肝試し

文・絵/甘野氷


友人二人と一緒に肝試しに行こうという話が持ち上がり、
ここらへんでも有名な廃病院へ行くことになった。
幽霊は信じないというオカルト否定派の三島洋平(みしまようへい)。
それに対し、少しだけ霊感があると自称する、
気さくな性格の少女、水沼明梨(みずぬまあかり)。
そしてこういう話が大好きな俺だ。

三島が運転する車で病院の近くにある駐車場へ車を停め、
そこから歩いて5分程で例の廃病院についた。
今回の目的地は3階の手術室。
ここが廃病院になるきっかけでもある、手術中の医療ミス。
詳細は明らかではないが、手術を担当する医師が誤って血管を傷つけてしまったという。
その時の被害患者である男性が、その手術室に出るという。

「さ、はりきっていこー!」

明るく声をあげた明梨が俺達の一歩前を歩き病院の中へ入っていく。
霊感を持っているにも関わらずこのテンションだ。毎回のことながら感心する。
中は当然電気がつかない為真っ暗で、
外から入ってくる月の光で、かろうじて辺りが確認できるくらいだ。
俺には霊感などないが、こういう場所独特の重苦しい空気は感じることができる。
だがそういうスリルも悪いものでもない。

「んー、1階には誰もいないみたいだよ」
「当たり前だ、霊なんて恐怖が生み出した幻なんだから…」

そう反論した三島の声は、僅かに震えていた。
幽霊の存在を信じなくとも、普通の人ならこの状況は恐いものだろう。
試しに背後に回り肩を掴んでみたら「ヒイィィッ!」と声を出して驚いた。
その時の無邪気で笑う明梨の笑顔は今でも忘れられない。

2階もこんな調子で進むが、やはり何事もない。
三島もこの雰囲気には慣れてしまったのか、
恐がることもなくなって、俺としては少し物足りなかった。
しかし3階へ上がる階段で、明梨の足が止まる。

「この先、いるよ」

一言だけそう告げて、またゆっくりと階段を昇りはじめた。
この言葉により三島は3階についてからは今まで以上にビクビクしていた。
オカルト否定派の三島はどこへいってしまったのやら……。

辺りは静寂が包み、足音だけがコツコツと響いている。
そしてようやく問題の手術室へとたどり着く。
明梨がゆっくりと扉を開けると、部屋の中心にぽつんと置かれている手術台が目に入る。

「ここだよな、問題の場所」
「うん、凄い嫌な感じするもん」
「よし、ちょっと待ってて」

俺は鞄の中からデジカメを取り出す。

「じゃ、頼むよ三島」

三島にカメラを私、明梨と俺は手術台をバックにピースサインをとる。
毎回こうやって、肝試しにやってきたことを記録しているのだ。
三島は心霊写真になることを恐れているのか、自分が映ろうとはしない。
真っ暗なこの部屋が、フラッシュで一瞬だけ照らされる。

「よし、ありがと」

俺が感謝の言葉を述べるが、三島に返事はない。
それどころかいつもに増してガクガク震えながら、俺達の後ろを指差す。
俺と明梨は、同時にゆっくりと振り返る。

そこには不敵に笑みを浮かべた男性の生首が、プカプカと浮いていた。

「うわあああああああっ!!」
「きゃああああああっ!!」

俺達3人はパニックなり、とにかく早くこの場所から逃げようと必死に走った。
その時のことはよく覚えていないが、
気付いたら俺と三島は、1階の入り口で息を切らしながら立っていた。

「み、水沼さんは……?」

ふと三島がそんなことを呟く。そこで初めて明梨がいないことに俺は気付いた。

「わからん……。逃げてる時にはぐれたのかも。」
「そ、そんな……。」

三島は俺以上にガクガクと震えていた。
霊を信じてないものが、霊を目撃してしまったのだ。
その時のショックは俺よりも遥かに大きいものなのかもしれない。

「俺、明梨を探してくるよ、三島は車の中で待っていてくれ
 病院の外ならきっと安全だから」
「ええっ!!ちょっと待ってよ、一人になるの……?」
「ついてきてもいいけど、まだ3階に行くことになるぞ」
「……わかった、車の中で待っているよ」
「ああ、もし明梨が戻ったら俺に電話してくれ」
「うん……」

