ゼリーソーダで替え魂エッチ 作:メス牡蠣 「ねえねえ、アンタ立石でしょ?テストで学年1位だったっていう」 「えっ?」 返却された期末テストの結果に安堵して、心置きなく夏休みを満喫できると思っていた終業式の帰り。早く寮に帰って溜まっているアニメを消化しようなんて考えながら廊下を歩いていると、背後から女子生徒に声を掛けられる。 振り向くと、そこにはクラスメイトの芹沢彩奈(せりざわ あやな)さんが立っていた。毛先がウェーブがかった長い金髪に、校則などまるで気にしていないかのような丈のミニスカートと、胸元が大きく開かれたブラウス……そして、そこから顔を覗かせる巨乳。少し気の強そうな印象を受けつつも美少女然とした顔には、それを際立たせるような化粧が施されている。 そう、彼女はいわゆるギャルと呼ばれるような人種で、そんな芹沢さんが僕なんかに話しかけてきてることが信じられず身体が固まってしまっていた。 「や~、帰られる前に見つかって良かったわ。 頼みたいことがあるんだけどさ、今ちょっと話せる?」 「あっ、え、えっと、その……」 「きゃははっ、キョドりすぎでしょ!そんな緊張しないでよ、一応クラスメイトなんだからさぁ」 「う、うん……」 緊張……するなという方が無理な話だ。 僕、立石伸夫(たていし のぶお)は自分で言うのもなんだけど、彼女とは正反対の陰キャそのものみたいな人間だった。唯一取り柄と言い張れるのは勉強くらいで、容姿や運動神経は人並み以下な上にコミュニケーション能力に至っては壊滅的。幸いいじめの対象になるなんてことはなかったのだが、クラスメイトとの付き合いはほぼなく、芹沢さんとは会話をした記憶すらない。 (それに……芹沢さんのこと、ちょっと苦手なんだよなぁ……) 話したことは無かったものの、彼女はクラスでも目立つ存在だったため何となくその人となりは知っている。見た目通りというべきか、良く言えば明るく、悪く言えば騒々しい性格をしており、いつもグループの友人らと話してケラケラと大笑いしている姿を目にしていた。そういうタイプの人とは大抵そりが合わないし、多分向こうも僕みたいな男子のことは路傍の石のように思っていて……本当に、僕なんかに何の用があるんだろうか。 「んー、どこで話そっかな……。ねえ、立石って寮に住んでたりする?」 「あ、うん。まあ、一応……」 「そっか、それなら丁度いいわ。 立ち話もなんだし、続きはアンタの部屋ですることにしよっか。いいでしょ?」 「…………え?」 *** 「――うわ~!なにこれ、フィギュアってやつ? 立石ってオタクだったんだねぇ。まあそれっぽい見た目してるし、意外でもなんでもないけど」 「あ、あの、あんまり触らないでもらえると……」 うちの高校に併設されている学生寮。その男子棟にある自室に僕は芹沢さんを招いていた。というか、招かされていた。 今まで誰も来ることが無かった部屋に女子が……しかも、あの芹沢さんが居るという状況を前にして、自分の部屋だというのにやたらと緊張してしまう。一方の芹沢さんはまるで自室かのようにくつろいでいて、今もベッドの上に腰掛けて棚に置かれているフィギュアを手にとっては眺めているところだ。 「そ、それで……せ、芹沢さん、話って何?あの、僕に頼みたいことがあるって……」 「えっ?あー、はいはいそれね。 実はさぁ、アタシ期末テストで全教科赤点取っちゃって、明日から補習受けなくちゃいけないんだよねぇ」 「た、大変だね……」 「でしょ?せっかくの夏休みだってのにマジで最悪なわけよ! で、立石ってなんか頭良いらしいじゃん?だからアタシの代わりに補習受けてもらおうと思って……頼みってのはそれのこと」 「えっ……?」 あまりにも突拍子もないことを言われて、思わず面食らってしまう。全教科赤点ということにも驚いたけど、補習を代わりにって……芹沢さん、もしかして補習がどういうものなのかも理解できないくらい残念な頭をしているんだろうか。 「え、えっと芹沢さん。補習っていうのは自分で受けなくちゃいけないもので……」 「あははっ、流石のアタシでもそれくらい分かってるって。そうじゃなくて、立石がアタシになって代わりを……なんか説明すんのだるくなってきたなぁ。 やっぱりやってみせた方が早いわ、ちょっと待ってて」 そう言うと、彼女は自分の鞄をごそごそと漁り始める。やがて黄色い飲み物が半分くらい入ったペットボトルを取り出すと、目の前でぷらぷらと揺らしてみせた。 「とりあえず、これ飲もっか。 コップとか出してくんない?あ、2人分ね」 「え……?う、うん。ちょっと待ってて」 彼女に言われるがままに、戸棚からグラスを2つ取り出した。 こうして飲み物を出してきたってことは、もしかして長話でもするつもりなんだろうか。女子と……しかもこんなギャルと2人きりで会話だなんて、正直間が持つ気がしない。 テーブルにグラスを置くと、芹沢さんはペットボトルを傾けてその中身を注いでいった。液体というよりは、ゼリーみたいなものなんだろうか?ぷるぷるとした質感を持った黄色い飲み物がグラスへと注がれていく。 「よしっ。それじゃ、乾杯しよっか!」 「え?あ、あの、でも……」 意気揚々とグラスを掲げる芹沢さんだったが、その中身はほんの1、2センチ程度しか注がれていなかった。てっきりこれを飲みながらゆっくり話でもしたいのかと思っていたんだけど……やっぱり、ギャルって何を考えてるのか分からない。 「少ない、って言いたいのかな?いーのいーの、これぐらいでも十分なんだから。 ほら、乾杯~!」 「う、うん……」 差し出されたグラスに自分のグラスをぶつけ、そのままぐいっと中身を飲み干した彼女につられるようにして自分も口をつける。どこのメーカーの商品なのか、炭酸が入ったレモン味のゼリーのようなその飲み物は思った以上に美味しく、量が少なかったこともあってか一息に飲み干してしまう。 「うーん、やっぱ美味しいよね、コレ。 何の効果も無いやつとかが普通に売ってたら買ってたんだけどなぁ」 「効果って……え? げふっ、あ、あの、これってもしかして、変な薬とかが入ってたり……げぷっ」 おかしい。炭酸を飲んだらゲップが出てしまうことはあるとはいえ、ほんの一口飲んだだけだというのに先程からゲップが異常な頻度でお腹の中から込み上げてくる。どうやら芹沢さんも同じらしく、しきりにゲップをしては何故か楽しそうに笑っていた。 「げふっ……あははっ、来た来た! ここからが面白いんだから、げふっ、びっくりして腰抜かさないでね?」 「な、何を言って…………んぐっ!?」 その瞬間、一際大きなゲップが……いや、それとは明らかに様子の違う何かがお腹の奥底から込み上げて口内を一気に満たしていった。たまらず口を開けると、口の中からぷくっと、大きな空気の玉のようなものが溢れ出し、どんどんその体積を膨らませていく。 ふと、同じように口から大きな玉を吐き出している芹沢さんの姿が見えて……やがて、自分の口から玉が抜けていったと思った瞬間、ぷつりと意識が途切れた。 *** (う、うぅ……今のって一体……) 気を失っていたのはどうやら一瞬だったようで、再び僕の視界が戻ってくる。……いや、なんだかさっきよりも視線が天井にすごく近いし、それに全身が妙に軽いような…… 「あ、そっちも上手くいったんだ?」 「芹沢さ――えっ!!?ちょっ、な、なんで裸なの!?えっ!?」 いつの間にか芹沢さんが全裸になっていて、慌てて目を覆い隠す。……不可抗力で一瞬だけ見えたけど、やっぱり芹沢さんスタイル良いよなぁ。 「あっはは!何その童貞臭い反応!やっぱウケるわ~。 ていうか、別に見てくれたっていいんだよ?そっちも裸なんだからさ、お互い様でしょ」 「裸って……えっ!?な、なにこれ、どうなって……!?」 両眼を手で覆いつつも視線を下げて自身の身体に目を落とすと、彼女が言ったように確かに僕の方もいつの間にか全裸になってしまっていた。 というか、なんだこれ。全身がうっすらと透けてるし、どういう原理なのか足が床から離れてぷかぷかと浮いてしまっていて……夢でも見てるんだろうか。 「あっ、あのっ! せ、芹沢さん、これどうなってるの!?」 指に隙間を開けて、彼女の顔だけが見えるようにして芹沢さんに問いかけてみたものの、どうやら彼女はこの異常事態を意にも介していない様子だった。戸惑う僕を面白がるように笑いながら、淡々と話を続けていく。 「さっき飲んだジュースがあったでしょ?あれ、『ゼリーソーダ』って言うんだけど飲むとこんな風に幽体離脱できるんだよね」 「ゆ、幽体離脱って、そんなのあるわけ……」 「分かるわ~。アタシもあれもらった時、頭おかしいと思ったもん。 