みるく・とらぶる

作:toshi9
挿絵:jpegさん



『ルルルルル、ルルルルル』

 ポケットのスマホが鳴る。
 俺はポケットからスマホを取り出すと、掛けてきた相手を確かめた。

「はい、もしもし……ああ、みるくか、え、すぐ来い、お前なぁ……わかったよ、行くよ」

 俺はスマホを切るとトントンと階段を降り、隣の家、北沢みるくの家に向かった。

 俺は三谷浩太郎。17歳。とある高校に通っているごく普通の高校2年生だ。だが俺の日常が普通なのかというと、実はそうでもない。というのも隣に住んでいる幼馴染の北沢みるくは、何処から見付けてくるのか時々怪しげなものを手に入れてくるんだが、俺はいつも彼女に実験台にされてしまう。
 そんなもん断ればいいんだが、いつも断りきれずに、結局ひどいことになってしまうんだ。

 ロングヘアのかつらを被せられて全く取れなくなってしまったこともあるし、ダイエット健康食品というのを食べさせられて女性のようなほっそりした体型になってしまったこともある。……この間は肌が若返るという変な薬を飲まされた挙句、幼児にされてしまい、彼女にオシメを取り替えらる羽目になってしまった。

「今日も多分変なものを用意してるんだろうな、はぁ〜〜〜」

 昔のひどい記憶を思い出しながら俺は北沢家の玄関を開けると中に入った。

「おーいみるく〜」
「浩太郎、上がって〜」
「ほーい」

 彼女は両親と大学3年の姉の4人暮らしだが、どうやら今日は彼女一人らしい。俺は彼女に言われるまま2階の彼女の部屋に上がった。

「やっ」

 椅子に座ったままにこっと手を振る制服姿のみるく。その足首には包帯が巻かれていた。

「やっじゃないだろう。今日は何だよ。またろくでもないもの買ったんだろう。全く何でそんなぽんぽんと妖しげなものばっかり買うんだか。付き合わされる身にもなってみろよな」
「まあ座って座って」

そう言いながらみるくは俺にベッドに座るように促す。
女の子のベッドとは言っても小さい頃から行き来している俺は何の気兼ねなくベッドに寝転がった。

「は〜、今日はどんな無理難題が出てくることやら」
「まあまあ、浩太郎にはいつも感謝してるんだから」
「こんなことで感謝されたくないね」

 そう言いながらちらりと床に目をやると、案の定彼女の足元には真新しい箱が置かれていた。

「ね〜え〜、浩太郎」
「そんな猫撫で声出しても駄目だ。全く今度は何だよ。もういやだよ俺」
「お願い」
「やだ」
「こんなに頼んでも」
「いやなものは、い・や・だ」
「そっか、ふーん、じゃあこれ学校でばら撒いちゃおうかな」

 みるくは胸ポケットから写真を取り出すと、指に挟んでひらひらとさせ、俺に渡した。
 それは幼児になった俺がおもらしして、オシメを取り替えられている写真だった。

「ば、馬鹿、やめろ」

 慌てて上半身をベッドから起こして写真を取り上げようとするものの、みるくはさっと隠してしまった。

「じゃあ、お願い」

 いつもこうだ。結局俺は受けざるを得ないことになってしまう。

「うー、わかったよ。で、何すればいいんだ」
「実は浩太郎にこれを着てみてもらいたいんだ」

 彼女が床に置いてある箱の中から取り出して広げたもの、それは全身タイツのようなものだった。しかも顔も全て覆ってしまうタイプ。深夜番組で見たことあるけれど、よくこんなもの見つけてきたもんだ……




「何だよそれ、全身タイツってやつかい。お前ほんとどこからそんなもの見つけてくるんだよ」
「えへっ、これはネットのあるサイトで見つけたの。とっても面白いんだよ」
「何だよ面白いって」
「ま、まあいいじゃない。ほら早く着てみてよ」
「しょうがないなぁ」
「あ、それからこれって服を全部脱いで着なきゃだめだからね」
「おいおい、裸かよ、全く・・・わかったよ、じゃあちょっとあっち行っててくれよ」
「あら、ここにいちゃ駄目」
「当たり前だろう」
「だって、あたし浩太郎のオシメだって取り替えたんだよ」
「それを言うなって。あれはお前の陰謀だろうが」
「陰謀だなんて、失礼ね。不幸な事故じゃない」
「原因はお前だろうが」
「……てへっ♪ じゃあ、あたし隣のくるみ姉さんの部屋で待ってるからさぁ。着終わったら声掛けてね」