こうして俺はまた一人で病院の中の探索を始めた。
1階2階を探したが明梨は見つからなかった。
そして3階、階段を昇ってすぐのところで明梨は倒れていた。

「あか……」

俺は明梨を呼ぼうとしたが、嫌な気配を感じて息を止める。
よく見ると、仰向けに倒れた明梨の上に先ほどの男が乗っかっているのだ

「んっ……ん……」
「抵抗するな……もう逃がさないぞ……」
「やだ……助けて……」
「ようやく波長の合う者と出会えた。これでまた生き返れる……!」

男の体が球体上のオーブへと変化し、そのまま明梨の口の中へとゆっくり入っていく。

「いや………誰……か…………」

オーブが完全に明梨の中へと入っていったと思うと明梨はゆっくりと起き上がる。
目を覚ました明梨に声をかけようとするも、
俺はすぐに口を閉じ、物陰に隠れたまま明梨の様子を窺った。
というのも、その時の表情といったら、
いつもの無邪気な笑顔とはかけ離れた邪悪な笑みをしていたからだ。

「くっ……くっはははは!!あはははは!!」

声は確かに明梨なのだが、その笑い方はまるで別人。
人によっては奇声ともとれる笑い声に言い知れぬ恐怖を感じる。

「ついに……手に入れたぞ!今日からこれが俺の体だ!!」

明梨はそう言いながら自分の胸を揉みしだく。



「あはっ、柔らかくて気持ちいいな、これ」

胸の感触を楽しんでいるのか、楽しそうに、そしていやらしく笑いながら行為は続いた。

「さてと、そろそろ本格的に始めるかな」

ようやく胸を揉むのをやめたと思ったら、スカート、パンツと次々に脱いでいく。
下半身裸の状態となると近くの椅子に腰掛けて、
綺麗なピンク色をした性器を、指でそっとなぞった。

「あっ……これいいかも……」

指を上下に動かしながら、時折甲高い声を洩らす明梨。
興奮しているのか顔を紅潮させながら、ひたすら性器を弄り回している。
情けない事に俺も興奮して、下半身を硬くさせながら明梨をただ見つめていた。

「んうっ……こんなに気持ちいいのか……男よりも全然……」

濡れ始めてきた明梨の性器からはクチュクチュと水音が聞こえていて、
いつの間にか指も中へと進入していて、上下運動から前後運動へと切り替わっていた。

「さ、最高だこの体……っ!あああんっ!!もうイきそうだ……っ!!」

指の動きは更にエスカレートし、
明梨の表情も快感のせいで壊れてしまっているかのようだった。
舌を出して涎をたらし、真っ赤になった顔のまま自慰を続ける。

「ああああんっ!!いいよぉぉっ!!イクッ!!イクッ!!あああああっ!!」

ついに明梨は果ててしまい、気を失ってその場に倒れた。
俺は少ししてから濡れた明梨の体を綺麗に拭き、服を着せて、
背負って三島の待っている車の中へと連れて行った。
三島には恐怖のあまり気絶してしまったのだろうと説明しておき、
あの時のことは俺の中だけに隠しておいた。
明梨にとりついていたであろう霊はあの時いなくなったのだろう。
気がついた時の明梨はすっかり元通りになっていた。
少し雰囲気が変わったような気はしたが、
記憶もしっかりしていたから大丈夫だと安心していた。

そして時が流れ、今回のことなどみんな忘れかけていた頃に明梨から電話が入った。

「ねぇねぇ、今度SEXしようよ」

明梨からの電話で唐突にそう言われた時はびっくりした。
俺と明梨はそんな関係じゃない。付き合ってもいなければSEXなどしたことがない。
あの時明梨が狂ったように自慰をしていたあの光景。俺はまたそれを思いだしてしまった。

「急に何言ってるんだよ明梨……俺たちそういう関係じゃないだろ」
「だめなの?私のこと嫌い……?私の体ってそんなに魅力ない……?」

違う。明梨はこんな媚を売るような声で喋る奴じゃない。

「お前、少し変だぞ?もしかして……あの病院の!!」
「あははははははははははっ!そんなこと気にするなよ!!
 あの後お前も俺の体でオナニーしてただろ!俺の体に汚い精液かけてただろ!?
 隠すなよ、俺は知ってるんだ!」
「で、でたらめを言うな!!明梨の体から出て行け!!」
「いやだね、こんな気持ちのいい体捨てられるか!
 もうこれは俺のものだ!俺が水沼明梨なんだよ!!あはははははは!!」

電話はそこで途切れた。
怒りによるものか恐怖によるものか、手足はブルブルと震えていて、しばらく動けなかった。
そして、結局俺はこのあと何もできず、明梨とは連絡をとることもなくなった。

それからしばらくして他の知り合いから、あかりは三島と付き合ってるって噂が入ってきた。
恐らく三島は気付いてないのだろう。
あの明梨はもう違う誰かだということに……。



終わり
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