でも実際にこうなってるんだからさ、信じるしかないでしょ?」 「う……」 否定しようにも、心の中では本当に幽体離脱してしまっているのだと認めてしまっていた。僕たちはこうして透明な魂だけの姿になってしまっているし、足元を見れば僕たちの身体が……魂が抜けてしまっているせいか、だらしなく口をポカンと開けながら座っている。 「ま、アタシも実際にやってみるまでは信じられなかったけどね。さてと……う~、やっぱ動きづらぁ」 芹沢さんはバタバタとせわしなく、犬かきでもするように手足を動かして空中を移動していく。そして、意識のない僕の身体にゆっくりと近づいていった。 「うーん……改めて見ると、やっぱルックスは下の下って感じだよねぇ。ま、その方がむしろいいのかな。……よっと!」 「えっ?あ、あの、何して……!?」 芹沢さんは意識のない僕の身体を品定めするように見ていたかと思うと……なんと、その口の中へとおもむろに頭を突っ込んでしまった。その突拍子もない行動に驚く間もなく、更に異様な光景が目の前で繰り広げられていく。 (なんだあれ、芹沢さんが僕の中に……!?) どう見ても入るわけがないのに、芹沢さんの頭はするすると僕の身体の口の中へと吸い込まれてしまった。いや、頭だけじゃない。肩も胴体も、その大きな乳房に至るまで、魂だけになった彼女の全身が形を変えながら吸い込まれていく。そしてとうとう、するんっ、と足先まで口の中に吸い込まれてしまい、芹沢さんの魂は僕の身体へと完全に入り込んでしまっていた。 何が起きてるのか理解がまったく追いついていないし、動こうにも身体の動かし方すら分からずただ浮かんでいることしかできない。不安に苛まれながらも、芹沢さんが入っていった僕の身体をじっと見つめていると……しばらくして、ピクッと、意識が無いはずのその身体が微かに動いたような気がした。 「ん、んぅ……」 いや、気のせいじゃない。僕はここにいるのに、僕の身体が勝手に小さく呻き声をあげ、今にも動き出そうとしていたのだ。 やがて『僕』はパチッと目を開くと、確かめるようにペタペタと自分の身体を触り始める。 「へえ、これが男子の身体……あははっ、声低っ!やっぱ全然違うわ~」 『僕』は全身を興味深そうに撫でまわしたかと思うと、自分自身の野太い声を確かめるように「あー、あー」と声を発しては楽しそうに笑っている。僕の身体なのに、その陽気な姿は僕に見えなくて……なんてしようもないことを考えていると、『僕』はおもむろに股間のあたりをじっと見つめる。 「うわっ、面白~!……なんか元カレのよりデカいかも。アレが自分に生えてるってこんな感じなんだ」 「ちょ、ちょっと!?何して……あ、あれっ……!?」 そしてズボンに手を突っ込んで直接股間を弄り始めた『自分』を見て、流石に見ていられずに止めようと身体を動かそうとしたのだが――ぐんっ、と何かに引っ張られるような感覚がして思わずその方向に視線が向いてしまう。 そこには、テーブルの前に虚ろな表情で座っている芹沢さんの身体があった。そしてどういうわけか、ポカンと開いたその口から強烈な引力を感じて、ぐんぐんと近づいていく。 「な、なんで!?こっちは芹沢さんの身体じゃ……むぐぅっ!?」 やがて僕の頭頂部に彼女の口に触れたと思った瞬間、頭がまるで溶けてしまったかのような感覚を覚える。そして視界が暗くなり、手も、足も、身体全体が彼女の中へと吸い込まれていき――僕の意識はそこで途切れてしまった。 *** 「う…………」 再び目を覚ますと、僕は自室のテーブルの前に座っていた。 視線はさっきみたいに高くないし、なんだか変な感じもするけどちゃんと身体の重さも感じる。やっぱり、さっきのは夢だったんだろうか。手もさっきみたいに透けてないし―― 「へっ?」 視界に映った『自分の手』を見て、思わず素っ頓狂な声が漏れてしまう。 そこにあったのは、慣れ親しんだ僕自身の手じゃなかった。妙に白く透き通っているし、指なんかは毛なんて1本も生えてない細く長い綺麗なものに変わっている。指先の爪には黒いマニキュアが塗られていて……まさかと思い視線を下ろすと、そこには胸元が大きくはだけた白いブラウスが。そしてその隙間からは、ブラジャーに包まれた大きく膨らんだ肌色の塊が姿を覗かせていた。 「うぇぇっ!?う、うそっ、これ、もしかして……!?」 そうして驚きのあまり発した声も、元の僕のそれとは違う甲高いものへと変わってしまっていた。 胸元から感じる重みが、そして胸全体が布地に包まれているという今までにない感触が気になって思わずそれを触ってしまいそうになったものの、まずいと感じてその手を止める。僕の予想が正しければ、胸にあるこの膨らみの『本来の持ち主』がこの場にいるはずで……その相手を探す間もなく、ポンと肩に手を置かれた。 「どう、すごいでしょ?」 そこにいたのは、『僕』だった。紛れもない僕自身の身体が僕の意思とは関係なく勝手に動いて喋っている。一方で今の僕の身体も声も、普段のものとはまるで違う女子の様なものになってしまっていた。既に何となく察しはついてしまっていたが、それを確かめようと目の前の『僕』に恐る恐る声を掛ける。 「え、えーっと……もしかして僕と芹沢さん、入れ替わってる……?」 「もしかしても何も、見たら分かるでしょ? 幽霊になったアタシが立石の身体に入って、代わりに立石がアタシの身体に入ったの。 男子と入れ替わるのは初めてだけど、うーん……ま、その内慣れるかな」 あっけらかんとした口調でそんなことを言い放つ目の前の『僕』……いや、芹沢さんの言葉に愕然としてしまう。アニメなんかでたまに見る、他人と身体が入れ替わってしまう現象。それが今、自分の身に起こってしまっているのだ。 まだ夢でも見ているのかと思い頬を抓ってみても、これが現実であると証明するかのように敏感な痛みが返ってくる。そんな動作をしただけでも指先にさらりとした長い髪が触れるなんていう、本来の僕の身体じゃあり得ない感触がして……本当に僕、芹沢さんになってるんだ。 「あ、あの……これって、元に戻れるの……?」 「そりゃもちろん、戻れるに決まってるじゃん。 さっきみたいにゼリーソーダをもっかい飲んでお互いの身体に入れば元通りだよ。……っていうか、戻れなかったらアタシがアンタと入れ替わりたがるわけないって」 「そ、そっか……あれ? で、でも、それじゃあなんで僕と入れ替わって……」 「言ったでしょ?立石に補習、代わりに受けてもらいたいって。 こうして入れ替わっちゃえばさ、アンタが代わりに受けてても問題ないってわけよ。こんなやり方思いつくなんて、アタシほんと冴えてるよね~」 「でも…………う、うん、そうだね……」 嬉しそうにケラケラと笑うその仕草は間違いなく芹沢さんのものだったが、あんな風に僕の身体でやられると様になっていないというか、正直ちょっと気色悪い。 というより、補習を代わりに受けるのを了承した覚えなんてないんだけど……。完全に僕の意思なんかを無視して説明もなしに勝手に身体を入れ替えられてしまったし、彼女の中ではもう決まったことなんだろう。これだからギャルは苦手だし、それに抗議すらできず言いなりになってしまう自分のことも本当に嫌になる。 「さてと……立石さあ、キャリーバッグとか持ってない?大きめのリュックとかでもいいけど」 「えっ?も、持ってるけど……」 「そ、良かった。じゃあそれ出しておいてね。 あとは4泊分の服~っと」 「えっ!?あ、あのっ、何して……!?」 「何って着替えの準備だけど……あ、そういえば言ってなかったっけ? 行きたかった音楽フェスが明日から3日間あるんだけど、丁度補習と被っててさぁ。だから立石に替え玉を頼んだんだよね。 男子の身体ならうざいナンパとかもされないだろうし、一石二鳥ってわけ」 僕のクローゼットの中を漁りながら、芹沢さんは当然のようにそんなことを言ってのけた。 4泊分って言ってたけど、それじゃあ今日を含めて5日間このままってことになってしまうんだろうか。いくらなんでも勝手が過ぎる。 「あ、あの、芹沢さん。やっぱり、その……」 「何?」 「あっ、いや……。な、なんでもないよ」 意を決して抗議しようと口を開いたが、結局何も言えなかった。相手は自分の身体だというのに、やはり中身があの芹沢さんだと思うとどうしても委縮してしまう。 結局、彼女の荷造りを黙々と手伝い続けることしかできずに時間だけが過ぎていった。 *** (うぅ……どうして僕がこんな目に……) あれから少しして、うきうきとした様子でキャリーバッグ引き摺る芹沢さんを見送った僕は、学生寮の女子棟の廊下をとぼとぼと歩いていた。