 みるくは照れたように舌をぺろりと出した。

「笑って誤魔化すなよ。じゃあ行った行った」

 みるくが部屋を出ると、俺はやれやれと思いながらも着ていた服を全部脱いで彼女が置いていった全身タイツを広げてみた。それは肌色の何の変哲もないタイツだが、奇妙な感触をしていた。きめが細かくて、まるで人の肌を触っているような感じだ。

「このタイツって何だかまるで人間の皮みたいな感じだな。それにしても、これってどうやって着るんだ。大体ちょっとサイズが小さいんじゃないのか」

 広げたタイツをよく見ると、背中の後頭部に小さなファスナーの取っ手が付いていた。そしてその下には背中から腰の部分にかけて、かすかにラインが入っていた。

「うーん、これを下ろせば良いのかな」

 俺はその取っ手を持つと、ファスナーをシャっと下ろしてみた。すると確かに背中の部分がぽっかりと開いた。

「どうやらここから身体を入れて着るみたいだな。それにしてもきつそうだな。どれどれ」

 俺は両手で開いた部分をぐっと広げてみた。すると見かけはしっかりしていそうなのにぐいぐいと広がっていく。

「へぇ、これなら何とか着れそうだな」 

 俺は手で広げると、右足をその中に入れた。そして左足も入れるとストッキングを穿くような要領で、足の部分をフィットさせていった。そしてずずっと両手で腰のところまで引き上げる。タイツは小さ目できつそうに見えたが内側はすべすべしているし、よく伸びた。おかげで無理なく引き上げることができる。
 両腕も中に入れて腕の部分に入れ、指先までしっかりと馴染ませる。首から下がすっぽりとタイツの中に入った俺の身体は上半身も下半身も指先も白っぽい肌色のタイツに包まれていた。

「うーん、何か変な感じだな。しかしこれって体のラインがもろ見えじゃないか」

 自分の体を見下ろすと、肌色のタイツ越しに股間がもっこりと膨らんでいる。その格好悪さにうんざりしながらも、俺は胸に垂れている頭の部分を持ち上げて頭をすっぽりと入れてみた。顔がすっかり布地で覆われているのに外が見えるのかと心配だったが、タイツの生地越しの視界はややぼんやりとしてはいたものの、意外とはっきり見ることができた。

「へぇ、何も見えないんじゃないかって思っていたけど、結構見えるもんなんだな」

 全身タイツをすっかり着終えた俺が妙に感心していると、みるくがドアの外から声を掛けてきた。

「ねえ、もう終わった?」
「ああ、着終わったよ。あとは背中のファスナーを上げれば終わりだ」
「じゃああたしが上げてあげるよ」

 そう言いながらみるくが入ってきた。

「ひゃあ、全くののっぺらぼう。何か気持ち悪〜い」
「お前が着ろって言ったんだろうが」
「へへっ、悪い悪い。じゃあファスナー上げるよ」

 俺の背中に回ったみるくはファスナーの引き手を持ってにや〜っと意味ありげに笑っていたが、俺にはそれに気づく術もなかった。
 みるくが勢いよくファスナーを引き上げる・・・と背中でぷちっと変な音がした。

「おい、今の音何だい」
「え? 何でもないよ。ほら浩太郎見てごらん」

 音はファスナーの引き手が外れた音だった。俺の背中でみるくは慌てた様子で外れた引き手をそっとポケットに隠していたのだが、その時の俺には何が起きたのか気づくべくもなかった。

