『お面』

作:ひよとーふ




祭囃子の鳴り響く神社の境内の奥、しめ縄で囲まれた小さな建物の前に、
男の子と女の子が何やら言い争いをしていた。

「ねえ、やめようよ千奈津ちゃん」
「何言ってるのよ、あなたもこの中に興味あるんでしょ!」
「でも……、ここには近づいちゃいけないって言われているし…」
「意気地なし!もうわたし一人で見てくる」
そういって女の子が、しめ縄飾りをはずして中に入った。

ガシャン!
大きな音がして、中から慌てて女の子が飛び出してくる。
「急いで! ここから逃げよう」
「えっ?何したの千奈津ちゃん?」
「ちょっと中の箱を壊しちゃったの。大丈夫、逃げればばれないって」
「ちょっと、だめだよ……」
男の子の声を無視して女の子は神社から遠ざかっていった。

ニ…ガ…サ…ナイ……
後ろから何か声がする。
しかし男の子はそれに気づかず女の子を追いかけていった。




――ベッドから飛び起きる。
「夢か……」
僕は小学校時代の夢をみていた。
「懐かしい夢をみたな。神社のお祭りなんてあれ以来行ったことないや。あっ!そういえば今日は……」
今日は毎年恒例の近所の神社でのお祭りが開催される日だった。
そんな日だからこそさっきのような夢を見たのだろうか。

僕と千奈津ちゃんは家が近所の幼馴染。
小学校、中学校、それに高校まで同じ学校に通っている。
昔はおてんばな千奈津ちゃんだったが、高校生になった今ではすっかりおしとやかに、そしてかわいくなっていた。
僕はそんな彼女を幼馴染ではなく異性として好きになっていた。
しかし、幼馴染という壁はそう簡単には壊せず、告白も出来ないでいた。

「そうだ!今日は夏祭りなんだし!」
僕は千奈津ちゃんをお祭りに誘うことにした。
この機会を利用して僕は千奈津ちゃんに告白するんだ!
僕は携帯電話を取り出し千奈津ちゃんにメールをした。


夕暮れ時。
「おまたせ〜」
待ち合わせ場所にやってきた千奈津ちゃんは、
赤い浴衣に身を包んでいた。
「どうかな…?」
「えっ、えと、その……、似合ってるよ」
いつもと違う浴衣姿の千奈津ちゃんに僕は見とれていた。

「懐かしいよね、神社の夏祭りって。今日は誘ってくれてありがとね」
「う、うん」

「それじゃあ、行こうか」
「あっ、ちょっとまって。浴衣じゃ歩きにくくて」
そう言って千奈津ちゃんは手を差し伸べてくる。
僕はその小さな手を掴んでゆっくりと歩く。
恥ずかしくて、多分僕の顔は真っ赤になっているだろう。


「久しぶりに来たけど、昔と変わらないね」
「うん、お店とか昔のまんまだ」

僕と千奈津ちゃんは屋台を見て回った。
たこ焼きをほおばる千奈津ちゃん。
金魚すくいに夢中になる千奈津ちゃん。
告白すると決めたからだろうか
そのかわいい仕草をまともに見ることができない。

そうこうしている間に
僕たちは神社の境内の奥まで来ていた。

「昔、お祭りのときは二人でよくここで遊んだよね、なつかしいな〜」
「うん、ほんとだね……」
二人でしんみりとする。

告白するなら今しかない。
僕は千奈津ちゃんと向き合う。
「千奈津ちゃん!あの……聞いてほしいことがあるんだ」
「……なに?」
「僕、千奈津ちゃんのこと……」


「……いらっしゃい」
「うわぁ!?」
「きゃあ!?」
突然声をかけられる。

いつの間にか僕らはお面屋の前にいたみたいだ。

「こ、こんなところにも、お店があるんだね」
「そ、そうだね」
途端に気まずくなる。

「みてみようよ」
そう言って、千奈津ちゃんは店に近づいた。


「うわー、いろんなお面が売ってるんだね」
「うん…」
この店の人さえいなければ……
少し恨みがましく思いながらも、僕は売られているお面に目を向けた。
たしかにいろんなお面が売っているけど、
有名なキャラクター物のお面がまったくない。
すべて見たこともないオリジナルのお面ばかりだ。

