キョン子の憂鬱
  作:teru


第一部

朝起きて寝ぼけた頭が覚醒してみると、女になっている自分に気が付いた。

最初に思ったのは多分、あいつのせいだと言う予感だった。
とりあえず、自分の部屋を眺めてみる。
どうやら、女になったのは俺の身体だけで環境に変わりはないようだ。
ベッドに腰掛け、胸に手をやる。
大きくもなく小さくもない胸の手応えが手の平全体に伝わる。
股間の何もない感触を確かめるまでもなく、閉じた足の感覚からそこに何もないのがわかる。
やべぇよなぁ?女になったなんて家族になんて説明すればいいんだ?
思わず、頭を抱える。
てか、いつまで女なんだ? 一生ってこたぁ無いよな? 数時間?数日? 自然に戻る……って事は無さそう
だよな? 何か動くことで解決しなくちゃいけないんだろうな?
ベッドから立ち上がり、とりあえずパジャマを着替える。
えっと…… 下着…… トランクスしかないし、上があるわけもないし……
しかたなくトランクスの上からジーパンを穿いて、素肌の上からTシャツを被る。
まぁ、下はいいかもしれないが、この上の盛り上がりが…… 
手鏡を身体の前に持って、身体を眺め回す。
いや、女の身体って……
「キョン子ちゃん、起きてる? 朝ご飯だよ~」
妹がノックも無しに部屋のドアを開ける。
「え?」
「ん?」
二人の目が合う。
「どうしたの?おかしな顔をして? 朝ご飯出来てるよ」
「えっと、俺の姿を見て何か思わないか?」
「うん、今日も綺麗だよね、キョン子ちゃん。 ご飯出来てるから早く来なさいって」
妹はそう言うとさっさと出ていった。
……どうやら、物理的環境は男のままだけど、他者の認識は女になってるって事なのか?
長くなった髪をポニテに縛って、台所に降りていき、朝ご飯を食べながら今後について考えを巡らす……まで
もなく、あいつに接触をはかるべきだろうな?
などと思っていると携帯が鳴った、画面には今まさに思っていたヤツの名前が出ていた。
「いつもの場所に全員集合ね! プチッ」
一瞬の間の一方通行の会話だった。
なんなんだ…… しかし、これで連絡を取る必要はなくなったな。
俺は自転車に乗ると集合場所とされている駅前のエントランスへと急いだ。


駅前に来ると、遠目にいつものメンバーがすでに集まっているのが見えた。俺は自転車を駐輪場に置くとそこ
へと向かった。
「おまたせ」
俺が片手を力無く上げて挨拶をする。
「え?」
「え?キョンくん?」
仲間の中の二人、朝比奈さんと古泉が驚いた顔をする。
え?あれ? いま、朝比奈さん、俺をなんて呼んだ?
「あ、あの? 朝比奈さん? 俺が男だって覚えてるんですか?」
「えっと、男の人だったですよ……ね?」
「何か、心境の変化で手術を受けられたとか?」
古泉も俺が男だと認識してるようだ。
もう一人のメンバーの長門もそばに寄ってくる。

「キョン子、遅かったじゃない! 遅刻よ、遅刻!」
たぶん、一番の元凶である人物だけが俺が女だと認識していた。 
「あぁ、いつもの涼宮さんの……」
古泉が納得したようにこの珍事を受け入れる。ほかの二人も納得したようだ。


ここで説明をしておくと俺たちのリーダーのハルヒには本人に自覚のない超願望達成能力がある。
本人が無意識に望んだ事が現実になるのだ。
そして、こいつは今回はどうやら俺が女になることを無意識下に望んだようだ。
つまり、俺が男に戻るためにはこいつの満足する事を実現してやることにあるようだ。
ちなみに無口な宇宙人と弱気な未来人と楽しげな表情の超能力者もその周りに集っている。
いつもの事とは言え、本当にはた迷惑なことだ。

「しかし、美人になりましたね? 一度、僕とデーとしませんか?」
「断る!」「で、今日はいったいなんなんだ?」
古泉の言葉を一刀のもとに斬り捨てると、ハルヒに目的を尋ねる。

しかし、ハルヒ以外のメンバーには俺が男だと認識されていると思うと恥ずかしいものがあるよな。

「夏と言えば、プールでしょ? 皆でプールに行くわよ!」
は? いま、なんて言いやがった?プール?
「え?ちょっと待て、ハルヒ! プールってあれか? 水着になって泳ぐアレか?」
「プールに行って水着にならなきゃ意味がないでしょ?」
えっと、それは俺が朝比奈さんや長門と一緒に水着に着替えるって事か?
ふと周りを観ると、ほかの皆は手にバッグを持っている。 目で問いかけると皆が曖昧にうなずく。
つまり、集まりの内容を聞かされてなかったのは俺だけか?
……まてよ? そうか!
「いや、俺は前もってお前からプールに行くと聞かされてなかったから水着を持ってこなかったんだ。だから
俺は見学にまわらせてもらう」
そうすれば俺は女性の水着を着なくてすむし、朝比奈さんと一緒に着替えなんて変態的な事もせずにすむ。
「なに言ってんのよ! ダメよ、これは全員参加よ!」
「だったら前もって教えておけよ! ただ来いとだけ言われて水着の用意までしてくるわけないだろ!」
もっとも事前に言われても俺の持っているのは男物の水着だけしかないけどな。
「大丈夫よ、プールまでに商店街で買えばいいんだから」
「バカヤロウ、女性物の水着が高価なことくらい俺でも知ってるぞ。 俺の小遣いにそんな余裕があるわけが
ないだろ!」
「安いのを買えばいいじゃない? 2千円くらいの余裕もないわけ?」
「2千円…… まぁ、それくらいの余裕なら…… しかし!」
俺のそんなハルヒに対する抗議を止めたのは古泉だった。
「キョン子さん、キョン子さん」
俺の肩を掴んでハルヒに背を向けさせて肩に手をやってひそひそと話す。
「なんだ? それとキョン子って誰だ!」
「涼宮さんがそう呼んでいたので今現在のキョンさんの名前はキョン子さんなんでしょう。 それよりも今は
涼宮さんに従っておいた方がいいんじゃないですか?」
「なんでだよ! お前も俺に水着を着せたいのか?」
「だって、涼宮さんの希望を叶えないとキョン子さんはずっと女性のままである可能性が高いんじゃないですか
? キョン子さんがそのまま女性として過ごしたいのであれば反対はしませんが……」
う~ん、確かに一理はある。 ハルヒの希望が叶えられない限り俺はキョンではなくキョン子のままだろう。
しかし、ハルヒはともかく、朝比奈さんや長門と一緒に着替えるというのは申し訳ないというか……
ふと、顔を上げて朝比奈さんの方を見ると、意味がわかったのか顔を赤くしてうなずく顔と無言でうなづく顔が
あった…… すいません、ご迷惑をお掛けします。 顔を少しだけ下げて礼をする。
「わかった、でも本当に小遣いで買えるんだろうな?」
俺はハルヒに向き直り、渋々了承をする。
「まかしておきなさい! それじゃ出発するわよ」
そう言うと相手の言葉も待たずにずんずんと歩いていく。
えっと、つまりは俺が元の男に戻るためにはこの我が儘娘の我が儘につき合って満足をさせなくてはダメって
事なんだろうな。 そう思いながら皆と後ろをついて行く。



「で、なんだ、これは?」
俺は商店街にあるスポーツ店の一角でハルヒと対峙していた。
「水着よ、水着。 キョン子が言ったんじゃない? 安価な水着が欲しいって? それを持ってさっさとレジに
行ってきなさいよ。 サイズは合ってるでしょ?」
キョトンとした顔で俺の抗議を受け流すハルヒ。
「欲しがったかどうかはともかくとして、水着の必要性は否定しないよ。 でも、これはいったい何なんだ!
お前は俺にこれを着て市民プールに行けと言うのか?」
手に持たされた"スクール水着"をハルヒに突き付けてもう一度抗議する俺。
「安いでしょ? 今時、2千円でおつりが来る女性用水着って言ったらこれくらいでしょ。 しかも丈夫なの
よ? なによ、私の選択に不満があるの?」
いや、まぁ確かに安価で高校生にも着れる水着ってこれくらいだろうけど、俺がこれを着て一般人の沢山いる
市民プールデビューするとなると別だ。
「まぁまぁ、仕方がありませんよ。 選択肢はこれしかないようですから、一時の我慢としてそれを着用され
ては如何でしょう」
にっこり笑って俺に耳打ちする古泉。 こいつ絶対に楽しんでないか?
「だ、大丈夫ですよ。 キョン子くんのその身体ならちゃんと着こなせますから。 スクール水着でもおかしく
ありませんよ」
朝比奈さんもおずおずとこれを着ることを進める。
その背後で無表情で俺を見る長門も心なしかこれを薦めているように思える。
サイズねぇ? そう言えば、俺はハルヒより頭一つ分は背が高かったはずだが、今はハルヒのほぅが若干高くなっ
ている。 これもあいつが望んだことか?