 みるくは姿見の前に俺を立たせた。そこにはのっぺらぼうで全身がつるっとした肌色一色の怪しげな人物が立っていた。

「これって俺か?」

 我ながら妙な感じだった。

「さてと、浩太郎。それじゃぁこれからあたしの言うことに全部『はい』って答えるのよ」

「何だいそりゃ」
「ほら、『はい』っていわなきゃ駄目でしょう」
「はい」

 みるくは何か説明書のようなものを読みながら、ごにょごにょと口の中で呪文のようなものを唱えている。俺はえも言われぬ不安感に刈られた。

 こいつ何を始める気だ。

「浩太郎。あなたはこれからあたしの言うことに従うのよ」
「……はい」
「あなたは三谷浩太郎、そうよね」
「はい」

 するとその途端、俺の体に変化が起こった。少し窮屈に感じていた体全体が圧迫感から解放される。と同時に視界が急にはっきりした。
 姿見に映っているのは全身タイツに覆われた俺ではなく、裸の俺だった。隠す間もなく股間の一物もみるくの前に晒される。

「え? ちょっと待て」

 だが既にみるくの視線は俺の股間のモノを捉えていた。みるくのほほがちょっと赤らんでいる。

「ヘ〜、浩太郎のって結構大きいんだ。あのアスパラガスがよく育ったもんね」
「ば、馬鹿」

 俺は股間を片手で隠しながら慌てて服を着ようとした。

「まあまあ、これからが面白いんだから」
「何だよ、全く。そもそもタイツは何処に消えたんだ」
「もう一度はいって答えるのよ。あなたは北沢みるくよね」
「は?」
「北沢みるくよね」
「はい……?」

 その途端に俺の体に変化が起こった。急に背が低くなったような感じがしたかと思うと、髪がざわざわと伸び始め、ふと視線を自分の身体に下ろすと、胸が膨らんでいる。

「な、なにぃ」

 思わずそれを両手でぎゅっと掴むと、痛みが走った。本物?

「い、痛っ」

 ま、まさか、股間は……
 恐る恐る片手を股間に当てると、そこにあるはずの俺の一物は無くなっていた。のっぺりしたその部分には代わりに一筋の溝が刻まれている。

「これって、お、お、おんな」
「そうよ、ほら鏡を見てみなさい」

 俺が鏡のほうに振り向くと、そこには裸のみるくが映っていた。
 小柄でほっそりとしているが、胸と腰は結構大きい裸のみるく。
 俺が胸から手を離すと鏡のみるくも同じように胸から手を離して、かわいい両胸の乳首が顕わになった。頬をつねると頬をつねる。

「これって、俺か」
「そうよ、浩太郎はあたしになったんだよ」
「あたしになったんだよって、何なんだよこれって」
「へへっ、秘密。でも何だか変な感じだね、あたしがもう一人いるなんて」

 俺の後ろにみるくが立つと、鏡には制服を着たみるくと裸のみるく、二人のみるくが映っていた。



「さあて、浩太郎のここ、浩太郎はどういう風に感じるのかな?」

 みるくは後ろから俺の脇の間に両手を差し入れると、両胸を手の平できゅっと包み込み、中指と人差し指で乳首を挟み込んだ。途端にぞくぞくとした快感が俺の中を突き抜ける。

「うひやっ、何だよ」

 思わず手を払いのけようとするが、彼女は手を離さない。それどころかゆっくりと俺の胸を揉みはじめた。

「うん、この感触、あたしの胸と同じだなぁ」

 なおも揉み続けるみるく。

「ひ、あ、や、やめ……くぅっ」
「あ〜、浩太郎ったら感じてるんだ」
「ば、ばかそんなこと、あ、あん」
「ふふっ、駄目だよ誤魔化しても。ほら大きくなってきている」

 彼女が指で挟み込んだ俺の胸の乳首はどんどん大きくなってきていた。

「何なんだ、こ、この感じ」
「それが女の子の感じ、あたしの感覚よ。ほらここはどうかな」

 みるくは右手でなおも俺の右胸を揉みながら、左手を胸から離すと俺の腹からへそと這い下ろしていき、股間にその手の平をぴったりと合わせた。みるくの手の平のひんやりとした感覚が股間の微妙な部分から伝わってくる。

「な、何するんだ、もうやめ、ひ、ひぃ」

 みるくはその時中指をゆっくりと今の俺の股間に出来ている溝の中に差し入れていった。

「ほら、あたしいつもここをこうしているのよ。ふふっ、まるで自分のをしているみたい。どお、気持ち良いでしょう」
「そ、そんな、やめ、ひ、いや、もう……」

 俺は体から力が抜けていくのを感じ、堪らずがくっと膝をついてしまっていた。
 何か熱いものが体の奥から出てくる、尚もみるくが両手の指を動かすと、段々俺の股間からはじゅっじゅっっといやらしい音が出始めていた。

