって来ている。
その中の一人に僕の目が止まった。セフィールの制服に中等部のリボンを付けた、
ダークブラウンの髪をツインテールにしており、髪留めに緑色のリボンを付けた少女。
参考書だろうか?分厚い本を読んでいたが、僕の視線に気付いたのか、一瞬僕の方を見るが直ぐに本に目を戻す。
そうこうしている内に歩行者信号が青に変わり僕は歩き始め……

「事故だぁぁぁぁぁ!!」「車が歩行者に突っ込んだぞ!!」「救急車呼べ!早く!!」

気が付いたら僕は宙に浮いていた。僕の眼下では、赤信号で車が突っ込んで来たのだろう、
ヘッドライト付近が拉げたダンプがあり、その横には何人もの人が倒れていて……その中に僕もいた

「え、僕は……死んだのか?」

俗に言う幽体離脱と言う物ならまだ体に戻れるかもしれない。
即座に考えた僕は自分の体を目指そうともがき、しかし、僕の中にどす黒い感情が芽生えた。

「無理に自分の体に戻らなくても良いんじゃないのか?どうせあんな体……」

僕は周りを見回したが、僕以外に幽体離脱している人間はいないようだ。
次に僕の本体の周り、事故に巻き込まれた人達を見回した。老若男女、15人ほど巻き込まれたようだ。
他に、巻き込まれた人を助けようとして、電話をしたり体を抱えようとしている人達もいた。
僕はその中から一人に狙いを定めた、先程のセフィール中等部の制服を着た少女。彼女も巻き込まれたようだ。
僕は幽体でもがきながら彼女に近づく。近くで見れば更に可愛い顔だった。僕は意を決して彼女に飛び込んだ。

「う・・・ん、・・・・・・・は!?」

気が付いた僕は、声や体の感覚が何時もと違う事を感じた。
起き上がり下を向くとセフィール制服が見え、僅かながら胸の膨らがある。
手を見るとほっそりとしており、何時も見慣れた手とは全く違った。
恐る恐る胸に手を当ててみると、「ん・・・あ」僅かながらの痛みと気持ちよさに呻き声が漏れた。

「おい君!大丈夫か!?」

何時の間に到着していたのか、救急隊と思しき男が声をかけてくる。
もう少しこの気持ちよさに体を委ねたかったが、端から見たら怪しい動きを続ける訳にもいかない。
私は頷くと、体や頭に痛みは無いかなど確認された後、念の為に近くの病院へ搬送される事となった。

病院に向かう救急車の車内で、僕がこの少女の事を少しでも調べようと思うと、僕の知らない情報が頭に流れ込んで来た。

夏目 美由(なつめ みゆ)、セフィール女学園中等部1年の13歳。趣味は読書と少しアニメも好き。
セフィールには幼稚舎から通っていて、仲の良い友達も多い。
家族は父と母に加え、違う学校に通う双子の姉が一人。父は某大手電機メーカーの常務で家は中々の金持ちのようだ。

僕は思わずニヤリと口元を緩めた。どうやらこの子の、美由の記憶を好きに呼び出せるらしい。
美由の家族とどう接するか迷ったが、これで心配ない。僕の記憶も残っているから勉学も当分心配無いだろう。
仮にも東大を出た僕だ、名門とは言え中学の勉強では遅れは取らないだろう。
おっと、病院へ付いたようだ。これから精密検査を受けるだろうが体に違和感は無いし、骨も折れて無いようだ。

「ふふふ、美由ちゃんには悪いけど残りの人生は僕が楽しむよ」

ポツリと呟く。そうだ、今日から僕は女子中学生なんだ。



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