「仕方がないか……」
「そうそう、だからさっさとレジで精算してらっしゃい」
だからなんでこんなに得意げなんだよ、こいつは。
俺がレジに行こうとすると朝比奈さんが駆け寄ってくる。
「ん?どうしたんですか?」
「あの、キョン子くん。 さっきから気になってたんですけど、ブラはしてないんですか?」
「……は? えっと、なにを? 俺は男ですからブラなんか着けてませんよ、てか持ってるわけないですよ」
「えっと、Tシャツの前というか、胸の頭が……」
おずおずと話す朝比奈さんの言葉に視線を下に向けるとTシャツを押し上げるかのように胸の先に突起が出てい
る、顔を上げて古泉を見ると慌てて視線を外しやがった。 こいつ、知ってて黙ってたな?
「ですから、それだと胸が擦れて痛くないですか? それに着替えの時に注目を浴びるんじゃ……」
てか、忘れてました。 今の俺はブラを着けてないどころか下は男物のトランクスのまんまです。
この状態で更衣室に入れば俺は確実に変態女の烙印を押されてしまう。
「それで…… あの…… 良かったらあっちにスポーツブラとショーツなら……」
「す、すいません、付いてきてもらえますか?」
俺は顔を真っ赤にして朝比奈さんにお願いする。

店内で水遊びグッズで遊んでいるハルヒたちを待たせて、朝比奈さんに付き添ってもらって下着を買って更衣室で
着替えて出てくる。
う~ん、なんかスポーツ系の下着だから微妙にぴっちりした付け心地だよな?
あらためて胸と股間の感触が気になる。 少し身体を動かしてみる。
「なに?キョン子ったらプールに行く前から準備体操? なぁんだ、行く気満々じゃない?」
言ってろバカ。 ってか、さっさと満足して俺を男に戻せよな?

     * * *
「思ったより恥ずかしいぞ、これは」
市民プールのプールサイド。 
買ったスクール水着を隠すようにバスタオルを羽織ってプールの中ではしゃぐハルヒを眺める。
「で、泳がないんですか?」
古泉が楽しそうに俺の顔を見る。
「この格好で泳げってのか?」
「これだけの人混みです。 誰も気にしませんよ。 ここに座ってるのも暑いんじゃないですか?」
「そ、そうか?」
確かに暑い。 水の中は涼しいだろうな。 ちょっとだけなら……
羽織ったバスタオル取ってプールに向かおうとする俺に更に声が掛かる。
「もっとも、特殊なニーズを持つ人たちにナンパされる可能性もありますが……」
慌ててバスタオルを羽織って定位置に戻る俺。
「あれ?プールに入らないんですか?」
ばかやろう、そんなことを言われて入れるわけないだろ?
「それじゃ僕は涼宮さんと合流します」
そう言って古泉は立ち上がってハルヒたちの方に向かう。 行ってこい、帰ってこないでいいからな。
「それじゃ一人になっちゃいますけど、ナンパには気をつけて下さいねぇ?」
古泉が俺に声を掛ける。
え?あれ?俺、ここでひとりぼっち?
廻りを見回す。
「ねぇ?キミ、ひとり?」
ひ、ひぇぇぇ! 行く!俺も行くから! まて、古泉!」
俺は慌てて皆がはしゃいでいる方向に走っていく。 この際、スク水が嫌だとか言ってる場合じゃねぇ!

そして俺たちはその日一杯、散々プールではしゃぎまくった。 いや、もう慣れてしまえば女だのスク水だの
気にならなくなっちまったしな?
     * * *
「本当に今日は楽しかったわね。 それじゃ明日もここに集合ね?」
そう言ってハルヒは駅前で解散を宣言して帰っていった。
「……なぁ? これで明日の朝は男に戻れてると思うか?」
「さぁ?どうですかね? 涼宮さんの希望が女性のキョンさんとプールに行きたいと思っていたのなら明日
の朝には戻ってると思いますが、他にもやりたいことがあったら無理ですね」
「だろうな。 できれば明日起きた時には無事に男に戻ってる事を願うよ、じゃぁな」
そう言って、俺もスク水とバスタオルの入ったバッグを持って皆に別れを告げて家路につく。
別れ際にちらっと見た長門の顔に引っかかるものは感じたが、気にするほどのことでも無いだろう。




     * * *
「それで、今日は夜から盆踊りに行くけど、浴衣は皆持ってる?」
明るく聞くハルヒに、首を横に振る他の女性陣"3人"。
はい、戻っていませんでした、今日も俺はキョン子です。 ハルヒさまはプールだけでは満足されていなかった様
です。
「で、持ってないからなんなんだ? 普通の私服でいいだろ?」
「何を言ってるのよ? 盆踊りと言えば浴衣でしょ? デパートで易い浴衣が売ってるからこれから皆で買い
に行くわよ!」
ハルヒに引っ張られるように連れられてデパートに行き、古泉をその場に待たせて散々あれこれ着せ替え人形の
ようにされて俺たちは浴衣を選ばされた。
つくづく、昨日の帰りに予備の下着を買っておいてよかった。 さすがに服は男物でもなんとかなるけど下着
はね?
古泉の前に4人揃って、それぞれの浴衣で立つと古泉は感嘆の声と拍手で俺たちを迎えた。 一人でハーレム
を楽しんでるよな?
背後の試着室の鏡を見ると、鏡の中では頬を赤く染めた美女が背中越しに俺を振り返っていた……
いや、俺ってこんな美女になるんだ? ……まぁハルヒがそう望んだんだろうな?
夜には俺たちは予定通りに盆踊りに出掛けて盆踊りを楽しんだ。
まぁ浴衣で盛り上がる胸とうっかりすると足が見えてします広がる浴衣の裾が気にはなったが、それも徐々に
慣れてしまっていたって事実は怖かったが。
別れ際、やはり長門の視線が少し気になった。 けど…… まぁいいか?


     * * *
次の日、俺たちは商店街に集められた。
バーゲンセールのビラ配りだそうだ。 女性陣4人(相変わらず戻れてない……)はバニースーツを身に纏い
ビラを配り(どこの風俗の開店だ?)、古泉はウサギの着ぐるみで商店街を闊歩した。
バニーガールとして周囲の視線とエロガキのおさわりに羞恥に身を任せるか、ウサギとして熱地獄とワルガキ
のケリに身を晒すかの選択は微妙だったが……
またしても別れ際の長門の視線が気になった。 なんなのだろう?何かが引っかかるような?


その後も釣りや夏祭りや、天体観測と肝試しとハルヒに寄る夏休み行事は続いていった……
そのたびに長門の視線が気にはなっていたが、この無口娘はなにも自分から語ろうとはしなかった。

     * * *
そんなある夜、朝比奈さんから携帯に連絡があって俺はショーツが見えるのもかまわずにスカートの裾を翻して
駅前のいつものエントランスに自転車を走らせた。 
なぜか日に日に俺の服が女物に替わってるんだよ。 遂に先日、俺の着替えにズボンという選択肢が無くなっ
てしまった。 男に戻ったらこれ全部、元に戻るんだろうな?

駅前にはハルヒを除くメンバー全員がすでに揃っていた。
     * * *

用件はこうだ。
俺たちはどうやら夏休みの最後の2週間をループしているらしいと……
「どうやら、ハルヒさんは夏休みに何かまだやり残したことがあるようですね」
古泉がのんきそうに笑って応える。
「だから、俺たちは何度も同じ夏休みを繰り返しているっていうのか?」
古泉と朝比奈さんが頷いて、それに気が付いた状況を俺に説明する。
「信じられないな? 確かに最近、既視感のようなものに襲われることはあったけど、それはハルヒに振り回さ
れて疲れているからだと思っていた」
「デジャヴと言うより、本当に何度も体験していた記憶が何かの拍子に甦っていたせいですよ。 僕の言葉が
信じられないのでしたら長門さんに聞いて下さい。 長門さんは全ての記憶を持っていますから」
古泉のその言葉に俺は長門を振り返る。
「本当なのか?」
長門は無言で頷く。
「だとしたら、俺たちはこんな事を何回続けているんだ?」
「一万四千四百九十八回」
長門が答える。

一万四千四百九十八回! 一万四千四百九十八回もこいつはこんな事を続けてきたのか?全ての記憶を保った
ままで!