どうやら友人に僕の……芹沢さんの身体の世話を、それと僕が彼女の身体で勝手なことをしないための監視を頼んでいるらしく、入れ替わってる間はその人と一緒に芹沢さんの部屋で過ごせとのことだった。 こうして女子の身体になってしまっていることだけでも不安だというのに、その上ギャルの友人と2人で同じ部屋で過ごすことになるなんて……想像しただけでも緊張して仕方がない。 「お、お邪魔します……」 自分の部屋の鍵の代わりに渡された鍵を使い、芹沢さんの部屋の扉を開ける。その瞬間、甘いようないい匂いがふわりと鼻先をかすめたが、同時にその匂いはどこか馴染み深いようなものに感じた。ふと、それがこの身体になって以降自分自身から発せられている香りと同じということに気づき、改めて自分がこの部屋の主である芹沢さんになってしまっていることを思い知らされる。 「あ、やっと来た。 えっと……立石くん、でいいんだよね?」 「えっ?あっ、あの……」 「ふふっ、そんなに緊張しないでいいよ。クラスメイトなんだし、それに今は女子同士でもあるんだから。 短い間だけどよろしくね、立石くん」 「あ、う、うん、よろしく……」 ワンルームの室内へ進んでいくと、ベッドの上に腰掛けてスマホを弄っていた女の子に声を掛けられた。多分、彼女が『監視役』なのだろう。一応は見知った顔だということもあり少しだけほっとする。 (そっか、藤枝さんと一緒に暮らすことになるんだ……) 彼女、藤枝理沙(ふじえだ りさ)さんは芹沢さんの友人で、僕のクラスメイトでもある女子だった。 肩にかかるくらいの綺麗に切り揃えられた黒髪に、ぱっちりと開いた大きな瞳。性格の方はというと、活発な芹沢さんとは対照的にいつも落ち着いた印象があって、そして何より僕みたいな陰キャにも分け隔てなく接してくれる子だった。 同じクラスになった時から気になっていて、でも、僕なんかとは釣り合うわけがないからって告白とかを諦めてた相手でもあるんだけど……そんな藤枝さんと2人きりで過ごせるだなんて、正直かなり嬉しい。 ……こうして芹沢さんの身体でじゃなくて、元の僕として一緒にいられたらもっと良かったんだけどな。 「とりあえず荷物下ろしたら? 落ち着かないかもだけど、今は立石くんの部屋でもあるんだから好きにくつろいでていいんだよ」 「う、うん……」 芹沢さんのものであるスクールバッグを部屋の隅に置き、促されるままに手近にあったクッションの上へ正座してみる。すると、そんな僕の動作を見ていた藤枝さんがくすっと小さく笑った。 「なんか可笑しいなぁ、あの彩奈がこんな風にしおらしくなってるの。中身が立石くんだって分かっててもちょっと面白いかも」 そう言いながら、彼女は楽しそうにころころと笑う。その笑顔は、僕の知っている普段の彼女とはまた違った魅力があるように思えた。 「……ふ、藤枝さんはどうして信じていられるの?僕と芹沢さんが入れ替わってるって……」 「え?」 「いや、その……か、身体が入れ替わってるなんて普通は信じられないと思うし、なんでなのかなって……」 彼女は再びスマホを弄り始めたのだが、その沈黙を何となく気まずく感じてしまい、間を埋めるようにしてふと頭に浮かんだ疑問を投げかけてみる。 こんなことが起きるなんて、こうして体験してみるまでは間違いなく信じられなかっただろうし、正直言って芹沢さんの身体になってしまっている今でもまだ現実味がないくらいだ。友達が別人と入れ替わってるだなんて、普通信じられるものなんだろうか。 「うーん、彩奈とそこそこ付き合いが長いからっていうのもあるけど、一番の理由は私もあの子と入れ替わったことがあるからかな」 「えっ!?ふ、藤枝さんも……?」 「うん。期末テストのちょっと前くらいだったかな?彩奈が面白いものがあるからって言って、あのゼリーソーダを持ってきてさ。色々試してるうちに空っぽになった身体なら魂が入っていけることが分かったの。 でも、そしたら彩奈の魂が私の身体に入っていっちゃって……あれはびっくりしたなぁ」 「そ、そうだったんだ……」 そういえば芹沢さん、「男子と入れ替わるのは初めて」って言ってたけど、あれはそういうことだったのか。清楚な藤枝さんとギャルな芹沢さんが入れ替わっているちぐはぐな姿が脳裏に浮かび、少し笑ってしまいそうになる。 「だけど、まさか男子と……立石くんと入れ替わって補習をサボっちゃうとは思わなかったなぁ。 ……彩奈が迷惑かけてごめんね。いきなり女の子の身体になっちゃって大変だと思うけど、私もなるべくサポートするからさ。あの子のこと、許してあげて?」 「う、うん……」 スマホから顔を上げた彼女が申し訳なさそうな表情を浮かべて謝ってくる。 (藤枝さん、やっぱり優しい人なんだな。自分だって夏休みの予定とかがあるだろうに、友達のために貴重な時間を割いて協力してくれるなんて……) こんなに良い人がどうして芹沢さんみたいなギャルと仲が良いのかなんて思うけど、むしろこんな風に思いやりがある人だからこそ、自分勝手な芹沢さんと案外噛み合っているのかもしれない。 芹沢さんの身体で生活する数日間。正直不安で仕方ないけど、なるべく藤枝さんの負担にならないように頑張っていこうと強く決心した。 *** ――なんて決意をしてから1時間も経たないうちに、僕は早くも藤枝さんのお世話にならざるを得なくなっていた。 「ほ、ほんとごめん……。服の脱ぎ方も分からなくて……」 「謝らなくていいってば。男子はブラなんてつけないんだから、こればっかりはしょうがないよ」 あれから少しばかり藤枝さんと談笑をして、ちょっとだけ打ち解けることができたかもなんて思っていた矢先、彼女から「一緒に風呂に入ろう」と提案されたのだ。多分それも、芹沢さんが言っていた『お世話』の範疇なんだろう。 覚悟を決めてブラウスやスカートを脱ぎ、なんとか下着姿になることまではできたものの、唯一残った重たい胸を支えているブラジャーだけはどう脱いでいいのかまるで分からず、結局藤枝さんに脱がせてもらうことになってしまっていた。 プチッという音が聞こえたかと思うと締め付けが楽になり、同時に支えを失った膨らみがぶるんっと揺れながら露わになった。今まで感じたことのないその重みは間違いなく女性特有のもので、改めて自分が女の子の身体になってしまっているのだと認識させられ、思わず赤面してしまう。 「この後ろにあるホックを外せばあとは簡単に脱げるから、覚えておいてね」 「う、うん。 ……というか、思ったんだけど僕、芹沢さんの裸を見たりして大丈夫なのかな……。なんか怒られそうだし、め、目隠しとかした方がいいんじゃ……」 「へえ、立石くん細かいこと気にするんだね。 大丈夫だよ。あの子、その辺のことあんまり気にしないし……なんなら一人エッチとかもしたっていいんだよ?それくらいのことなら私、黙っててあげるから」 「えっ!?あ、あのっ、それって……」 「……なーんて、冗談だよ。 ほら、早くお風呂入ろ?」 藤枝さんは悪戯っぽく微笑むと、そのまま脱衣所の中へと入っていた。一方の僕は彼女が言った言葉で頭の中がぐちゃぐちゃになってしまい、もはや風呂どころではなかった。 (清楚な子だと思ってたけど、藤枝さんってあんな冗談も言う人だったんだ……。それに一人エッチって、やっぱり女子もオナニーとかするのかな。チン○がないってことは、多分アソコで……) 変なことを言われたせいか、どうしても自分の股間に意識がいってしまう。視界を遮る胸の膨らみでよく見えないけど、普段ぶら下がっているモノの感覚が無い、男のそれとはまったく違う股間。マン○なんてエロ漫画とかでしか見たことないけど、あれが芹沢さんの身体に、今の僕についてるんだよな……。 「立石くん、どうかしたのー?」 「ご、ごめん、すぐ行くから……えっ!?ちょっ、藤枝さん、なんで脱いでるの!?」 藤枝さんの声で我に返って後を追うが、脱衣所に入った彼女は僕が見ていることも構わずに服を脱ぎ始めていた。無防備に晒された藤枝さんのあられもない下着姿が一瞬視界に入ってしまい、慌てて両手で目を覆う。 「なんでって、一緒に入るんだから私も脱がないとおかしいでしょ?」 「い、いやっ、でも……。ぼ、僕一応男子だから、その……」 「ほんと気にしいだなぁ。別に恥ずかしいとか思わないよ? さっきも言ったけど、今は女の子同士なんだから」 「あっ……」 顔を覆っていた手をそっと握られ、そのまま優しく剥がされてしまう。そして僕の目の前には、一糸まとわぬ姿の藤枝さんが立っていた。 普段は制服に隠れている白く透き通った肌に、芹沢さんよりは控えめだけど形の良い胸とくびれた腰回り。元の僕であれば一生拝むことができなかったであろう光景を前にして、まだ湯船に浸かってもいないのに顔中がどんどん熱くなっていく。 