「やめ、やめて、く、くぅ、駄目だ、は、はぁ〜ん」

 俺は気が遠くなるような快感に襲われそのまま全身の力が抜け、結局みるくにもたれかかるように倒れてしまった。



「……ぶ、ねえ、だいじょうぶ」
「う、うーん。一体何がどうなって……くちゅん」

 気が付くとみるくが俺の肩をゆすっていた。

「浩太郎ったら感じやすいんだね」
「だってお前」
「そっか、浩太郎は女の子の感じって初めてだったんだね」
「女の子の感じねぇ」

 俺はさっきの感覚を思い返していた。確かにそれは男のものとは全く違う感覚だった。あれが女の子の感じ……ん? 待て、何で俺が女の子に、みるくになっているんだ。

「お、おい、みるく、何で……」
「ほらいつまでも裸のままじゃ風邪ひくでしょう。早くこれ穿いてよ」

 俺の言葉を遮るようにみるくが差し出したものは、白いショーツだった。

「え?」
「浩太郎は今はあたしなんだから、あたしの服を着なくちゃね」
「おい、お前何言って……」
「はいはい、とにかく説明は後、ほら穿いて穿いて」

 俺はみるくの勢いに気圧されて受け取ったみるくのショーツを両手で広げてみた。小さく見えたそれは、手で広げるとぐっと広がる。

「これってみるくのショーツ……」
「あたしが穿きなさいって言ってるんだから穿いていいのよ、ほら早く」

 俺はちょっと躊躇しながらも、ゆっくりとそのショーツに足を通した。そしてするすると引き上げていく。腰まで引き上げたその真新しいショーツはぴたっと俺の下半身にフィットした。
 俺は今みるくのショーツを穿いている。そう思うと思わず赤面してしまう。

「はい、次はこれ」

 それはブラジャーだ。これも清楚でシンプルな白だ。

「そんなもん付け方なんかわからねえよ」
「そうか、そうだよね。じゃああたしが付けてあげるね。ほら両手を通して」

 みるくが俺の胸をカップにフィットさせて背中でパチッとブラのホックを留める。

「はいはい急いで」
「お前何を考えて……」
「はいこれ着て」

 それは白のブラウスと青いチェックのプリーツスカート、そう、今みるくが着ている女子の制服だ。

「俺にそれを着ろと」
「うん。実はね、浩太郎にあたしの身代わりをやってもらいたいんだ」
「身代わりぃ?」
「うん。今日の午後学校で試合があるんだけれど、足首を挫いちゃって」

 そう言って、みるくは自分の左足の包帯を指差す。

「それで代わりに試合に出てもらいたいんだ」
「女子部の試合か」
「うん。女子部って選手層が薄いから、レギュラーのあたしが抜けたら今日の対抗戦ってとても勝てないのよ。男子部副部長の浩太郎だったら大丈夫でしょう」
「大丈夫ってなぁ、そんなことのために俺をこんな姿にしたのか」
「うん、だって今日の試合はどうしても負けられないんだもん」
「お前なぁ、それって何か間違ってるぞ。それに何でこんなことができるんだ」
「あなたは北沢みるくですかって聞いたら、浩太郎がはいって答えたからでしょう」
「それは、お前がはいって答えろって言うから」
「そうだよ。だから浩太郎はあたしになったの」
「おい、それって答えになってないぞ」
「実はさっき浩太郎が着たあのタイツはね、タイツを着た人、つまり浩太郎の姿を自由に変えられるの。タイツを買ったあたしが言う通りの人間にね」
「な、なにぃ!」
「タイツを着た後で裸になったのはタイツが消えたからじゃなくって、あたしが浩太郎ですかって聞いた問いに浩太郎がはいって答えたから。だから今でも浩太郎はちゃんとあのタイツを着ているんだよ」
「信じられない」
「今浩太郎があたしの姿になっているのが何よりの証拠よ」
「うーん」

 俺は腕組みして考え込んでしまった……っと胸が腕を押し上げる。うーん。

「じゃあ今日の試合に出たら元に戻してくれるんだな」
「うん♪」
「……わかったよ」
「やったぁ! 浩太郎が出てくれれば絶対大丈夫だね」
「おだてるなよ。だいたいなぁ、俺を身代わりに出そうなんて間違っているぞ」
「だってぇ」