俺は暫く驚きで声が出なかった。
「お前は同じ事を一万何千回も続けてきたのか?」


「全てが一緒ではない」
「え?」

「貴女が自分を始めから女性だと認識していた回はそのうち6435回、皆も始めから貴女を女性だと思って
いた回は3628回ある。 レアなのは貴女が自分自身を女性だと認識してるのに、他の皆が男性である事を
覚えていた回でこれはたったの247回しかない」
はい?
「初日のプールでスク水が旧スク水だった回は4874回、白スク水が2869回、競泳用水着に替わってい
たのは3793回、そのうち白アシと呼ばれる競泳水着は2568回……」
いや、なんで旧スク水や白スク水なんてものがあるんだよ?
「鈴宮ハルヒがそう望んだから……」
盆踊りの浴衣は通常の浴衣の他に膝上の浴衣だったときが6281回。 私服だったときは57回」
少ねぇ!私服少ねぇ!
「バイトは5種類有り、バニーのビラ配りの他にメイド喫茶のメイド、夏祭りの神社の巫女、胸を強調した
制服の人気ファミレスのウエイトレス、ナース服を着ての保健室での雑用……」
まともなバイトはなかったのか?!
「その身体も様々」
身体?
「Aカップ以下の時が1569回、Fカップ以上の時は3527回、最大はHカップ。 体型も様々で幼児体
型は573回。モデルタイプは2945回。 のこりは中学生タイプから高校生タイプまで様々」
思わず、自分の体を抱きしめる。 俺が幼児体型の女児?
「ちなみに幼児でFカップは5回ある」
やめてくれぇ!
「ちょっと待て! お前はそれを全部覚えているのか?」
「報告義務があるから……」
「いや、そんな報告しなくていいから! というか忘れてくれ!お願いします! お前だってそんなことを
何度も繰り返すのはたまんないだろ?」
俺は膝をついて長門に土下座する。 冗談じゃない、俺が覚えて無くても誰かが俺のそんな恥ずかしい記録を
取っているってだけで充分、悶え死ぬ!
「大丈夫」
長門が下げた俺の頭を優しく撫でる。
「え?」
「私はまだまだ飽きずに楽しめる。 この先、何万回でも」
頭を上げた先には、無表情で親指を立てサムズアップする長門の姿があった。


      あ~、そうなんだ?長門さんったら楽しいんだ?

             * * *

そして、解決の糸口をつかめないまま俺は女のままで8月31日の夜を迎える。
多分、今までこんな事を何千回も繰り返してきたのだろう。
このまま寝て次に起きたときに俺は、いつものように自分の身体が女になってることに驚くのだろう。
次はどんな女性の姿で目覚めるのかな? 願わくばFカップ幼児ではありませんように。



                E N D


*******************************************

               第二部

朝起きて寝ぼけた頭が覚醒してみると、女になっている自分に気が付いた。

最初に思ったのは多分、あいつのせいだと言う予感だった。
ベッドに腰掛け、胸に手をやる。
大きくもなく小さくもない胸の手応えが手の平全体に伝わる。
股間の何もない感触を確かめるまでもなく、閉じた足の感覚からそこに何もないのがわかる。
やべぇよなぁ?女になったなんて家族になんて説明すればいいんだ?
思わず、頭を抱える。
てか、いつまで女なんだ? 一生ってこたぁ無いよな? 数時間?数日? 自然に戻る……って事は無さそう
だよな? 何か動くことで解決しなくちゃいけないんだろうな?
ベッドから立ち上がるといつもパジャマ代わりにしているグレーのジャージがピンクに変わっているのに気付
く。 これは…… 恥ずかしいな?おい。
嫌な予感にタンスの引き出しを開けてみると俺の下着が入っている筈のそこにはショーツとブラが並んでいる
…… 俺のトランクスはいったいどこにいっちまったんだ?
さすがにこれを穿くのは恥ずかしいな。
タンスを前に悩んでいると妹がノックも無しに部屋のドアを開ける。
「キョン子ちゃん、起きてる? 朝ご飯だよ~」
「え?」
「ん?」
二人の目が合う。
「どうしたの?おかしな顔をして? 朝ご飯出来てるよ」
「えっと、俺の姿を見て何か思わないか?」
「うん、今日も綺麗だよね、キョン子ちゃん。 ご飯出来てるから早く来なさいって」
妹はそう言うとさっさと出ていった。
……どうやら、俺は持ち物から他人の認識まで完全に女になってるって事なのか? それにしてもキョン子ち
ゃんってなんだよ? それが今の俺の通り名なのか?_
仕方なく、台所に降りていき、朝ご飯を食べながら今後について考えを巡らす……までもなく、あいつに接触
をはかるべきだろうな?
朝食を済まして、洗面所に行き歯磨きをしながらあらためて自分を見る。
うわぁ、髪が伸びてるよ。 これはなんとも…… ポニテが似合いそうな顔だよな。 
いやいや、そうじゃねぇって。 女の子がやる分には萌えるが、いくら自分が女だからと言っても自分がやっ
てもなぁ?
あれ?背が低くないか? これじゃハルヒより低いんじゃないのか? へたすりゃ長門にも負けるぞ?
胸は…… 長門よりはありそうだよな? これは勝ってる…… いやいや、だからそうじゃねぇって!
歯を磨き終わり、顔を洗って洗面台の鏡から少し遠ざかって身体全体を鏡に映してみる。
我ながらこれは…… 可愛いかも…… いやいや、だから……
ダメだ、これ以上鏡をのぞき込んでるとおかしくなりそうだ。
服を着替える前にトイレに向かう。
まぁ、女子のトイレの仕方ってのは知識としては大体わかると思うが、自分で実行させられる日が来るとは夢
にも思わなかったな。
ジャージを下ろして便器に腰掛け心を落ち着けて精神集中。 ウチが洋式でつくづく良かったよ。 
ひ、ひゃうぅ、へ、変な感触だよな、女のトイレって。
事を済ませて、ちゃんとあそこを拭いて立ち上がり、下ろした下着を引き上げようとして気付く。
そうだよな~、ジャージがピンクに変わってるくらいだもんな、下着だって夕べ穿いてたトランクスから女物
に変わってても当然だよなぁ。 ため息をついて水色の縞々模様のショーツを力無く引き上げてジャージを戻
す。

部屋に帰ってきて着替えに掛かる。
いやもう、すでに女物の下着を穿いていたとゆう事実の前には怖いもの無しですよ?
ジャージの上下を一気に脱ぎ捨てる。
縞々ショーツ一枚の姿で着替えを物色する。 女の子って寝る時まではブラはしないんだよな? そんなくだ
らない事を考えながら無難な白のショーツとブラを取り上げ、装着。 おぉ?俺の胸ってDもあるんだ?
初めてにしては割とすんなりと自然にブラを付けられたよな? ひょっとして俺って女の才能がある?
……いや、いらねぇって、そんな才能。
ジーパンとTシャツを取り出して着終えたところで、どうゆうふうにあいつと接触を図ろうかと思案している
とタイミング良く携帯が鳴った、画面には今まさに思っていたヤツの名前が出ていた。
携帯に出たとたんにあいつの声が響く。
「いつもの場所に全員集合ね! プチッ」
一瞬の間の一方通行の会話だった。
なんなんだ…… しかし、これで連絡を取る必要はなくなったよな。
俺は自転車に乗ると集合場所とされている駅前のエントランスへと急いだ。


駅前に来ると、遠目にいつものメンバーがすでに集まっているのが見えた。俺は自転車を駐輪場に置くとそこ
へと向かった。
「おまたせ」
俺が片手を力無く上げて挨拶をする。
「え?」
「え?キョンくん?」
仲間の中の二人、朝比奈さんと古泉が驚いた顔をする。
え?あれ? いま、朝比奈さん、俺をなんて呼んだ?
「あ、あの? 朝比奈さん? 俺が男だって覚えてるんですか?」
「えっと、男の人だったですよ……ね?」
「何か、心境の変化で手術を受けられたとか?」
古泉も俺が男だと認識してるようだ。 誰が何の心境でこんなバカげた手術を受けるってんだよ?
もう一人のメンバーの長門もそばに寄ってくる。

「キョン子ちゃん、遅かったじゃない! 遅刻よ、遅刻!」
たぶん、一番の元凶である人物だけが俺が女だと認識していた。 
「あぁ、いつもの涼宮さんの……」
古泉が納得したようにこの珍事を受け入れる。ほかの二人も納得したようだ。
いつもの事とは言え、本当にはた迷惑なことだ。

「しかし、美人になりましたね? 一度、僕とデーとしませんか?」
「断る!」「で、今日はいったいなんなんだ?」
古泉の言葉を一刀のもとに斬り捨てると、涼宮に目的を尋ねる。