「あははっ、顔真っ赤。 今はまだ恥ずかしいかもしれないけど、少しずつ慣れていこうね」 「う、うん……」 藤枝さんは僕の手を握ったままニコッと笑いかけてくる。 密かに想いを寄せている女子にこんなことをされて、しかも相手は無防備な姿を晒している。元の僕の身体なら間違いなく勃起していたであろうシチュエーションだろう。でも、今の僕の身体にはその興奮を表すためのモノがなくて……。 その代わりと言わんばかりにムズムズと疼く下腹部の感覚に戸惑いながら、彼女に手を引かれて浴室へと入っていった。 *** 次の日。グラウンドで運動部が練習をしている声を聞きながら、僕は教室で補習を受けていた。どうやら補習を受けるハメになっていたのは芹沢さんだけだったらしく、そんな状況ではやる気も起きないのか、担当の教師が退屈そうに大きく欠伸をしている姿が目に入る。 配られた数十枚のプリントをひたすら解いていくだけの単調な内容だったけど、余計なことを考えずにすむこの時間が今はありがたく感じた。 (ふぅ……なんかやっと一息つけたって感じだ。ずっと気が休まらなかったからなぁ……) 芹沢さんとしての生活は戸惑いと緊張の連続だった。風呂に入っている間もずっと緊張しっぱなしで、せっかく藤枝さんと一緒だったというのにほとんど何も覚えてないし、寮の廊下や食堂なんかでは芹沢さんの知り合いらしき人たちに何度か声を掛けられたりした時なんかはひたすら挙動不審になったりしてしまっていた。 それと、風呂の時もそうだったけど、その後の着替えとかトイレとかでもずっと藤枝さんの世話になりっぱなしで……一緒にいると申し訳なさでいっぱいになるから、今はこうして1人でいられる方が少しだけ気が楽だ。 それから黙々と問題を解き続け、ようやく配られた分のプリントは全部終わらせることができていた。時計を見ると針が11時を指していて、簡単な問題ばかりだった割に時間を使いすぎてしまったらしい。というのも、暗記科目は問題なかったんだけど、計算問題になると途端に頭の動きが鈍くなったような感じがして……もしかしたら、勉強が苦手な芹沢さんの脳みそを使っている影響が出ているのかもしれない。 「あ、あの……終わりました……」 「はいはーい……えっ、もう!?」 教卓の隣に座りながらやる気なさそうに本を読んでいた教師に声を掛けると、彼女は驚きながらこちらを振り向いた。おずおずとプリントの束を手渡すと、彼女は信じられないものを見るようにしながらぺらぺらとめくっていく。 「本当に終わってる……。一応聞くけど、カンニングとかしてないわよね?」 「も、もちろんです。それで、あの、次は何をすれば……」 「えーと……さっき渡したのが今日の分全部で、それ以降はまだ準備してないのよ。芹沢さんがこんなに早く終わらせるなんて思わなくて……。 他に人もいないし、今日はもう帰ってもらって大丈夫よ」 「えっ?あ、分かりました……」 補習は午後4時ほどまであると聞いていたので、拍子抜けした気分になってしまう。とりあえず荷物をまとめて外に出てみたものの、余った時間をどうしようか途方に暮れていた。 (……部屋に戻ってアニメでも見てようかな。その辺ぶらついてたら芹沢さんの知り合いに見つかっちゃうかもしれないし……) 自分の部屋の鍵は芹沢さんに持っていかれてしまったからパソコンや参考書の類は無いけど、幸いスマホだけは彼女が出かける前に交換していたので配信サイトでアニメを見るくらいのことはできる状況だった。 苦手なギャルの身体とは言え、せっかく女の子になってるのにいつも通りアニメを見るだけなんて……とは自分でも思うけど、昨日藤枝さんが言ってたみたいに芹沢さんの身体で"一人エッチ"をしたりする度胸なんて僕にはない。 (あれ?藤枝さんまた来てるんだ) 芹沢さんの部屋に戻ると、玄関に藤枝さんの靴があることに気づいた。朝に一緒に部屋を出て、補習が終わる頃にまた来ると言われていたんだけど……忘れ物でもしたんだろうか。 「……はぁっ♡ 彩奈ぁ……♡」 部屋の中まで進もうとしたところで、藤枝さんの声が聞こえてきて思わず足を止めてしまう。 艶めかしく荒い息遣いと、今まで聞いたことがないような甘く蠱惑的な声。微かに布擦れの音や水音のようなものも聞こえてくる。 恐る恐る部屋の奥を覗き込むと、そこにはベッドの上で布団にぎゅっと抱き着きながら顔を真っ赤にさせている藤枝さんの姿があった。そしてその右手は股間の方へと伸びているようで―― ≪ピロンッ♪≫ 「わぁっ!?」 その瞬間、スマホから鳴った通知音に驚いて思わず声を上げてしまった。僕の身体になっている芹沢さんからのメッセージのようだったけど、このタイミングはいくらなんでも間が悪すぎる。 「う、うそっ!?彩奈っ!? なんで……あっ、ち、違うのっ!これは、その……」 「ご、ごめん藤枝さん。 ほ、補習が思ったより早く終わって……それで……」 「えっ? …………そ、そっか。そういえば今は立石くんが彩奈なんだよね……。それなら……」 藤枝さんは慌てた様子で身体を起こすと必死に弁明を始めたのだが、すぐに芹沢さんが僕と入れ替わっていることを思い出し、何かに納得するように小さく何度も首を縦に振っていた。 正直気まずくて仕方がない。多分、彼女がしていたのは自慰行為だったろうし、その最中にはしきりに芹沢さんの名前を呼んで、彼女が普段使っている布団に顔を埋めて匂いを嗅いでいたりもしていた。もしかしたら藤枝さんは、芹沢さんに対してそういう感情を抱いているのかもしれなくて……その上今の僕はその相手の身体になってしまっているのだから、何と声を掛けていいのか分からなかった。 いっそ見なかったことにして部屋から逃げてしまおうか……なんて思っていた矢先、不意に藤枝さんから声を掛けられる。 「……ねえ、立石くん。 ちょっとこっちに来てくれないかな?」 「えっ?い、いやっ、でも……」 「いいから、来て」 有無を言わせない雰囲気でそう言われ、緊張しながらも彼女の元へと向かっていく。ついさっきまで自慰をしていた余韻のせいだろうか、顔を赤らめながらふぅふぅと小さく息を漏らしている姿はひどく煽情的で、無意識の内にごくりと唾を飲み込んでしまう。そして彼女の前に立った瞬間、突然彼女に手を掴まれ、ぐいっとベッドの上に引っ張られた。 「ひゃっ!?な、なにして……んむっ!?」 抵抗する間もなくぎゅっと抱きつかれ、そのまま唇を奪われてしまう。口の中にぬるっとして生暖かいものが侵入してくる感覚と、舌同士が絡み合う淫靡な感触。初めて味わう未知の刺激に頭がぼうっとなり、身体中の力が抜けていく。 やがて藤枝さんはゆっくりと口を離すと、潤んだ瞳のままこちらを見つめてきた。 「……彩奈のそんなえっちな顔、初めて見たかも。可愛い……っ♡」 「あ、あのっ、藤枝さん、これってどういう……」 「ごめんね、立石くん。ちょっとだけ黙ってて? ……黙って、私の言うことだけ聞いて……♡」 向かい合ったまま手をそっと重ねられ、耳元で囁かれた甘い声によって思考がどろどろに溶かされてしまう。彼女の言う通りに何も言えず、動けず。重なり合ったままの手を動かされ、スカートの中を掻き分け、やがて指先にぬるっとした柔らかい何かが触れる感触を覚えた。 「ほら、分かるでしょ?私のアソコ、彩奈のことを考えてただけでこんなになっちゃったの……♡ 全部、全部彩奈がそんなに可愛いのが悪いんだから……責任、取ってくれるよね♡」 「っ……!?」 つぷっ、という小さな音と共に、中指が温かく湿った肉穴に包まれる。重なり合った彼女の指によってそれは動かされ、くちゅっ、ぴちゃっという艶めかしい水音と共に藤枝さんも小さく声を漏らしていた。 「あっ……♡んっ♡くぅんっ……♡♡」 目の前ではあの藤枝さんが快楽に蕩けた表情を浮かべていて、その姿に僕の心臓はどくんと高鳴ってしまう。同時に、下腹部の奥がきゅんきゅんとうずくような不思議な感覚を覚え、次第に自分の呼吸も荒くなっていることに気づいた。 (な、何か股間のあたりがじわぁって……こ、これって、もしかして……) 好きな人の痴態を間近で見ているからか、はたまた生まれて初めて女子のマン○を触っているからなのか。気づけば自分の股間も熱を帯び始め、その中から何かが分泌されていくような感覚を覚えていた。 僕だった時には感じようもなかった感覚。男の身体とは違う、女の子の身体が興奮した時の、切なくも甘美な疼き。それが今、芹沢さんの身体を通してはっきりと伝わってきてしまっていた。 「っ……♡♡ だ、だめっ♡♡イっ……~~~~♡♡♡♡」 やがて限界が訪れたのか、藤枝さんが小さく身体を震わせる。膣内がきゅうっときつく締まり、僕の中指は彼女の絶頂の証である愛液まみれになっていた。 