 みるくはちょっと伏目勝ちになった。今日の試合ってよっぽど負けたくないんだろうか。

「はぁ〜まあいいか」

 俺はみるくに渡されたブラウスを着てスカートに足を通した。そしてスカートのファスナーを上げると腰でホックを留める。
 何だか下半身が頼りないなぁ。

「はい、ソックス」

 ブラウスとスカートを着ると、みるくから紺のソックスを渡される。

 床に座って片足ずつそれを穿く。

 鏡をちらっと見ると、股を広げてソックスを穿いているのでショーツが丸見えだ。
 俺の視線に気がついたのか、みるくはちょっと顔を赤らめてそっぽを向いた。

「浩太郎、恥ずかしいから座る時はちゃんと股を閉じてよね」

「そんなこと急にできるかよ」
「さあて、リボンはあたしが付けてあげるね」

 みるくが襟の下にリボンを回して付ける。
 続けてベストとブレザーを着せられた。

「できた。ほら、どお」

 みるくは俺の肩に両手をやりながら俺を鏡のほうに振り向かせた。
 鏡には全く瓜二つ、制服を着た二人のみるくが映っていた。でもその表情は対象的で、後ろに立っているみるくはにやにやと笑っていて、その前にいるみるくはちょっとおどおどとした表情を見せていた。勿論おどおどした表情のみるくが俺だ。

「これ、俺なのか?」
「俺なんて言っちゃ駄目よ。外に出たらもう浩太郎はあたしなんだから、ちゃんとあたしをやってもらわなきゃ。ほらあたしって言ってみなさい」
「いいよ、そんなの」
「駄目、急に名前を呼ばれて俺なんて言われちゃかなわないからね。ほらあなたは誰?」
「うー、あたしは北沢みるく……です。くっ、くあ〜何かお尻のあたりがぞくぞくする」
「はい、よくできました。じゃあ頼むわね」
「必ず帰ってきたら元に戻すんだぞ」

 俺は覚悟を決めてテニスの対抗試合に行くことにした。みるくは俺が今もあのタイツを着ているんだと言ったけれど、全く着ている感覚がない。どうやったら脱げるんだ。とにかく元に戻してもらわなきゃ。

「うん、じゃあお願いね。あ、学校にはあたしの自転車で行くのよ」
「この格好でか」
「うん、スカートの中が見えないように気をつけるのよ」
「わ、わかったよ。じゃあ行ってくるぜ」
「行ってくるわ、でしょう。ほんと言葉注意してね」

 みるくの言葉に俺はがっくりうな垂れた。身代わりでテニスの試合……こんなこと本当に上手くいくんだろうか。

「行ってくる……わ、よ」
「うん、じゃあ頼むね」

 俺はみるくのスポーツバッグと自転車の鍵を受け取って部屋を出た。
 見送ったみるくがドアの向こうで一人呟いていたのを知る由もなかった。

「ごめんね、浩太郎。あたしもあれってどうやったら脱がせられるのかわからないんだ。だって……」

 みるくはポケットからファスナーの引き手を取り出していた。

「これ取れちゃったんだもん」

 みるくはぺろっと舌を出して笑っていた。

「でも、これから面白くなりそうね」



 みるくがそんなことを呟いているのも知らず、俺はみるくの自転車を学校に向けて走らせていた。風にあおられてスカートがめくれ上がろうとするのを必死で抑えながら……

「ひえ〜スカートがめくれる。恥ずかしいよう」



(終わり)

2003年9月13日漫画原作用に脱稿
2023年1月9日小説用に修正完了


登場人物

 三谷浩太郎 :主人公、17歳、男
        いつも隣のみるくの実験台にされてしまう不幸な男。
        高校では男子テニス部副部長を務めている。

 北沢みるく :17歳、女
        主人公浩太郎の隣に住む幼馴染。妖しげなものを集める変な趣味がある
        高校では女子テニス部でレギュラーを張っている。


(登場していませんが)

 三谷ことり :13歳、女
        浩太郎の妹、中学生

 北沢くるみ :21歳、女
        みるくの姉、大学生













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