しかし、涼宮以外のメンバーには俺が男だと認識されていると思うと恥ずかしいものがあるよな。

「夏と言えば、プールでしょ? 皆でプールに行くわよ!」
は? いま、なんて言いやがった?プール?
「え?ちょっと待て、涼宮! プールってあれか? 水着になって泳ぐアレか?」
「プールに行って水着にならなきゃ意味がないでしょ?」
えっと、それは俺が朝比奈さんや長門と一緒に水着に着替えるって事か?
ふと周りを観ると、ほかの皆は手にバッグを持っている。 目で問いかけると皆が曖昧にうなずく。
つまり、集まりの内容を聞かされてなかったのは俺だけか?
……まてよ? そうか!
「いや、俺は前もってお前からプールに行くと聞かされてなかったから水着を持ってこなかったんだ。だから
俺は見学にまわらせてもらう」
そうすれば俺は女性の水着を着なくてすむし、朝比奈さんと一緒に着替えなんて変態的な事もせずにすむ。
「なに言ってんのよ! ダメよ、これは全員参加よ!」
「だったら前もって教えておけよ! ただ来いとだけ言われて水着の用意までしてくるわけないだろ!」
もっとも事前に言われても俺の持っているのは男物の水着だけしかないけどな。
「大丈夫よ、プールまでに商店街で買えばいいんだから」
「バカヤロウ、女性物の水着が高価なことくらい俺でも知ってるぞ。 俺の小遣いにそんな余裕があるわけが
ないだろ!」
「安いのを買えばいいじゃない? 2千円くらいの余裕もないわけ?」
「2千円…… まぁ、それくらいの余裕なら…… しかし!」
俺のそんな涼宮に対する抗議を止めたのは古泉だった。
「キョン子さん、キョン子さん」
俺の肩を掴んで涼宮に背を向けさせて肩に手をやってひそひそと話す。
「なんだ? それとキョン子って誰だ!」
「涼宮さんがそう呼んでいたので今現在のキョンさんの名前はキョン子さんなんでしょう。 それよりも今は
涼宮さんに従っておいた方がいいんじゃないですか?」
「なんでだよ! お前も俺に水着を着せたいのか?」
「だって、涼宮さんの希望を叶えないとキョン子さんはずっと女性のままである可能性が高いんじゃないですか
? キョン子さんがそのまま女性として過ごしたいのであれば反対はしませんが……」
う~ん、確かに一理はある。 涼宮の希望が叶えられない限り俺はキョンではなくキョン子のままだろう。
しかし、涼宮はともかく、朝比奈さんや長門と一緒に着替えるというのは申し訳ないというか……
ふと、顔を上げて朝比奈さんの方を見ると、意味がわかったのか顔を赤くしてうなずく顔と無言でうなづく顔が
あった…… すいません、ご迷惑をお掛けします。 顔を少しだけ下げて礼をする。
「わかった、でも本当に小遣いで買えるんだろうな?」
俺は涼宮に向き直り、渋々了承をする。
「まかしておきなさい! それじゃ出発するわよ」
そう言うと相手の言葉も待たずにずんずんと歩いていく。
えっと、つまりは俺が元の男に戻るためにはこの我が儘娘の我が儘につき合って満足をさせなくてはダメって
事なんだろうな。 そう思いながら皆と後ろをついて行く。



「で、なんだ、これは?」
俺は商店街にあるスポーツ店の一角で涼宮と対峙していた。
「水着よ、水着。 キョン子が言ったんじゃない? 安価な水着が欲しいって? それを持ってさっさとレジに
行ってきなさいよ。 サイズは合ってるでしょ?」
キョトンとした顔で俺の抗議を受け流す涼宮。
「欲しがったかどうかはともかくとして、水着の必要性は否定しないよ。 でも、これはいったい何なんだ!
お前は俺にこれを着て市民プールに行けと言うのか?」
手に持たされた"スクール水着"を涼宮に突き付けてもう一度抗議する俺。
「安いでしょ? 今時、2千円でおつりが来る女性用水着って言ったらこれくらいでしょ。 しかも丈夫なのよ
? なによ、私の選択に不満があるの? ちゃんと胸に名前を書くところまで付いてるのに?」
いや、まぁ確かに安価で高校生にも着れる水着ってこれくらいだろうけど、俺がこれを着て一般の人の沢山いる
市民プールデビューするとなると別だ。 しかもネームゼッケン付きだと?
「まぁまぁ、仕方がありませんよ。 選択肢はこれしかないようですから、一時の我慢としてそれを着用されて
は如何でしょう」
にっこり笑って俺に耳打ちする古泉。 こいつ絶対に楽しんでないか?
「だ、大丈夫ですよ。 キョン子くんのその身体ならちゃんと着こなせますから。 スクール水着でもおかしく
ありませんよ」
朝比奈さんもおずおずとこれを着ることを進める。
その背後で無表情で俺を見る長門も心なしかこれを薦めているように思える。
サイズねぇ? そう言えば、今の俺は長門よりも少し背が低い。 このグループの中では一番のチビだ。
悔しいことだが、中学生、ヘタをすれば小学生と言っても通用しそうな体型だ。 ひょっとしてこれもあいつが
望んだことなのか? くそっ、胸だけなら高校級なのにな…… 

「仕方がないか……」
「そうそう、だからさっさとレジで精算してらっしゃい」
だからなんでこんなに得意げなんだよ、こいつは。

     * * *
「思った以上に恥ずかしいぞ、これは」
市民プールのプールサイド。 
買ったスクール水着を隠すようにバスタオルを羽織ってプールの中ではしゃぐ涼宮を眺める。
「で、泳がないんですか?」
古泉が楽しそうに俺の顔を見る。
「この格好で泳げってのか? お子様な背丈で胸だけが強調されてるスク水って何の罰ゲームだ?」
「これだけの人混みです。 誰も気にしませんよ。 ここに座ってるのも暑いんじゃないですか?」
「そ、そうか?」
確かに暑い。 水の中は涼しいだろうな。 ちょっとだけなら……
羽織ったバスタオル取ってプールに向かおうとする俺に更に声が掛かる。
「もっとも、特殊なニーズを持つ人たちにナンパされる可能性もありますが……」
慌ててバスタオルを羽織って胸を隠すようにして定位置に戻る俺。
「あれ?プールに入らないんですか?」
ばかやろう、そんなことを言われて入れるわけないだろ?
「それじゃ僕は涼宮さんと合流します」
そう言って古泉は立ち上がって涼宮たちの方に向かう。 行ってこい、帰ってこないでいいからな。
「それじゃ一人になっちゃいますけど、ナンパには気をつけて下さいねぇ?」
古泉が俺に声を掛ける。
え?あれ?俺、ここでひとりぼっち?
廻りを見回す。
「ねぇ?キミ、ひとり?」
ひ、ひぇぇぇ! 行く!俺も行くから! まて、古泉!」
俺は慌てて皆がはしゃいでいる方向に走っていく。 この際、スク水が嫌だとか言ってる場合じゃねぇ!

そして俺たちはその日一杯、散々プールではしゃぎまくった。 いや、もう慣れてしまえば女だのスク水だの
巨乳だのは気にならなくなっちまったしな?
     * * *
「本当に今日は楽しかったわね。 それじゃ明日もここに集合ね?」
そう言って涼宮は駅前で解散を宣言して帰っていった。
「……なぁ? これで明日の朝は男に戻れてると思うか?」
「さぁ?どうですかね? 涼宮さんの希望が女性のキョンさんとプールに行きたいと思っていたのなら明日
の朝には戻ってると思いますが、他にもやりたいことがあったら無理ですね」
「だろうな。 できれば明日起きた時には無事に男に戻ってる事を願うよ、じゃぁな」
そう言って、俺もスク水とバスタオルの入ったバッグを持って皆に別れを告げて家路につく。
別れ際にちらっと見た長門の顔に引っかかるものは感じたが、気にするほどのことでも無いだろう。


     * * *
「それで、今日は夜から盆踊りに行くけど、浴衣は皆持ってる?」
明るく聞く涼宮に、首を横に振る他の女性陣"3人"。
はい、戻っていませんでした、今日も俺はキョン子です。 涼宮さまはプールだけでは満足されていなかった様
です。
「で、持ってないからなんなんだ? 普通の私服でいいだろ?」
「何を言ってるのよ? 盆踊りと言えば浴衣でしょ? デパートで易い浴衣が売ってるからこれから皆で買い
に行くわよ!」
涼宮に引っ張られるように連れられてデパートに行き、古泉をその場に待たせて散々あれこれ着せ替え人形の
ようにされて俺たちは浴衣を選ばされた。
古泉の前に4人揃って、それぞれの浴衣で立つと古泉は感嘆の声と拍手で俺たちを迎えた。 一人でハーレム
を楽しんでるよな? 俺は押し出されようとする胸が気になって仕方が無いってのに。
背後の試着室の鏡を見ると、鏡の中では頬を赤く染めた可愛い女の子が背中越しに俺を振り返っていた……
いや、俺ってこんな可愛い女になるんだ? ……まぁ涼宮がそう望んだんだろうな?
夜には俺たちは予定通りに盆踊りに出掛けて盆踊りを楽しんだ。
まぁ浴衣で盛り上がる胸とうっかりすると足が見えてします広がる浴衣の裾が気にはなったが、それも徐々に
慣れてしまっていたって事実は怖かったが。
別れ際、やはり長門の視線が少し気になった。 けど…… まぁいいか?