指を引き抜くと、イった余韻からか藤枝さんは真っ赤な顔をしてはぁはぁと息を整えていた。やがてそれが落ち着いたかと思うと、気まずそうにしながら僕の方へ顔を向けてくる。 「ごめんね、いきなりこんなことさせちゃって」 「えっ?い、いや……う、うん……」 「……私、彩奈のことが好きで……中身が立石くんになってる今ならチャンスだと思っちゃって、それで……。 ……このこと、彩奈には絶対言わないでね。多分気持ち悪がられちゃうから……」 藤枝さんはそう言うと、恥ずかしそうに腕で目を覆った。僕が藤枝さんに想いを伝えられなかったように、彼女も芹沢さんに秘めた想いをずっと抱えていたのだろう。 「……あ、あははっ!変な空気にしちゃってごめんね!? そ、そうだ、そろそろお昼だし食堂行かない?お腹空いちゃったなぁ」 しばらくの沈黙の後、彼女はわざとらしく明るい声でそう言った。そしてベッドから降りようとしたのだが――僕は無意識の内に、彼女の服の裾をぎゅっと掴んでいた。 「た、立石くん……?」 自分でもどうしてこんなことをしているのか分からない。だけど、そうするしかなかった。チン○が勃起してる時なんかとは比べ物にならないほどの耐え難い興奮で頭が満たされていて、なのにその強烈な疼きを鎮める方法なんて僕は知らなくて。だから……恥ずかしいし、申し訳ないとは思いながらも、懇願するように恐る恐る口を開いた。 「あ、あの、藤枝さん。ぼ、僕の方も、なんか、その……疼いちゃって……。 こ、これ、どうすればいいのかな……」 言ってしまってから、顔が一気に熱くなる。何て馬鹿なことを聞いているんだろう。これじゃあまるで、オナニーの仕方を教えて欲しいと言っているようなものじゃないか。 藤枝さんはぽかんとした様子でこちらを見つめていたが……ごくりと唾を飲み込んだかと思うと、突然彼女に押し倒されてしまった。 「ひゃあっ!?」 「……立石くんがいけないんだよ。彩奈の顔で、声で、そんな風に誘ってくるから……っ♡♡」 そのまま覆い被さられるようにして唇を奪われ、再び舌が絡み合う濃厚なキスへと変わっていく。お互いの唾液を交換し合うような激しい舌遣いに、頭の奥がじんっと痺れていく。やがて藤枝さんはゆっくりと口を離すと、こちらを見つめながら妖艶な笑みを浮かべた。 「女の子のやり方、知りたいんだよね? いいよ、私がたっぷり教え込んであげる♡」 「ふ、藤枝さん……!? あっ♡あぅ……♡♡」 ブラウスのボタンが外されると、彼女はブラジャー越しに僕の胸を揉んできた。最初は優しく撫でるように、徐々に強く激しくなっていく手つき。初めての快感に身を捩らせてしまうが、それでも藤枝さんの手は止まらない。 やがてブラがずらされ、ぷっくり膨らんだ乳首が露わになる。そこに彼女の手が触れたかと思った瞬間、びくっ、と身体が大きく跳ねてしまった。 「ふふっ♡こんなビンビンに乳首勃てちゃって、立石くんってばエッチなんだぁ♡」 「ひゃうぅぅっ!?♡♡」 藤枝さんの細い指先で乳首をピンッとはじかれ、びりっとした快感が全身を走る。反射的に口から飛び出した声は自分とは思えないほど高くて、思わず両手で口を押さえてしまう。しかしそんな僕を見ても藤枝さんはくすっと笑うだけで、すぐにまた指を動かし始めた。 「彩奈のおっぱい、やっぱり敏感なんだね。もしかしてあの元カレに開発でもされてたのかな……? でも、今は私のモノなんだから♡私の、私だけの彩奈……っ♡♡」 「んっ♡♡ふっ……あぅぅっ♡♡♡♡」 藤枝さんは恍惚とした表情でそう囁きつつ、執拗に乳首を責め立てていく。指でつまんでぐりぐりと押し潰されたり、爪を立ててかりかりと引っかかれたりするたびに甘い刺激が走り、身体がぴくっぴくっと震えてしまっていた。 (これが芹沢さんの、女の子の身体の快感……っ♡♡き、気持ちよすぎておかしくなりそう……♡♡) ただ乳房を愛撫されているだけだというのに、身体がどんどん昂っていくのを感じる。男だった時には味わえなかった感覚に思考が蕩け、次第に何も考えられなくなっていく。身体が熱くて、疼いて、切ない。もっとこの身体に快楽を与えてほしいと、本能がそう訴えかけてくる。 そんな僕の願望が顔に出てしまっていたのか、藤枝さんは嬉しそうに微笑むと、スカートの中へと手を滑り込ませてきた。見なくても分かるほどぐしょ濡れになったショーツに触れ、その上から割れ目をなぞる様にして指を動かす。 「はうぅっ……♡♡うっ、うぁぁっ♡♡♡はぁんっ♡♡♡」 布越しだというのに伝わってくる強烈な刺激に、腰ががくがくと揺れ動いてしまう。藤枝さんは僕の反応を楽しむように何度も同じ場所を往復させると、ついにはその中の秘裂へ指先を直接あてがってきた。 「あはっ、すごい♡彩奈のおまん○トロトロになっちゃってる♡♡ ……ねえ立石くん、挿れてほしい?私の指でおまん○弄って、掻き回して、グチャグチャにされて♡もっと気持ちよくしてほしいでしょ?♡」 耳元で甘く囁かれる言葉。それが脳に染み込むと同時に、下腹部がきゅんっと疼いた。早くそれが欲しくて、この先にある今以上の快感を知りたくて、荒い呼吸を繰り返しながらもこくこくと首を縦に振る。 「ふふっ、そうだよね♡ このままイかせてあげてもいいんだけど……その前に、1つだけ私のお願い聞いてくれる?」 「はぁっ、はぁっ……♡お、お願いって……?」 「彩奈の身体でいる間はずっと、彩奈として振舞うこと。自分のことも"僕"なんかじゃなくてちゃんと"アタシ"って言って、いつもの彩奈みたいに私と一緒にいてくれること♡ クラスメイトなんだから、あの子の口真似くらいはできるでしょ?」 くにくにと膣内の入り口付近を刺激しながら、藤枝さんは愉しそうな声でそんなことを言ってくる。だけど今の僕はもう、彼女が求めるものがどういうものであれ、それに従う以外の選択肢なんてなかった。 再び首をゆっくりと縦に振ると藤枝さんはとても嬉しそうな笑顔を見せてくれたものの、指の方は焦らすばかりで一向に挿入してくれる気配がない。もどかしさに頭がくらくらしてくる。 「っ……♡ ふ、藤枝さん♡お願いならちゃんと聞くから、だから早くっ……♡♡」 「藤枝さん? 違うよね、彩奈はそんな風に言わないでしょ? ほら、彩奈が私にどうしてほしいのか、ナニをしてほしいのか♡ ちゃーんと、いつもの彩奈みたいにおねだりしてほしいなぁ♡♡」 僕が懇願すると、藤枝さんは意地の悪い笑みを浮かべながらわざとらしくそう返してきた。恐らく僕が……いや、芹沢さんの身体が恥ずかしがったり躊躇したりしている様子を楽しんでいるのだろう。 しかしその一方で僕の方も、彼女によって与えられるであろう快感への期待でいっぱいになっていて……。 「り……理沙……」 「なあに?彩奈♡」 「そ、その、挿れてほしくて……」 「それだけじゃ分かんないなあ。 彩奈は、私に。どこをどうしてほしいのかな?♡」 「っ……♡」 ぐっと顔を耳元に近づけられて、吐息混じりの甘い声で囁かれる。ぞくっとした感覚と共に子宮の奥がきゅっと収縮するような感覚を覚え、自然と太腿を擦り合わせてしまう。もはやそれ以外の全てなど天秤にかけるまでもなく、ただひたすらに快楽を求める気持ちだけが心を満たしていた。 「その……あ、あたしの、おまん○に……♡理沙の指を挿れて、気持ちよくして……♡♡お願い……♡♡」 「……ふふっ、あははぁっ♡♡ もちろんいいよ、大好きな彩奈のお願いだもん♡♡ 私の指でとろっとろになるまで感じさせてあげるから、可愛い声、たくさん聞かせてね?♡」 「ひぅっ!?♡♡ あっ、あぁっ♡♡あうぅ……♡♡」 股間の中に何かが入ってくるという初めての異物感と共に、全身が痺れるような快感が走る。ナカを指先でぐにぐにと弄られる度に目の前がチカチカするほどの快感に襲われて、僕の喉から芹沢さんの悩ましくも艶めいた声が勝手に溢れ出てきて、恥ずかしさで口を覆ってしまう。 「我慢しないでいいんだよ? ほら、もっと喘いで♡♡もっと感じて、その可愛いイキ顔も私にみせて♡♡私にくれなかった彩奈の全部を、私のモノにさせてっ♡♡」 「ふあぁぁぁっ♡♡ だ、だめっ♡♡そんなにされたら、なんか……キて……っ♡♡♡」 ぐちゅぐちゅと激しい水音を立てながら膣内をかき混ぜられ、さらにもう片方の手で乳首を摘まれ、押し潰され、弾かれる。今までとは比べものにならないほどの刺激が連続して襲いかかってきて、意識が真っ白に染まっていく。 「んぅっ……♡♡♡♡ぁっ…………♡♡♡♡♡♡」 バチッと頭の中で火花が散ったかと思うと、次の瞬間には身体を弓なりに反らせ、ビクビクと痙攣しながら絶頂を迎えてしまっていた。