「ねえねえ、このお面かわいいよ〜」
「ええ〜!?何だか怖くない?」
千奈津ちゃんが狐のようなお面を指差す。
「ええ〜、そうかな?」

僕には不気味に見えるが、千奈津ちゃんがかわいいと言うのなら…。
「それじゃ、買ってあげるよ、千奈津ちゃん」
「ほんと? ありがとう!」
僕はお金を払う。
「まいどあり〜」



「それでさっきの話の続きは、何だったの?」
千奈津ちゃんは手に持っていたお面を顔に付け、顔を隠しながら僕に尋ねてきた。
「どう?かわいいでしょ?……え?…あれ?」
突然、千奈津ちゃんの体が震える。

「どうしたの?千奈津ちゃん?」
「あぅ、い…、いや……、何か…、何かがわたしの中に入ってくる……」
千奈津ちゃんその場にしゃがみこんだ。

「だ、大丈夫!?」
「やめて…、出て行って…、あっ、いやあ、あ、ああぁ……!!」
大きく体を震わせた。


しばらくすると千奈津ちゃんはお面を顔の横にずらして、立ち上がった。
「ふう、やっと体を動かすことができるぜ、……って何だ?この声、それにこの服…女?」
千奈津ちゃんが何か不思議なことを言っている。

「うお!? 胸がある?女になってる?」
そういっていきなり胸を揉み始めた。
「あふぅ……、これが女の胸の感覚…」

「そうすると下も……」
股間に手を持っていく。
「うわ、やっぱりあれがない。これは変な感じだ」

千奈津ちゃんのおかしな行動に僕は呆然と立ち尽くしていた。
そんな僕に千奈津ちゃんが気づいた。
そして、今までに見たこともないような妖しい笑みで僕に近づいてくる。

「よお、にいちゃん、俺の、この体の女の彼氏かな?」
「千奈津……、ちゃん?」
「そうか、この体は千奈津ちゃんというのか、……まああんたも災難だな」

千奈津ちゃんは男口調で話し始めた。
「俺は、このお面に魂を封じられていたんだよ、それでこの女…千奈津ちゃんがお面をかぶったことでこの体に憑依したみたいだな」
「憑依……?」
「まさか女の体になるとは思わなかったな」
いやらしい顔をして胸を揉む。

「ち、千奈津ちゃんを返せ!」
「やだね、女とはいえせっかく体を手に入れたんだ。返すわけにはいかないな」
「くっ……」
どうしてこんなことに……。

「まあ、俺の願いを聞いてくれたら返してあげないこともないぞ」
「え!?」
「ちょっとついて来い」
そういって僕の手をとり、神社の繁みに連れて行く。



「よし、ここでいいかな」
振り返り、上目遣いに僕を見つめて
「……ねえ、わたしとイイことしよ」
突然女言葉で喋りかけ、僕に体を摺り寄せてくる。
いい匂いが僕の鼻をくすぐる……。

「……い、いいことって?」
「男の子なんだから、わかるでしょ、えっちなこと」
「……! そんなことできるわけ…」
「この体を返してほしくないのか?」
「でも…」
「ひどい……、わたしの体、見ず知らずの男に盗られたままでいいんだ…」
「う…、千奈津ちゃんのまねをするな!」

「なあ、にいちゃん。お前この女が好きなんじゃないのか?俺が憑依してる間はこの女の意識はないから別に気にする必要は無いんだぜ」
執拗に千奈津ちゃんの胸を僕にあててくる。
「チャンスだろ、今はこの体、好きにしていいんだぜ」
千奈津ちゃんの体を好きに……、えっちすることが出来る…。
もし今日の告白を断られていたら、こんなことは一生出来ない……。