     * * *
次の日、俺たちは隣町の神社に集められた。
神社の夏祭りの社務所の売り子だそうだ。巫女さんの格好で…… 女性陣4人は真っ赤な袴の巫女の衣装を身
に纏いお守りやおみくじを売りまくった。
鶴屋さんには散々はしゃがれて写メまで撮られた。
またしても別れ際の長門の視線が気になった。 なんなのだろう?何かが引っかかるような?

その後も釣りや夏祭りや、天体観測と肝試しと涼宮に寄る夏休み行事は続いていった……
そのたびに長門の視線が気にはなっていたが、この無口娘はなにも自分から語ろうとはしなかった。

     * * *
そんなある夜、朝比奈さんから携帯に連絡があって俺は駅前のいつものエントランスに自転車を走らせた。 
駅前には涼宮を除くメンバー全員がすでに揃っていた。
     * * *

用件はこうだ。
俺たちはどうやら夏休みの最後の2週間をループしているらしいと……
「どうやら、涼宮さんは夏休みに何かまだやり残したことがあるようですね」
古泉がのんきそうに笑って応える。
「だから、俺たちは何度も同じ夏休みを繰り返しているっていうのか?」
古泉と朝比奈さんが頷いて、それに気が付いた状況を俺に説明する。
「信じられないな? 確かに最近、既視感のようなものに襲われることはあったけど、それは涼宮に振り回さ
れて疲れているからだと思っていた」
「デジャヴと言うより、本当に何度も体験していた記憶が何かの拍子に甦っていたせいですよ。 僕の言葉が
信じられないのでしたら長門さんに聞いて下さい。 長門さんは全ての記憶を持っていますから」
古泉のその言葉に俺は長門を振り返る。
「本当なのか?」
長門は無言で頷く。
「だとしたら、俺たちはこんな事を何回続けているんだ?」
「一万四千八百三十二回」
長門が答える。

一万四千八百三十二回! 一万四千八百三十二回もこいつはこんな事を続けてきたのか?全ての記憶を保った
ままで!

俺は暫く驚きで声が出なかった。
「お前は同じ事を一万何千回も続けてきたのか?」


「全てが一緒ではない」
「え?」

「貴女が自分を始めから女性だと認識していた回はそのうち6456回、皆も始めから貴女を女性だと思って
いた回は3630回ある。 レアなのは貴女が自分自身を女性だと認識してるのに、他の皆が男性である事を
覚えていた回でこれはたったの248回しかない」
はい?
「初日のプールでスク水が旧スク水だった回は4895回、白スク水が2872回、競泳用水着に替わってい
たのは3954回、そのうち白アシと呼ばれる競泳水着は2576回……」
いや、なんで旧スク水や白スク水なんてものがあるんだよ?
「涼宮ハルヒがそう望んだから……」
盆踊りの浴衣は通常の浴衣の他に膝上の浴衣だったときが6584回。 私服だったときは59回」
少ねぇ!私服少ねぇ!
「バイトは5種類有り、夏祭りの神社の巫女の他にメイド喫茶のメイド、バニーのビラ配り、胸を強調した
制服の人気ファミレスのウエイトレス、ナース服を着ての保健室での雑用……」
まともなバイトはなかったのか?!
「その身体も様々」
身体?
「Aカップ以下の時が1759回、Fカップ以上の時は3851回、最大はIカップ。 体型も様々で幼児体
型は631回。モデルタイプは3521回。 のこりは中学生タイプから高校生タイプまで様々」
思わず、自分の体を抱きしめる。 俺が幼児体型の女児?
「ちなみに幼児でFカップは8回ある」
「更に涼宮ハルヒが涼宮ハルヒコだった回が3584回有り、キョン子がハルヒコと夏休み中に初めてを捧げ
たのは1867回」
「お、女の俺が男のハルヒに…… ひ、ひぃぃぃ、もう止めてくれ長門! それ以上もう言わなくていいから
!!」
俺は殆ど絶叫状態だった。
「ちなみに男の涼宮ハルヒが出現しない時は古泉と結ばれるパターンが確実に上昇して6584回」
「…………」
俺は言葉もなく崩れ落ちる。 いやもう、メーター振り切ると言葉も出ねぇよ!
「大丈夫ですよ、キョン子さん。 僕はちゃんと責任を取りますよ?」
崩れ落ちた俺の肩に古泉が手を掛ける。
「よ、寄るなぁ!ばかぁ!! 俺にさわるんじゃねぇ!!!」
頭から血の気が引き、座り込んだまま必死に古泉からこの小さな女の身体を少しでも遠ざけようと逃げる。


俺は長門に向かって質問する。
「ちょっと待て! お前はそれを全部覚えているってのか?」
「報告義務があるから……」
やめてくれぇ!
「いや、そんな報告しなくていいから! というか忘れてくれ!お願いします! お前だってそんなことを
何度も繰り返すのはたまんないだろ?」
俺は膝をついて長門に土下座する。 冗談じゃない、俺が覚えて無くても誰かが俺のそんな恥ずかしい記録を
取っているってだけで充分、悶え死ぬ!

「大丈夫」
長門が下げた俺の頭を優しく撫でる。
「え?」
「私はまだまだ飽きずに貴女の行く末を楽しめる。 この先、何万回であっても」
頭を上げた先には、無表情で親指を立てサムズアップする長門の姿があった。


      あ~、そうなんだ?長門さんったら楽しいんだ?
      あの視線ってそう言う意味だったんだ?


             * * *

そして、解決の糸口をつかめないまま俺は女のままで8月31日の夜を迎える。
多分、今までこんな事を何千回も繰り返してきたのだろう。
このまま寝て次に起きたときに俺は、いつものように自分の身体が女になってることに驚くのだろう。
次はどんな女性の姿で目覚めるのかな? 願わくばIカップ幼児ではありませんように。

                E N D


*******************************************

               第三部

朝、起きてみると胸がむず痒かった。
寝ぼけた頭で胸元に手を入れぽりぽりと掻いてみる。
なんだか皮膚が厚くなったような気がする。
ベッドから起きあがり伸びを一つしてみると、股間に違和感を感じる。
何気なく、手を股に持っていくって、そこにいつもあるはずのモノが無いことに気づく。
「なにっ?!」
あらためて股間をまさぐり、今感じた事実を確かめるために下着ごとズボンを下ろす。
そこには男を現すモノが何も無かった……


ベッドに座って何度も確かめたが、俺の男の象徴はどこにもなかった……
「これは…… 男のものがなくなったと言うより、女になったって事だろうな……?」
よく観察してみると、新しく出来た尿意をもよおす器官の奥に見慣れない器官が隠れている。 多分、話に聞
く女の膣と言うヤツだろう。
そうすると、最初に胸に感じたむず痒さというのは……
上も脱いでみる。
男の胸板と言うには柔らかすぎる胸だ…… 確かに少し盛り上がって感じだ。
えっと…… Aカップ? 貧乳ってやつか。
「とりあえず、外見上は誤魔化せるか……」

心当たりは……ある。 多分、あいつのせいだ。
で、いつまで女なんだ? 一生ってこたぁ無いよな? 数時間?数日? 自然に戻る……って事は無さそうだ
よな? 何か動くことで解決しなくちゃいけないんだろうな?
いつまでも裸ではいられない。 何かを着なくてはと、ベッドから立ち上がるといつもパジャマ代わりにして
いるグレーのジャージがピンクに変わっていたのに気付く。 これを着てたのか? これは…… 恥ずかしい
な?おい。 そうすると他の服は?
嫌な予感にタンスの引き出しを開けてみると俺の下着が入っている筈のそこにはショーツとブラが並んでいる
…… 俺のトランクスはいったいどこにいっちまったんだ? てか、この胸にブラがいるのか?
タンスを前に悩んでいると妹がノックも無しに部屋のドアを開ける。
「キョン子ちゃん、起きてる? 朝ご飯だよ~」
「え?」
「ん?」
二人の目が合う。
「どうしたの? 裸で? 早く服を着たほうがいいよ?」
「えっと、俺の姿を見て何か思わないか?」
「うん、今日も可愛いよね、キョン子ちゃん。 ご飯出来てるから早く来なさいって」
妹はそう言うとさっさと出ていった。
……どうやら、俺は持ち物から他人の認識まで完全に女になってるって事なのか? それにしてもキョン子ち
ゃんってなんだよ? それが今の俺の通り名なのか?
仕方がなく、タンスからショーツを取り出して穿いてTシャツとハーフパンツを履くと下へと降りる。