生まれて初めて味わう、女の子としての強烈なオーガズム。射精の感覚とはまるで違うその絶頂感に声すら出せず、ジンジンと痺れてまともに思考が働かない脳みそで快感の余韻を味わっていた。 「もうイっちゃったんだ?彩奈ってこんなに感じやすいカラダしてたんだね♡♡ ……ねえ彩奈。女の子の快感、もっと教えてあげるからさ、彩奈のカラダのことも私に教えて……?♡♡」 藤枝さんが僕のことを『彩奈』と呼びながら、今まで見たことも無いような恍惚とした表情でこちらを見下ろしている。妖しい色気を放つその姿は、僕が好きになった清楚な藤枝さんとはまるで違うけど……そんな彼女を前にしているとお腹の下の方がきゅんと疼いて、男としてではなく女として興奮するのを感じた。 「う、うん……♡ り、理沙になら、なんでも教えるから……♡♡だから早く……続き、シて……っ♡♡」 藤枝さんの背中に腕を回しつつ、今度は自分からせがむように唇を重ね合わせる。それから僕たちは昼食をとることも忘れ、ただひたすらにお互いの身体を求め合った。 *** 昨日で補習が全て終わり、そのお祝いがてら僕は藤枝さんと2人きりで駅前のカラオケに来ていた。歌うのは苦手だったから藤枝さんに誘われなかったら絶対に来てなかっただろうけど、声の高い女子の身体になっているおかげで高いキーのアニソンなんかが歌えるようになっていることが楽しくて、気づけば夢中になってマイクを握っていた。 歌い終わって一息ついていると、隣に座っている藤枝さんが優しく微笑みかけてくる。 「今のって、萌え声ってやつ? 彩奈ってあんな声も出せたんだね」 「うん、せっかくだし1回試してみたくって……。どうだった?変じゃなかったかな」 「全然、すっごく可愛かったよ♡」 「そう?……えへへ♡」 芹沢さんと入れ替わって、今日で5日目。初めの頃はどうなることかと思ってたけど、今ではすっかりこの身体にも、『彩奈』でいることにも慣れていた。 常に芹沢さんみたいな話し方をするように言いつけを守っているおかげか、女子として扱われることにも違和感がなくなってきたし、意識的に芹沢さんっぽく振舞おうとしているせいか、彼女の知り合いとばったり遭遇した時なんかも挙動不審になってしまうことはなく、軽い談笑なんかもできるようになってきている。 それに……こうして藤枝さんと密接な仲でいられることが何よりも嬉しかった。こんな風に一緒に出かけることはもちろん、女の子同士のセックスもあれから幾度となく繰り返して、その度に藤枝さんとの距離が近づいていっているような気がした。セックスの度に藤枝さんの、そして女の子の身体での快感の虜になっていって――それが今日で終わってしまうのだと思うと、寂しさと喪失感を感じずにはいられない。 「彩奈?」 「……ごめん。ぼーっとしてた。 それよりあたしばっかり歌っちゃってるけど、理沙は歌わないの?」 「うーん。私はもっと、歌ってる彩奈を堪能したいんだけどなぁ。 そうだ、デュエットとかしてみる?ほら、これとか……あ、ごめん。ちょっと待ってて」 会話の途中で彼女のスマホが鳴って、そのまま電話に出てしまう。相手の話声は聞こえてこないけれど、何となく雰囲気で察することができた。……多分、芹沢さんからの連絡だろう。 しばらく話していた藤枝さんだったがやがて通話を終えたらしく、スマホを鞄の中にしまった。 「もしかして、芹沢さんから……?」 「あー……うん。 午後には帰ってくるから3時くらいに立石くんの部屋まで来て欲しいって、伝言頼まれちゃった」 「そっか……」 唐突に現実を突きつけられたような気分になる。所詮僕は一時的に芹沢さんの身体になっているだけであって、本物の芹沢さんが帰ってきてしまえばそれも終わり。僕と藤枝さんは今みたいな関係じゃなくて、男女の……ただのクラスメイト同士に戻ってしまうだろう。その事実を改めて認識すると、胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。 「……藤枝さん。その、元の身体に戻った後も、こんな風に一緒にいてもらえないかな……?」 「え?」 「えっと……僕、実は藤枝さんのことがずっと前から好きで……。だから……もしよかったら、その、付き合って欲しいんだけど……」 芹沢さんの身体になって少しだけ自信がついたからだろうか、今まで言えなかった言葉を自然と口にすることができていた。 けれど現実はやはり厳しいもので、僕の言葉を聞いた藤枝さんは困ったようにはにかみながら申し訳なさそうに首を横に振る。 「ごめんね。立石くんのことは嫌いじゃないけど、私が好きになれるのは女の子の……彩奈のことだけだから。 だから、立石くんの気持ちには応えられないや」 「そ、そっか……。ごめん、いきなり変なこと言って……んむっ!?♡」 突然、僕の言葉を遮るように唇を重ねられる。この数日間で数えきれないほど味わった、『理沙』との濃厚なキス。お互いの乳房を押し潰すようにして抱き合いながら舌先を絡め合わせ、唾液を交換し合うような激しい口付けに、僕の思考はすぐに蕩けさせられてしまう。 唇同士が離れると、僕らの間に銀色の糸が伸びていく。それを舐め取るように赤い舌を覗かせている彼女の表情はとても淫靡で、とても綺麗だった。 「……でも、貴女のことは別。彩奈の……彩奈の身体になった立石くんのことは大好きだよ。愛してる、好き、ずっと一緒にいたくて……おかしくなっちゃうくらい大好きなの♡元の彩奈なんかよりもずっと……♡」 理沙は恍惚とした表情を浮かべながら、僕のことをじっと見つめてきた。『僕』では決して目にすることができなかったはずの、僕にしか見せてくれない理沙の顔。その顔で見られているだけで心臓の鼓動がドクドクと高鳴り、下半身が熱く疼いてくる。 「ねえ彩奈。私のお願い、聞いてくれるよね」 彼女の指先が僕の頬に触れ、耳元へと滑っていく。そして甘い声で囁きかけてきた。 「――元の身体になんて戻らないで。ずっと……ずっと貴女が、『本物の彩奈』のままでいて?」 *** 「……遅すぎ。3時には来いって、理沙から聞いてなかったの?」 「あはは。ごめんね、芹沢さん」 カラオケを出てから数時間後、僕は以前の僕の部屋に来ていた。そして目の前には『僕』が……旅行から戻ってきた元の芹沢さんがいて、少し不機嫌な様子で出迎えられる。 「どう、旅行は楽しかった?」 「そ、そんなのアンタに関係ないでしょ。 ……ていうか、アタシの身体でそんな恰好しないでよ……。その、胸とか見えちゃってるし……」 「そんな恰好って、芹沢さんが元々してたのと同じ感じだと思うけど」 「う、うるさいってば! とにかく、さっさと入ってきてよ。こっちは早く元の身体に戻りたいんだから……」 「……ふふっ、そうだね」 5日ぶりに会う『僕』は明らかに様子がおかしかった。どこか落ち着かないというか、妙にソワソワしているし、僕と目を合わせようともせず視線を逸らしてしまう。そして決定的に違うのは、その視線が逸れていく先だった。さっきからずっと僕の胸元に視線が吸い寄せられているのが丸分かりだし、何やら前傾姿勢になって何かを隠しているような仕草すら見受けられる。 元々は僕も男子だったから、『僕』がどういう状態なのかは聞かずとも分かりきっていた。それでも、まさか元々は女子だった芹沢さんがこんな風になってるなんて思わなかったけど……この後しようとしていることを考えればむしろ好都合ともいえる。 「それじゃあ、せーので飲むからね。 幽体離脱したらアタシが元の身体に入るから、アンタは余計なことは何もしないで。いい?」 「もちろん。僕だって早く元の身体に戻りたいからね」 『僕』は冷蔵庫からゼリーソーダを取り出すと、2つのグラスに少しずつ中身を注いでいった。 「……ねえ、芹沢さん。このゼリーソーダってどこかで買えたりするのかな。僕も個人的に欲しいと思ってるんだけど」 「はぁ?何、いきなり」 「まあまあ、別にそれくらい教えてくれたっていいでしょ?代わりに補習受けてあげたんだし、そのお礼だと思ってさ。ね?」 「う……ま、まあ別にいいけど……」 この数日間で覚えた可愛らしい笑顔を作りながら上目遣いで見つめてやると、彼はあっさりと陥落してくれた。きっと、その感性まで少しずつ男子のそれに染まってしまっているんだろうが、今の僕にとっては好都合以外の何ものでもない。 「前にクラブに行った時知らない人からもらったやつだから、どこで買えるとかはアタシも分かんないんだよね。……これが最後の1本だから、使いたいって言ってもあげないからね」 「そっか、残念だなぁ」 その言葉を聞いた瞬間、込み上げてくる笑いを堪えることで精いっぱいになる。