「ほらこうやって胸を触って」
そういって千奈津ちゃんは僕の腕を掴み、手を浴衣の中へ入れる。
柔らかい胸の感触が僕の手に伝わる。
「ほら揉んでよ」
僕の腕を掴んだまま、僕の手を胸の上で動かす。
思わず千奈津ちゃんの胸を掴んでしまう。
「あぁん、そう…、その調子」
千奈津ちゃんが気持ち良さそうにしている……。

僕の腕から手を離し、そのまま僕に抱きついてくる。
そして、顔を近づけてきて……。

「ちゅぷっ、ちゅぱ……、んぅ…」
濃厚なディープキスをうける。
僕も侵入してきた舌に、自分の舌を絡ませる。

「ちゅっ、ぷはぁ!」
絡まりあった唾液が糸を引く。
「……ねえ、しよっ!」
上気した顔で上目遣いにお願いされる


もう僕は千奈津ちゃんが憑依されていることなんてどうでもよくなってきた。
大好きな千奈津ちゃんとえっちすることができる。
ずっとずっと望んできた願いが、今叶えることができる。


「千奈津ちゃん!!」
僕は、千奈津ちゃんをおもいっきり押し倒した。
「ふふ、ようやくやる気になったみたいだな」

僕は千奈津ちゃんの着崩れた浴衣から見える白い胸を強く揉む。
「ああん…、ちょっと、乱暴にしないで」
そのまま胸に顔を埋め、胸に吸い付く。
「ひゃあ、もう、赤ちゃんじゃないんだから……、ひゃあん」
千奈津ちゃんが気持ちよさそうな声をあげている。
「あふぅ……、オンナの…胸は…こんなにも感じるのか」

はだけた浴衣からは細い足が見え、ショーツか丸見えになっている。
僕はショーツを脱がしにかかる。
「きゃ……、おまえ…、ちょっと落ち着け…、きゃあ、ひんやりする…」
僕は、千奈津ちゃんのうっすらと湿っているショーツを脱がした。


「これが、千奈津ちゃんの……」
僕は千奈津ちゃんのアソコに指を入れる。

「い、イタっ、デリケートなんだから…、もっと…やさしく…」
ゆっくりとなぞるようにアソコを刺激させる。
「あん…、いいよ……、やさしく……、ひゃう…!」
千奈津ちゃんのアソコが濡れてくる。

僕は、すっかり大きくなったアレを取り出す。
「ふふ、浴衣は着たままでするんだ。着衣がいいのか。このヘンタイ」
そんな千奈津ちゃんの言葉を無視して僕は千奈津ちゃんに挿入する。
「ひ…、ひぅ……、あ、ああん…、挿入ってくるよう」
僕は腰をゆっくりと動かす。


「…うぐ、……痛い、このカラダ…、処女なんだ」
僕は千奈津ちゃんの奥までアレを入れる。
「そんな、奥まで……、痛い、痛い…、あぁーー!」
何か奥を突き破った感覚。
千奈津ちゃんは痛みで顔をゆがませ、涙を流していた。

「グスっ、ああ…、ゆっくり動いて」
千奈津ちゃんのお願いに僕は出来るだけやさしく動く。
「うん、…その調子、ああん…、まだ痛いけど…」
千奈津ちゃんが段々と艶っぽい声をあげる。


「ああん……、イイ…、これが……オンナの快感、カラダ…カラダが溶けていくよぅ……」
腰を動かすたびにちゅぷちゅぷと音を立てる
「お…、奥まで……、中で……かき回されて、ふぁっ……、キモチ……イイ…」
「はあっ、はあっ…、千奈津ちゃんの中……、あったかくて気持ちよくて…」
「ああん……、もう…、何も…、考え…られない……」