朝ご飯を食べながら今後について考えを巡らす……までもなく、あいつに接触をはかるべきだろうな?
朝食を済まして、洗面所に行き歯磨きをしながらあらためて自分を見る。
あれ?背が低くないか? これじゃハルヒより低いんじゃないのか? へたすりゃ長門にも負けるぞ?
歯を磨き終わり、顔を洗って洗面台の鏡から少し遠ざかって身体全体を鏡に映してみる。
我ながらこれは…… 中学生に間違われそうだな? いやいや、ヘタすりゃ小学生?
ダメだ、これ以上鏡をのぞき込んでるとおかしくなりそうだ。
鏡を覗き込みながら、どうあいつと接触を図ろうかと思案しているとタイミング良く携帯が鳴った。
画面には今まさに思っていたヤツの名前が出ていた。
携帯に出たとたんにあいつの声が響く。
「いつもの場所に全員集合ね! プチッ」
一瞬の間の一方通行の会話だった。
なんなんだ…… しかし、これで連絡を取る必要はなくなったよな。
俺は自転車に乗ると集合場所とされている駅前のエントランスへと急いだ。


駅前に来ると、遠目にいつものメンバーがすでに集まっているのが見えた。俺は自転車を駐輪場に置くとそこ
へと向かった。
「おまたせ」
俺が片手を力無く上げて挨拶をする。
「え?」
「え?キョンくん?」
仲間の中の二人、朝比奈さんと古泉が驚いた顔をする。
「あれ? 背が縮みました?」
「背が縮んだだけならよかったんだがな」
「えっと、それはどういう……?」
もう一人のメンバーの長門もそばに寄ってくる。

「キョン子ちゃん、遅かったじゃない! 遅刻よ、遅刻!」
たぶん、一番の元凶である人物だけが俺が女だと認識していた。 
「キョン子ちゃん?」
「女性? あぁ、いつもの涼宮さんの……」
古泉が納得したようにこの珍事を受け入れる。ほかの二人も納得したようだ。
いつもの事とは言え、本当にはた迷惑なことだ。

「しかし、可愛くなりましたね?」
「うるさい。 で、今日はいったいなんなんだ?」
古泉の言葉を一刀のもとに斬り捨てると、涼宮に目的を尋ねる。

しかし、涼宮以外のメンバーには俺が男だと認識されていると思うと恥ずかしいものがあるよな。

「夏と言えば、プールでしょ? 皆でプールに行くわよ!」
は? いま、なんて言いやがった?プール?
「え?ちょっと待て、涼宮! プールってあれか? 水着になって泳ぐアレか?」
「プールに行って水着にならなきゃ意味がないでしょ?」
えっと、それは俺が朝比奈さんや長門と一緒に水着に着替えるって事か?
ふと周りを観ると、ほかの皆は手にバッグを持っている。 目で問いかけると皆が曖昧にうなずく。
つまり、集まりの内容を聞かされてなかったのは俺だけか?
……まてよ? そうか!
「いや、俺は前もってお前からプールに行くと聞かされてなかったから水着を持ってこなかったんだ。だから
俺は見学にまわらせてもらう」
そうすれば俺は女性の水着を着なくてすむし、朝比奈さんと一緒に着替えなんて変態的な事もせずにすむ。
「なに言ってんのよ! ダメよ、これは全員参加よ!」
「だったら前もって教えておけよ! ただ来いとだけ言われて水着の用意までしてくるわけないだろ!」
「大丈夫よ、プールまでに商店街で買えばいいんだから」
「バカヤロウ、女性物の水着が高価なことくらい俺でも知ってるぞ。 俺の小遣いにそんな余裕があるわけが
ないだろ!」
「安いのを買えばいいじゃない? それくらいの余裕もないわけ?」
「まぁ、少しくらいの余裕なら…… しかし!」
俺のそんな涼宮に対する抗議を止めたのは古泉だった。
「キョン子さん、キョン子さん」
俺の肩を掴んで涼宮に背を向けさせて肩に手をやってひそひそと話す。
「なんだ? それとキョン子って誰だ!」
「涼宮さんがそう呼んでいたので今現在のキョンさんの名前はキョン子さんなんでしょう。 それよりも今は
涼宮さんに従っておいた方がいいんじゃないですか?」
「なんでだよ! お前も俺に水着を着せたいのか?」
「だって、涼宮さんの希望を叶えないとキョン子さんはずっと女性のままである可能性が高いんじゃないですか
? キョン子さんがそのまま女性として過ごしたいのであれば反対はしませんが……」
う~ん、確かに一理はある。 涼宮の希望が叶えられない限り俺はキョンではなくキョン子のままだろう。
しかし、涼宮はともかく、朝比奈さんや長門と一緒に着替えるというのは申し訳ないというか……
ふと、顔を上げて朝比奈さんの方を見ると、意味がわかったのか顔を赤くしてうなずく顔と無言でうなづく顔が
あった…… すいません、ご迷惑をお掛けします。 顔を少しだけ下げて礼をする。
「わかった、でも本当に小遣いで買えるんだろうな?」
俺は涼宮に向き直り、渋々了承をする。
「まかしておきなさい! それじゃ出発するわよ」
そう言うと相手の言葉も待たずにずんずんと歩いていく。
えっと、つまりは俺が元の男に戻るためにはこの我が儘娘の我が儘につき合って満足をさせなくてはダメって
事なんだろうな。 そう思いながら皆と後ろをついて行く。



「で、なんだ、これは?」
俺は商店街にあるスポーツ店の一角で涼宮と対峙していた。
「水着よ、水着。 キョン子が言ったんじゃない? 安価な水着が欲しいって? それを持ってさっさとレジに
行ってきなさいよ。 サイズは合ってるでしょ?」
キョトンとした顔で俺の抗議を受け流す涼宮。
「欲しがったかどうかはともかくとして、水着の必要性は否定しないよ。 でも、これはいったい何なんだ!
お前は俺にこれを着て市民プールに行けと言うのか?」
手に持たされた"ジュニア水着"を涼宮に突き付けてもう一度抗議する俺。
「安いでしょ? お子様用の水着ならそんなに高くないし、あなたのサイズにも合うでしょ?大体胸もないのに
ビキニを着たいって言うの?」
いや、まぁ確かに安価で今の俺にも着れる水着ってこれくらいだろうけど、俺がこれを着て一般の人の沢山いる
市民プールデビューするとなると別だ。
「まぁまぁ、仕方がありませんよ。 選択肢はこれしかないようですから、一時の我慢としてそれを着用されて
は如何でしょう」
にっこり笑って俺に耳打ちする古泉。 こいつ絶対に楽しんでないか?
「だ、大丈夫ですよ。 キョン子くんのその身体ならちゃんと似合いますからおかしくなんかありませんよ」
朝比奈さんもおずおずとこれを着ることを進める。
その背後で無表情で俺を見る長門も心なしかこれを薦めているように思える。
「仕方がないか……」
「そうそう、だからさっさとレジで精算してらっしゃい」
だからなんでこんなに得意げなんだよ、こいつは。

     * * *
「思った以上に恥ずかしいぞ、これは」
市民プールのプールサイド。 
買ったジュニア水着を隠すようにバスタオルを羽織ってプールの中ではしゃぐ涼宮を眺める。
「で、泳がないんですか?」
古泉が楽しそうに俺の顔を見る。
「この格好で泳げってのか? お子様な背丈でジュニア水着って何の罰ゲームだ?」
「これだけの人混みです。 誰も気にしませんよ。 ここに座ってるのも暑いんじゃないですか?」
「そ、そうか?」
確かに暑い。 水の中は涼しいだろうな。 ちょっとだけなら……
羽織ったバスタオル取ってプールに向かおうとする俺に更に声が掛かる。
「もっとも、特殊なニーズを持つ人たちにナンパされる可能性もありますが……」
慌てて定位置に戻る俺。
「あれ?プールに入らないんですか?」
ばかやろう、そんなことを言われて入れるわけないだろ?
「それじゃ僕は涼宮さんと合流します」
そう言って古泉は立ち上がって涼宮たちの方に向かう。 行ってこい、帰ってこないでいいからな。
「それじゃ一人になっちゃいますけど、気をつけて下さいねぇ?」
古泉が俺に声を掛ける。
え?あれ?俺、ここでひとりぼっち?
廻りを見回す。
「ねぇ?お嬢ちゃん、ひとり?」
ひ、ひぇぇぇ! 行く!俺も行くから! まて、古泉!」
俺は慌てて皆がはしゃいでいる方向に走っていく。 この際、水着が嫌だとか言ってる場合じゃねぇ!