後はこの残りを全て処理してしまえば、僕は晴れて『芹沢彩奈』の身体に固定されて、ずっと理沙のそばにいられるというわけだ。 「それじゃあ早く飲もうよ。ほら、乾杯」 僕がグラスを手に取ると、彼も慌ててそれに倣う。そしてその中身をグイッと一気に飲み干す――フリをした。 「あはは、良い飲みっぷりだね」 「……は? ちょ、ちょっと……げふっ、あ、アンタどうしてまだ飲んでないの……!?げぷっ」 一体何が起きているのか分からないといった様子で、『僕』はしきりにゲップを続けている。僕にその気が無かったことにも気づかず、彼はグラスに入ったゼリーソーダをちゃんと飲んでくれていたようだった。 「どうしてって、決まってるでしょ?幽体離脱なんてしたくないからだよ。 立石くん、勉強はできる癖にそんなことも分からないんだね」 「げふっ……な、なにふざけたこと言ってんのよ!立石はアンタで……うぐぅっ!? あっ、だ、だめっ、アタシが出ちゃう……うぷっ!?」 やがて、『僕』は大きく口を開いたかと思うと、そのままがっくりと項垂れてしまった。天井の方を見ても魂になった彼の姿はなく、どうやらゼリーソーダを飲んでいない人間には魂になった人の姿が見えないらしい。 「さてと、あと少しだけ頑張らなくちゃ。 うっ……この身体、やっぱりデブだなぁ」 重たい『僕』の身体をなんとか持ち上げ、椅子に座らせる。そしてあらかじめ用意していた結束バンドを取り出すと、その両手足を椅子に縛り付けた。身体に魂が戻るまでの間に終わらせられるか不安だったけど、とりあえず間に合ってホッとする。 (……こうして見ると、僕って本当に不細工だったんだな) この数日間、芹沢さんの身体になって毎日鏡でその顔を見ていたせいか、客観的に見る自分の姿はもはや『他人』のように思えてしまっていた。ろくに運動しないせいで太っただらしのない身体に、自分だった時にもあまり好きになれなかった不格好な容姿。そして何より……決して理沙と結ばれることができない、『男』という性別。 チラリと、窓に反射して映った今の僕の顔を横目で見る。そこには、手入れの行き届いた金髪が似合う美少女の顔が映っていた。理沙がいつも可愛いと言ってくれている、大好きな自分の顔。そして理沙の手で快感を教え込まれた、女の子らしい体つきをした自慢のカラダ。 どちらを選ぶかなんて悩むまでもない。 「うぅっ……」 「あ、ようやく起きた?おはよう、立石くん」 しばらくして、立石くんは意識を取り戻した。目の前で笑う僕の顔を信じられないものを見るような目で見つめ、立ち上がろうとしてようやく手足の自由が利かないことに気づくと、今度は細い目でこちらを睨みつけてきた。 「……アンタ、自分が何やってんのか分かってるわけ?」 「もちろん。まずいよねえ、クラスメイトの男子の部屋に入って、その男子をこんな風に縛ってるだなんて……もし先生にバレたら謹慎処分になっちゃうかも」 「そうじゃなくて!なんでゼリーソーダを飲まなかったのかって聞いてんのよ!それにこれ……どういうつもりで……!」 「ああ、そっちのこと? さっきも言ったけど、幽体離脱をしたくなかったから……この身体を手放したくないからだよ。その結束バンドは暴れられたら面倒だから念のためやったんだけど、その感じだと縛っておいて正解だったね」 立石くんは必死になって抵抗しているものの、両腕両足とも拘束されている以上まともに動けないようだった。それでもなお、彼は必死に声を上げ続けていて……その姿があまりにも滑稽で、思わず笑ってしまう。 「ふざけないでよ!陰キャオタクの癖に調子に乗って……!」 「何言ってるの?今は君がそのオタクで、僕が……いや、あたしがみんなから好かれてる『芹沢彩奈』なんだよ?立石くん♡」 「このっ……! ……アタシに成りすますつもりなのか知らないけど、無駄だからね。 理沙だけはアタシ達が入れ替わってることを知ってる。アンタがアタシに成りすまそうったって、絶対に理沙が助けてくれるんだから!」 「あははっ、そうだね。そうだったら良かったんだろうけど……その理沙が、僕たちが入れ替わったままでいることを望んでるんだよ?」 「…………は?」 その言葉を聞いて、立石くんの表情が凍り付いたように固まる。僕はそんな彼に満面の笑顔を向けると、スマホのメッセージアプリを開いてその画面を見せつけた。そこにあったのはもちろん理沙とのやりとりで、僕がこれから立石くんの部屋に向かうことと、彼を欺いて身体を奪うことを応援してくれている理沙からの嬉しい言葉が表示されていた。 「ね?理沙は君なんかよりも僕のことを選んでくれたんだ♡ 分かったら諦めて、これからはずっと立石くんとして生きていってね?」 「っ……あのクソ女……!」 怒りと絶望が入り混じった悪態を聞いて、改めて僕がこの身体を貰い受けることへの正当性を感じてしまう。あんなにも『彩奈』のことを好きでいてくれる理沙のことを大切にしようとせずに、言うに事欠いて"クソ女"呼ばわりするなんて……やっぱり、こいつに『芹沢彩奈』をやる資格なんてない。僕がずっと彩奈でいるべきなんだ。だから―― 「……さてと、それじゃあこれはもう捨てちゃおっか。もう僕たちには要らないモノだし、いいよね」 「は……?う、嘘、やめて!!冗談でしょ!?ちょ、ちょっと!?」 ゼリーソーダが入ったグラスを逆さまにし、その中身を流し台へとぶちまける。立石くんは僕が何をしようとしているのか気づいたようで、慌てて野太い悲鳴をあげるが、それを無視して残ったペットボトルも手に取る。 「ま、待って!! ……ごめん、なさい。その、何が気に障ったのか分からないけど、謝るから!だからお願い、アタシの身体を返して……!こんな身体のままなんていやぁ……!」 泣き落としでもしているつもりなんだろうか。立石くんは汚い顔をぐしゃぐしゃにして僕を見上げながら、必死になって懇願してくる。そしてそんな彼の姿を見ていると……背筋のあたりがゾクゾクとした快感に襲われ、自然と口元に笑みを浮かべてしまっていた。 もしかして、この身体は元々S気質なんだろうか。理沙相手なら無理やりされる方が断然好きだけど、こうしてこいつを、無様な男を屈服させているこの征服感。……案外、悪くないかもしれない。 何にせよ、こうして立石くんが必死になっている状況は想定通りなわけで。彼から『芹沢彩奈』の全部を貰い受けるべく言葉を続けていく。 「そっか、そんなに嫌なんだぁ。 ……それなら、ちょっとしたゲームでもしない?もしそっちが勝てば、このゼリーソーダを使って元の身体に戻してあげてもいいよ」 「ほ、ほんと!?」 「うん、もちろん。 その代わりそっちが負けたら身体は元に戻さないし……それと、僕のサポートをしてもらおうかな。 僕が『芹沢彩奈』として生きていくために必要な情報は全部教えてもらうし、僕のためになんでもしてもらう。どう、乗る?」 「ふ、ふざけないで!そんな条件飲めるわけ――」 「嫌ならいいんだよ?それならそれで、僕がずっと『彩奈』として生きていくだけなんだから」 「うっ…………」 そう、彼に選択肢なんてはなから存在しない。この身体に戻れないことが彼にとっての何よりの絶望である以上、この提案を断ることなどできるはずもなかった。例えどれだけ理不尽な要求を出されて、勝てもしない勝負を持ち掛けられるとしても、だ。 「……アタシが勝ったら、絶対に身体を返してよね」 「ふふっ、勝ったらね。 それじゃあルール説明といこうか」 「きゃぁっ!?ちょっ……あ、アタシの身体でなにしてんの!?」 ブラウスのボタンをプチプチと外していると、立石くんが裏返った男声で悲鳴を上げる。気にせずそのままブラウスを脱ぎ去り、かつては彼のモノでもあった、僕の自慢のおっぱいを見せつけてやった。 「どう?僕のおっぱい、柔らかくて気持ちよさそうでしょ? 今からこれで君のくっさいおちん○んを扱いて、そうだな……5分くらい射精しないでいられたら君の勝ちでいっか。 勝ったら約束通り、この身体を返してあげるよ?」 「っ……!」 たゆんっ、と揺れる大きな胸を見て、立石くんはゴクリと生唾を飲み込んでいた。先程までの怒りはどこへやら、その視線は僕の胸に釘付けになっていて、顔は耳まで真っ赤に染まっている。 「あははっ、どうしたの? たった5分、射精を我慢するだけでいいんだよ?このおっぱいは元々君のモノだったんだし、それに元は女の子だったんだから楽勝かもって思ったんだけど……もしかして自信ないのかな?」 「そ、そんなわけないでしょ……!い、いいから早くやってよ……」 どれだけ強気な言葉を発しようとも、彼の興奮はもはや隠しようが無かった。無意識なのかもしれないけど既に息は荒くなっているし、この部屋に来た時から度々大きくしていた股間も、今や誤魔化しきれないほど勃起してズボンを大きく押し上げている始末だ。 