「くうっ……、千奈津ちゃん…、もう、でるっ…」
「いいよ……、わたしの…、中に…いっぱい……だしてぇ…」

「うっ、でる!!」
「わたしも……、もう……、ふぁ……、イ…、イクっ……、あ…、あああぁ〜〜!!!!」
僕は千奈津ちゃんの中にたくさん精をぶちまけた。



「はあ、はあっ…、僕はなんてことを…」
僕の下で呼吸を整えている千奈津ちゃんを見て僕は後悔した。
今の千奈津ちゃんは千奈津ちゃんではないのに…。
そそのかされたとはいえ、えっちをしてしまった……。
告白すらしていないのに…。



千奈津ちゃんはしばらく呆然としていたが、突然あたりを見回し、
「あれ……、わたし、なんでこんなところで寝て……、…!? きゃああああああ!!」
「千奈津ちゃん?」

あいつは約束どおり体を返してくれたみたいだ。
でもこんなタイミングで……。

混乱する千奈津ちゃんをなんとか落ち着かせ、事情を話した。
「そう、そんなことが……。わたし、えっちをして……。初めてを……奪われちゃったんだ」
「ごめん、千奈津ちゃん……」
「……もし憑依されたのが私じゃなくて他の女の人でもこんなことした?」
「…しない。千奈津ちゃんだったから……」

少しの沈黙。
「あの、千奈津ちゃん…。こんなことになった後だけど……」
あのとき途中でさえぎられた言葉。

「……好きだ!!付き合ってください」

長い長い沈黙。
下を向いていた千奈津ちゃんが、顔を上げ笑顔で答える
「……うれしい!ずっと言ってくれるのを待ってたんだよ!」




それから僕と千奈津ちゃんは付き合うことになった。
一緒に高校に登校し、時にはえっちなことも……。
結果的に千奈津ちゃんと親密になれたきっかけを作ってくれた、
あいつには感謝しなければいけないのかもしれないな。



次の日、すっかりお祭りの片付けも終わった神社に
一人の女子高生と中年の男がいた。
「はい、お面」
女子高生が、中年の男、お面屋の店主に狐のお面をわたす。
「すっかりかわいくなったねえ、もと男だとはおもえないよ」
「もう、男だなんて、今のわたしは、女子高生の千奈津よ」
ニヤニヤしながら女子高生が答える。
「完全に記憶を手に入れたみたいだな」
「ええ、イッたことで魂と脳ががっちりとかみ合ったみたい。生活にまったく支障は無いわ」

「しかし、あんたには感謝しないとな。こんな気持ち良いカラダになることができたんだし」
女子高生が両手で揉みながら男言葉で話し始める。
「そうだ、お礼にオジサンもえっちしてあげようか」
そう言って千奈津は制服のスカートを少しめくる。
「いや、遠慮しとくよ」
「なーんだ、残念。それじゃこれから部活だから。サヨナラ、おじさん」
短い制服のスカートをひるがえし、千奈津は神社の階段を降りていった。



「さて、ずいぶんと遅くなってしまったが、お面の封印を解いた罰を受けてもらうよ。千奈津」
狐のお面に男が語りかける。
「次に誰かが封印を解くまで君の魂はずっとお面に留まったままだ」
そういってお面を箱にしまい、境内の奥の建物の中に入れ、しめ縄で周りを囲んだ。
そして男の体は霞となって消えた。



――どれくらいの時間がたったのか。
建物の前で男女の声が聞こえる。
「ねえ覚えてる?昔、千奈津ちゃんがここでいたずらしたこと」
「え!?お、覚えてないわ、ここ、近づかないほうが良いんじゃない」
「あの時は僕がそう言って意気地なしって怒られたんだよねー。ほらたしかあの時はこうやって…」
建物の周りを囲んでいる、しめ縄飾りがはずれる音がした。



おわり



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