機械のカラダ
コンクリートの上に敷かれたシートの上、一人の少女が座らされていた。
少女は目を瞑っている。眠っているようだった。
少女の前では、頭の真っ白な老人が説明書を読みながら作業をしていた。
老人は説明書を読む目を止めると、ため息をついた。
しばらくすると、たちあがって少女の耳の後ろを探した。
少女の耳の裏には上手く隠されたボタンのようなものがついていた。
老人はそのボタンをゆっくりと押す。
少女には何の反応も無い。
しかし老人は少女の閉じられた瞼をじっと見つめていた。
60秒ほどたった頃、ゆっくりと少女の瞼が開かれる。
少女は何度か瞬きをすると部屋の中を見回した。
眼球は左に向き、右に向き、上に向き、下に向く。
眼球の動きは老人の顔を向くと止まった。
少女はゆっくりと唇を動かす。
「あなたはだーれ?」
少女はすこし幼なさが残る可愛らしい声で老人に問い掛けた。
「ワシは、フクロウというものじゃ」
老人は応えた。
「フクロウというものじゃ・・・?」
少女は確認するようにつぶやいた。
「『というものじゃ』はいらん」
「わかった・・・、わたしは・・・?」
少女は言いかけて、考え込んでしまった。
「ふむ、自分のことがわからぬか、仕方ないがそうプログラムされておるからな。お前さんはワシに買われたロボットじゃよ」
「ロ・・・ボット・・・?」
少女はゆっくりと聞きかえした。
「『ロボット』じゃ、区切らなくていいわい」
「わかった・・・、なぜわたしはかわれたの?」
「ワシの体はだいぶガタがきている、悪いがお前さんの体をワシの新しい体にするんじゃよ」
「からだにする・・・?」
「ワシがお前さんの体にはいって、お前さんになるということじゃ」
「アナタが・・・ワタシになる・・・」
「そうじゃよ」
「じゃあワタシはアナタになる・・・?」
「まあ、この機械を使えばそうなっちまうな」
老人の使おうとしている機械は人間と人間を入れ替えるために販売されている機械だった。
老人は大きな傍らに置いてある大きな箱から真っ白な長いケーブルといくつかの機械を取り出した。
「ひとつ・・・おねがいがあるの」
少女は老人の背中を見つめながら言った。
「なんじゃ?」
老人は作業する手を止め少女の次の言葉を待った。
「このカラダ・・・、きれいにつかってね」
「わかった」
老人は応えると少女の頭と自分の頭に器具をセットした。
おわり
一言
わかりにくいので、説明を。
この娘は「娘のいない父親用」として発売されているロボットで、この老人は安売されていたこのロボットのボディを本来の
目的とは違う自分の肉体用にしようとしているわけです。
スイッチを入れたのは体を取り替えるために必要な機械は本来は人間用なので、悪用を避ける処置としてが相手の意識がある状態じゃないと作動しない安全装置がついているからです。