彼のこの興奮具合には当然心当たりがある。恐らく、入れ替わってから1度もオナニーをしていなかったんだろう。僕は昔から、毎朝抜いておかないと勉強に集中できなくなる程に強い性欲を抱えていた。その性欲が今の彼に引き継がれているのだから、そこに宿っている精神が元は女だったとしても、目の前にある僕の巨乳を前にして平静でいられるはずがないのだ。 「ふふっ、そうだね。さっさとヤって、この身体とお別れしよっか♡ タイマーをセットして……それじゃあいくよ?」 椅子の前に膝立ちになり、そのまま彼のズボンとトランクスを一つずつ剥いでいく。露わになった男性器は自分のモノだった時とは違って一際大きくグロテスクに見えたが、これを嬲ることで『彩奈』の全てが奪えるのだと思うと不快感よりも興奮が勝っていった。 重たい乳房を両手で持ち上げ、その隙間にイカ臭い男根を挟み込む。そしてそのままゆっくりと上下運動を開始すると、彼はその快感に耐えられなかったようですぐに情けない声を上げ始めた。 「ふぐぅっ♡♡ んっ……あぁっ……♡」 「どうしたの?元・彩奈ちゃん♡ 情けない声出しちゃって……自分のモノだったおっぱいがそんなに気持ちいいのかな?」 「っ……!う、うるさい! んぅっ♡も、元に戻ったら、絶対に酷い目に遭わせてやるんだから……うぁぁっ♡」 悔しそうに歯噛みしながらも、立石くんは僕のパイズリによって間違いなく快楽を感じているようだった。僕が動く度に彼の口から甘い吐息が漏れていて、時折腰を浮かせながら情けなくビクビクと震えている。そんな『僕』の無様な姿を見ているだけでゾクゾクとした興奮が込み上げてくるようだ。 (……っと、いけない。 あんまり早く出させないように気を付けないと) 多分、このままだと1分もしないうちにイってしまいそうなんだけど、それじゃあつまらない。こいつに……理沙を"クソ女"呼ばわりしたこの男には、その程度の屈辱なんて生ぬるい。もっとゆっくりと時間を掛けて嬲って、快感を味合わせて、自分が『男』だということを徹底的に自覚させて。とことん屈服させたうえでこいつの全てを奪ってやらないと気が済まなかった。 それを悟られないように、ゆっくりと、しかし確実に気持ちよくなっているであろう緩やかな刺激を与え続ける。今や僕のモノになっている柔らかい乳房を存分に使って、亀頭から根元まで余すことなく扱き上げていく。元は僕のモノだったからこそ分かる、射精しないギリギリを見極めた絶妙な力加減。それでも童貞の立石くんにとって僕みたいな美少女にシてもらうパイズリは相当な刺激のようで、射精を我慢するように必死で歯を食いしばり、自らの手に爪まで立てて快感に抗っているようだった。 「ねえ、もう我慢しなくたっていいんじゃないかな? 出したくても出せないの、辛いでしょ♡ ほらほらぁ♡我慢しないでさ、僕のおっぱいの中にたっぷり射精してくれていいんだよ♡」 「んふっ……♡♡ ふっ……く、うぅっ……♡♡ふぅっ……♡♡」 もはや僕の煽りに反応すらできなくなっているみたいで、ただひたすらに身体を震わせるだけの哀れな姿に思わず笑みがこぼれてしまう。ここまで堕ちればもうすぐなんだろうけど――そんなちょうどいいタイミングで、あらかじめセットしておいたアラームの音が鳴った。 「あれ?もう5分経っちゃったんだ、残念だなぁ。 ……悔しいけど、勝負は君の勝ちみたいだね?」 「はぁっ♡♡はぁっ♡♡はっ……♡ あ、あぇ……?♡な、なんでぇ……♡」 「あははっ♡どうしたの?名残惜しそうな顔しちゃって。そんなに僕のパイズリ、良かったかな?」 「ち、ちがっ……!だ、だって、こんなイきそうなまま終わらせなくたって……!」 前にどこかで聞いたことがある。射精寸前の男のIQはサボテンと同じくらいしかないんだって。 もちろんそれが本当だとは思わないけど……少なくとも、今目の前で目をぎらつかせながら息を荒げているこの『男』は、サボテンとまではいかなくとも盛りきった雄の獣くらいには知能が低そうに見えた。 だからこそ、その隙を突かない手はないわけで。 「ふーん、そんなに射精したいんだ?」 つーっと、彼の股間に指を這わせて軽くなぞり上げると、彼はビクンと腰を跳ねさせた。 「し、したいっ♡ お願いだから、早く出させてっ♡♡」 「もちろんいいけど、タダってわけにはいかないかなぁ」 軽く亀頭に息を吹きかけると、彼はその低く汚い声で切なげな声を上げた。 「あぅっ♡な、なんでもするからっ♡♡だから、早くっ……♡♡」 「そう?よかった♡ それならこうしよっか。君は負けを認めて、さっき言った条件も全部飲む。この身体……『彩奈』の身体が僕のモノだと認めて、君は一生その身体で生きていくって約束する。 今言ったことを全部認めてくれたら、射精させてあげるよ?」 「えっ? で、でもっ、そんな……はう゛ぅっ♡♡」 ぐりっ、とカリ首に親指を押し当てると、立石くんは情けない声を上げて大きくのけぞった。ぬるぬるとした汚らしい我慢汁が僕の手を濡らしていくが、今はその不快な感覚すら悦ばしい。 「……わ、分かった、分かったからっ♡♡ 勝負はアタシの負けでいいっ♡♡アンタがアタシだって……彩奈だってことも認めるからぁっ♡♡ だからお願い、早くそのおっぱいでイかせてよぉっ♡♡」 そしてとうとう、立石くんは認めてくれた。僕が……いや、あたしこそが彩奈であることを。そして、自分がもはや射精をねだることしかできないただの男であることを。自分だった身体に戻ることすら簡単に諦めて、ただ射精させてもらうことのためだけに、あたしに全てを明け渡してくれたのだ。 「あははっ、立石くんが正直になってくれて嬉しいなぁ♡ それじゃあ約束通り、あたしのおっぱいでイかせてあげるね♡」 「んあぁぁぁっ!!?♡♡ ま、まって♡♡もう、もうでちゃうからぁ……っ♡♡あっ、あぁぁぁぁっ♡♡♡♡」 ずちゅっと勢いよく肉棒を谷間に押し込み、そのまま激しく扱き上げていく。今まで焦らすような刺激ばかり与えていたせいかその刺激は強烈すぎたようで、それを受けた瞬間、立石くんはまるで壊れた蛇口のように谷間の中へ精液を吐き出していった。 「あはっ、熱っつぅ……♡ たくさん出してくれたね、立石くん♡」 「はぁっ……はぁっ……♡」 「それじゃあ約束通り、これからはあたしが彩奈をやらせてもらうからぁ……。また入れ替わっちゃわないように、これは捨てておくね♡」 「…………へ?」 射精の余韻でぐったりとしている立石くんに見せつけるようにして、ゼリーソーダが入っているペットボトルのキャップを開き、流し台にその中身をぶち撒けていく。 「待って!嘘!さっき言ったの嘘だからっ!!だから捨てないで……あ、あぁっ…………」 絶望に満ちた表情を浮かべて泣き叫ぶその姿にゾクッとした快感を覚えながら、ペットボトルをしっかりと振って完全に中身を空にしていく。そうして中に入っていたものが無くなったことを確認したあと、それを立石くんの方へと投げつけた。 「ごめんね、もう捨てちゃった♡ そんなに幽体離脱がしたいんだったら下水でも漁ってみたら?……ま、もし君だけ幽体離脱できたとしてもあたしにはもう関係ないけどね」 そう、例えゼリーソーダが今後手に入ったとしても、あたしは一切飲む気なんてない。今のこの身体が、芹沢彩奈という美少女の身体が今やあたしのモノなんだから。前のアタシみたいに馬鹿なことをするつもりなんてなくて……だからこれはもう、一生あたしの身体。 「それじゃあ約束通りあたしのサポートとかしてもらいたいんだけど……旅行から帰ってきたばっかりで疲れてるだろうし、今日はゆっくり休ませてあげるね?ふふっ、あたしって優しいなぁ♡」 「やだ……アタシの身体……いやぁ…………」 泣きながらブツブツとうわ言を呟く立石くんに微笑みかけ、彼の懐にあったあたしのスマホを取り上げる。胸の間にべっとりついた精液もティッシュで拭いて……これは部屋に帰ったらシャワー浴びないとだな。 「それじゃあね、立・石・くん♡」 素敵な身体を譲ってくれた恩人にとびきりの笑顔を向けて、彼の部屋を後にする。 これでもう、元の身体に戻る心配なんてしなくていい。理沙と離れることに怯えなくていいし、それに何より…… (……元の身体になんて戻らないでっていう理沙のお願い聞いてあげたから、たくさん可愛がってくれるかなぁ……♡) これからもあたしがあたしのままで、これからもずっと一緒にいられると教えてあげたら……理沙はどんな風に喜んでくれるだろうか。 大好きな恋人の笑顔を頭の中に思い浮かべながら、あたしは軽い足取りで自分の部屋へと帰っていくのであった。 |