そして俺たちはその日一杯、散々プールではしゃぎまくった。 いや、もう慣れてしまえば女の身体だってのは
気にならなくなっちまったしな?
     * * *
「本当に今日は楽しかったわね。 それじゃ明日もここに集合ね?」
そう言って涼宮は駅前で解散を宣言して帰っていった。
「……なぁ? これで明日の朝は男に戻れてると思うか?」
「さぁ?どうですかねぇ? 涼宮さんの希望が女の子のキョンさんとプールに行きたいと思っていたのなら明日
の朝には戻ってると思いますが、他にもやりたいことがあったら無理ですね」
「だろうな。 できれば明日起きた時には無事に男に戻ってる事を願うよ、じゃぁな」
そう言って、俺も皆に別れを告げて家路につく。
別れ際にちらっと見た長門の顔に引っかかるものは感じたが、気にするほどのことでも無いだろう。


     * * *
「それで、今日は夜から盆踊りに行くけど、浴衣は皆持ってる?」
明るく聞く涼宮に、首を横に振る他の女性陣"3人"。
はい、戻っていませんでした、今日も俺はキョン子です。 涼宮さまはプールだけでは満足されていなかった様
です。
「で、持ってないからなんなんだ? 普通の私服でいいだろ?」
「何を言ってるのよ? 盆踊りと言えば浴衣でしょ? デパートで安い浴衣が売ってるからこれから皆で買いに
行くわよ!」
涼宮に引っ張られるように連れられてデパートに行き、古泉をその場に待たせて散々着せ替え人形のようにされ
て俺たちは浴衣を選ばされた。
古泉の前に4人揃って、それぞれの浴衣で立つと古泉は感嘆の声と拍手で俺たちを迎えた。 一人でハーレム
を楽しんでるよな? 俺は圧迫されるが気になって仕方が無いってのに。
夜には俺たちは予定通りに盆踊りに出掛けて盆踊りを楽しんだ。
別れ際、やはり長門の視線が少し気になった。 けど…… まぁいいか?


     * * *
その後もワケのわからないバイトや釣りや夏祭りや、天体観測に肝試しと涼宮に寄る夏休み行事は続いていった
……
そのたびに長門の視線が気にはなっていたが、この無口娘はなにも自分から語ろうとはしなかった。

     * * *
そんなある夜、朝比奈さんから携帯に連絡があって俺は駅前のいつものエントランスに自転車を走らせた。 
駅前には涼宮を除くメンバー全員がすでに揃っていた。
     * * *

用件はこうだ。
俺たちはどうやら夏休みの最後の2週間をループしているらしいと……
「どうやら、涼宮さんは夏休みに何かまだやり残したことがあるようですね」
古泉がのんきそうに笑って応える。
「だから、俺たちは何度も同じ夏休みを繰り返しているっていうのか?」
古泉と朝比奈さんが頷いて、それに気が付いた状況を俺に説明する。
「信じられないな? 確かに最近、既視感のようなものに襲われることはあったけど、それは涼宮に振り回さ
れて疲れているからだと思っていた」
「デジャヴと言うより、本当に何度も体験していた記憶が何かの拍子に甦っていたせいですよ。 僕の言葉が
信じられないのでしたら長門さんに聞いて下さい。 長門さんは全ての記憶を持っていますから」
古泉のその言葉に俺は長門を振り返る。
「本当なのか?」
長門は無言で頷く。
「だとしたら、俺たちはこんな事を何回続けているんだ?」
「一万五千八百四十五回」
長門が答える。
一万五千八百四十五回だと! 一万五千八百四十五回もこいつはこんな事を続けてきたのか?全ての記憶を保
ったままで!

俺は暫く驚きで声が出なかった。
「お前は同じ事を一万何千回も続けてきたのか?」


「全てが一緒ではない」
「え?」

「貴女が自分を始めから女性だと認識していた回はそのうち6534回、皆も始めから貴女を女性だと思って
いた回は3712回ある。 レアなのは貴女が自分自身を女性だと認識してるのに、他の皆が男性である事を
覚えていた回でこれはたったの253回しかない」
はい?
「初日のプールでスク水が旧スク水だった回は4967回、白スク水が3052回、競泳用水着に替わってい
たのは5024回、そのうち白アシと呼ばれる競泳水着は2584回……」
いや、なんで旧スク水や白スク水なんてものがあるんだよ?
「涼宮ハルヒがそう望んだから……」
盆踊りの浴衣は通常の浴衣の他に膝上の浴衣だったときが6863回。 私服だったときは72回」
少ねぇ!私服少ねぇ!
「バイトは5種類有り、夏祭りの神社の巫女の他にメイド喫茶のメイド、バニーのビラ配り、胸を強調した
制服の人気ファミレスのウエイトレス、ナース服を着ての保健室での雑用……」
まともなバイトはなかったのか?!
「その身体も様々」
身体?
「Aカップ以下の時が1786回、Fカップ以上の時は3943回、最大はIカップ。 体型も様々で幼児体
型は657回。モデルタイプは3879回。 のこりは中学生タイプから高校生タイプまで様々」
思わず、自分の体を抱きしめる。 俺が幼児体型の女児?
「ちなみに幼児でFカップは10回ある」
「更に涼宮ハルヒが涼宮ハルヒコだった回が3643回有り、キョン子がハルヒコと夏休み中に初めてを捧げ
たのは1905回」
「お、女の俺が男のハルヒに…… ひ、ひぃぃぃ、もう止めてくれ長門! それ以上もう言わなくていいから
!!」
俺は殆ど絶叫状態だった。
「ちなみに男の涼宮ハルヒが出現しない時は古泉と結ばれるパターンが確実に上昇して6864回」
「…………」
俺は言葉もなく崩れ落ちる。 いやもう、メーター振り切ると言葉も出ねぇよ!
「大丈夫ですよ、キョン子さん。 僕はちゃんと責任を取りますよ?」
崩れ落ちた俺の肩に古泉が手を掛ける。
「よ、寄るなぁ!ばかぁ!! 俺にさわるんじゃねぇ!!!」
頭から血の気が引き、座り込んだまま必死に古泉からこの小さな女の身体を少しでも遠ざけようと逃げる。


俺は長門に向かって質問する。
「ちょっと待て! お前はそれを全部覚えているってのか?」
「報告義務があるから……」
やめてくれぇ!
「いや、そんな報告しなくていいから! というか忘れてくれ!お願いします! お前だってそんなことを
何度も繰り返すのはたまんないだろ?」
俺は膝をついて長門に土下座する。 冗談じゃない、俺が覚えて無くても誰かが俺のそんな恥ずかしい記録を
取っているってだけで充分、悶え死ぬ!

「大丈夫」
長門が下げた俺の頭を優しく撫でる。
「え?」
「私はまだまだ飽きずに貴女の行く末を楽しめる。 この先、何万回であっても」
頭を上げた先には、無表情で親指を立てサムズアップする長門の姿があった。
いや、楽しんでないでこの魔のループを何とかしましょうよ、長門さん?

             * * *

そして、解決の糸口をつかめないまま、女のままで8月30日となってしまった。
喫茶店でメンバーを集めてスケジュールの消化を確かめるハルヒ。
「う~ん、こんなものかしらね?」
『…………』
他のメンバーはこの二週間の強行スケジュールの消化に疲れ果てて声も出ない。
「何か忘れているような気がするのよね?」
ストローを銜えて考え込むハルヒ。
何を忘れているってんだ? 俺はハルヒがテーブルに置いたスケジュール表を手に取り眺める。
そこには、この二週間の行動記録といえるモノが書きつづられている。
この中に無い夏休みの定番行事? なんだ? それは?
じっと紙を見つめる。 そこにはあらゆるイベントが網羅されてる。

「まぁ、いいわ。 考えつかないのなら、全部やり残した事はないんでしょ。 今日はこれで解散。 明日は
予備日に開けておいたけど、皆の自由にして」
そう言って、ハルヒが立ち上がる。
これではいけない。 何か言わなくては!
「ハルヒ!」
俺は立ち上がってハルヒを呼び止める。
「ん?何よ?」
ハルヒが俺の方を振り返る。 何か、何か何か何か!
「えっと…… お前は明日は何をするんだ?」
「え?私? そうねぇ? 部屋でノンビリ、TVのアニメでも見て過ごすわ。 漫画を読んだり?」
……アニメ? 漫画? あれ? まさかな? でも一応……
「ハルヒ! コミケって知ってるか? 夏コミと言われて一部の若者達の夏の定番行事!」
その時、俺の言葉にハルヒの顔に何かつっかえていたモノが取れたような顔になった。
「あ、そうそう! それよ、それ! 私も話だけは聞いてて一度行ってみたいと思ってたんだけど、すっかり
忘れていたわ。 ねぇ、それってどこでやってるの? 明日もやってる?」

えっと…… 俺たちは8/17から8/31を延々と繰り返していたわけで……
ふと、メンバーを見ると古泉は言いようのない戸惑った顔を、朝比奈さんはテーブルに突っ伏し、長門は淡々
とした顔を俺に向けていた。
つまり、俺たちは始めから正解が抜け落ちた選択問題の試験を延々と何千回もずっとやらされていたと……?

        * * *
やがて、8/31がやってきて次の日目覚めると「8/16」だった……
しかも、俺たちには「昨日までの記憶」がある。

「どうやら正解を引き当てたようですね?」
某所に向かう電車の中で隣同士で座った古泉が正面を見ながら、俺に声を掛ける。
「 …… 正解を引き当てたのはいいがな?」
「なにか問題でも?」
古泉が俺の方を向いて尋ねる。
「なんでまた俺は女になっているんだ?!」
「ループの最初に女性化するのがルールのようですね? これからの2週間はその姿で過ごすことになるよう
です。 ラストですから頑張って下さい」
そう言って、いつものにやけた細めで笑う。
「何やってるの? キョン子に古泉くん。 ほら、着いたから降りるわよ?」
ハルヒの声にせかされて俺たち5人は目的地を目指す。
くそぉ、何でよりによってこんな……
     * * *
「はい、それじゃミクルちゃんはこれに着替えて。 キョン子はこれ」
目的地に着くなり、俺と朝比奈さんにハルヒから衣装が手渡される。
朝比奈さんはどこかのアニメの魔女っ子のコスプレらしい…… そして俺には……
「おい、ハルヒ? これはいったい何だ?」
ハルヒから手渡された布っ切れと装飾品の様なモノを突き出して尋ねる。
「なにってコスプレよ、コスプレ? あんた、コスプレも知らないの?クィーンズ何とかってアニメのキャラ
の衣装じゃない?」
「殆ど裸に見えないか? この衣装って?」
「裸じゃないわよ? 肌色のタイツの上から胸や股間を隠すように蛇が巻き付いてるだけでしょ?」
「どこの成人指定アニメだ?」
「普通のアニメよ? ほら、キョン子に一番似合いそうなキャラを探すのは大変だったのよ? だから、さっ
さと着る!」
「だったら、お前が着ればいい」
そう言って、ハルヒに衣装を突き出す。
「私じゃダメよ。 残念ながら胸が足りないわ。 このキャラはキョン子のような巨乳でなきゃ似合わないの
よ?」
そう…… 今回の俺の姿は巨乳である。 多分、俺を見て特徴を上げろと言われたら百人中百人が"巨乳"と答
えるだろう。 ここに来る電車の中でさえ男女を問わず俺の胸に視線が集中していた。
でかい胸をゆさゆさと振るわせて歩くたびに他人の視線が気になる。 この屈辱感を何とかしたいと言うのに
お前は更に追い打ちを掛けようというのか、ハルヒよ?

「まぁ、確かに今のキョン子さんにはとてもお似合いでしょう。 僕と変わらない背丈に女性らしいスタイル
…… ファンタジーの世界の颯爽とした女性の英雄の姿がぴったりだと思いますよ?」
にこやかにくだらないことを言う古泉。
「だったらお前がパットでも詰め込んで着ろ。 俺はやらん!」
そんな俺の耳元に古泉が囁く。
「いいんですか? それが涼宮さんの心残りになった場合、再びループが発生しますよ? せっかくここまで
きたのに、また全てを忘れて正解のない答えを求めて女性化した2週間を何万回も繰り返す日々です。 
もっともアナタがずっと色々な女性を楽しみたいと言われるのなら別ですが」
……選択肢は二つに一つ。
このまま2週間、恥を忍んで流されるか、我が儘を通して無限ループに戻っていくか……
「朝比奈さん、更衣室のような場所はあるんですか?」
涼宮に渡されたコスチュームを腕に掛けて、朝比奈さんと更衣スペースに向かう。
「キョン子さん、きっとお似合いですよ」
古泉の脳天気な声が掛かる。
うるせぇ、ばかやろう。
        * * *
「ほぉら、キョン子大人気だったじゃない?」
ハルヒが無責任にはしゃぐ。
あれから俺はあの裸同然の衣装を着込み、ハルヒにコスプレ会場へと連行された。
そこで俺は胸をぷるんぷるんと揺らしながら様々なポーズをハルヒに要求されるまま取らされた。
あのデジカメのデータは何としても後日消去する。
インターネットにでも流された日には俺は生きては行けん。
「でも、部外者の人の方が沢山撮られてましたよ?」
イヤなことを思い出させるな。
「でも、キョンくんってスタイルいいですね? あの衣装の中、ブラを着けていなかったのに全然胸が垂れて
いませんでしたよ?」
朝比奈さんが慰めになってるのかよくわからない言葉で慰めてくれる。
まぁ、これが他人の胸だったら俺も興味津々だったんですけどね?
「とりあえず、問題のイベントはこれでクリア出来たんだ。 後は2週間、順序よくイベントをこなしていけ
ば無事に9月を迎えられるんだ、がんばるか」
「そうですね、がんばりましょう」
「2週間後、全ては元通りですね」
「……残念」
……一人だけ異論があったようだが、無視。


そして2週間、プールに夏祭りにバイトに肝試し、エトセトラと行事をこなし、遂に俺たちは9月を迎える事
が出来た。

     * * *

……のに、何で俺は元に戻ってないんだ?
新学期、初日の部室で俺は誰にともなく聞いた。
「どうやら、時間のループと貴方の女性化は別件だったようですね」
古泉が無責任に告げる。
「だったら、俺はどうやったら元に戻るんだ? この姿のまま、もう2週間だぞ? ずっと、この胸を抱えて
生活してる身になれよ」
「ステキですよ? 制服も似合ってますし?」
朝比奈さんは相変わらず、慰めになってない慰めをくれる。
「いや、この制服も充分、恥ずかしいんですけどね?」
大きな胸を収めきろうにも収めきれない制服がまた問題だった。
谷口は俺の胸だけしか見ないで話をするし、鶴屋さんには背後から胸を揉みしだかれたし……
というか、男子生徒は全員俺の胸しか見ないし、女生徒は目つきが怖いし……
「とにかく、戻る為の条件があるはずです。 それを見つけ出してなるべく早く貴方も戻れるように頑張りま
しょう」
「そうですね、私に出来ることなら何でもしますから」
「このままでも楽しい……」
まだ、一人異論があるようだが、無視。
「そうだな、早ければ、明日の朝起きたら元に戻って……」
俺が話してる途中にドアが突然開けられる。
「みんなー! 揃ってる? 映画を撮るわよ!」
「はい?」
「なんですか?」
「映画よ!映画! 文化祭にSOS団の作品として出品するの! コミケの時にキョン子のコスプレを見て、
ピンときたのよね? これだけのスタイルしてるんだもの、ヒロイックファンタジー物を作れば大当たりよ!
文化祭はSOS団が文化祭の話題を独占ね!」
「こらこら、誰がシナリオを書くんだよ!」
「ふん! シナリオなんて適当でいいのよ ヒロイックファンタジーは巨乳美女とそれに絡み付くネバネバ
ベトベトの触手を出しておけば、それだけでいいのよ!」
暴論だ。
「だからいいわね? いまから文化祭に向けて我が団はキョン子を主人公にした映画制作に入るわよ!」
呆然とする俺の肩を古泉がたたく。
「どうやら、映画制作が落ち着くまでは貴方は女性のままのようですね?」

え? は? 映画制作? 文化祭は…… 10月の中旬だっけ? ……はぁ!? ちょっと、待て!
すると何か? 俺は最低でも、後1ヶ月半は巨乳女子高生としてこの胸と付き合っていかなければならない
のか!?
俺は呆然と制服に押し込められたメロンの様な胸を掬い上げるように抱きしめる……

     俺たちの…… いや、俺の災難はまだまだ続く。



               最 終 E N D





inserted by FC2 system